『…さん、…道さん、士道さん、起きて下さいまし』
「う…」
聞き覚えのある声の通りに起き上がろうとすると全身に痛みが走った。特に酷いのは、頭痛と言えばまだマシとも思えるほどの激痛がある頭部。「痛い」と叫びたくなるが、そこは数多の戦場をくぐり抜けてきた自分の口から出したくない。
しかしその我が儘は直ぐに終わりを迎えた。一瞬、火で炙られるような不快な熱を感じてからは、頭の痛みが抜け去り普段通りの健康な状態へと移行する。
「…狂三か。ここは?」
『〈別世界〉に転移したと言えばご理解されますか?』
「……は?」
たっぷり3秒間硬直した後に本音が漏れる。
「フォウ!」
「おわっ!」
突然背後から動物の鳴き声が聞こえて飛び上がってしまう。恐る恐る振り返ると、白色の毛並みのふわふわした生物がちょこんと座りながら俺を見ていた。
「リス?猫?」
『はうっ!』
「どうしたんだ狂三?」
『なんでもありませんわ』
「なんでもないことないだろ。変な声が聞こえたんだから」
『おしゃべりにならないで下さいまし!』
どうやら入ってはいけない領域に踏み入れかけていたようだ。怒らせたら怖いから、何も言わないでおくのがベストだと思いながら鳴き声を上げた動物を見る。
「フォウ?…ドッフォウ!」
「いぃ!?」
身を縮込ませたかと思うと、小柄な身体にしては異常なジャンプ力を見せて俺の肩に飛び乗ってきた。
「キュー?ムキュウ!」
「あはははは、くすぐったいよ」
「フォッフォウ~」
ピンク色の舌で俺の左頬を味わうように舐める小動物についつい微笑んでしまう。
「名前わからないなぁ。よし、鳴き声から取って〈フォウ〉にしよう」
「フォウフォウ、ムッシャフォウ!」
『…安直すぎませんこと?士道さん』
「まあいいじゃないか」
頭の中に話しかけてくる狂三と会話をしながら、自分が立っている場所を見渡してみる。1枚張りの透明度の高い窓ガラスの外は白い。というよりは吹雪で何も見えないと言った方が適切だろうか。壁や床はパールホワイトと灰色を混ぜ合わせたような不思議な色彩。
「吹雪ってことはここは冬か?いやいや待て待て。俺はさっきまで家の自室で寝転んでいたはずだ。夢でしかこんなところにはいないだろ」
『そう思う気持ちがわからなくはないですけど。少しぐらいは落ち着いて下さいまし』
「いや無理だろ!…てか何で狂三はそんなに落ち着いていられるんだ?何かを知ってるみたいな口ぶりだけど」
『知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない。そんな状態であるということだけお伝えしますわ』
まったく理解できない。俺の記憶は鮮明であるし先程の頭痛なんかは現実そのものだった。つまりはここも現実で、どうにかして脱出経路を見つけろってことなのだろうか。
「フォウさん何処ですかぁ?」
『どうやらどなたかが来られたようですね。その方にお聞きしてみましょう』
「それしかないか」
カツンコツンという廊下を走る音がだんだんと近付いてくる。円形になっているのか湾曲した廊下の奥から見えてきたのは、薄紫色の髪をボブカットにして眼鏡をかけた少女だった。足取りを緩めて俺の前で立ち止まる。遠いわけではなく、ましてや近すぎるという距離でもない。
敵意は感じず危険性も何も感じない。純粋で興味的な何かが少女の眼から俺に向けられていた。
「え、フォウさん?」
「フォウ!」
「いててててて。何故俺の頭を叩く?」
名前を呼ばれ何故か俺の頭をテシテシと前足で叩いてくる。いつの間に頭に乗り換えていたのやら。
「…先輩?」
「は?」
『む』
狂三の言葉は無視して謎の問いかけに疑問を抱く。目の前の少女とは確実に今が初対面だし先輩だと言われるはずがない。俺の記憶にないだけでもしかしたら俺のことを知っているのだろうか。
「先輩って?」
「すみません。そう呼んでしまったのは同年代ではあるけれども自分より年上の人という意味合いでです」
「説明ありがとう。聞きたいことが幾つかあるんだけどいいかな?」
「構いません。お答えできるのであればどのようなことでも聞いて下さい」
どうやらこの少女はこの建物にいる人間みたいだ。ではお言葉に甘えて聞いてみることにしよう。
「ここは何処なのかな?それで俺は何でここにいるのか教えて貰えないかな」
「えっと、最初の質問にはお答えできません。その理由は私がこの施設で育ち〈外の世界〉のことを何一つ知らないからです」
「〈外の世界〉を知らない?」
「もちろん知識としてはあります。どこまでも続く海という名の水たまり。砂しかなく周囲には木々がない砂漠と呼ばれる極地」
〈世界〉を知らない…か。まるで俺の知っている《精霊》たちみたいだ。人間として暮らす中で、常識を知らず苦労しているのを何度見たことか。もちろん人間社会に溶け込み、何一つ不自由なく暮らしている《精霊》も何人かはいた。
でもそれはつまり、人間の生活を見て真似たことの延長線上でしかないという意味でもある。最初から人間と同じように暮らせたはずがない。苦労と挫折を何度も味わったことだろう。世界を知らないこの無垢な少女と彼女たちが重なって見える。
「2つ目のご質問ですが、先輩が48人の適正者の最後の1人だからです」
「48人の適正者?最後の1人?」
『簡単に言うと、マスター候補の1人ということですわ士道さん』
脳内に話しかけてくる狂三が詳しいことに違和感を覚える。まるで全てを知っているかのように振る舞う仕草に違和感を覚えずにはいられない。
「それで俺はどうしたら良いのかな?」
「ああ、そこにいたのかマシュ。ダメだぞ、断りもなしで移動するのは良くないと…おっと先客がいたのか」
「ん?」
その少女の後ろから謎の男が歩いてきていた。
「はい、五河士道といいます」
「聞かれる前に自己紹介とは。礼儀作法をしっかりと親御さんから教え込まれているようだね」
温和な笑みを浮かべる男だが、俺にはなんとなくわかった。こいつは何かが違うと。何処がと言われれば応えられないが、なんとなくというニュアンスで感じていた。これも彼女らと戦い続けた結果、身につけた能力なのだろう。
「お話しているところ悪いのだけれど、そろそろ移動した方が良いかもね」
「移動と仰られましたが何処に?」
「中央管制室さ。この通路を真直ぐ行けばいい」
「ありがとうございます!」
と、先を急ごうと思ったがどうやら2人とも一緒に来てくれるらしい。この施設が何かわからない以上、詳しく知っている人がいれば安心できる。そういうことで俺は頭の上にフォウを乗せながら中央管制室へと歩いて行った。
その間、横目で男を観察し続けたのだが結局違和感の正体を見つけ出すことはできなかった。
「やれやれようやく終わった」
長い長い説明会が終わってから、フォウを頭の上に乗せて廊下を歩いていた。説明会の席に着いたのは開始時刻より前だったのだが、ギリギリだったことが責任者のお気に召さなかったらしい。
こっぴどく叱られてから俺は解放された。さらに追加してファーストミッションのメンバーから外されてしまった。
もはや普段の仕事の八つ当たりだろと思いながらも、言い返すことはせず素直に受け入れた。そういうこともあり今は隣にマシュと呼ばれた少女が、出会った頃より緊張感がほぐれた様子で歩いてくれている。
「それにしてもフォウさんは先輩のことがお気に召したようですね」
「フォウフォウ!」
「珍しくご機嫌です。少しばかり嫉妬してしまいそうです」
「特に何もしてないんだけどね。痛いからテシテシしないで」
「フォウキュ、フォウ!」
ご機嫌らしいフォウを乗せながら、何一つ景色の変わらない廊下を歩いて行く。
「着きました。ここが先輩のプライベートスペースです。私はこれからAチームの一員として任務があるのでこれで失礼します。先輩のことはフォウさんが見てくれるようなので」
それだけ言うと、マシュが来た道を戻っていく。大きいと言えない背中を見送り部屋に入るが…。
「はーい、入ってま。って、うぇぇぇぇぇぇぇぇ!?誰だ君は!?ここはボクのサボり場だ!」
「こっちが言いたいわ!白衣着てるって事は医者か?医者なのか!?医者なら然るべき場所にいるべきだろ!」
取り敢えず言いたいことを言ってスッキリする。挑発を後ろでくくった男は歳の頃まだ30にも満たないくらいだろうか。
「気を取り直して。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。みんなからは謎にDr.ロマンと略されているけどね。気安くロマンって呼んでくれて構わないよ」
「初めまして自分は五河士道です。一応マスター候補の1人です」
「さっき噂で聞いたよ。なんでも開始時間ギリギリに来て所長に怒鳴り散らされたあげく、ファーストミッションから外されたって。いやぁ、初っぱなから災難だったね」
「まったくです。ストレス発散対象にされた気分です」
穏やかな微笑みは何故か心を癒やしてくれる。その原因は所長の理不尽な叱責によるものだが。
「実はボクも所長に怒られてね。ここに逃げ込んでいたところだってことさ。もうすぐレイシフト実験が始まるのは知ってるね?スタッフは総出で現場にかり出されている。でもボクは健康管理が仕事だからやることがないのが現状だ」
「暇人と言うことですか?」
「言い方に悪意があるねぇ。でもまあ似たようなもんかな。レイシフトするためのコフィンに入れば、機械の方がバイタルチェックに適しているからボクの仕事はほぼ皆無だ。ん?はいもしもし。…わかりました今から向かいます」
どうやらそのレイシフトするために彼の力が必要になったみたいだ。携帯で呼び出されたらしいが、な何だか彼の様子がおかしい。全身が震えているのが眼に見える。
「…フォウ」
「ここからじゃ5分はかかるぞ絶望だ…。君はレフに会ったことがあるかい?」
「帽子を被った緑色の服を着た男性ですか?」
「そう、
「優秀な方なんですね」
「優秀っていう言葉で済まして良いのかわからないぐらいに凄い人だね。っと話してる暇はなかった。行かないと…」
ドクターが動こうとした瞬間、電気が消えて周囲が真っ暗になった。それと共にアナウンスと警報器が鳴り響く。どう考えても普通ではないことが起こっているのは確かだ。
『気をつけて下さいまし士道さん。これは訓練ではなく現実に起こった事件です』
狂三の口調が真剣味を帯びている。これほどにまで張り詰めた声音は、普段から優雅にしている彼女からは想像もできない。
「モニター、管制室を映してくれ!」
「これはっ!士道くんは今すぐ避難してくれ。ボクは管制室へ向かう。いいね!?」
返事を聞かずにドクターは部屋を出て行ってしまった。先程見えた映像には爆発によって散々な惨状になっている。何度も似たような光景を見たことがある。だがこれは周囲を壁に囲まれた場所で起こった爆発だ。衝撃波の逃げ場がない場所では、その威力は何倍にもなる。
「フォウ、管制室までの道を教えてくれないか?マシュを助けたいんだ」
「フォウ!」
『本気ですの?』
「冗談で俺がこんなこと言うと思ってるのか?」
少々怒りながら言い返すと、狂三が微かに笑ったような気がした。
『いえいえ、士道さんですから逃げずにむしろ助けに行くと思っていました。急いで下さいまし猶予はほとんどありません』
「ああ、もちろんわかってるよ!」
小さな脚をかなりの速度で動かしているフォウの後を追って走る。視線の先にはドクターの背中が見えたが、声をかける時間がもどかしい。何度階段を上って下って、右に曲がって左に曲がったのか。息を切らして移動していると、現場を目の当たりにして唇を噛みしめる。
「生存者がいない…か」
「ちょいと!?何で君がいるのさ!」
「マシュを助けるためです」
「…ボクは地下の発電所に行ってくる。電力が足りないみたいだこのままこの場を終わらせるわけにはいかない。君は今すぐここから離れて退避するんだ。いいね!」
地下へ続く階段を下りていくドクターを見送り、俺は警告を無視して捜索を続けることにした。何も知らずどうすればいいのかわからなかった俺を、対価を要求することなく親切に教えてくれた彼女を見殺しはできない。いや、したくない。たとえこれが俺の我が儘だったとしても貫き通すんだ。
瓦礫の間を這うように移動しながら周囲を徘徊する。予想以上に広い空間で大量の瓦礫の中を移動するのは、肉体的な疲労が多大だ。精神的疲労と言えば、見つかるのかどうかという心配が、時間が過ぎ去っていくことで増えていく。
探し始めてどれくらいだろうか。覚えのある髪色が一房瓦礫の隙間から見えた。
「っ!これじゃあ…。いや、諦めるな今すぐ助けるから!」
「…逃げて、…下さい。も…う、この、傷では…」
瓦礫から伸びる鉄筋がマシュの身体を貫いている。助け出したところで傷を塞ぐことはおろか、出血を止めることさえできないだろう。
「…球体が真っ赤?」
目の前に浮かぶ球体。おそらくはドクターが言っていた〈疑似天体 カルデアス〉なのか。それの色が燃えるように真っ赤な色を帯びている。普通ではないというのは初見の俺でも理解できた。今すぐ逃げるべきなのだろうか。いや、もう無理だ。隔壁が閉じてしまった今、この場から逃げ出すことはできない。
「あの、先輩…手を、握って、もらっても、いい…ですか?」
「いいよ、それぐらいしか俺にできることはないだろうから」
運良く瓦礫の下に埋もれることなく外に出ていた右手に自分の左手を伸ばす。普段なら俺は決してこのようなところで諦めず、自分にできることを探していただろう。
でも何故か今はそれをしようとは思えなかった。目の前に倒れる余命幾ばくもない少女の願いを叶えることを優先したいと思った。
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「キュウ、キュウ」
なんだろう聞き覚えのある声が聞こえる。
「フォウ?フー」
舐められている?
「フシャー、ドッフォウ!」
「あいたー!」
なんかしらんけど鼻に噛みつかれた。
「起きて下さい先輩!いえ、ここはこの場で相応しい呼称で呼びかけるべきですね。起きて下さい
『起きて下さいまし士道さん。でないと時間を吸い上げてしまいますわよ?』
起きないと死ぬ!?てか
「う…」
「目が覚めましたか?ご無事で何よりです」
「マシュ?何故?」
致命傷だったはずの彼女が怪我をしている様子もなく、平気で俺の顔を覗き込んでくる。怪我は大丈夫かと聞こうと思ったが、彼女の服装を見て聞く必要はなかった。記憶にある服とは違い、彼女の体型を見せつけられるような結構危険な服装になっているからだ。
「想定外のことが起こっていますが。まずは周囲を見ていただきたいのですが」
「うん?…うおっ!マジか!」
周囲を見れば異形な姿をした生物が牙をむいて睨んでいた。どうやら俺たちは攻撃対象として捕捉されてしまったようだ。だがこんな危険な修羅場は何度も経験している。こんなの微塵も恐れたりしない。
「マシュ行ける?」
「もちろんですそのために私はいます」
「事態は把握できていないけどやるぞマシュ!」
「はい、マスター指示を!」
てかそのマスターってのはなんやねんと思いながらマシュに指示を出した。
少々時間がかかったが周囲の敵を殲滅した後マシュに聞いてみた。
「強いんだね。あれだけの数を倒せるなんて」
「いえ、Aチームの中でも私は何もできない人間でした。今この戦場で戦えたのは先輩のおかげです!」
【ああ、やっと繋がった!ボクだロマンだよ。こちらはカルデア管制室、聞こえてるかい!?】
「「ドクター?!」」
突如輪郭のはっきりしない映像が空中に現れた。そこには地下の発電所に向かったはずのドクターが映っている。
【無事で何よりだ2人とも。それにしても士道くんがレイシフトに巻き込まれるなんてね。適性が高いってことなのかな?それよりマシュ!】
「はい!」
突然名前を呼ばれマシュが背筋を正している。盾を振り回していたときの様子とは真逆の状態に、笑いをこぼしそうになるのをなんとか堪える。
【なんだいその服装は!ハレンチすぎる!ボクはそんな子に育てた覚えはないぞ!?】
「…これは変身したのです。そうでもしなければ先輩を護れなかったので」
【変身って…んあ!?この身体状況は
「経緯は不明ですが
『人類史の中で名を馳せた偉人などが実体を以て現界した生物。と言えばご理解いただけますか?』
「ニュアンスだけでも理解しておくよ」
正直何が何だかわからないがマシュが生き残ったのならそれでいい。ドクターに話しかけようと思ったが通信が切れてしまった。どうやら爆発の事故で壊れてしまった機器とは別のもので通信していたようだ。緊急用に用意されているものならば、本来のものより性能が劣っていても可笑しくはない。
それに通信が途絶えたこともそれほど気にしていない。似たようなことは何度もあったし、何より今はマシュがいるから心配なことなど何一つ無かった。
「それでは先輩、いえマスター。霊脈を探しに移動しましょう」
「霊脈?」
「簡単に言うと、魔力が自然に集まる場所ですね。そこに行けば私以外の《英霊》を呼び出せるはずです」
ということで俺たちはその霊脈と呼ばれる場所目指して、火の海になっている街の中を歩き出した。
怪物と戦うだけで済むと思っていたが、現実はそこまで甘くないみたいだ。途中で何度か戦った怪物に追われている人間がいたので救い出すと、問題の所長だった。苦手意識を持っているのは俺だけかと思いきや、意外と彼女にもあるらしく俺から距離をとって睨んできていた。
怒り心頭な所長の長ったらしい説明を聞き終えて要約すると、2016年より先の未来が観測できなくなり、それ以前に原因があると疑われ2000年も遡って調べ上げたらしい。結果異常な場所として導き出されたのが、ここ《特異点F》と位置づけられた西暦2004年日本のとある地方都市 冬木市だったそうだ。
「…ここよ」
「何がですか?」
「れ・い・みゃ・く!いいからさっさと召喚してしまいなさい。いつまでもマシュ1人に戦闘を任せるわけには行かないでしょ」
口の悪い所長の言葉に従い指示された言葉を、霊脈と呼ばれる場所に立って復唱して唱える。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
マシュの盾(サーヴァントである彼女のものなので正確には宝具)を媒体にして《英霊》が現界する。風とは違う何かが空気を揺らし荒れ狂う。盾を中心にして竜巻が発生して顔を覆うように両手をかざす。マシュが所長を吹き飛ばされないように守っているのを背中に感じながら、顔を守る両手の隙間から視線を向けると竜巻の中に人影を見つけた。
竜巻が空気に溶けるように消えた後、そこにそれはいた。
「召喚に応じ参上しましたわ。クラスはアーチャー、貴方が私のマスターですの?」
赤と黒のドレスに顔の左半分を隠す長い黒髪。いつでも鮮明に思い出せるほどのインパクトがある人物がそこに立っていた。
「…え?」
「上手く顕現できたのね。どうやら貴方のマスター適正もあながち低いとは言えないか。ところでそこのサーヴァントさん、いつどこの時代の英雄なのか教えて貰えるわよね?」
「あらあら、せっかちさんですこと。それだとお相手はいつまで経っても現れませんわよ?」
「な、なんですってぇ!?」
狂三の悪い癖は英霊になっても抜けないらしい。いや、待てよ。英霊ってのは過去に生きた偉人なんだよな?だったらなんで死んでもいない狂三が英霊とやらになっているんだ?
『混乱されるのはわかりますが、その件は後ほどでもよろしいですか?士道さん』
『現界しても脳に語りかけることできるんだな』
『ええ、どうやら《精霊》だった頃の能力が〈固有スキル〉というものとして使用できるようです。しかしこれはあまり使いたくはないというのが正直なところですわ。魔力の消費が酷くて燃費が酷すぎますの』
うん、最後の愚痴は聞かなかったことにしておこうかな。
「ちょっと敵が来てるのにのんびりしないでもらえる?!」
よく見れば全方向から骸骨たちが接近してきていた。マシュはまだ肩で息をしている状況だし、今の所長は充てにならない。となれば頼む相手は1人だけ。
「狂…じゃない、アーチャー迎撃頼めるか?マシュは少し疲弊しているからあまり戦わせたくない」
「わかりましたわ。では参りましょう」
そう狂三が告げ手を天にかざすと、足下から黒いものが沸き上がり周囲に集まってきていた骸骨たちを覆い尽くす。その黒いものが狂三自身の影であることは間違いなかった。狂三の影に囚われた骸骨たちが音もなく崩れていき、土へと還っていく。
骸骨だったはずの土が吹き抜ける風に飛ばされ、周囲の炎に照らされた紅い雲に吸い込まれていった。あの骸骨は一体何だったのだろう。敵意しか感じなかったし、おおよそ人間らしさというものが何もない。人間の形をした骨ではあったけども唯それだけだ。
「不味いですわね。もっと澄んだ魔力を補充したいところなのですけど」
「アーチャーは魔力がないのか?」
所長の説明によれば、サーヴァントが現界するときに召還者から魔力の供給を得て実体化する。要するに、厳戒するための魔力と存在し続けるための魔力は別物だということだろう。
「常世に存在できるだけの魔力は、士…マスターから実体化するときに頂いていますので問題ありませんわ。強いて言えば、戦闘を行うだけの魔力が少しばかり心許ないということです」
「そ・れ・よ・り!貴女の〈真名〉を教えなさいよ」
「何故ですの?」
「当然でしょう!?〈真名〉を知ることができれば、残された記録から武器のことや得意なこともわかるもの。そうすれば戦闘方法に幅が広がってマシュの負担も軽減できるのよ」
〈真名〉というものは、此処に来るまでにある程度の説明を受けていた。文字通り召還したサーヴァントの真の名であり、知ることができれば所有している武器などの名前や特性までも知ることができるという。例えばアーサー王であれば、所有している武器が彼の有名な〈エクスカリバー〉だとわかる。
逆に言えば〈真名〉をさらすことは、自身の弱点をさらすと言うことにも繋がる。といっても狂三は偉人として名前を後世に残しているわけではないので、知られたとしても危惧するような危機に陥ることはないだろう。
「先程召還されたばかりなのに〈真名〉を聞くのは図々しいと思いませんこと?とはいうものの、〈アーチャー〉と称されるのは癪ですわね。では識別名として〈ナイトメア〉とお呼び下さいまし。〈真名〉を本当に知りたいならばここを生き抜いて下さい。…来ますわよ」
狂三の真剣味を帯びた声音に気を引き締めると、遠くの瓦礫の上を凄まじい速度で移動している何かが見えた。ものの数秒で俺たちの前に着地した何かを見て脚を退いてしまう。影のような何かを纏った(纏わされた)?何かが武器を構えて俺たちを見ている。
「マスター、貴方の名前を教えてくれませんこと?」
「士道、五河士道。それが俺の名前だ」
「きひひひひひひひ!士道さん暴れ回っていいんですの?」
「ああ、俺たちを守ってそして勝ってくれ」
俺の言葉に頷いて、いつもの妖艶な笑みではなく好意を抱いた相手に見せる笑みを浮かべて頷く。
「では私たちの
歩兵銃と短銃を両手に握りながら狂三は空を舞った。
英霊 時崎狂三
識別名 ナイトメア
クラス アーチャー
絆Lv.10/10
※これは士道の世界での狂三の好感度が高い影響によるもの
クラススキル
1.需要供給A
〈通常〉 契約を交わしたものであれば、言葉を発さずとも脳内で会話をすることが可能
〈戦闘〉 マスターから魔力を強制的に吸い上げ自身の攻撃力を増大させる
2.?
3.?
保有スキル
1.時喰みの城EX Lv.1
〈通常〉周囲に影を伸ばし、触れたものから魔力を吸い上げ自身の魔力に置き換える
〈戦闘〉相手のスキルターンを1ターン減少させ、自身のNPを増やしHPを回復させる
2.?
3.?
宝具 ?
マスター 五河士道
魔術礼装 来禅高校の制服
スキル1 イフリートの加護 Lv.1/10
味方全体の状態異常を解除しHPを回復させる
スキル2 ?
スキル3?