遊戯王 スプレッド・ストーリーズ 作:柏田 雪貴
あ、「遊戯王デュエリスト・ストーリーズ」をエタるつもりはありませんのでご安心を。
休日。紅蓮は
新ルールによって燻った心をどうにかするべく花蓮とデュエルしたのだが、並んだ【レッド・デーモン】達のビートダウンで蹂躙してしまった。涙目で「ぐぬぬ・・・・・・」と睨んできたのでお詫びにカードを買ってやると言って、今に至る。
「走れソリよ〜♪ 風のように〜♪ 月海原を〜♪ パドるパドる〜♪」
デュエルで負けたことはともかく、カードを買ってもらえることが嬉しいのか歌いながらスキップで進む花蓮。何故クリスマスソングなのかとか「パドる」とはなんとぞやと色々疑問が湧いたがそれらを飲み込み、代わりの言葉を口にした。
「あんまりハシャいでると怪我するぞ。あと歌うな」
中学生にもなって、と付け加える。リズムこそ合っているが、音程も歌詞も間違っている。替え歌なのだろうが、それを差し引いても花蓮は音痴であった。
「む、話しかけるな兄よ。服のセンスのない男と兄妹だとは思われたくない」
「ンだとコラ。お前のがセンスないだろ」
紅蓮はジーパンと背に『泰山鳴動』の文字と和風にリデザインされた【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】が描かれた赤のスカジャン。花蓮は赤地に茨のように金の刺繍が施され、黒い薔薇がいたる所に散りばめられたドレス。前者はまんまヤンキー、後者はまるで舞踏会にでも行く貴族のようだ。お互いそれを認識していないのだから救えない。周囲の目が集まるのも不良ような見てくれと自分が美少女だから、と服は関係ないと思っているのだ。
「全く、兄のソレはまるで不良ではないか」
「それは偏見だぜマイシスター。それよりそのドレスはゼッタイにない」
「何だと!? 兄はこの服の良さがわからぬと言うのか!?」
やいのやいのと言い争いながら進み、目的地へとたどり着く。カードショップ『Rabbit』だ。
自動ドアに入ってまず目に映るのは並んだいくつものショーケース。店に足を踏み入れればケースの右には本棚が、左にはパックやバラ売りのカードストレージがあった。
「おお・・・・・・素晴らしい店ではないか! 我が家の近くの店とは比べ物にならない」
「いいからさっさと入れ」
目を輝かせて感動する妹の後頭部を小突き、紅蓮も店内へ。確かに灰村家近くの店は中古本屋と一緒になっているためかカードの扱いが雑で、キチンと整理されていなかった。
しかしここは弾ごとに分けられたストレージ、汎用カードを纏めた棚やラインナップを記したバインダーなど、流石はカード専門店と言ったところだ。その分少し高いのだが。
「いらっしゃい、灰村少年。そちらは彼女さんかな?」
さてどこから見ようかと通行の邪魔にならない位置で考えていた紅蓮に、店員の一人が話しかける。
「誰が彼女か、誰が!」
「倫子か。暫く振りだな」
ショーケースに向かっていた花蓮が激昂しながら戻って来たのを右手で押さえながら、軽く左手を上げる。
「コイツは妹だ。今日はかくかくしかじかまるまるうまうまってところだ」
「なるほどなるほど、話すつもりがないってことはわかったよ!」
担任だったら通じるんだけどな、と口の中で呟いてから倫子を見る。
伸び過ぎな黒髪に眼鏡、肉付きのいい身体。それを見ての紅蓮抱いた感想は。
「太ったか?」
「女のコになんてことを!?」
女のコーなんて歳じゃないだろ、と紅蓮が言うと、倫子はショックを受けたようで顔を手で覆ってうずくまった。
「兄よ、なんだこの女は」
「コイツは
紅蓮が軽く紹介すると、復活した倫子がバンッと胸を張って名乗った。
「初めまして灰村少年の妹さん。きっとお家で話を聞いたりしているであろう、私が倫子デス!」
「いや、全く。話題に挙がったこともない」
「ガーン!?」
花蓮が切り捨てれば、またショックを受ける倫子。面倒である。
およよと嘘泣きする彼女にどうしたものかと紅蓮が逃避するように店内へ目を向けると、レジカウンターからこちらを見つめる小柄な女性と目が合った。
彼女は紅蓮を見て何か考え込み、ポンと手を打って、それから花蓮を見て手元にあったカードを一枚手にとってカウンターを出る。
「ちょっと、いい?」
「ふぁっ、せせせ先輩!? ど、どーぞどーぞ」
仕事を半ばサボっているような状態だったためか動揺しながらも倫子が退くと、その女性は花蓮に一枚のカードを差し出す。
「む?」
「ラッキーカード。貴方の元へ行きたがってる」
訝しみながらも花蓮がそれを受け取ると、じゃ、と一言言ってカウンターへ戻ってしまった。
「? 兄よ、これは貰ってしまっていいのか・・・・・・?」
「いいんと思うよ? ほら、灰村少年も前に貰ってたでしょ?」
紅蓮ではなく倫子が答えたので軽く睨む花蓮。紅蓮はそうだったな、と腰のデッキケースに触れる。
彼が二枚所持している【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の内、片方は先程の女性に渡されたものだ。見れば、カウンターの中で白髪の青年と話している。なにやら男性の方が動揺しているが、傍目に見ても仲がいい。
「ふむ・・・・・・しかし、いいカードだ。気に入った。店員よ、このカードに関連しかカードを調べてくれ」
「はーい。ちょっとお待ちを、っと」
彼女は腰のエプロンからタブレット(デュエルディスクにはならないタイプの普通のもの)を取り出し、何度かタップスワイプして画面をこちらへ見せる。
「関連カードとしてはこんな感じかな? 結構テーマデッキだから、他のデッキに出張とかは難しいと思うけど」
「・・・・・・いや、そうでもなさそうだ」
彼女はそう言って、バラ売りのカードの場所へ向かった。疑問符を浮かべる倫子を余所に、紅蓮は最新弾のカードバインダーを開く。
(【クリムゾン・リゾネーター】に【スカーレッド・ファミリア】、【バーニング・ソウル】・・・・・・どれもいいカードだな)
そして最新弾は1ボックスごとに20thシークレットレアが付属するということで、飛ぶように売れている。その分、中古カードも安かった。
「倫子、この辺のカードってどこにある?」
「バラ売りの所の最新弾のストレージだよー」
サンキューな、とATM風に返して、紅蓮はストレージへ向かった。
ーーーーーーーーーー
家に着くなり上機嫌な花蓮は自身の部屋へ閉じこもった。デッキを新しく買ったカードに合うよう調整するためだ。彼女とは対照的にやつれた顔紅蓮は軽くなった財布と共にソファに沈んだ。
(クソ、妹め・・・・・・あんな高いカード買いやがって・・・・・・)
花蓮が紅蓮に買わせたのは、【ブラックローズ・ドラゴン】の20thシークレット。お値段は一万を超えたとだけ言っておこう。
「せめて予算五千円とか言っておくべきだった・・・・・・」
ぐでんと脱力し、紅蓮は買ったカードが折れないよう気を付けながらソファからカーペットに転がる。器用なものだ。
そしてすっくと起き上がり、キッチンへ行って飲み物(無論ブルーアイズマウンテン)を飲んでからデッキをいじる。新しいカードを入れるためだ。
10分ほどそうしていると、ドタドタと足音をたてながら花蓮が飛び込んできた。
「兄、兄よ、今すぐデュエルだ! 拒否は認めん!」
「いいぜ、こっちも丁度出来上がったところだ」
好戦的な笑みを浮かべる紅蓮は、以前と同じようにデュエル場へ向かう。
お互い新しくなったデッキをディスクにセットし、相対した。
「「デュエルッ!」」
灰村花蓮
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
花蓮は先攻であることに満足気に笑みを浮かべ、動き出す。
「【召喚僧サモン・プリースト】を召喚、効果で守備表示となる」
召喚僧サモン・プリースト ☆4 攻撃力800→守備力1600
紅蓮の頭をよぎったのは伝説の詠唱サモサモキャットベルンベルン。しかし花蓮のデッキは【ローズ・ドラゴン】軸のはず、そんな物騒なデッキではないはずだ。そもそも【ダーク・ダイブ・ボンバー】はエラッタされている。
「サモン・プリーストの効果だ。【ブラック・ガーデン】をコストに―――」
「悪いな、【灰流うらら】だ」
今の紅蓮のデッキは【サイキック・リフレクター】や【緊急テレポート】が抜けたことで【幽鬼うさぎ】の枠を【灰流うらら】に変えている。花蓮のデッキはファンデッキ寄りなため、これを受ければ痛手だ。
「甘いぞ兄、【墓穴の使命者】だ」
サモン・プリーストの詠唱を止めようとした
「サモン・プリーストの効果により、デッキから【バランサーロード】を特殊召喚。効果で1000ライフ支払い、サイバースの召喚権が増える。通常召喚、【斬機マルチプライヤー】」
灰村花蓮
LP8000→7000
連続して並ぶモンスター。紅蓮はもう妨害札がないのてただ待つのみだ。
「サモン・プリースト、バランサーロードでオーバーレイ! エクシーズ召喚、いでよ【塊斬機ダランベルシアン】!」
塊斬機ダランベルシアン ★4 攻撃力2000
金と黒という少年心を擽る色のロボットに紅蓮がおぉと興奮しておると、そのオーバーレイユニットが2つとも使われる。
「ダランベルシアンの効果。エクシーズ召喚時、素材を任意の数取り除いて発動する。2つの場合はデッキから【斬機】魔法・罠、【斬機方程式】を手札に加える。そしてダランベルシアンとマルチプライヤー二体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。いでよ【サイバース・ウィキッド】!」
サイバース・ウィキッド link2 リンク 攻撃力1600
現れる電脳ショタ。ショタコンとは正太郎コンプレックスの略だとどこかで聞いたが今はどうでもいい。
地味に黒庭ライン*1のモンスター。
「【斬機方程式】を発動し、マルチプライヤーを再び特殊召喚、そしてリンクマーカーにセット、いでよ【リンク・ディヴォーティー】!」
リンク・ディヴォーティー link1 リンク 攻撃力500
ウィキッドの真後ろに現れるディヴォーティー。前回は【バランサーロード】と【ファイアウォール・ガーディアン】を初動に動いていたが、るーはそれだけではなかったらしい。それでも【塊斬機ダランベルシアン】を使ったのて、後々キツくなる可能性もあるが。
「【サイバース・ウィキッド】の効果、リンク先にモンスターが特殊召喚されたことで、墓地の【バランサーロード】を除外して【斬機ナブラ】を手札に加える。そして除外された【バランサーロード】の効果で特殊召喚!
【斬機ナブラ】の効果発動、ディヴォーティーをリリースすることで、デッキから【斬機シグマ】を特殊召喚! リリースされたディヴォーティーの効果で、トークンを二体特殊召喚!」
「なるほど、いつもの流れか」
「SOUDA☆ トークン二体にナブラ、シグマをそれぞれチューニング、シンクロ召喚、【TGハイパー・ライブラリアン】&【星杯の神子イヴ】!」
光の輪と点がそれぞれ二つの柱となり、メガネのお兄さんと美しいお姉さんへと姿を変える。幼児向け番組か。
「イヴの効果で【星遺物を継ぐもの】を手札に加え、ライブラリアンの効果で一枚ドロー。
イヴとウィキッドでリンク召喚! 【
レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800
星杯を戴く巫女 ☆2 守備力2100
リンク素材となったイヴがキャストオフし赤薔薇の竜と並ぶ。一瞬【星杯の神子イヴ】が力を吸われて【星杯を戴く巫女】に戻り陵辱される薄いブックスが脳裏をよぎったが自重した。
「レッドローズで巫女をチューニング、シンクロ召喚。いでよ【ガーデン・ローズ・メイデン】。効果で【ブラック・ガーデン】を手札に加え、レッドローズの効果でホワイトローズを特殊召喚。更に【
花蓮の手札はドローとサーチで現在6枚。アドバンテージの稼ぎ方が半端じゃない。
「やれる所までやってしまうか、「星遺物を継ぐもの】を発動、レッドローズを特殊召喚! レッドローズでホワイトローズをチューニング、シンクロ召喚。咲き誇るは若き月。いでよ【月華竜ブラック・ローズ】!」
月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400
更にドロー。かなりやりたい放題である。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
灰村花蓮
LP7000 手札5
□□□■□
ガ□月□T
水 □
□□□□□
□□□□□
水:
T:TGハイパー・ライブラリアン
月:月華竜ブラック・ローズ
ガ:ガーデン・ローズ・メイデン
■:伏せカード
「・・・・・・長かった」
「そうか?」
「長いだろ」
デュエルスクールにある部活、ワンキル・ソリティア研究会の連中と比べれば短いのだろうが、それでも十分長い。紅蓮は1ターンが短い部類に入るので、少々退屈だった。
「オレのフィールドにモンスターがいないことで、【クリムゾン・リゾネーター】を特殊召喚。更に、攻撃力1500以下の悪魔族チューナーがいることで【風来王ワイルド・ワインド】を特殊召喚」
クリムゾン・リゾネーター ☆2 チューナー 守備力300
風来王ワイルド・ワインド ☆4 守備力1300
召喚権を使わずに展開されるモンスター達。こちらは単純に手数が増えた。
「ならばそのタイミングでハリファイバーの効果発動だ。除外し、エクストラデッキからシンクロチューナー【シューティングライザー・ドラゴン】を特殊召喚。1枚ドローし、効果でデッキから【星遺物-『星杯』】を墓地へ送り、レベルを5つ下げる」
シューティングライザー・ドラゴン ☆7→2 シンクロ チューナー 守備力1700
「構わねぇ、クリムゾン・リゾネーターでワイルド・ワインドをチューニング、来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】」
ライジングがチェーン1、ブラック・ローズがチェーン2、ライブラリアンがチェーン3で効果を発動する。
「ブラック・ローズの効果で、エクストラデッキに帰ってもらうぞ」
「問題ねぇぜ、来い【クリムゾン・リゾネーター】。通常召喚、【マグナヴァレット・ドラゴン】。マグナヴァレットにクリムゾン・リゾネーターをチューニング、再び来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
意外に知られていないが、ライジングの①の効果は1ターンに一度の縛りがない。
再びドローする花蓮の手札を気にしないようにして、紅蓮は動き続ける。
「よって墓地から【クリムゾン・リゾネーター】を再び特殊召喚だ」
「ならばシューティングライザーの効果発動! 相手ターンにシンクロ召喚を行う! 私はレベル2となった【シューティングライザー・ドラゴン】で【TGハイパー・ライブラリアン】と【ガーデン・ローズ・メイデン】をチューニング! デルタアクセルシンクロ! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】!」
ライザーが光輪に、二体のモンスターが光点となって交差し、白銀の竜となって舞い降りる。
コズミック・ブレイザー・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力4000
「ふつくしい・・・・・・兄よ、このモンスターを超えられるか?」
「なら【壊獣】で」
「それはやめろ!」
冗談だぜ、と口元を歪める紅蓮。折角出したモンスターが【壊獣】や【溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム】や【ラーの翼神竜-
「まあ無理やり押し通るしかないな。【クリムゾン・リゾネーター】の効果発動だッ! 自分フィールドの他のモンスターが闇ドラゴンシンクロ一体のみなら、デッキから【リゾネーター】二体を特殊召喚できるぜ」
「・・・・・・いいだろう」
シンクロ召喚したモンスターに【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】を使えばいいと判断し、通す。
「【レッド・リゾネーター】【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚だ。【レッド・リゾネーター】の効果、対象はコズミックだ」
「チッ、いいだろう」
灰村紅蓮
LP8000→12000
コズミックの攻撃力分回復したライフ。差は5000と大きい。
「ライジングにレッド・リゾネーターをチューニング、シンクロ召喚! 爆ぜろオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン】!」
「くっ―――」
【琰魔竜レッド・デーモン】は自分以外の攻撃表示モンスター全てを破壊するカード。蘇生制限を満たすのも危ないので、動くならばここしかない。
「やるしかないな! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果発動! 自身を除外し、その召喚を無効にする!」
炎と共に現れた閻魔の竜を、白銀の竜が閃光となって貫き撃破する。
「上等、【エンシェント・リーフ】発動ッ! ライフなんざくれてやるから手札よこしやがれッ!」
灰村紅蓮
LP12000→10000
ライフを代償にカードを二枚ドローする紅蓮。【クリムゾン・リゾネーター】によって【レッド・リゾネーター】にアクセスしやすくなり、【エンシェント・リーフ】が腐りにくくなった。
「よっしゃ引いたぜ【クイック・リボルブ】! 【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚だ!」
「むぅ・・・・・・妨害2つでもここまで動くか」
デッキより飛来した弾丸竜。即座にそのエフェクトを発動する。何故英語なのかと言えばアドレナリンで紅蓮の脳がエド・フェニックス(動詞)しているからだ。
「【クリムゾン・リゾネーター】を破壊しデッキから【メタルヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚! トレーサーでメタルをチューニング、シンクロ召喚! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
妨害2つを乗り越え、3度目の正直でもってようやく現れる紅蓮の竜。ことわざの使い方を間違えているが気にしない。
「スカーライトの効果発動だ、自身以下の攻撃力の特殊召喚されたモンスター全てを破壊し、その数だけダメージを与える!」
スカーライトがその傷付いた右腕で【シンクローン・リゾネーター】を掴み、【月華竜ブラック・ローズ】へ投げつけ相殺。巻き散った火の粉が花蓮にダメージを与える。
灰村花蓮
LP7000→6000
「シンクローンの効果で【クリムゾン・リゾネーター】を回収。バトルだ! スカーライトでダイレクトアタック!」
「ええい、これ以上受けられるか! 【
ローズ・トークン ☆2 守備力800
トークンが盾となりスカーライトの攻撃を受ける。
「なるほどな。カードを一枚伏せる、これでターンエンドだ」
「エンドフェイズ、コズミック・ブレイザーが帰還する」
灰村花蓮
LP6000 手札8
□□□□□
□□コ□□
□ □
□□ス□□
□■□□□
灰村紅蓮
LP10000 手札2
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
ス:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
■:伏せカード
フィールドは更地、しかし手札は多い。花蓮には、この盤面を返すだけの余裕がある。
「まずは【ブラック・ガーデン】を発動。そして【フォーマッド・スキッパー】を召喚」
フォーマッド・スキッパー ☆1 攻撃力0
現れたのは、トビハゼっぽい電子生物。【リンクリボー】などのエサだろうか。実際リンク素材になるので当たっているかもしれない。
「ッ、そのカードは・・・・・・」
「ふふ、そう焦るな兄よ。【ブラック・ガーデン】の効果でそちらのフィールドにトークンを特殊召喚。第二効果発動だ。自身とトークンを破壊し、【召喚僧サモン・プリースト】を特殊召喚」
召喚僧サモン・プリースト ☆4 守備力1600
特殊召喚故にぎっくり腰にならずに済むおじいちゃん。違う、最初からなっていた。
「チェーンして【地獄の暴走召喚】を発動! 兄よ、好きなだけ特殊召喚するといい!」
「クソッ、【レッド・デーモンズ・ドラゴン】が6体並ぶ光景が見られたかもしれないのに!」
三体に【増殖】するジジイと床を叩いて悔しがる紅蓮、高笑いする花蓮。なんというか、カオスである。
「では【フォーマッド・スキッパー】の効果発動。エクストラデッキの【オルフェゴール・オーケストリオン】を見せることで、その名前を得る!」
【オルフェゴール・オーケストリオン】。それこそが、彼女が手に入れた新しいカードだ。
「私は【
劇場は、海やり来たる。豪奢、荘厳、しかして優麗! 即ち、我が黄金劇場である! 【オルフェゴール・オーケストリオン】!」
オルフェゴール・オーケストリオン link4 リンク 攻撃力3000
尊大な口上と共に現れたのは金色に輝くデカブツ。登場時効果は使えないので、本当に出ただけである。
「おい、効果はどうした」
「そこはまだ調整中だ・・・・・・墓地の【ガーデン・ローズ・メイデン】の効果発動、自身を除外し、墓地の【月華竜ブラック・ローズ】を特殊召喚する!」
月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400
白薔薇の巫女の力を受け、再び咲き誇る若月の竜。
「効果発動だ! スカーライトをデッキに戻す!」
「チッ、受けるしかねぇ・・・・・・」
ブラック・ローズが蔓でスカーライトを掴み、お返しだとばかりに投げ飛ばす。野蛮だ。
「バトルフェイズ。【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】でスカーライトに攻撃!」
「チッ、受けるぜ!」
コズミックのブレスを、腕を交差させて受ける紅蓮。ソリッド・ビジョンでなければ即死だった。
灰村紅蓮
LP10000→6000
「オーケストリオン、ブラック・ローズで追撃だ!」
「クソ、そっちも受けるぜ!」
オーケストリオンが音楽を奏で、音符が紅蓮にぶつかり、ブラック・ローズの蔓が紅蓮を殴る。遊戯王ではよくあることだ。
灰村紅蓮
LP6000→3000→600
あっという間に逆転されたライフ。やはりライブラリアンのドローによるアドバンテージが大きい。
「ふん、こんなものか。ターンエンドだ」
灰村花蓮
LP6000 手札6
□□□□□
□月コ□□
オ □
□□□□□
□■□□□
灰村紅蓮
LP600 手札2
オ:オルフェゴール・オーケストリオン
コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン
月:月華竜ブラック・ローズ
■:伏せカード
「燃えてきたぜ・・・・・・オレのターン」
強がって、カードを引く。妹に負けるかもしれないと少し焦りを覚えるが、それを振り払う。
「【竜の渓谷】発動だ! 手札一枚をコストに、デッキから【アブソルーター・ドラゴン】を墓地へ送り、効果発動。【ヴァレット・シンクロン】を手札に加える」
破壊だったならまだしも、バウンスされたことで墓地に蘇生できる【レッド・デーモン】がいないのが辛い。
「【ヴァレット・シンクロン】を召喚、効果で【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚だ」
「・・・・・・なるほどな」
【月華竜ブラック・ローズ】の効果は強制効果だ。故に、レベル5以上のモンスターが特殊召喚されればバウンスしてしまう。そして、【ヴァレット・シンクロン】は通常召喚されたモンスター、対象は一体しかいない。
さながら崩れかけの崖を歩いている気分だ。冷や汗を意識の外に追い出し、紅蓮は続ける。
「手札に戻った【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚、【ヴァレット・シンクロン】でチューニング、吠えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン】」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
ここを止められれば、紅蓮には何もできない。だが花蓮はレモンでは盤面を突破できないとわかっているため、【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果を使わなかった。
「墓地の【風来王ワイルド・ワインド】の効果発動、除外してデッキから【シンクローン・リゾネーター】を手札に加え、特殊召喚。シンクローンでレモンをチューニング、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 攻撃力3200
深淵の炎を身に纏った琰魔竜。これも花蓮は通した。
「アビスの効果発動、対象はコズミック・ブレイザーだ」
「・・・・・・いいだろう」
これを無効にすれば、フィールドからコズミック・ブレイザーがいなくなる。ならば、攻撃力4000を立てておく方が得策だと花蓮は考えた。
「墓地の【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果発動、除外して【シンクローン・リゾネーター】二体を特殊召喚ッ! シンクローンでアビスをチューニング、悪魔を焼けオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」
琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル ☆10 シンクロ 攻撃力3500
現れた悪魔の竜に、花蓮は先程の選択が失敗だったかと逡巡する。
「だが、私のライフは削りきれない! 次のターンが回れば、私の勝ちだ!」
「ところがぎっちょん、オレがターンを回すほどヌルいと思ってんのか!?」
カハッと紅蓮は下手に笑う。その笑顔は獰猛で、好戦的だ。
「ベリアルの効果、シンクローンをリリースし蘇れオレの魂!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン ☆8 シンクロ 攻撃力3000
アビスではなく、元祖レモン。【シンクローン・リゾネーター】の効果を使っていないことも含めて疑問に思ったが、デュエル中に訊くわけにもいかない。花蓮は黙って紅蓮のプレイングを見る。
「バトルだ。【レッド・デーモンズ・ドラゴン】でブラック・ローズを、ベリアルでオーケストリオンを攻撃!」
「くっ、どちらも受ける!」
ブラック・ローズはレモンの拳で粉砕され、オーケストリオンはベリアルに蹴られながらもリンク先にコズミックがいることで破壊されない。
灰村花蓮
LP6000→5400→4900
「ベリアルの効果発動、墓地から【レッド・リゾネーター】を、デッキから【クリムゾン・リゾネーター】を特殊召喚!」
【レッド・リゾネーター】の効果により、【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の攻撃力分ライフが回復する。
灰村紅蓮
LP600→4600
「速攻魔法、【バーニング・ソウル】! 墓地のカード一枚を手札に戻し、シンクロ召喚を行う!」
紅蓮の右手が炎に包まれ、墓地のカードを掴み取る。疑似ストームアクセスと命名しよう。
「【レッド・リゾネーター】【クリムゾン・リゾネーター】で【レッド・デーモンズ・ドラゴン】をダブルチューニング!
スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力3500→7000
墓地にチューナーは7体。よって攻撃力は3500上がる。
だが、それでも足りない。
「あと1000上げればいいんだよなぁ! 【クイック・リボルブ】発動! デッキから【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚!」
【バーニング・ソウル】で手札に加えたカード。花蓮はこのタイミングでの発動に眉を寄せる。
「トレーサーの効果、自身を破壊してデッキから【ヴァレット・シンクロン】を特殊召喚!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
「なっ、まさか!」
え、自分攻撃力0ですよ? と紅蓮を見るヴァレットロン。いやそんなまさかね? ただ間違えて攻撃表示で出しただけですよね? いやー紅蓮さんうっかりだなぁ。
「【ヴァレット・シンクロン】で【オルフェゴール・オーケストリオン】に
コンチクショー!、と幻聴が聞こえた気がした。【ヴァレット・シンクロン】を【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】が掴み、【オルフェゴール・オーケストリオン】に投げつける。ベシャ、と叩きつけられたヴァレットロンは崩れ落ち、紅蓮もその分のダメージを受けた。
灰村紅蓮
LP4600→1600
「これで、【スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン】の攻撃力は、8000! オーケストリオンに攻撃だ!」
スカーレッドがゴキゴキと拳を鳴らしながら、ゆっくりとオーケストリオンへ近付く。
まず一発【クリムゾン・リゾネーター】の分、とぶん殴り、【レッド・リゾネーター】の分、と蹴り上げる。そして転がったオーケストリオンの上に馬乗りになって、【ヴァレット・トレーサー】の分、【シンクローン・リゾネーター】の分、もう一体の【シンクローン・リゾネーター】の分、【ヴァレット・シンクロン】の分、さっき
灰村花蓮
LP4900→0
「ふぅ、危なかったぜ・・・・・・」
いかにも余裕そうに額の汗をぬぐう紅蓮。実際は背中がびっしょりであり、かなり見栄を張っている。
「また、負けてしまった・・・・・・」
ガックリと肩を落とす花蓮。紅蓮はそれが見ていられなくて、はあと一つ溜め息をついてから彼女の方へ歩く。
「お前は力を温存し過ぎなんだよ。次のターンのために展開を抑えてる。最初のターンで【月華竜ブラック・ローズ】を出したのはいいけど、それ以降は手札余らせてただろ?
新しいカード使いたい気持ちもわかるけどよ、勿体ないぜ?」
「うむ・・・・・・そうだな」
紅蓮の言葉に、花蓮は頷く。確かに、あの盤面で【オルフェゴール・オーケストリオン】を出すことに拘らなければ、もっと展開できていただろう。もしかしたら、そのターンに勝っていたかもしれない。
「だが、どうにもな・・・・・・私は、美しく勝ちたいのだ。相手の妨害をくぐり抜け、自分の切り札を押し通し、勝利する。そんなデュエルが」
紅蓮のようなデュエルが彼女はしたい。エースを信じて闘う、兄のようなデュエルが。
けれど、それは彼女の実力では難しい。だから、妨害を敷いて相手の動きを制限するのだ。相手がそれを突破することを期待しながら。
「・・・・・・そうか。難しいよな」
紅蓮は、花蓮が自分に憧れていることを知らない。けれど、彼女の目標が高いことはわかった。
「そうだ、兄よ。エクストラデッキに余裕はあるな?」
「え? お、おう」
紅蓮のエクストラデッキは【レッド・デーモン】関連で埋め尽くされているが、【クリムゾン・ブレーダー】や【
話がそれた。
「では、これを受け取って欲しい」
そう言って、デッキケースから取り出したのは花蓮の【ブラックローズ・ドラゴン】だ。
「? どういうことだ?」
「よくよく考えてみれば、私のデッキにこのカードを二枚入れられるほどの余裕はないのだ。故に、以前使っていた方が余っていたのだが、飾っておくのも勿体ないのでな。兄に使われる方がいいだろう」
紅蓮は少し迷って、そのカードを受け取った。使う機会はあっても、邪魔になる機会はないだろうし、フィールド全て破壊というのは【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】しかいない。そちらを出す手間を考えれば、差別化はできる。
「ありがとな。・・・・・・ん? まだ何かあるのか?」
シャワーにでも入ろうとした紅蓮のスカジャンの袖を、花蓮が掴んだ。
「なあ、兄よ。私が負けず嫌いなのは知っているな?」
「私が勝つまでデュエルしてもらおうか。ああ当然、手を抜いてもだめだ。
この私のカードをプレゼントしたのだ、それぐらいはいいだろう?」
「・・・・・・マジか」
全力を出して負けろとは、なんとも難しい条件だ。そもそも、紅蓮も紅蓮で負けず嫌いなため、いざデュエルすれば嫌が応でも全力になるのだが、それだけ体力を消費するのだ。
この日、紅蓮が解放されたのは夜9時を超えてからだった。
簡単なキャラ紹介⑪
萩原倫子
カードショップ『Rabbit』クスィーゼ店に勤める女性。
自分のデッキを持っておらず、デュエルの際は貸し出しデッキや
『Rabbit』に勤めて五年だが、未だに昇格できていないポンコツ。しかし仕事ができないワケではなく、たまに盛大なポカをやらかすだけである。そのポカで昇格できないのだが。
外見は手入れされていない伸び過ぎな黒髪にメガネ、割とある胸にやや肥満気味な腰周りと少しアレであるが、本人は(意図的に)気にしていない。
ネタバレ防止のために匿名で書いていたこのSSですが、色んな方にバレているので今更気にする必要もないと判断しました。