その客はとても……どこかで見た覚えのあるお客だった。
ちょうど実働隊が盗賊の穴蔵に殴り込みをかけている最中だった。
通常通りに営業しているカフェで私はホールスタッフとして働いていた。
外にドッドッドッと低く唸る古めかしいバイクの音がする。
来客だなーって待ち構えていた所1人入ってきた。
その1人が激震とも言うか……スタッフに緊張を走らせた。
「いらっしゃいませ、カフェD08へようこそ♪」
営業スマイルで接客していくけど……よくよく見るとナノマシンでアレコレする前の……
結婚式とか挙げた時のユノちゃんと瓜二つなんだよ。
雰囲気とかはノアちゃんそっくりだけど……いや、まさか……
ドリーマーに打電して……っと。
「お一人様でしょうか?」
「あ、あぁ、席はどこでも構わない」
視線が私達のおっぱいに向いてる……驚いた様子だし知らず来たって感じかな?
周辺にハイエンドの反応は無いし視認、動体センサー共に異常無し。
それも欺くステルス性能だったらお手上げだけど……
動きを観察している感じ特に敵意はなさそうだね……
「ご注文が決まりましたらお声がけください」
多分この子には必要はなさそうだけど接待メニューとかもある。
今手渡したのは至ってシンプルな食事メニュー。
金銭もかなりリーズナブルに設定している食事処としてのメニュー。
接待メニューが必要なら別途声をかけてもらうって言うのがお決まり。
さて、ちょっとキッチンに引っ込んで……
「ドリーマーは?」
「卒倒して今周囲に敵が潜んでないか探ってる」
「反応的には民生人形に近い反応ね」
更に聞けばドリーマーが一度制圧に出張った時に振り回してた万能ツールを持ち出してた。
レーザーブレードとかで武装しているみたいで相当お冠みたいだ。
まぁでも様子も見ないでぶっ放すほど理性を失っては居ないね。
それより全く検知出来なかったことが気がかりか?
結果から語れば彼女……キャロルと名称が付いているユノちゃん似の娘は本当にタダご飯を食べただけだった。
それもサンドイッチとコーンポタージュスープって軽食に分類されるやつ。
「どう思う?」
「知らないわよ……でも……」
「悪い子じゃなさそうだよね」
チップと共に書き置きが残されていた。
ご飯を食べた後にボロボロ泣き出した時はどうしたものかと思ったけど……
思い出をありがとう……か。
「また来るかな?」
「知らないわ……それより夜の準備よ」
お姉ちゃんもどこか心配するような目線だった。
去っていった後ろ姿を思い浮かべていたのかも。
儚く今にも消えてしまいそうで何か……何かを求めて藻掻いているようにも……
もしかしたらユノちゃん達が連れてくるかもしれない。
こう、ノアちゃんの時と同じで口説き落としちゃってさ。
さてと、私達も夜のお仕事に移らないと……
とても見せられたものじゃないけど私達の立派なお仕事。
夜のカフェD08の開幕、お子様は入店禁止。
大人向けのシックでエロティックなカフェ。
「にしても制服がフレンチメイドよりドスケベってなによ」
「頑張ればダーリンにその分褒めてもらえるでしょ、頑張りましょシーナ?」
「わかってるよぅ……」
私の身体はダーリンとネーナと……あとお姉ちゃんの子供、ヴァレリーの為にあるんだけどなぁ。
まぁ良いや、メニューを知らされているお客さんなら言わばダーリンの信用を得ている。
言っちゃえばダーリンに認められた紳士って事だからセーフセーフ。
まぁ……ダーリンが自慢したいみたいだし私の自慢のおっぱいを振る舞っても良いさ。
ほんと、キャロルちゃんが夜に来なくてよかったよ……
夜に来ていたら思い出じゃなくてトラウマになったかもしれないし。
そうそう……その夜、帰還した実働部隊は合計4人の盗賊をとっ捕まえていた。
あー、こりゃ眠れないな……ネーナをあやして悲鳴が聞こえなくなるまで抱っこしてなくちゃ……
赤ん坊に悪いから拷問部屋の防音はきっちりかっちりしてほしいよ……
ドリーマーもここばっかりは抜けてるというか……
意図的に断末魔が聞こえるようにしたのかもしれないけど。
どんなヤツであれ死にゆく者にはそれ相応の哀悼を捧げるべき。
ダーリンはそう思ってないみたいだけどね。
誰もが望まれ産まれ、死んで良い命は居ない。
……育ちが悪かったり環境がそうさせた……だけなんだよ。
「そうだよね、パパ、ママ?」
顔も声も名前もわからない、私の両親も……そうだったんだよね?
こっちもこんなんだから気にすることぁ無いのさ。
次にキャロりんが来たらユノちゃん並に盛り盛りコースのご案内。
給仕はD08ドリーマーが。