遊戯王 スプレッド・ストーリーズ 作:柏田 雪貴
本編での登場はいつになることやら。
紅蓮とのデュエルのあった日の放課後、柊太は一人歩いていた。彼の家とは真逆の方向に歩みを進め、とある病院の前に到着する。
受付を済ませ、二階の奥にある病室へ向かい、扉を開ける。
「・・・・・・来たよ」
彼は柔らかな目でカーテンに閉ざされたベッドを見つめ、その横にある椅子に座る。
「今日、ある生徒とデュエルして来たんだ。ほら、前にも話したよね? 灰村紅蓮。エクストラデッキにシンクロモンスターしか入れていない、頭おかしい奴でさ」
彼はそのベッドに向かって話し始める。返答など、初めから求めていない。部屋にある音は彼の話し声と無機質な機械音、それと僅かな呼吸音だけだ。
「結局、勝負は付かなかったんだけど、多分、僕は負けてた。やっぱり、まだ使いこなせてないみたいだ。このカード達」
そう言って、彼はデュエルディスクのエクストラデッキから【スターダスト】達を取り出す。柊太はそのカード達を一瞥すると、折れない程度に強く握った。
「どうすればいいのかな。どうすれば、君みたいに上手くこのカード達を使えるのかな」
泣きそうな目で、彼はカーテン越しにベッドを見る。しかし、返事は返ってこない。
わかっていたことだ。それでも、少しの期待を抱いてしまった。
「・・・・・・そうだよね。うん、自分でなんとかするよ。今までもそうして来たんだし」
数秒経ってから、彼は無理矢理納得したように笑顔を作った。そして、「また来るよ」とだけ言って席を立つ。
デュエルディスクの時計機能で確認すると、一時間ほど話していたらしい。早く帰らなければ、と柊太は急いで部屋の扉を開け、病院を後にした。
ーーーーーーーーーー
柊太が自宅までたどり着くと、一人の男がカードの束をいじりながら家の門に寄りかかっている。
浅黒い肌は筋肉が付いており、着ている制服はかなりピチピチだ。髪は逆立っており、眉の太い強面がよく見える。
「お待たせ。待った?」
まるで待ち合わせした男女の挨拶。男はそのセリフに顔を上げると、怪訝そうにその太い眉を寄せた。
「大して待ってねえがよ・・・・・・そのセリフはどうなんだ?」
彼は
「セリフなんてどうでもいいよ。さ、入って入って」
柊太は自身のデュエルディスクを門の右端にあるインターホンのセキュリティシステムにかざし開門すると海斗を促しながら自身の家へと歩き始める。海斗は ヤレヤレと一つため息をついてから、それに続いた。
彼らは屋敷の様に大きな家の玄関を通り過ぎ、奥にあるデュエル場へと進む。柊太が少し苦労しながら重い扉を開け、中に入る。
「お前、筋肉落ちたか?」
「ッ、そう、かな?」
少し荒くなった息を膝に手を当てて整えながら柊太は恍ける。二週間ほど前―――デュエルスクールに編入するまで、かなり食事していた量が少なかったのだから、筋肉もそれ相応の落ちているのだろう。
「ったく、無理すんなよ? 扉くらい、俺でも開けられるしよ」
海斗は柊太が落ち着く間に軽くたしなめると、そのまま歩いて十メートルほど距離を取る。
「・・・・・・うし、やるか!」
「うん、よろしく」
海斗は腰の複数あるデッキケースの一つを開け、デッキをディスクのセット。柊太はただ構える。
「「デュエルッ!」」
宮津柊太
LP8000
武田海斗
LP8000
柊太の先攻となり、手札を見て数瞬考え、一枚のカードを手に動き出す。
「僕のターン、【ジャンク・コンバーター】の効果発動。手札の【ジェット・シンクロン】と共に捨てて、デッキから【ジャンク・シンクロン】を手札に加える。そのまま通常召喚、効果で【ジャンク・コンバーター】を特殊召喚、更に手札一枚をコストに墓地の【ジェット・シンクロン】を特殊召喚」
流れるように特殊召喚されていくモンスター達。ただ彼の脳内にあるのは、どんな展開をするか、どのような盤面にするか、それのみ。まだ少し自己中心的だ。そのことに気付かず、彼は続ける。
「【ジェット・シンクロン】と【ジャンク・シンクロン】をリンクマーカーにセット、リンク召喚! 【
【
「ハリファイバーの効果でデッキから二体目の【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚。【ジャンク・シンクロン】で【ジャンク・コンバーター】をチューニング!」
集いし星が、鋼に打ち勝つ戦士となる!
「シンクロ召喚、【星杯の神子イヴ】」
星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100
詠唱を全く無視して現れる【星遺物】における悲劇のヒロイン。*1
「イヴの効果でデッキから【星遺物を継ぐもの】を手札に加えて、コンバーターの効果で墓地から【ジャンク・シンクロン】を特殊召喚。【星遺物を継ぐもの】を使ってコンバーターも蘇生するよ」
過労死する勢いで光の輪になったり復活したりする【ジャンク】の二体。これぞ正にジャンク品扱いと思ったが【スクラップ】には負けるのでまだまだ未熟だった。
「おーおー、よく動くなぁ」
関心したように漏らした海斗の言葉には答えず、柊太はただディスクに並んだカードを見ているだけだ。
「【ジャンク】二体で更にシンクロ召喚、【TGハイパー・ライブラリアン】」
TGハイパー・ライブラリアン ☆5 シンクロ 攻撃力2400
キラリと眼鏡を輝かせ、本を片手にポーズを決めるライブラリアン。時間が止まったりすることはない。
「これくらいが精々かな。ターンエンド」
宮津柊太
LP8000 手札2
□□□□□
T□星□□
水 □
□□□□□
□□□□□
武田海斗
LP8000 手札5
T:TGハイパー・ライブラリアン
星:星杯の神子イヴ
水:
回した割にはどこか中途半端な盤面の柊太。【TGハイパー・ライブラリアン】ではなく【転生竜サンサーラ】だったならば【琰魔竜王レッド・デーモン・カラミティ】を警戒したが、そんなことはなさそうだ。
(・・・・・・拍子抜けだな。デュエルの相手をしてくれと言うから来てみれば)
海斗が柊太の家に来た理由は、それだった。塞ぎ込んでいた友人が復活したと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
失望をその瞳に浮かべて彼を見てみれば、こちらではなくディスクにのみ目を向ける柊太の姿があった。
「俺のターンだ」
少々荒々しくカードを引き、彼は自身の衝動のままディスクに叩きつけた。
「【
【アンティーク・ギア】における最強の初手によって効果音と共に人間サイズから大きくなった巨人*2とガシャガシャと金属音を鳴らし飛び足掻く飛竜。特防ががくっと下がることはないが、代わりにサーチ効果がある。
「ワイバーンの効果でデッキから【
ディスクによってデッキから飛び出したカードを人差し指と中指で挟み手札へと加えてから、海斗は柊太へと視線を戻す。彼は突然見られて首を傾げるだけだった。
(普通、ここで察するんだがな・・・・・・)
片手で額を押さえ、皺の寄った眉間を広げる。恐らく柊太は【サテライト・ウォリアー】をシンクロ召喚するつもりなのだろうが、それならばこのタイミングが最適である。そうしないのは、知識の問題もあるが、彼の内面もあるのだろう。
「【
「ッ、デッキ融合!?」
驚く柊太だが、もう遅い。遊戯王に巻き戻しはあっても戻るステップ*3はないので止めることはできない。手札誘発幼女さん*4こちらです。
「場の【
【
「【
巨大な兵器の塊が人の形をしたもの。
「バトルだ!」
「メインフェイズ終了時、ハリファイバーの効果発動。自身を除外して、【シューティング・ライザー・ドラゴン】を特殊召喚! 効果でデッキから【レフティ・ドライバー】を墓地に送って、レベルを二つ下げる!」
シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7→5 シンクロ チューナー 守備力1700
光の柱から現れた光の竜は、すぐさま光の輪へと自身の姿を変える。忙しいな。
「ライザーの効果でシンクロ召喚を行うよ! アクセルシンクロ、【サテライト・ウォリアー】」
サテライト・ウォリアー ☆10 シンクロ 攻撃力2500
混沌の巨人に対抗するべく衛生ゼアの作り出した新たなる兵器(という設定があったら格好いいな)。お互いレベル10とエクシーズできるほど仲良しである。敵キャラ設定はどこに行ったのか。
「【サテライト・ウォリアー】の効果発動。シンクロ召喚成功時、墓地のシンクロモンスターの数だけ相手のカードを破壊し、破壊した数だけ攻撃力が上がる。対象はカオス・ジャイアントとワイバーンだ」
月から一筋の光を受け、どこからか持ってきた主砲を構えてツインサテライトキャノン。一気に宇宙世紀な絵面になった。
サテライト・ウォリアー 攻撃力2500→4500
「その程度かよ・・・・・・【ブンボーグ003】を召喚ッ、効果でデッキから【ブンボーグ001】を特殊召喚ッ!」
ブンボーグ003 レベル3 攻撃力300
ブンボーグ001 レベル1 チューナー 攻撃力100
現れたのは先ほどまでとは全く毛色の異なるファンシーなモンスター達。ワンキル火力を備えつつ【幻獣機アウローラドン】の登場によりソリティアパワーも上がっている機械戦士【ブンボーグ】である。
「開け、ロマン溢れるサーキット!」
口上と共に現れるのは八つのマーカーの付いた回路。ロマン、というのは彼が
「召喚条件は地属性・機械族モンスター二体! 【ブンボーグ】二体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!」
二体の筆箱戦士が竜巻となってマーカーを色づける。場所は右、左下。
「リンク召喚、【
現れたのは弩級の弓を左手に宿した新たな【アンティーク・ギア】。古代なのか新しいのかよくわからないが、きっと遺跡から新たに発見されたとかそんなところだろう。
強敵を倒したと思ったら新型が出てくるというありがちな展開をやってのける海斗。やはりこのロマン男をわかっている。
「効果でデッキから【
弩弓兵がボウガンで衛
「更に、破壊された【
鎧を付けていない、細身の機械兵器が駆動する。ちなみにこのモンスターの
「もう一度開け、ロマン溢れるサーキット! 【
弩弓兵と細身が竜巻となって再び回路を彩る。場所は右下と左下。この時点で嫌な予感しかしない。
「リンク召喚、【
大地を割って現れたのは、長い胴を持つアナコンダのモンスター。機械族デッキに何故、という疑問に無理矢理理由を作るならば、『管理しようとして暴走した生物兵器』といったところだろうか。苦しいか。
「【
アナコンダが到底植物族とは思えない咆哮をあげ、影の薄くなっていた【星杯の神子イヴ】がビクつく。眼福である。
「墓地へ送るのは【オーバーロード・フュージョン】。その効果により、墓地の【アンティーク・ギア】四体で融合する!」
武田海斗
LP8000→6000
アナコンダが海斗に噛み付き、その
「融合召喚、【
二体目。エクシーズ次元ではこの絶望が何度もあったというのだから恐ろしい。
しかし柊太は恐れることなく普段通りである。それは勇気故か、はたまた無知故か。
「・・・・・・はあ、【
混沌の兵器が駆動し、右腕の砲塔を二体のモンスターへ向ける。
「だけど、それだけじゃ僕のライフは削りきれない」
「そうだな」
笑みすら浮かべる柊太だが、海斗は残った手札二枚の片方をディスクにセットする。
「俺がコレを、握ってない訳ないだろ? 【リミッター解除】!」
バキン、と音を立てて【
「ッ、そっか、そうだった・・・・・・」
機械族大好きなこの男は、初手に9割の確立で【リミッター解除】を引き込むのだ。それで【リミッター解除】を三枚引いて動けなくて、『彼女』と笑ったこともあったなと柊太は思い出した。
「やっと、こっち向いたか・・・・・・」
いつまでも手元を見ていた柊太だったが、ようやくこちらを見た。懐かしむように、思い出に浸るように。
だがそれは、巨人の放った砲撃によって一瞬で見えなくなった。空気の読めない機械だ。
宮津柊太
LP8000→0
全体攻撃も、守備貫通も関係なく、ただパワーによって吹き飛ぶ柊太のライフ。ただのソリッドにジョンでよかったとつくづく思う。こんなの受ければ、一瞬で消し炭だ。
「・・・・・・んで、少しは調子を取り戻したか? あんなデュエル、前のお前はしてなかっただろ」
その太い腕を組み、こちらを気遣う海斗に、柊太は力なく笑った。そして「どうだろうね」と誤魔化すように言って、肩を竦める。
「やっぱり、僕弱くなってる?」
デュエル場を出、屋敷へと向かいながら、改めて柊太は海斗へと問う。
「ああ。相手全然見ていない感じで、『アイツ』と出会う前のお前みたいだったな」
うーん、と柊太は唸る。自覚してはいるのだが、直せない。いや、昼間に自覚
「何て言うか、デュエルしていると、どうしても意識しちゃうんだ」
何を、と海斗が問う前に柊太は玄関の鍵を開けながら言う。
「『彼女』だったらどうするか、とか。どんな表情でいるのか、とか」
「・・・・・・・・・・・・」
それを聞いて、海斗は言葉に詰まった。
『彼女』は、海斗にとって友人であり、柊太にとっては両親以上に大切な存在だった。もしかしたら、海斗よりも。
そんな彼女が事故に合ったのが、三月の始め。三人でデュエルスクールの合格発表を見た、帰りだった。
全員合格して、同じクラスだといいねって笑い合って、そして
「・・・・・・悪い」
罪悪感から出た言の葉は、柊太にまでは届かなかったらしい。こちらを振り返る彼に何でもない、と返して、海斗は家へ入る。
「それじゃ、お茶でも出すよ。海斗は座ってて」
「ああ。そうさせてもらう」
そんなに時間は経っていないはずだが、もう何年も来ていなかったような懐かしさに、海斗は軽く息をつく。
『彼女』が入院して、お互いに変わった。柊太は塞ぎ込んで家から出なくなり、海斗はアカデミアの二次募集へ合格した。柊太は足を止めて、海斗は駆け足になった。そんな違いが、互いの中にある。
「それじゃ、少しゆっくりしようか。そしたら、僕のデッキを見て欲しいんだ」
柊太が入れた紅茶は『ブレン
それからしばらくして。
「デッキに機械族足りないだろ! 後エクストラも【スターダスト】と【ウォリアー】ばっかじゃなくて機械族をだなぁ!」
「そんなに枠ないよ! これでも結構ギリギリだっていうのに、あっ【リミッター解除】入れるな、誰に使うんだッ」
「わ、忘れてた・・・・・・海斗はこういう奴だった・・・・・・」
少し散らかった部屋で呼吸を整える柊太。海斗は帰
デュエル以上に体力を消耗した彼は、風呂にも入らず制服のままベッドへ沈んだ。
簡単なキャラクター紹介⑨
武田海斗
デュエルアカデミア南支部 オベリスクブルー一年
柊太の幼馴染みで、デュエルアカデミアに通う。アカデミア入学以前は【機械族】を使ったデッキを複数使っていたが、最近は【アンティーク・ギア】に絞っているらしい。
柊太のことを気にしてはいたが、立ち止まっても『彼女』は喜ばないだろう、という思いからデュエルアカデミアへの入学を決意した。
筋肉隆々で太い眉に逆立った黒髪、強面とカタギに見えない外見をしているが、ただの一般人である。と、紹介しなければ命を狙われるくらい怖い両親を持つ。
【
最近文字数が少なくなってきたので、もっと精進します。