今回はサッカーしてない
――転校してきて一週間。屡塁江中学校には慣れることができません。なんなんだアレ。認めたくない。あんな化け物たちが人間の真似事をしているんだ。誰か助けて。助けて。助けて。助けて。助け
「わふぅ」
ひまだー、かまえー、と言わんばかりの鳴き声を上げて膝に何かあったかいものが乗っかってくる。
――昨日、柴犬を拾いました。ティーダという名前をつけました。沖縄の方言で晴れを意味する言葉だそうで、キラキラ太陽のように輝くまんまるおめ目を持つティーダにぴったりだと思います。癒しです。これからエサ代や予防接種など色々お金がかかるけど、ティーダから得られる癒しと比べたら軽いものです。
わしゅわしゅと柴犬の頭を撫でると、ピスピスと鼻を鳴らし気持ちよさそうに目を細める。
「ティーダは本当にかわいいなぁ。そうだ、明日試しに近場に散歩行くか?」
「わぉん!!」
こちらの言葉に反応して声を返してくれるとても賢い柴犬。超次元通り越して異次元なサッカーに関わっていたからこの柴犬に出会えたと思うととても複雑な気持ちでいっぱいになるが、かわいいは全てに優先される。
両手いっぱいのもふもふを感じながら、人間はあの時のことを思い出していた。
*
成り行き、というか策にはめられて無理やりサッカー部に入部させられた人間はサッカーボールを蹴りながら帰宅していた。サッカー経験者ではないため、まずはドリブルの練習から始めるとの事だったが――まあグラウンドの上だとニャルがちょっかいを出す。
「必殺技は? ねえねえ私がインストールさせてあげた必殺技使わないの? ねえねえ必殺技ー」
「焼け焦げて死ねぇ!」
「やだーこわーい」
こんなやり取りがエンドレスに続く。グラウンドでの練習は諦め、自主練する方が効率的だ、と皆(ニャル除く)の結論が揃ったのでこのサッカーボールを貰ったのだった。
帰宅するときにボールを蹴る、なんていつぶりだろう。小学生の頃を思い出す。ああ、あの頃に戻りたい。帰りたい。かえりたい……。
……本当いつ死ぬんだろうかあの邪神。クトグアさんには是非とも頑張ってもらいたいが、ブチ切れると全身が炎になるのは勘弁してもらいたい。あれなんなんだろう。でも理解したら自分の中の何かが終わる気がする。
そういえば『フォマルハウトフォール』とかなんとか言ってた気がする。必殺技……にしては被害大きすぎるけど。なんでグラウンド全体を焼き尽くす必要があるんだろうか。あれ、そういえばあの時俺どうしてたっけ記憶が曖昧で――。
……なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして俺だけがこんな目に合わなきゃいけないんだ――。
考え事をしているからだろうか。ぽこん、と蹴る位置が中心からずれた。当然、ボールは真っ直ぐから逸れていく。
「……あっ」
ころころころ、と坂を下っていくサッカーボール。このままでは小池にぼっちゃんさあ大変になってしまう。待て、と追いかけても止まるはずはなく。あと数メートルでボールが水にダイブしてしまう、そんな時。
「わんっ!」
茂みから飛び出した何かがボールに飛びついた。
犬だ。茶色の毛。柴犬。かわいい。
「わふー」
あぐあぐ、と噛んでみたり全身を使ってボールを抱え込もうとしたり。その光景にほっこりするが、このボールはサッカー部から借りているものだ。ずっと柴犬に占領されるわけにはいかない。ボールを柴犬の手から取り返そうと手を伸ばすと、
「きゅうん……」
上目遣いのウルウル目。ボールを離そうとしない。なんだこのかわいいの化身は。写真に撮りたい。この癒しを何かに留めておきたい。
そんな中、ふと浮かんだ名案。いろいろと疲れていたからだろうか、その後のことなど考えもせず人間はある言葉を柴犬に向けて発した。
「…………うち来るか?」
「ばふぅ? …………わふっ」
ボールをこちらに渡し、とてとてとてと後ろをついてくる柴犬。かなり人間に慣れている。昔は飼い犬だったのだろうか? 柴犬はよくツンデレだと言われているが、この子はそんな気配を一ミリも感じさせない。
邪神とか、邪神とか邪神とか、あと邪神の邪魔なく無事に家にたどり着いた時、人間は全力のガッツポーズをしていた。
――癒し、ゲットだぜ!
ふわ、とあくびをした柴犬の顔が明らかに開いてはいけないところまで開いたところを見なかったのは、人間の日頃の行いが良かったからだろう。
*
「は? なんで私のペット飼育スペース(注:学校の許可無く作成)にこんな小汚い犬がいるんだ? 誰が持ち込んだんだ全く……」
この間破壊してしまった柵を魔改造して作られた檻の中には、脱走癖のあるニワトリのシャンタくんと、ニャルの見覚えがない柴犬がいた。小汚い、という言葉に怒りを感じたのか、見る見る間に柴犬は恐ろしい形相へ変わる。
「ヴォンッ!!」
頭がぱっかりと十字に割れて細長い舌がちろちろ覗く。垂れてきてはいけない液体をぽたりぽたりと垂らしながら、ニャルを睨みつける。彼らの間にニャル特製なんかすごい魔術で改造した檻がなければ、かわいい柴犬だったものはニャルの喉笛を噛み切っているだろう。
「なんだただの猟犬か……ん? 首輪? 野良の猟犬じゃあない、となると誰が……むむっ、ニャルアンテナにビビっときた!」
みょよよん、とニャルのアホ毛が風もないのにうねる。
「あーあの子かあ! さっそく面白い運命連れてきたねぇ! キセイジュウ、だったっけ! ぱふぁだよぱふぁ、あれリアルに体験できるじゃんかやったね人間ちゃん!」
この邪神、こう見えて結構幅広い趣味を持つ。有名な作品は全部目を通してもいる。
人間の創作といえど侮ってはならない。邪神から見てもその発想があったか! と膝を打つこともしばしばあるのだ。そしてそのネタをより凶悪にして探索者に振る舞う。だって邪神だからね。
『……愚かな。我が主人を喰らうとでも? 我のエサはカリカリで十分よ』
「カリカリ…………ぷ、あ――あっはっはっはっはぁ!! あの人間、お前の正体分かってないのか、そっかそっかぁ! あっはっはっー!」
腹を抑えてげらげら笑いこげる邪神。常に飢えているこの猟犬が、油断しきっている獲物を前にしてしゃぶりつかないはずがない。その飢えを無理やり我慢しての日常など、いつか終わりが来る。そう邪神は考える。その時がいつ来るかが楽しみで楽しみで仕方がないのだ。
『我が主人を愚弄するな邪神。たとえ我が貴様に力及ばずとも、貴様を困らせる方法など山の様にある』
「ふうん……例えば?」
挑発した瞬間、するりと角をつたってすぐ側にあるニャルガーデン(注:学校の許可無く作成)へと移動する犬。
その口に何かを咥えている。中身ははっきりと分からないが、小さなものがたくさん入っている紙袋のようだ。
そのパッケージにでかでかと書かれているのは。
《ミントのタネ》
思いっきり噛む! 袋が破れる! ブンブン振り回す! 飛び散る種! 満足げな犬!
「あーーーーっ!? 私の花壇(注:学校の許可無く作成)がーーーーっ!? なんて恐ろしいことをするんだ犬ゥ!」
『ふははは! この狭き檻に来る前に貴様の庭に竹を植えておいてやったぞぉ! これから毎日駆除に追われるがいいわぁ!』
「くっそぉ覚えてろ犬! 種どこまで広げやがったんだ畜生めぇ!」
調べてよかった法に接触しないグリーンテロ。
『主人、これからも陰ながら主人の恨みを晴らしておくから安心してほしい…………わん!』
しっぽふりふり、柴犬は今日も主人がニャルに嫌がらせを受けた分だけの報復を決行するのだった。
最後かもしれないだろ?
だから ぜんぶ話しておきたいんだ
柴犬、いったい何ィンダロスの猟犬なんだ……?
ティーダという名前をつけられてびっくり。近い、けど遠い。
目をそらすのが少しずつ上手くなってきた人間でした。幸運ロール成功してそう。
え?記憶?クトグアの本気技の余波で発生したダメージのショックロール失敗したんじゃない?
〜オリジナル必殺技〜
「フォマルハウトフォール」
クトグアの本気技。「親方!空から生ける炎が!」なゴッドノウズもどきシュート。ニャルもゴッドノウズもどきシュート持ってるので多分こいつら張り合ってる。あふろてるみ君がんばえー
副次効果でグラウンド全体を焼き尽くす。副次効果とクトグアは言い張っているが真の狙いはその超高熱でニャルを殺すことだろ皆知ってるんだぞ!