今日はキンジが学校を休んだ。祐樹がアリアに理由を聞くと、調教! 風穴! セクハラ! と単語を叫びツインテールを振り回している。
「あ、そうだ! あんた、特濃葛根湯が売ってる場所って、アメ横、上野と御徒町の間の薬屋であってる?」
一瞬なぜそんなことを聞くのか考えたが、すぐに思い当たる。
「キンジのためにか! ヒューヒュー! 青春だねぇ」
貴族さまは茶化しに耐性がないのだろうか。顔を真っ赤にしながら犬歯をむき出し祐樹を睨む。
「ジョークだよ。葛根湯だろ……そういえばキンジがそんなこと言ってたな。あってると思うよ?」
一言礼を言ったアリアはそのまま教室から走り去っていく。単位は余裕で足りているから、授業をさぼって薬を買いに行くのだろう。なんだかんだいって仲間思いの少女である。
着信音が聞こえる。屋上で昼飯を食べながら考え事をしていたので祐樹は一瞬自分の携帯ではないと思った。その着信音はとある人用に設定したものだがめったにかかってくることがないので,余計に反応が遅れ、携帯をズボンからとり出し、通話のボタンを押したのは10秒後のことだった。
『やあ、グレイマン。久しぶりだね』
本当に久しぶりだ。二年ぶりぐらいだろうか? 祐樹の所属する組織イ・ウーのリーダ、
「そだね。俺もちょうどあんたに言いたいことがあったし。教授」
天才シャーロック・ホームズ。生きる伝説であるホームズはアリアの先祖さまである。
『そうだね。君がそう言うだろうと推理していたよ』
相変わらずイラつく野郎だ。携帯を握る手に思わず力がこもりそのまま握りつぶしそうになる。
「言いたいことっててか、質問かな」
一度言葉を切り小さく深呼吸する。深呼吸は人を冷静にさせる効果があるらしいが、
「殺されたいならそう言え。なぜテメェは俺の邪魔をする」
無理だった。感情のままに叩きつけた拳は屋上の手すりを破壊する。後処理が大変だなとやった後に気づいたが、どうせ『推理が得意な教授』が何とかしてくれるだろうと苛立ちを感じながら思う。
手摺の破片が落ちて来たのだろう。蘭豹の怒号と銃声が聞こえ、祐樹は踵を返し屋上を後にする。
ホームズを越えることを目的としていた理子は、一人で戦うことを望むだろうと祐樹は予想していた。事実その通りになったがそこはどうでもいい。
問題は次に現れた少女、ジャンヌ・ダルクである。ジャンヌが白雪を狙っていることは分かっていたし、本人から聞いていた。だが、順当にいくのなら理子が敗れた次は自分のはずだ。にもかかわらず、ジャンヌを武偵校に呼び寄せ、教授直々の命令で祐樹の殺しを止めた。
廊下を歩く生徒は交友的な人間である祐樹の殺気に驚き足を止め、すぐに早足で去っていく。
「で、これだけのために電話してきたわけじゃなよな? 用件があるなら早く言え」
ひと気のない校舎裏まで移動し壁に体を預ける。『電話を聞かれない以外にもう一つ、祐樹には予定があった』
『私も悪いとは思っているよ。だが、もう少し待ってくれないか? 果実は熟せば熟すほどおいしくなる。そうだろう?』
まるで口車に乗せられたようだがその通りだった。確かに、ジャンヌを倒せない程度なら、自分とは勝負にならない。それは前に言った調子、情報、精神力関係なく。そんなことが分からないほど、祐樹は馬鹿ではない。
お前に言われなくても俺はそうするつもりだった。
「分かったよ。今回だけだ」
通話を切り肺にたまった空気を吐き出す。ずいぶん簡単に終わったが、あの男は一体何を考えているのか分からない。『祐樹たちがやろうとしていることを全て推理したうえで祐樹を自由にさせているのだろうか』その可能性は否定できないが今更やめることもできない。それは祐樹の一つの望み。
「――シャーロック・ホームズは、俺の獲物だ」
アリア、キンジ、理子、レキ。多くの武偵を見てきたが、グレイマンが最も望むのは、一人の探偵だった。
人の気配を感じ目線を前に向ける。誰かは分かっているが、驚いた。祐樹は彼女の傲慢そうな態度から遅れてくると予想していたのだが、時間道理どころか五分前行動だった。
「なんぢゃ、妾より先に来るとは感心ぢゃな。くく」
現れたのは黒髪の少女。扇情的な衣装を身にまとい、それに見合った妖艶な笑み。イ・ウー元生徒、パトラ。
武偵と聖女の戦いの裏
グレイマンとクレオパトラ
二人は目的のため手を取り合う
探偵は、笑う
・その着信音
おさかな天国
・天才シャーロック・ホームズ
口調が安定しない
・イ・ウー元生徒、パトラ
ふくせん回収
・探偵は、笑う
ふくせん