狂犬が如く   作:マキシマムダンガル

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第四章 前菜

椛は文から受け取ったチケットを片手に

七福通りにある公園へ向かっていた

その時

 

「おい、椛」

 

阿部が声を掛けてきた

 

「あぁ、阿部さん」

 

「どこ行ってたんだ

 電話しても出ないし」

 

そう言われて椛は携帯電話を確認すると

確かに着信履歴が入っていた

 

「あぁ、すみません

 色々ありましてね

 そのおかげで千石組の居場所が掴めました」

 

「何!?どこだ!」

 

阿部は驚き椛の両肩を掴みながら聞いてきた

 

「まぁまぁ、落ち着いて

 賽の河原はご存知ですか?」

 

「賽の河原って・・・

 確か花屋って情報屋がいる場所じゃあ」

 

「ご名答

 そこが今は千石組の居場所らしいです

 で、そこにある地下格闘場で大会があるらしくて」

 

「じゃあ、二人で参加する訳か?」

 

「いやぁ、こんな楽しそうなこと

 誰かに譲る気も

 共有する気もありませんよ」

 

「何?」

 

椛はニコニコと笑いながら

阿部の手を払った

 

「そもそもチケットは一枚だけ

 まぁ、タッグマッチもあるかもしれませんが

 私としては甘美な果実は

 独り占めするのが流儀なんで

 それに、あなたが勝てるかなんて保障あります?

 このチケットは私が受け取った物ですし?

 私が試合に参加するのが自然でしょう?」

 

阿部は椛の言葉を聞いて察した

これは椛が阿部を試すと言うことだ

 

「やる気か?

 この後試合があるなら

 体力は温存するべきじゃないか?」

 

「知らないんですか?

 コース料理には前菜ってのがあるんですよ?」

 

「はっ、じゃあ俺は前菜か?

 随分と豪華なコース料理なんだな」

 

二人の掛け合いと共にジリジリと距離が近づいていく

後一歩で二人の射程範囲に入る

 

「あらら?

 随分な自信ですねぇ

 それとも弱い奴ほどよく吠える

 って訳ですか?」

 

「試してみるか?

 大怪我する羽目になるぜ」

 

「出来るものなら

 やってくださいよ

 ”元”ヤクザの阿部さん」

 

「おもしれぇ

 後悔すんなよ!」

 

阿部の言葉を皮切りに

二人は前に飛び出し射程範囲に入った

傍から見れば

圧倒的体格差で椛に勝ち目はなさそうに見える

しかし、本来妖怪である椛に体格差など関係なかった

 

二人が拳を交えるのは今回で二回目である

一回目は椛がこの世界にやって来て

すぐの頃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椛は目覚めたとき

そこはホームレスの溜まり場であった

そこにいるホームレス達は突然現れた女性に驚きつつも

声を掛けてきたのだが

椛は突然のことに思考が追いついておらず

駆け寄ってきたホームレスを殴り飛ばしたのだ

その時である

 

殴り飛ばし椛が構えた時

ホームレス達をかき分けて

阿部が椛の前に立った

 

そして、二人は拳を交えることになった

しかし、二人は大きな誤算をしていた

阿部は椛に対し

「ただの女だ、軽く小突けば落ち着くだろう」

そう思っていた

椛は

「相手は人間、二~三発殴ればすぐに黙るはず」

しかし、二人の思いとは裏腹に

戦いは激戦と化した

阿部は先手必勝といわんばかりに

椛の顔面めがけて正拳突きを繰り出す

しかし、阿部は寸止めするはずだった

だが、椛はの拳を後ろに仰け反り回避し

しかも、その腕に組み付き十字固めの形に入ろうとしていた

 

椛は関節を外して

すぐに逃げれると考えていた

しかし、阿部はあろう事か

阿部は腕に組み付いている椛を

片手で腕を振って投げ飛ばしたのだ

女性の平均体重は二十歳でおよそ49.5㎏

それを片手で投げたのだ

椛も一瞬何が起きたのかわからなかった

一見すると

ただの身長の高い優男だが

その見た目に反しとんでもない腕力をしていたのだ

 

椛は阿部に投げ飛ばされ

そのままゴミ置き場に落ちた

阿部は思わず全力を出してしまい

焦りながら椛の元へ駆け寄るが

何と椛は立っていた

投げ飛ばされたはずが

その恐ろしいほどの反射神経で

悠然と立っていたのだ

その時に二人は理解した

()()()()()()()!」

二人は構え直し

今度は手加減はしないという表情をした

そして、飛び出し二人の拳が交じり合う瞬間

 

「双方止めい!!」

 

その声に驚いたのか

それともあまりの力強さに

その言葉に従ったのか

二人はピタリと止まった

そして、二人の間に老人が立った

 

「阿部よ、少し落ち着け

 お嬢さん、お主もじゃ」

 

二人の間に立ったのは

古牧であった

ホームレス仲間から

この騒ぎを聞きつけ駆け付けたのだ

 

その後、椛は古牧の住む竜宮城でシャワーを浴びて

ホームレス達が見つけてきた服を貰い

しばらくの間泊めてもらうこととなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして二人の喧嘩は決着がつくことは無かった

だが、今この時

あの時の喧嘩の決着がつこうとしていた

今度は誰も止めることはない

二人はとても喜んでいた

椛は喧嘩をする口実が出来たことに

阿部は喧嘩を吹っかけられたことに

二人の拳は熱を帯び

爆発寸前であった

 

そして、戦いの火蓋は切って落とされた

阿部も椛もその一撃に一切の遠慮は無かった

全身全霊の一撃を放ちそれを受け流す

又は止める、攻撃を食らう

まさしく貪るかのようであった

その時のことを

偶然通りかかったホームレス仲間が語っている

 

「まるで重機と重機のぶつかり合いだよ

 バキッって言うか

 ドカンって感じで

 しかも、二人ともえらく楽しそうでねぇ

 初めは止めようかと思ったけど・・・

 まぁ、止めるだけ野暮ってもんだね

 人の恋路を邪魔する奴は

 豆腐の角に頭をぶつけて死ぬって訳じゃないけど

 まぁ、満足するまでやらせてあげようって

 野次馬が何人もいたけど

 関係なかったね

 こっちからすれば試合さながら

 大盛り上がりさ

 あれだけ生き生きとやり合ってると

 警官も止めるより応援しちゃうね」

 

しかし、二人の楽しい時間は無情にも終わりを告げてしまう

椛の膝蹴りが阿部の腹部に命中し

その状態から腰と肩の強烈な回転による

アッパーカットが阿部の顔面にクリーンヒットした

 

「ハァハァ・・・全くタフすぎるんですよ」

 

椛はあまりの激戦に息を切らしていた

阿部はアッパーを食らい

そのまま地面に倒れていた

 

「ハハッ、やっぱお前は化物だ

 本気でやってこれかよ」

 

決着はついた

周りの野次馬は歓声を上げた

喧嘩に夢中で気付いていなかった

二人は驚き

目を丸くしていた

 

「あらぁ、流石に目立ちすぎましたかね」

 

「まぁ、こんな往来でやってたからな」

 

二人は逃げようかと考えたが

あまりの人の多さに流石に逃げることが出来ない

その時、ホームレス仲間が一人声を掛けてきた

 

「二人ともこっちだ」

 

二人は案内されやっとの事で野次馬を振り切った

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

椛は深々と御礼を述べるが

ふと顔を見たことがないことに気が付いた

 

「あの、あなたはどちら様で?」

 

「私はあなたが参加しようとしている

 地下格闘技大会のスタッフです」

 

椛は驚き身構えた

しかし、スタッフの男は

まるでいつものことのように話し始めた

 

「あなた様が今回の大会にご参加していただくことは

 文様から伺っております

 しかし、本来なら通常参加になるのですが

 先ほどの戦いを拝見させていただき

 主催者より

 シード権を椛様に譲渡いたします」

 

「シード?

 どうして」

 

「本来の地下格闘技大会は一般人の中から

 私達スタッフが参加券があるか見定めるのです

 その結果、シード権を受け取るに足る人物であると

 判断した次第です」

 

「・・・」

 

スタッフは内ポケットから

シード権の証明書を取り出し椛に差し出した

千石組の人間である可能性がある限り

警戒するべきではあるが

椛は二つ返事でその紙を受け取り

七福通りにある公園から地下へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下水道を通り賽の河原へと着いた

そこは遊女のような女性が建物の中から男性を

官能的に誘い

恐らく投資家や何かしらの社長達は

品定めするように女達を眺めている

 

「うへぇ、悪趣味な場所」

 

椛は思わず嫌悪感を示す

その時

黒服の男が椛の前に立った

 

「どなたで?」

 

「地下格闘技大会のスタッフです

 犬走 椛さまですね

 どうぞこちらになります」

 

黒服の男は丁寧に

椛を地下格闘技大会の受付に案内し

そのまま控え室まで案内された

 

「服は着替えなくて良いんですか?」

 

「えぇ、今回の大会ルールはありませんから

 ただ、殺害行為はなさらないようお気を付けください」

 

「物騒な大会なんですねぇ」

 

「えぇまぁ」

 

黒服は一礼すると部屋を出て行った

 

「はぁ、何だかとんでもない所に来ちゃったみたいですねぇ」

 

椛はため息を吐きながら控え室にある

試合の様子を映したテレビを見ていた

 

「こんなので歓声上げるなんて

 人間の考えはわかりませんね」

 

すると、スタッフが扉を叩いた

 

「すみません、そろそろお時間です」

 

「はいはい、すぐ行きます」

 

椛は服を少し着直しリングへと向かった

 

 

 

 

 

 

「さぁ、皆さま大変長らくお待たせいたしました!

 お次の試合は何とシード権を勝ち取った選手が登場です!

 では早速登場していただきましょう!!!

 ヤクザ狩りの女!

 犬走 椛!!」

 

椛が出てきた瞬間

歓声さらに大きくなった

いよいよお楽しみの時間が始まるのだ

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