狂犬が如く   作:マキシマムダンガル

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第六章 ツケ

「こっちで勝手に会わせていただきます」

 

椛の言葉を皮切りに

真島組構成員と椛の戦争が始まった

構成員達は容赦なくゴルフクラブや

木刀を取り出し襲いかかる

しかし、その手を使ったとしても

椛との実力差は縮まることはなかった

 

あるものはゴルフクラブで殴りかかるが

片手で受け止められ逆にぶん殴られ

 

木刀で襲い掛かるも

蹴り一発で木刀は小枝のように折れ

そのまま蹴り飛ばされる者も

 

本気になった椛を前に

生身の人間はおろか

武装して尚歯が立つことはなかった

一人また一人と構成員達は倒れていく

圧倒的な実力差を前に誰も椛を止めることはできなかった

 

そして、ようやく文のいる部屋の前についた

ノックしようとすると

扉が開き文が出てきた

 

「はぁ、本当にここまで来るとは」

 

「数時間ぶりですね文さん

 お話、聞かせてもらえます?」

 

文は椛を手招きすると

屋上へ向かった

 

 

屋上へ出ると文は煙草を吹かした

 

「あれぇ、文先輩お煙草吸われるんですね

 幻想郷にいた頃は全く吸わなかったのに」

 

「キセルって結構臭いがきつくて

 あんまり好きじゃなかったんですけど

 この世界の煙草はいいですね

 いい味です」

 

文はプカプカと煙を吐いた

 

「煙草は百害あって一利なし

 肺がんになりますよ」

 

「お酒でもよかったんですけどね

 素面じゃないと失礼でしょ?」

 

「文先輩も礼儀とか重んじるんですね

 意外です」

 

椛はニコニコと話しているが

その目の奥には確かな殺気が混じっていた

 

「じゃあ、そろそろ本題に入りましょう

 文先輩ですよね

 真島組の人たちをけしかけたの」

 

「ふぅー、えぇそうです

 ちょっと調べてもらうはずが

 随分と手荒な真似をしたようで」

 

「そんなのはどうでもいいんで

 理由、聞かせてもらえます?」

 

文は煙草を吐き

酷く面倒くさそうな顔をした

 

「この件、あなたには荷が重すぎます

 手を引きなさい」

 

「それが、理由ですか」

 

「先輩の忠告です

 これ以上首を突っ込むなら

 命の保証はありませんよ」

 

真っ直ぐと椛の目をみる文に対し

椛はあることに気づいた

 

「なるほど

 警察がいたのもあなたが原因ですか」

 

「予想より早く出てきてビックリですよ」

 

椛は少し考えた後

文に近づきながら

 

「あなたがどう思っているか知りませんが

 私はあなたの指図を受けるつもりはありません

 それと、私の恩人に手を出したことへの

 借りを返させていただきます」

 

椛の表情を見て文は確信した

こいつを止めることは出来ないと

しかし、文は煙草を捨て

 

「ったく、年長者の言うことくらい聞いてほしいですね」

 

そう言って身構えた

 

「あれ、随分やる気じゃないですか

 いつもは殴り合いは嫌いだってやらないのに」

 

「私にも良心ってのがあるんですよ

 後輩に死ぬとわかっていて行かせるわけにもいきませんし」

 

椛の目はその瞬間一気に輝き出した

 

「そうですか

 だったらなおのこと

 この話に足を突っ込まなければ」

 

「後悔しても知りませんから」

 

「今この状況で

 何を悔いることがあります?

 喧嘩嫌いの文さんと殴り合えるんですから

 最高でしょ?」

 

「はぁ、この際ハッキリ言っておきます

 私はあなたが嫌いです!」

 

文はそう言うと地面を思い切り蹴り

椛との距離を一瞬で詰め

二人の射程範囲に入るが

椛が反応する前に

文は連撃を繰り出す

 

 

 

 

 

文と椛は妖怪の山

天狗社会では先輩後輩という関係である

しかし、天狗達の中では屈指の不仲である

会う度に喧嘩して周囲の雰囲気まで悪くしている

 

だが、二人はヒドく仲が悪いが

椛を育てていた師匠は文の師匠でもあるため

必然的に顔を合わせ稽古と称して喧嘩をしている

 

不仲の理由は烏天狗と白狼天狗

ただ、それだけの理由であった

二人は少しの種族の差と

椛と文のプライドが圧倒的な理由になった

 

文のスタイルはスピードによる打撃数重視のスタイル

椛は一撃で相手を鎮めるパワースタイル

偶然にも相対するタイプになり

師匠も手に負えないほどの犬猿の仲になった

 

今まで二人が喧嘩をして

その勝敗の九割が椛の勝利で留まっている

椛の勝利が100を超えた時から

文は椛を避けるようになり

椛も哨戒班になり文に会うことはほぼ無くなっていた

 

 

 

 

 

 

二人の喧嘩は数十年ぶりになり

椛は今までの喧嘩で文が本気で掛かってきたことはなかったために

完全に油断していた

文の攻撃は椛の予想を遙かに超えて早く鋭い

椛はそのあまりの早さに捌くのがやっとであった

最初は

 

次第に椛は文の攻撃に対応できるようになり

攻撃の殆どが当たらなくなってきている

同じ妖怪同士とはいえ、二人の差は歴然であった

理由は至極単純

文は修行にほとんど参加していなかった

元々肉弾戦をする必要のない世界で

しかも、文は新聞記者

エクササイズ感覚でしか参加せず

元から備わっているスピードにものを言わせ

戦っているにすぎない

 

その為、文が椛に勝つことなど到底不可能である

それは文本人も分かっている

しかし負けるわけにはと奮闘するが

文の思いとは裏腹に

椛は文に一切の容赦なく打撃を与える

まるで「諦めろ」「敗北を認めろ」

そう訴えかけられているかのようであった

 

そして、決着はついた

椛の一撃で文は地面に倒れ

空を仰いだ

 

「さてと、じゃあ文さんお話

 聞かせてもらえますか」

 

「あーあ、どうせこうなるとは思っていましたが

 予想以上にムカつきますね」

 

地面に倒れため息を吐きながらタバコを取り出した

 

「はぁ、口の中が切れて血の味がします」

 

起き上がりタバコを咥え火を付けた

 

「何でわざわざ私に負けるために戦ったんです」

 

「酷い言い草ですね」

 

椛は地面に座り込み

 

「黒幕を知っているわけですか」

 

「そうですねぇ、おおよその予想はついていますが

 やはりコレ言うわけには・・・」

 

文はタバコの煙を吐き出そうとすると

椛は目の前に立ち

 

「いい加減にしてくださいよ

 それともまだやります?」

 

「おお怖い怖い

 特別にヒントをあげます

 松金組という所の組長に会って

 その人に探偵を紹介してもらってください」

 

「探偵?

 一体誰だって言うんですか」

 

「今起きている

 近江連合の侵略に関して調査をしています

 その人とならもう少しマシな情報が得られるでしょう」

 

文は胸ポケットから手帳を取り出した

 

「ここに松金組があります

 私の名前は出さないでください

 ヤクザ関係の人達から嫌われているんで」

 

「分かりました、では」

 

椛は手帳を手に松金組に向かった

 

「はぁ、こんな事になるのなら

 もう少し真面目に修行に参加しておけば良かったです」

 

 

 

 

 

 

 

椛は松金組がある

七福通り東の周辺を歩いていた

 

「どこに松金組があるんでしょう

 そもそも組が多すぎてどこにあるのかなんて・・・」

 

その時

椛が周辺を見渡すと

白いスーツを着たヤクザ風の強面の男が

数人のヤクザ風の男達を引き連れて

小さなビルの中に入っていった

 

「あれですかね」

 

椛はその男達に続いてビルの中に入っていった

 

 

 

 

 

ビルの中は質素な感じで

あまりヤクザの事務所があるとは思えない

 

そして、二階に上がり扉を開くと

そこにヤクザの事務所があった

 

「おっと、思わず普通に開けちゃいました」

 

「な、何だテメェ!」

 

当然ながら事務所内にいる男達が

一斉に立ち上がり身構えた

 

「あー、別に怪しい者ではありません

 ここの組長さんにお会いしたいのですが」

 

「何だと!カチコミか!」

 

「イヤイヤ・・・」

 

男達は椛に聞く耳を持たず襲いかかろうとしているとき

 

「なんだ騒がしい」

 

小さな事務所の中に障子があり

その中からさっき見た白服のヤクザが出てきた

 

「あなたが松金組の組長さんですか?」

 

「あ、あぁ、そうだが」

 

状況が飲み込めず困惑した表情を見せるこの男こそ

松金組二代目組長羽村 京平(はむら きょうへい)である

 

「いやぁ、探しましたよ!

 私の名前は椛と申します

 あなたに紹介して欲しい人がいるんですよ」

 

「あぁ?」

 

「実はあなたが知っている探偵さんを紹介して欲しいんですよ」

 

「ター坊を?なにもんだテメェ

 それにここは人材派遣会社じゃねぇぞ」

 

「知ってますよ、文さんからヤクザ屋さんって聞きましたし」

 

椛が文の名前を出した瞬間

事務所内の空気が張り詰めた

 

「おっと、NGワードでしたか」

 

「あの女の仲間か」

 

「えぇまぁ」

 

「だったら、手加減する必要はないな・・・」

 

松金組の組員全員が武器を構えた

 

「はぁ、こんなのばっかり」


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