耳が割れそうなほどの大歓声の中
椛はリングの中へと入った
中には黒人の屈強な男は立っていた
「へぇ、初戦はあなたですか」
「即死と安楽死どちらがオコノミデスカ」
「はぁ?」
黒人の男は筋肉を見せつけながらそんなことを言っていた
「対するは
前大会優勝者!
地下格闘技王!
G・B・ホームズ!!!」
「あぁ、優勝者ね
じゃあ、あなたは物凄く強い訳ですよね?
楽しませてもらいますよ」
椛はニヤリと不適な笑みを浮かべ
構えることなくホームズの前に立った
「さぁ、お互い準備万端のようです
では、試合開始!!」
試合開始のゴングが会場に鳴り響いた
しかし、試合が始まったというのに二人は一切動かない
まるで、リング内だけ時間が止まったかのようだ
観客の殆どが二人に罵声を浴びせる
「さっさと始めろ!」
「ビビってんじゃねぇよ!」
しかし、地下格闘技の上位の人間は気付いていた
既に試合は始まっている
いや、雌雄は既に決していた
ホームズは敗北している
椛と対峙した時点でこうなることはわかりきっていた
それほどまでに二人の差は圧倒的であった
しかし、ホームズは認めるわけにはいかなかった
当然である
前回大会で優勝した者としてのプライドが
彼を突き動かした
「ぬぅうおぉぉぉぉ!!!」
ホームズは意を決して
椛に襲いかかった
しかし、次の瞬間には
ホームズは医務室のベッドに眠っていた
何が起きたか理解できなかった
確かについさっき椛に襲いかかったはず
しかし、ワープしたかのように医務室のベッドで眠っているのだ
その時の試合風景を
実際に見ていた選手が語っている
「ホームズのあんな怯えた表情は見たことないよ
今まで最強と名高かったのに
まるでオバケでも見てるかのような顔で
でも、少し経ってから雄叫びを上げながら
椛へ襲いかかったんだけど・・・
いやぁ、あの伝説の龍を実際に見ているから
驚くと言うより
戦慄したねぇ
あの伝説の龍が使ってた必殺の【虎落とし】
を使ったわけだから
しかも、その一撃であのホームズが
金網に叩きつけられてそのままマットに沈んだんだもの
ホントに会場全体が水を打ったように静まり返ったねぇ
少し経ってすぐに歓声が沸いたけど・・・
何だか可哀想だったねぇ
えっ?ホームズが可哀想?
何言ってるんだ
椛に決まってるだろう
あんなに期待してたのに一撃で終わったんだから」
椛はマットに沈んだホームズを見下ろしながら
「あらら・・・」
と残念そうな表情で呟いた
リングの金網が上がり
医療班がホームズを担架に乗せられ
運ばれていった
そして、すぐにMCが語り出した
「さぁさぁ、とんでもないことになってきた!
あのホームズを一撃で倒してしまった!」
椛はアクビをしながら話を聞いている
「ついに今大会の決勝戦!
決勝戦では何と千石組直々に
試練を用意しています!
さぁ、登場していただきましょう
肉食獣最強!
ベンガルトラ!!!」
金網がまた降りてきた
それと共に牢屋に入れられた
ベンガルトラが連れられてきた
「この虎は数日間食事を与えず
大変腹を空かせています!
さぁ、生き残ることが出来るでしょうか!!」
牢屋は金網にピッタリと付けられ
牢屋の出入り口と同じサイズの
穴が空いていて虎は椛をにらみつけている
「はぁ、悪趣味きわまりない
あなたも大変ですねぇ」
椛がため息を吐いていると
容赦なく牢屋が開き虎が飛び出してきた
すると
恐ろしいことに椛の前に跪いた
「あはは、貴方も死ぬのはイヤだと言うことですか
苦労しますね」
会場にいる全員が息をのんだ
誰がこんな状況を予想できただろうか
虎は椛の前に跪き
椛は虎をまるで飼い猫のように撫でている
「これで良いですか?
こんなのを試練にしないでください」
椛は鋭い目線で周りに言うと
全員が黙り込み静まり返った
しかし、入場ゲートから
一人の男性が入ってきた
「いやぁ、流石ですなぁ」
関西弁でしかも尋常じゃなく派手な格好をした男が入ってきた
「あなたが万田さんですね」
「そうや、あんさんのような強い用心棒が欲しかったんや」
万田は椛の前に立ち手を差し出した
「ふむ、用心棒ですか・・・」
椛がどうやって勝矢に差し出そうかと考えている時
ふと椛の背後から強烈な殺気を感じた
条件反射で椛はしゃがみ
その瞬間銃声が鳴り響き
万田は撃ち抜かれ地面に倒れ伏した
「なっ!」
椛は急いで振り向くが
銃声が鳴り響いたと同時に
全員がパニックを起こし
銃を撃った犯人を見つけることが出来ない
仕方がないので
万田の安否を確認するが
正確に心臓を撃ち抜かれており
息をしていなかった
「困りましたね・・・」
勝矢に報告する為に
代紋だけでも回収しようと手を伸ばすと
「おっと、動かない方が良いぜ」
椛の後ろに気付かぬうちに
拳銃を持った男が立っている
「貴方が万田を撃ち抜いた犯人
で、合ってますか?」
「冗談は下手なんだな
犬走 椛さん」
椛は両手を挙げて振り向くと
拳銃を構えている警官の男がいる
「お名前を伺っても」
「神室署捜査一課の
谷村は警察手帳をみせながら自己紹介した
「捜査一課、エリートさんがこんな所にいるとは
あぁ、そう言えばここにはお偉い方がよく来られるらしいですねぇ」
「残念ながらそっちじゃない
匿名のタレコミだよ
さっ、署まで来てもらおうか?」
椛は何かしらの抵抗をしようかと考えるが
得策ではないと思い
仕方なくそのまま警察署に連行された
取調室にて強引な取り調べを受けていた
「ねぇ、いい加減帰らせてくださいよ
こんな埃臭い所に女の子を軟禁なんて」
椛はもううんざりと言った顔で
「うるさいなぁ、だったらいい加減
あの場所で何があったのか話せ」
谷村もこの状態に飽き飽きしていた
「だから、何度も言ってますけど
あの地下格闘技大会であの千石組の万田って人が
撃たれたんですよ!
それ以上知りませんって!」
「誰がそんな話信じるってんだ!
それに何で一般人の女があんな所にいるんだ!」
この通り完全に平行線になっていた
その時部屋の扉が開いた
入ってきたのは谷村の上司
「谷村、あんまり大声を出すな
廊下にまで響いてるぞ」
「伊達さん
この女が何にも話さないから」
「えぇ、全部話したのに
いい加減帰してくださいって」
また二人が喧嘩を始めそうになり
伊達は二人の間に入り
「静かにしろって
お嬢さんもこういってるわけだ
そろそろ開放するぞ」
「何言ってるんですか伊達さん
だから皆から伊達さんは甘いって言われるんですよ」
「何だと!」
「はぁ・・・」
数分後
椛はやっとの事で警察署から解放され
警察署の前に立っていた
「さて、じゃあ竜宮城に帰りますか」
「おい」
椛が帰ろうとした瞬間
また谷村が声を掛けてきた
「何ですか!
ナンパならよそでやってくださいよ」
「違う!
お前確かホームレス連中がいる竜宮城に住んでるんだよな」
「え?えぇ、まぁ、」
「その竜宮城付近で乱闘騒ぎがあって・・・」
「!」
椛は全てを聞く前に竜宮城へ走り出した
竜宮城に入り急いで道場に行くと
中ではホームレス仲間達が治療を受けていた
「皆さん!大丈夫ですか!」
「椛か、何少し小突かれただけだ」
椛は全身の毛が逆立つのを感じた
とにかく冷静に落ち着いた表情で
怪我をしているホームレスに近寄り
「一体誰にやられたんですか」
「分からん、急にヤクザ風の男達が取り囲んで
椛を知らないかと聞いてきて
不穏な感じがしたから知らないと言ったら
こんな目に」
「・・・分かりました、心当たりがあります
少し借りを返しに行ってきます」
椛はホームレスを襲った者達がいるであろう場所へ向かった
その場所とは神室町のランドタワー
ミレニアムタワーであった
その中に入り
受付係の前に立ち
「ここに真島組の事務所がありますよね」
「え、えぇ」
「その階層って何階ですか」
「57階です」
椛はそのままエレベーターに乗って57階へ向かった
エレベーターの扉が開くと
そこには真島組の構成員がずらりと並んでいる
「何のようで?」
「文さんに会いに来ました
でも、安心してください
貴方方の手は患わせません
こっちで勝手に会わせてもらいます」