東雲祐樹は絶望した。
たとえ、拳銃で撃ち抜かれようが、ナイフで刺されようが、彼は恐怖しない。
胸を貫かれようが
体を燃やされようが
腕を切り落とされようが
彼は恐怖しない。彼は絶望しない。
むしろ、笑いながらこう叫ぶだろう。
「ああ!! 最高で最高で、最高な時間だ!」
それは、グレイマンとしての誇りと本能。
しかし、彼はいま、絶望している。
目の前に立ちふさがる、
UFOキャッチャーに。
「すまん、中空知。俺は、俺は――無力だッ!」
「えっと、あの……なんか、ごめんなさい」
ことの始まりは、UFOキャッチャーの中にあった、アソパソマソのでかい縫ぐるみを見た中空知が、一言「かわいい……」とつぶやいたことだった。
なんとか、会話を弾ませたい祐樹は、UFOキャッチャーに挑戦。
しかし、アームのつかむ力が弱いようで、アソパソマソは、全然キャッチできなかった。
1,000円。2,000円。3,000円。4,000円。百円玉が次々とクレーン機に投入され30,000円が財布から消えた時点で、祐樹は、力尽きた。
ちなみに、祐樹の周りにはまたもや人だかり。どうやら、『広場で堂々と告白した男が、また何かしているらしい』という情報が流れたようだ。
だが、無理だ。
これは、不可能だ。
誰もが、そう思い始めたその時、
「あ、あの、やってみていい、ですか? い、一回」
この出来事で祐樹は知る。
奇跡とは
おきるものではなく
おこすものだということを!
ワッ!! と、ギャラリーから歓声が上がる。
ぬいぐるみをアームがつかんだのではない。それは、不可能だと祐樹が証明した。では、何が起こったか。
引っかかったのだ。アソパソマソのベルトに。
「ッ!!」
しかし、中空知は息をのむ。不安定なのだ。少しの衝撃でアームに引っ掛かっていたベルトは落ち、この奇跡は
終わってしまう。
誰もが息をのみ、自らの手を固く握りしめる。
ぐらり。と、アソパソマソが大きく揺れる。落ちる!! 目の前で起ころうとしていることを拒絶するように、中空知はかたく目をつむる。
だけど、忘れないでほしい。
君のために、奇跡を起こそうとする人がいることを。
祐樹が中空知の手を握る。奇跡を起こすために。二人の視線が交わる。祐樹も、そして、この奇跡の結末を見守る全員が、諦めてなど、いない。
「……いけ」
誰かがつぶやく。思わず口から洩れてしまったであろうその言葉。
「いけ!」
一人の男が叫ぶ。それを合図に皆が口々に叫ぶ。
クレーンが……開く!
わぁーーー!! と、歓声が上がる。皆の視線の先には、中空知に抱かれたアソパソマソの巨大ぬいぐるみ。
これは、小さなゲームセンターと一人の少女の、小さな小さな奇跡。
本日2度目の暴走。意識が正常になり思ったことは、
「なんだあの茶番劇……」
ゲームセンターは思ったより時間を消費した。
太陽は傾き始め、いつのまにか雲が空を包んでいた。
「中空知、一雨降るかもしれない。そろそろ、武偵校に帰ろう。……中空知?」
「うん。あなたの名前はしののめ。よろしくね。しののめくん」
激しいデジャブ。中空知はさっきとったアソパソマソに小声で何か話しかけていた。
現実世界に空知を帰還させようとした、その時! 祐樹の頭の中に、あの男の声が響いた。
―それでいいのか、東雲祐樹! 今日お前は中空知に何をした!? ハンバーガー奢っただけで、後は30,000円どぶに捨てただけだぞ!!
―ぐ、軍曹! 俺はッ!
―言い訳は無用! 走れ、東雲祐樹!
―ぐ、軍曹ェ。わりぃ、俺行かなきゃいけない場所がある!
―やれやれ。世話の焼ける奴だぜ
祐樹が走り出す。
「中空知! 帰ってこ~い!」
「あひゃぁ!? し、しの、東雲くん」
祐樹はとりあえず、この妄想姫の意識を現実世界に戻す。
「帰ってきたか。雨が降りそうだから、そろそろ帰るぞ」
「あ、はい。――き、今日はありがとうございました!」
と、中空知は90度しっかりと頭を下げ、アソパソマソを両腕で抱きかかえながら駅の方に歩いてい行こうとする。
―やべぇ!? タイミング逃した!
―まだだ。早く渡せ!
―今!?
―うるさいぞ、おまえら!! いいか、東雲祐樹。冷静になれ。大丈夫だ。あきらめるな。そう、諦めたらそこでいろいろ終了だぞ!!
―う、うぉぉぉぉ!!!
「なか、ああもう言いにくいな! 美咲! ちょっとまって」
とっさににの腕をつかむ。あまり強く掴まなかったので、アソパソマソは落ちずに済んだようだ。
「ひゃぇあ!? し、東雲くん? あ、あのリップ! 初めてなので、とりあえず、とりあえずリップクリームを!」
ものすごい内またで、美咲があわあわとよくわからない動きをする。ものすごく、表記しづらいです。
祐樹の手が美咲の方に伸びる。美咲はゆっくりと目をつむり祐樹を待つ。
「――――よし。もう、いいぞ~」
「……へ? あれ?」
美咲が、自分の前髪を軽くなでる。そして、
「あ……ぴ、ピン止め」
店のウィンドウをみると、銀色の髪留めが二つ美咲の前髪を止めていた。
「あ~と、まあ、女子の髪止めとか選んだことないから、気に入らなかったら――あれ? 美咲?」
「あへぇ。名前……髪留め――あへぇ」
どうやら、気に入らないということはなさそうだ。
この日から、二人の物語は始まった。
東雲祐樹は、殺人鬼として
中空知美咲は、一人の武偵として
それは、避けられない運命。
たとえ
奇跡をおこそうとも
・アソパソマソ
必殺のアソパンチで富士山を粉微塵にして警察沙汰に。現在裁判中
・『広場で堂々と告白した男が、また何かしているらしい』
ツイッター
・たとえ奇跡をおこそうとも
ふくせん