博麗の兄貴   作:鬼如月

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博麗霊雨

幻想郷の東端、幻想郷と外の世界を隔てる境界。その境目に位置している神社がある。

その名は博霊神社。そしてその神社の境内で黙々と掃除を行う青年がいた。

 

「ふぅ....こんなもんかな」

 

一息つき、賽銭箱に座り込む。その青年―――博麗霊雨は透き通るような黒色の髪をもち、装束に身を包んでいるという姿であり、腰に差してある一振の刀が目立っていた。

と、そこへ近付いてくる人影が一つ。

 

「こらー!バカ兄貴!賽銭箱に座らないでよ!参拝客が怖がって寄らなくなるじゃない!」

 

博麗霊夢。博麗神社の素敵な巫女であり、妖怪退治、異変解決を生業としている少女である。

 

「あー?どうせこの神社参拝客なんて来ねえんじゃねえの?」

「来るわよ!.....極稀にだけど」

 

...思わずため息をつく。

ここ、幻想郷には宗教勢力が無い。正確にいえばあるにはあるが、それを支える仏閣や教会等が無いのである。

なので博麗神社(うち)には商売敵というものがいない為、霊夢も俺も昔から積極的に参拝客確保に動いていなかった。その結果、参拝客が来るのが正月や異変が発生、解決した時くらいになってしまったのだが。

 

彼女に言われる通りに賽銭箱から立ち上がり、そのまま鳥居を潜って階段に足をかける。それをじっと見ていた霊夢が霊雨に声をかける。

 

「夕飯までには帰ってきなさいよ。今日も鍛錬でしょ?」

 

はいはい、わかってますよ、と、手をひらひらさせて階段を下り始める。

階段を降り、向かう場所は迷いの竹林。だが、その前に、と。竹林の方からは少しずれた方向に進路をさだめる。そこにあるのは人里。今日の鍛錬相手であるあいつに手土産でも持っていかないとな。と、霊雨は一人呟くのであった。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

人里に着いたその青年は、早速手土産を買うために店を見て回っていた。

ついでに霊夢にお土産で団子でも買っていこうかとあちこちあるいていると、見知った顔に出会う。

 

「おや、久しぶりですね霊雨さん。今日は霊夢さんはいないのですね」

「ああ、久しいな阿求。今日は鍛錬相手への手土産でも買おうと思ってな」

 

彼女の名は稗田阿求。詳細は省くが、人里の中でも大きな権力をもつ歴史ある家系の当主であり、なんと古事記の編纂者の一人である稗田阿礼の子孫であるらしい。

 

あまり霊雨とは顔を合わせる機会は無いのだが、中々に気があうようで、会う度に少々話しすぎてしまうのである。

 

「鍛錬ですか...お元気そうでなによりです。今日は妖怪が活発に活動しているようなので早めに帰るのをお勧めしますね。要らない心配でしょうけど」

 

妖怪か....と唸る。霊夢にも夕飯までに帰れと言われているし、今日は夕飯作りを手伝ってみようか。

などと考え、そろそろ竹林に向かうからと別れようとしたとき、二人は里の入り口付近が騒がしいのに気づいた。

 

騒ぎの方へ近付くと、それに気づいた里人の一人が慌てた様子でこちらに走り寄ってきた。

 

 

「霊雨さん!阿求さん!妖怪です!妖怪が出ました!」

「妖怪!?人間の里に!?」

 

妖怪。人間を喰う者からその精神に寄生する者、魂を喰らう者等様々な種類のものがいるが、基本的にどの妖怪も人間に害のある存在である。が、妖怪は妖の中で知性があるもののことを言い、人里の中で人間に危害を加えることを禁止されているのである。それなのに人間を襲っている。何故...?

 

一先ず考えることをやめ、妖怪の無力化にかかる。

 

騒ぎを作っていた妖怪の姿はハリネズミのような毛が生えた牛であり、恐らく中国の妖怪である窮奇だということが察せられた。

 

「阿求。お前は霊夢を呼んできてくれ。俺が時間を稼ぐ」

「わかりました。気を付けて!」

 

阿求が博麗神社の方走っていくのを見届けてから窮奇へと向かい直る。自分が立ちふさがっているということが理解できているようで、鼻息を荒くして明らかに怒っている。

 

「悪いな、ここは行き止まりだ。おとなしく尻尾巻いて逃げ帰るんだな」

 

刀を構える。

 

 

「グォォォォォ!!!!」

 

窮奇が飛び掛るが、まだだ。

 

 

――そうしているうちに迫り来る窮奇の爪がこちらの体に突き刺さり――――

 

 

―――今だ。

 

勢い良く刀を抜刀する。そのまま窮奇の足を斬り飛ばし、窮奇の後ろへと立つ。窮奇が苦痛の鳴き声を上げるが油断はしない。振り返って袈裟懸けに斬り下ろす。痛みに悶える窮奇に止めに刀を脳天に突き刺す。

 

「よし...と。こんなもんだろう」

 

窮奇はもう息絶えたようで、動く気配がなかった。

とりあえず危険が去ったことに安堵の溜息を漏らし、刀を回収するために窮奇の死骸へと近付く。と、ここで霊雨が何かの気配を感じてその場を飛び退く。

 

「――――マジかよ...」

 

霊雨の立っていた地点に大きい爪跡が刻まれる。

どうやら仲間がいたらしい。その数四匹、霊雨の額に一筋の冷や汗が流れる。不味い状況だ。刀は未だ窮奇の死骸に刺さっている。

 

「とりあえず囲まれると不味い...よし、逃げよう。そうしよう」

 

そう呟くとこちらへと迫ってくる窮奇達に背を向けて走り出す。勿論、人里からは離れた方向へ。

 

 

 

 

―――――しばらく逃げていると息があがり、足を動かすのが辛くなってきた。

喉も渇き、視界が覚束なくなってくる。

と、足元に伸びていた木の根に引っかかり盛大に転ぶ。体勢を立て直す時間が無い。そのまま迫りくる窮奇達に霊雨はなす術もなく―――――

 

 

「―――――遅いぞ、オイ。あと少し遅かったら死んでたぞ?霊夢」

 

―――――喰われる。ということは無く、霊雨の背後から窮奇達に霊札が飛んできて、窮奇へとその効果を発揮する。妖怪への特攻をもつその札によって窮奇は全て浄化され、消滅する。

 

「間に合ったからいいじゃない。神社に慌てた様子の阿求が駆け込んできたと思ったらこんなことに巻き込まれていたのね」

 

霊雨が振り返ると、そこには札を構えた霊夢が立っていた。

 

「あーあ、刀も探さなくちゃいけないし、今日の鍛錬はお預けかな」

「ああ、そのことなら心配ないわよ」

 

え、と声がでる。

 

「まさか探してきてくれたのか...!?」

 

 

「今日は鍛錬ができないということを彼女に伝えるように阿求に頼んでおいたわ」

「.....そんなことだろうとは思ったよ。まあそれでも十分にありがたいが」

 

そんなこんなで駄弁りながら霊雨が逃げてきた道に沿って二人で話しながら歩いていると、ふと霊雨が霊夢に二つの包みを渡す。

 

「まあなんだ。....俺を助けてくれた礼だ。一つは鍛錬に持ってこうと思ったんだが...今回の礼としてもらってくれ」

 

「あらありがとう!これで明日は一日中だらだらできるわ♪」

 

それでいいのか巫女よ....などと考えながら、他愛も無い話を続けて人里へ戻るのであった。

 

 

 

 

 


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