「取材といきましょうか」
椛が顔を上げてそう言うと
男達は
「おう、嬢ちゃん
あんま俺ら舐めてると痛い目みるで」
「さっそく万田さんのことで聞かせてもらいましょうか」
椛が満面の笑みで言うと
男達の堪忍袋の緒が切れた
「女やからって手加減せぇへんで!
おう!やったれや!」
男が一人椛に突っ込んでいき
顔面めがけて拳を伸ばすが
椛は何の動揺もなく
簡単に拳を掴みそのまま捻った
「あだだだだ!」
「情けないですねぇ
もっと本気でやらないと」
そう言うと
捻った腕をまっすぐ押し出しヤクザの男たちに返した
「このアマ、下手に出たら調子に乗りやがって
俺らに喧嘩売ったこと後悔させたるわ!」
「あはは、やっと気合いが入ってきたじゃないですか
さぁ、お楽しみはここから」
椛は姿勢を低く左手は完全に脱力させ
右腕だけを胸の前に添えるように構えた
その瞬間何人かは気が付いた
こいつは相当場馴れしている
「死ねやぁぁぁ!!!」
鬼の形相で走ってくる男を前に
椛は一切動揺することなく
紅葉が風に煽られ舞うように
拳をすべて避けていく
さながら拳が椛を避けて通っているかのように
綺麗に鮮やかに
その動きは喧嘩ではなく
舞であった
「ぜぇぜぇ・・・クソったれがちょこまかと」
「演武ってご存知ですか?
簡単に言えば戦いを演じることです」
男たちは目を丸くした
急に話し始めたかと思うと
演武について語りはじめたのだ
「まぁ、そうは言っても演武は演武
自分の都合のいいように頭の中の敵に攻撃させる
普通の演武ならよりね
ただ、私のように長年
血の滲む修行をさせられると
実戦で演武の動きが出来るようになるんです」
長々と語ったかと思うと
椛は男たちの方へ向き直すと
「じゃあ、そろそろ喧嘩しますか
やっぱり喧嘩は殴りあってこそですし、ねぇ」
椛の挑発的な表情は男たちを
奮い立たせるには十分だった
男たちは一斉に椛に掛かっていく
しかし、またも鮮やかに避けられてしまう
だが、その動きが少し変わった
先ほどまで避けるのみだったが
今度は避けると同時に
人体の弱点に的確に攻撃している
ある者は関節を狙われ
またある者は金的をくらい
バタバタと倒れていく
「あらら、ついにあなた一人ですか
ずいぶんと呆気ない」
わざと手を抜いて一人だけ口がきけるようにしていたのだ
「じゃあ、そろそろお話といきましょうかね」
椛はそう言って地面に倒れる男に
馬乗りになった
「な、なんなんやお前は!」
「犬走 椛
噂の一つや二つ
聞いたことくらいはあるでしょう?」
「ま、まさかあのヤクザ狩りの!?」
「釈然としませんが多分それです
じゃあ、聞きますよ
あなたの組
千石組の万田は今どこにいるんです?」
「は、はぁ?そんなん知るわけないやろ!」
「口答え出来る立場だとお思いで?」
椛は男を睨みながら胸倉を掴み挙げた
男は萎縮しながら
「ま、待て!よぉ見ろ!」
男は胸元に着いている代紋を見せた
「東城会?」
そこには紛れもない東城会の代紋が付けられていた
「俺は東城会直系の真島組の若衆や!」
「えぇ!?まさか、じゃあなんで関西弁を!」
「それは親父が関西弁にせぇって言うから」
椛は立ち上がり空を仰いだ
「じゃあ、殴り損じゃないですか
はぁ、どっと疲れが出てきた」
椛が愕然としているなか
男が小さく呟いた
「クソっ、何なんだ最近は新聞記者とかいう
女が攻めてきたし」
男の聞こえるか聞こえないかくらいの呟きに
椛は大きく反応した
「新聞記者?それ詳しく聞かせてください」
椛の急な要望に驚きつつも
男は話した
「最近うちの組に新聞記者を名乗る女が来てな
親父に相談しに行った隙に入り込んで
すぐ見つかったのはいいものの
その女がバケモンみたいに強くて
南の兄貴があっさりやられるくらいで
そしたら親父が気入った言うて
うちの組にしばらく居させるって」
男はその時の事を思い出したのか
見るからに自信を失っている
「その新聞記者の名前は?」
「確か・・・
椛は安堵とこの先にある楽しみに笑みを浮かべた
「じゃあ、文さんを呼んでくださいよ
真島組の組長さんなら
携帯電話の一つや二つ用意しているでしょう?」
「な、なんの為に・・・」
「いいから、早く」
椛はドスの利いた声で男に催促をする
すると
「その必要はないですよ、椛」
ミレニアムタワーの自動ドアが開き
中から女性が一人出てきた
「文さん!」
その女性こそ
烏天狗『射命丸 文』
その人である
「意外と早かったですね
もう少し遅いモノかと思っていましたが」
「いやぁ、あはは
奇跡の成せる業ですね」
椛はあからさまに表情が明るくなり
尻尾を振る犬のようだった
「あれ?でも
何で文さんは真島組の組長さんに会う必要が?」
「まぁ、こっちにも色々事情がありましてね
それより真島さんがお呼びです
着いてきて」
椛は疑問に思いながらも
文に付いて行った
ミレニアムタワー内部 地下2F
文に案内され
従業員用階段を使い
地下三階までやってきた
「この部屋です
真島さん入りますよ」
文は妙に畏まった言い方で扉を開いた
すると中には隻眼の男が
豪華な椅子に座りながら小刀を眺めていた
「おう、待っとったで」
「あなたが東城会の狂犬
真島組組長
「嬢ちゃんが椛やな?
話はよぉ聞いとんで
なんやごっつ強いらしいなぁ」
明るく冗談を飛ばしてる様子だが
その目からは殺気にも似た
鋭い眼光があった
「そんなことないですよ
あくまで・・・
運良く相手が弱かっただけです」
椛も負けじと
軽い口調で煽りを入れる
「ほぉ、べっぴんさんやから
肝はどうかと思っとったけど
安心したわ」
ピリピリとしていた空気が
一瞬にして溶けた
「ほな、本題といこか」
「ふぅ、急に喧嘩を始めるのかと思った・・・」
文は小さく呟くと
椛を椅子に座らせた
「知っての通りやが
神室町は現状
近江連合に支配されつつある
それは分かっとるな?」
「えぇ、ただ
その近江連合の若頭
勝矢さんに近江の組を
いくつか潰して欲しいと言われまして」
「そうか・・・勝矢が・・・」
真島は何か懐かしそうな表情で呟き
「わしらも近江の奴らに舐められて黙ってる訳にはイカン訳や」
「まぁ、面子ってのもありますしねぇ
で?私に潰し回れと?」
「いや、お前が千石組を潰しに行こうとしてる
ってのは文から聞いとるわ
せやから、千石組の人間がいる場所を教えようってな」
その言葉を聞いて
文は棚の中からファイルを一つ取り出した
「知ってるんですか?」
「これです」
文は椛の前にファイルを開いた状態で渡した
「ん?地下闘技場?」
椛がファイルを開き一番最初に目に入ったものは
神室町内にある地下闘技場の話だった
「元々は花屋が仕切っとったんやけど
まぁ、色々あってな
今は千石組が賽の河原を仕切っとる」
「つまりそこへ乗り込めば万田がいると?」
「あぁ、しかし、乗り込む必要はない」
真島はニヤリと笑いながらそう言うと
椛は首を傾げた
すると、文がファイルを捲ると
「地下格闘技トーナメント?」
「この大会で優勝すれば千石組の用心棒になれる」
「あぁ、なるほど
でも、どうやって参加するんですか?」
「これです」
文が鞄の中から一枚のチケットを取り出した
「これを持って行けば参加することが可能です
ただ、元々裏格闘技の世界で名を馳せている
選手が多数参加しています
しかも、ルール無様の試合なので
どんな手を使ってくるかわかりません」
文の話を聞いて
椛は震え始めた
「椛、気持ちはわかります
手を引くのも・・・」
椛は立ち上がり満面の笑みを浮べている
「最高じゃないですか
楽しみすぎて体の震えが止まりません!」
歓喜の声を上げチケットを手に取り
「では、行ってきます!」
椛は鼻歌交じりに部屋を出て行った
「あいつ、大丈夫なんか?」
「まぁ、多少変なところがありますが
化物みたいな人に修行を受けているので
問題なく帰ってくると思いますけど」
文はそう言った後
椛の後を追うため部屋を出た