遊戯王 スプレッド・ストーリーズ 作:柏田 雪貴
この作品が予想以上に好評で驚いています。
そして、遅くなってしまい申し訳ありません。
納得できる内容が書けず、時間がかかってしまいました。
昼休みになると、デュエルスクールには午前の分だけとはいえ授業が終わったことによる開放感と喧騒に包まれる。開放されているのに包まれているとか矛盾している気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。
「さて、オレも飯にするか」
「なら一緒に食べる?」
紅蓮も妹の作った弁当を食べようと包を取り出すと、席の近い男子生徒に声をかけられる。
「そうするか。・・・・・・いや、量多いなお前」
男子生徒が取り出したのは重箱レベルの大きさを誇る弁当箱らしきもの。紅蓮の物と比べても5倍はありそうだ。紅蓮とそう体格の変わらない男子生徒の体のどこにこの量が入るのか甚だ疑問だが、デュエリストに質量保存の法則など効かないだろうし、着痩せしているだけの可能性もある。
「そう? 別に普通だと思うけどな~」
心底不思議そうに首を傾げる男子生徒に戦々恐々する紅蓮。これを普通と認識しているということはつまり家でもこの量の食事、果ては家族もこれだけの量を食べているということであり食費がカードに使うお金を超す可能性すらある。
「でさ、気になってたんだけど。入学式のアレって、本気?」
アレ、と言われて何のことか理解できなかった紅蓮だが、ウインナーを口に入れて咀嚼する内に授業で疲労していた脳がまた働き出したのか思い当たる事柄に行き当たる。
『オレの名前は灰村紅蓮、『最強』を目指してる。デュエルならいつでも受けるぜ』
入学式を終えた後の自己紹介にて紅蓮の放った言葉。彼としては勿論本気だが、男子生徒からすればわからないので訊きたかったのだろう。世の中には
「勿論だぜ。オレはいつでも本気だ」
後半少し胡散臭かったが、肯定する言葉はキッパリと言い切った彼に、男子生徒は続ける。
「それって、『デュエル甲子園』に出て優勝するってことだよね。本気?」
「ああ。本気だ」
念押しするように本気かと訊く男子生徒に違和感を覚えながらも断言する紅蓮。その意志はまさに鉄のようだ。ならば強さは鋼だろうか。
「そう。頑張ってね~」
「おいおい、それだけか? 今のは力を貸してくれる的な流れだったろ」
用は済んだと言わんばかりに食事に戻った男子生徒へ紅蓮が不満とも文句とも言えない言葉を投げつけるものれんに腕押し、まるで聞いていない。
「俺、非デュエリストだし。力を貸しても役に立たないよ~」
しっかりと口の中の物を飲み込んでから男子生徒が衝撃の告白をする。この場合の告白は色恋とはほぼ全く多分絶対関係ないので悪しからず。
「そうだったのか。悪かったな」
別に悪いことをしたワケではないはずだが、それでも申し訳なく思う気持ちに駆られて謝罪する。男子生徒も「気にしないでいいよ~」と返したのでこの件は終わりだ。
前置きが長くなったが、紅蓮がここでデュエルするのは『デュエル甲子園』に出場し優勝するためだ。ただ、『デュエル甲子園』へ出場するには中間テストで成績上位を取り、学校で行われる予選を勝ち抜く必要がある。そのため、男子生徒は重ねて『本気か?』と尋ねたのだ。
『デュエル甲子園』の開催は二学期から。一学期の成績で出場する生徒を絞る目的もあるが、夏休みに特訓や合宿などで力を磨かせることも理由の一つだ。
「し、失礼、します!」
丁度紅蓮が玉子焼をゴックンしたところで、教室の入口から声が聞こえた。ちなみにしょっぱい玉子焼だ。
紅蓮含め教室内の生徒が目を向けると、そこには目が隠れるほど長い前髪が特徴的な小柄な少女がいた。腰まで伸びた黒髪はポニーテールに纏められてはおり紅蓮はその美しい髪を見て邪魔そうだなという印象を持った。彼には人の心がないのか?
「ぇ、えと、今日、の朝に、先生とデュエル、してた人、います、か?」
一気に視線を向けられたことによる緊張からか、たどたどしく話す彼女に、母性本能を発揮した一部の女子生徒達が紅蓮のことを伝えると、少しの時間をかけて紅蓮へと目を向けた。見えないのであくまで雰囲気で察しただけだが。
「あ、の。今、ぃいで、すか?」
少し周囲の物に触れながら歩く女子生徒が紅蓮に近づき話しかけるが、紅蓮はオニギリを頬張っていたので答えられない。
「・・・・・・もっきゅもっきゅ」
「・・・・・・ぅ、ぁの、えと・・・・・・」
無言の睨み合い
数十秒経って、ようやく紅蓮がオニギリを食べ終えると、女子生徒が口を開く。
「あの、」
「すまん、食べ終わるまで待ってくれ」
「「「それを早く言ってやれよ!」」」
「ぅおう」
「うひゃあ!?」
紅蓮の自分勝手とも言える行動に成り行きを見守っていた周囲の生徒から猛ツッコミが入れられる。その勢いに紅蓮が気圧されると、彼以上に女子生徒が驚く。
その驚きっぷりに紅蓮が驚き、驚きの
「ぅ、あ、えと。じゃあ、待って、ます」
少しばかりか細くなった声でたどたどしく告げる女子生徒に対し「そうか」と返すだけで食事に戻る紅蓮。一見いじめているように見えるかもしれないが訪ねて来たのは彼女であり要件を聞いてもらう側は彼女なので紅蓮の態度も全く問題ない。ないと言えばないが周りの目にどう映るかは別問題である。
「灰村くんって・・・・・・」
「根っからのSだよな・・・・・・」
「じゃなきゃあんなこと言わないって・・・・・・」
「聞こえてんぞお前ら!」
「ひゃあっ!?」
四つ目の玉子焼をかじろうとしたタイミングで耳に入ってきた声に紅蓮が思わず反応すると、陰口を叩いていた生徒達以上に女子生徒が反応する。
「・・・・・・お前、大きい声が苦手なのか?」
「ぁ、ごめん、なさい・・・・・・」
もしやと思い紅蓮が質問するが、返ってきた返事は噛み合わない内容だった。紅蓮は玉子焼を咀嚼していて歯が噛み合っていたが。
それから二分ほどで紅蓮が食事を終えると、女子生徒が今度こそと口を開く。
「ぁの、デュエル、してもらえ、ません、か?」
「いいぜ。デュエルディスクは使うか? テーブルデュエルでも構わねぇが」
席を立った紅蓮が場所を移すのを面倒に思い訊くが、女子生徒は「ぇ、と」と言葉を探すように左腕に付けたディスクに抱きしめる様に触れながら押し黙ると、その行動から何かを察した紅蓮が遮る。
「ディスク、使った方がいいのか。なら移動するぞ」
「ぁ、なら、いい場所、知って、ます」
言いたいことが伝わったからか、少し明るくなった表情で付近の物に触れながら先を歩く女子生徒。そしてそれに続く紅蓮。表情に関してもよく見えないため雰囲気だけではあるが、紅蓮は何となく彼女とのコミュニケーションに慣れてきた。
五分も経たない内に案内されたのは校舎の横にある食堂の裏側。人気のないその場所には、一人を除いて誰もいなかった。いるじゃねぇか。
「あ、先生!」
「遅かったね、鈴♪ 何かあった?」
今朝紅蓮とデュエルした担任の男性教師が、食堂の壁に寄りかかってデッキらしきカードの束を見ていた。
「何で先生がここに?」
「この場所、よく不良がたむろしてたりするのさ♪ 先生は不良
偶然とは思えなかった紅蓮が訊き、返ってきた答えに胡散臭さを感じながらも気にしないことにしてディスクにデッキをセットする。
「ぇ、と、これが、こっち、で・・・・・・」
対する女子生徒はVRゴーグルのような物を目元に取り付け、そこから伸びているコードをデュエルディスクに繋げる。
「それは?」
「ぅあ、ぇと・・・・・・」
イカサマなどではないだろうが、せめて何の機械かを教えてもらおうと紅蓮が訊くが、急な質問に言葉が見つからない様子の彼女に代わって男性教師が答える。
「彼女は生まれつき目が悪くてさ。ああしてディスクを通してカードを判別できるようにしてるんだよ」
アレを作ったのはオレじゃないけど、と続けた教師に一応は納得する紅蓮。悪い、と言うが眼鏡を付けていないことからかけてもかけなくても変わらないほどに視力が低いのかもしくは完全に見えない、ということだろう。もしかしたらあの前髪の下で眼鏡が光っている可能性もなくはないが。
(名前は・・・・・・『
デュエルスクールでは、デュエル結果などを収集する際に楽なようにディスクに生徒データを入れることが義務付けられている。そのため、対戦相手の名前などはデュエルの際に表示されるのだ。
「はいむらぐれん、くん・・・・・・」
あちらも同じように紅蓮の名前を知ったらしく呟く声が聞こえた。
「それじゃあ鈴、大丈夫?」
「すー、はー・・・・・・大、丈夫、です」
男性教師の気遣う言葉に大きく深呼吸してから頷いた鈴。それが彼女なりの準備らしい。
「「デュエルッ!」」
遊弋鈴
LP8000
灰村紅蓮
LP8000
先攻となった鈴は手札がディスクにかざすと、雰囲気が明るくなったのを紅蓮は感じる。
「私のターン、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】で、ペンデュラムスケールをセッティング、します」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン スケール4
オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン スケール8
まず紅蓮が驚いたのは彼女がペンデュラムという振り子メンタルの力を使ったことでも初手にその二枚を揃えていたことでもなく、彼女がまだつっかえながらも先程と比べて滑らかに話していることだった。先ほどの深呼吸が、彼女にとってある種のスイッチになっているのだろう、と紅蓮は推測を立てる。
「【天空の虹彩】を発動して、効果を使い、ます。【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】を破壊して、デッキから【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】を、手札に加え、ます」
虹色の目が痛くなりそうなフィールドが展開され、それによってやはり目にダメージを負った【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】が破壊される。自分のフィールドで自分が傷付くとはこれいかに。
「【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果で、デッキから【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を、特殊召喚、します」
EMオッドアイズ・ディゾルヴァー ☆8 ペンデュラム 守備力2600
無残に散って行った【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】に敬礼しながら代わりとして【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を呼び出す。
「【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】を、ペンデュラムスケールにセット、します」
EMオッドアイズライトフェニックス スケール3
これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能。いつ見てもインチキな召喚方法である。
「ペンデュラム召喚、です。【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】、エクストラデッキの【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】」
オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン ☆5 ペンデュラム 守備力2400
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
並んだ二色の瞳を持つ龍達。もう一体魔術師がいるが、ドラゴンではないが故の疎外感を覚えたのか隅で地面に『の』の字を書いている。小学生か。
しかしよく考えれば(カードとしては)彼はまだ2歳。子供っぽいのも仕方ないのかもしれない。だが少なくともビジュアル的には大人なので結局変わらない。
「そして【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】がいる、てことは融合だな」
「ぇと、はい。【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】の効果で、【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と、融合、します」
先の展開を読まれてしまい少し戸惑った鈴だが、気を取り直して両手を祈るように合わせる。ちなみにこれは今観戦している男性教師が教えたもので別にやらなくてもいいのだが、そうとは知らない鈴は毎回合掌している。
「融合、召喚。【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ☆7 融合 守備力3000
いじけた【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】が【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】と融合し自らも龍になることで疎外感から解放される。
「これで、ターンエンド、です」
遊弋鈴
LP8000 手札0
ア□□□ラ
□ペ□□□天
□ ボ
□□□□□
□□□□□
灰村紅蓮
LP8000 手札5
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
ペ:オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン
ラ:EMオッドアイズ・ライトフェニックス
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
手札を使い切ったこの盤面。だが、妨害するカードは二枚あり、逆に言えばそれを突破すればもう止めるものはない。
「オレのターン、ドロー。まずは【レッド・リゾネーター】を通常召喚して効果発動だ」
「ぇと、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の、効果を発動、します。エクストラデッキの、【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を、デッキに戻して、その効果を無効にして破壊します」
紅蓮は【レッド・リゾネーター】で通常召喚権を使った。なら、ここで止めておいた方がいいと判断したのか、鈴は【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動する。
「次、【ワン・フォー・ワン】発動だ。手札一枚をコストに、デッキから【サイキック・リフレクター】を特殊召喚するぜ」
サイキック・リフレクター ☆1 チューナー 守備力0
前回に引き続きまたも呼び出しを食らった【サイキック・リフレクター】。様々なデッキで
「効果でデッキから【バスター・ビースト】を手札に加え、捨てて発動。デッキから【バスター・モード】をサーチだ」
【/バスター】に限らず、【水晶機巧-ハリファイバー】を使うデッキの初動。本当にインチキ臭い動きだ。
「【バスター・モード】を相手に見せることで墓地の【バスター・ビースト】をレベル7で特殊召喚。そして【サイキック・リフレクター】でチューニング、シンクロ召喚。燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
炎と共に傷付いた紅蓮魔竜が飛翔する。何故傷付いているのかわからないが恐らく
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ。コイツ以下の攻撃力を持つモンスターを全て破壊するぜ」
「っ、なら、【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の効果を、発動します。その効果、無効に、します!」
【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】が咆哮を上げその右腕を振るうと、【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】が頭突きでそれに対抗し、相殺する。攻撃力的に無理があるかもしれないが、頭蓋の硬さが1800くらいあったのだろう。恐ろしい。というか仮面じゃないのか。
「これで妨害はなくなったな、【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚して【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をチューニング! シンクロ召喚、深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス ☆9 シンクロ 攻撃力3200
機械の力で傷を癒やし、まるで別人の様に整形した【レッド・デーモン】。作品が違うので別人なのは当たり前かもしれない。
【シンクローン・リゾネーター】の効果で【レッド・リゾネーター】を回収した紅蓮はバトルフェイズを宣言する。
「【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】で【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】を攻撃だ」
先程の仕返し、とでも言わんばかりに完治した右腕で【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の頭蓋に拳を落とす【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】。やっていることはただの仕返しだがその図体とソリッドビジョンのせいでかなりの迫力である。実際、観戦している男性教師は本物じゃないとわかっていてもビビっている。
「お、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果を発動、します。デッキから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を特殊召喚、します」
「させるか、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動、それを無効にするぜ」
【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】の尻拭いを自分以外に押し付けようとした【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】だが、それは琰魔竜によって止められた。
「カードを一枚伏せて、ターン終了だ」
遊弋鈴
LP8000 手札0
ア□□□ラ
□□□□□天
琰 ボ
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP8000 手札2
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
琰:琰魔竜レッド・デーモン・アビス
ラ:EMオッドアイズ・ライトフェニックス
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
大して盤面を削れず妨害のせいで手札をかなり使ってしまったことに歯噛みしながら彼女へターンを渡した紅蓮。ペンデュラムスケールを破壊できなかったのが特に痛い。
「わ、私の、ターン。【天空の虹彩】の効果を発動、します」
「・・・・・・いいぜ、通しだ」
ここで【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果を使った場合、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】によって無効化され、その上破壊されてしまう。EXモンスターゾーンを空けさせないために【オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン】へ攻撃した紅蓮だったが、判断を誤ったかと思考するが、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】がいるのでは変わらない、と切り捨てる。
「ぇと、【EMオッドアイズ・ライトフェニックス】を破壊して、デッキから【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】を手札に加え、ます。それと、【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果で、デッキから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】を特殊召喚、し、します」
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン ☆8 ペンデュラム 攻撃力3000
帳を切り裂き飛翔する虹色の翼の龍。結局このカードを出されてしまったことに、紅蓮は舌打ちしようとして、
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を攻撃表示に変更して、バトル、です。【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】で、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】を攻撃します!」
本来攻撃力の劣る【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】だが、自身の効果によって戦闘相手の攻撃力を下げることができる。
「・・・・・・ここだな。リバースカード、【リビングデッドの呼び声】。蘇生させるのは【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】だ」
「っ!? な、なら【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果で・・・・・・」
そこまで言って、気付く。
紅蓮のフィールドには【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】がおり【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を使った所で無効化されてしまう。ここで使っても無駄になるのであれば、手札誘発なども加味すると・・・・・・。
「―――ぃえ、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を、発動します」
伏せカードが【バスター・モード】ではなかったことに動揺していた鈴だったが、平常心に戻ったところで紅蓮の狙いに気付いた。
【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】の効果はダメージ計算時の発動。ここで【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果を発動され、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動しても、巻き戻しは発生せず、攻撃自体が無効化されてしまう。
紅蓮は「カハッ」と乾いた声を漏らし、口元を歪める。どうやら笑っているらしい。
「読まれたか。【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動だ、無効にするぜ」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
同胞の復活を邪魔しようとする【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】を【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】が押さえつけ、紅蓮魔竜が蘇る。
鈴のデュエルディスクに『巻き戻し』が表示されると、少しアタフタしながらも『攻撃続行』を選択する。
「【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】の効果で、エクストラデッキの表のペンデュラムモンスターの数だけ、攻撃力をダウン、させます」
琰魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200→200
【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】に気を取られていた琰魔竜の後ろから【オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン】が奇襲しその力を奪うとそのまま気付かれる間もなく翼で裁断し破壊した。
灰村紅蓮
LP8000→5200
減ったライフを気にも止めず、紅蓮は彼女の次の動作へと意識を向ける。
琰魔竜が破壊されたが、紅蓮魔竜は健在。そして彼女のフィールドで攻撃できるのは
「・・・・・・ターン終了、です」
遊弋鈴
LP8000 手札2
ア□□□□
□□フ□□天
□ ボ
□レ□□□
□□リ□□
灰村紅蓮
LP5200 手札2
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト
フ:オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン
ア:オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン
天:天空の虹彩
「オレのターン!」
エンジンがかかってきたのか、紅蓮の声に熱が入る。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ! 攻撃力3000以下のモンスター全てを破壊するぜ!」
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果を発動、します! 無効にして破壊、です!」
紅蓮魔竜が腕を地面に叩きつけると
「まだまだ! 【ヴァレット・シンクロン】を召喚、効果で蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
ヴァレット・シンクロン ☆1 チューナー 攻撃力0
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 守備力2500
弾丸の調律竜が自身を紅蓮魔竜の額に撃ち込み、
「墓地の【風来王ワイルド・ワインド】の効果発動だ。除外して、デッキから【シンクローン・リゾネーター】を手札に加えるぜ。そのまま特殊召喚だ」
シンクローン・リゾネーター ☆1 チューナー 守備力100
そんなカードいつ墓地に送ったのかと鈴は可愛らしく小首を傾げる。観戦している男性教師は【ワン・フォー・ワン】の効果発動時にコストにしていたのだろうと推測する。
ともあれ、これで準備は整った。
「【ヴァレット・シンクロン】と【シンクローン・リゾネーター】で、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】をダブルチューニング!」
紅蓮のディスクから炎が噴き上がり、悪魔と機械を二つのリングへと変える。炎のリングは紅蓮魔竜を包み込むと、その火力を増した。
「シンクロ召喚、君臨しろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ☆10 シンクロ 攻撃力3500
炎が落ち着くと、暴君として全てを破壊する紅蓮竜が姿を現す。暴君だからと言って全てを壊すとは限らないが、この竜はそうする。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】の効果発動! 自身以外のカード全てを破壊する!」
邪魔する者のいない
「っ!」
【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】の効果は、自身を含めて破壊されてしまうと発動できない。完全に更地となったフィールドに、鈴はうろたえる。
「バトルだ! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】でダイレクトアタック!」
暴君が拳を握り、鈴の地面を殴り付ける。
遊弋鈴
LP8000→4500
半分ほどに削られるライフ。これで盤面的にもライフ的にも逆転した。
「カードを伏せて、ターンエンドだ」
遊弋鈴
LP4500 手札2
□□□□□
□□□□□
レ □
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP5200 手札1
レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント
■:伏せカード
伏せたのはブラフの【バスター・モード】、手札は【レッド・リゾネーター】と、一見紅蓮が優位に見えるがかなりギリギリの戦いだ。
とは言え、鈴の手札も一枚は【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】だとわかっているが、ペンデュラムスケールの片割れが揃えば融合にも繋げられる。効果耐性のない【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】では、簡単に除去されてしまうので、そんなに余裕がないのだ。
「私の、ターン・・・・・・」
鈴も紅蓮の伏せカードは把握しているが故に、逆転できる可能性がある。まあここで意味のないカードを引いてそのまま暴君に蹂躙される可能性も十分にあるのだが、あまり触れないでおこう。
「【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】と、【オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン】で、ペンデュラムスケールをセッティング、します!」
EMオッドアイズ・ディゾルヴァー ペンデュラムスケール4
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン ペンデュラムスケール8
光の柱に魔術師と緑龍が入り、天空に振り子が揺れる。今更だが、柱の中って窮屈ではないのだろうか。
紅蓮はまた「カハッ」と笑うと、口の端を更に釣り上げる。
「いいぜ、何を出す?」
「ペンデュラム、召喚! 【オッドアイズ・ファントム・ドラゴン】、エクストラデッキから【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】!」
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ☆7 ペンデュラム 攻撃力2500
並ぶ二体の虹彩龍。アニメ版と漫画版、二人のトマトのエースが夢の共演である。【オッドアイズ】デッキでは割とよくあることだが。
「【EMオッドアイズ・ディゾルヴァー】の効果発動、です! 二体で融合、します!」
魔術師が杖を回し融合の渦を作り出すと、そこへ虹彩龍達が飲み込まれる。
「融合召喚! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】!」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ☆7 攻撃力2500
再び姿を見せる
「【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果発動、です! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】を、手札に戻し、ます!」
雷虹彩龍の起こした暴風によってエクストラデッキへと吹き飛ばされる暴君。歴史から見ても暴君の最後とは呆気ないものでありこれも自然の摂理と以下略。
「バトルです! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】で、ダイレクトアタック!」
灰村紅蓮
LP5200→2700
これで、また逆転。見事なシーソーゲームだが、油断すれば一瞬で終わると分かっている故に、彼らに気にする余裕はない。観戦している男性教師は見事なものだと気楽そうに見学している。
「ターンエンド、です」
遊弋鈴
LP4500 手札0
ミ□□□デ
□□□□□
□ ボ
□□□□□
□□■□□
灰村紅蓮
LP2700 手札1
ボ:オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン
デ:EMオッドアイズ・ディゾルヴァー
ミ:オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン
■:伏せカード
「カハハッ、いいぜ、燃えてきたじゃねぇか」
口元を歪め、テンションを上げる紅蓮。その様子は、正に燃えたぎる炎だ。実際に燃えては火事になったり火傷になったりと大変なので、あくまで比喩だが。
「オレのターン、ドロー!」
引いたカードを確認し、そのまま勢いよく発動する。
「【強欲で貪欲な壺】! デッキ上十枚を除外し、二枚ドロー!」
増える手札、これで三枚となった手札を見て紅蓮の笑みは最高潮に達する。
「【復活の福音】!」
「っ、【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の効果発動、です! 【オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン】をデッキに戻して、効果を無効にして破壊、します!」
それを読んでいた紅蓮は、前のターンから持っていた手札をディスクへと置く。
「【レッド・リゾネーター】を召喚、効果で手札から【終末の騎士】を特殊召喚!」
レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600
終末の騎士 ☆4 守備力1200
休暇のない騎士ではなく【調星師ライズベルト】や【風来王ワイルド・ワインド】などでも良かったが、このカードであったことでこのターン中に決着がつく。
「【終末の騎士】の効果でデッキから【亡龍の戦慄-デストルドー】を墓地へ送るぜ。そしてチューニング、シンクロ召喚! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」
レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100
珍しく出番がなかったこのカードだが、ようやく活躍の時間である。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】の効果で【レッド・リゾネーター】を蘇生して効果発動! 【オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン】の攻撃力分ライフを回復するぜ!」
灰村紅蓮
LP2700→5200
前のターンで減った分が戻った。紅蓮の効果説明が雑だが、それはテンション故に仕方ないのかもしれない。
「【レッド・ライジング・ドラゴン】を対象に【亡龍の戦慄-デストルドー】の効果! ライフを半分にして特殊召喚だ!」
亡龍の戦慄-デストルドー ☆7→1 守備力3000
灰村紅蓮
LP5200→2600
若干前のターンよりもライフが少なくなっているが、関係ないと紅蓮は突き進む。
「【レッド・リゾネーター】で【レッド・ライジング・ドラゴン】をチューニング! シンクロ召喚、燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000
墓地からではなくエクストラデッキから再び燃え上がる本日の過労死。傷付いた身体とは裏腹に、疲労などの色合いは全く見えない。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果発動だ! 攻撃力3000以下のモンスター全てを破壊する!」
右腕に炎を纏わせ、地面を殴りつける。これだけやって一度しか成功しないのだからデュエルモンスターズは恐ろしい。
「更に、破壊した数だけダメージを与えるぜ!」
「ぁ、う・・・・・・」
遊弋鈴
LP4500→3500
これで鈴の残りライフは3500。攻撃力3000の【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の攻撃を受けても、まだ耐えきれる、が。
「・・・・・・ぁ」
ふと意識に浮上した、一枚の伏せカード。【バスター・モード】。そして【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】は場と墓地で【レッド・デーモンズ・ドラゴン】としても扱う―――。
「【バスター・モード】発動! 燃え上がれオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター ☆10 攻撃力3500
紅蓮のデュエルディスクから溢れた炎が鎧へと変わり、それを身に纏った更なる破壊の力を宿す紅蓮魔竜。しかし今重要なのは、その攻撃力だ。
「バトル、【レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター】でダイレクトアタック!」
紅蓮魔竜が炎のブレスを吐き出し、鈴を覆う。
遊弋鈴
LP3500→0
ジャストキル。しかしこれは狙ったものではなく、お互いが全力を尽くして生まれた偶然だ。
(負け、ちゃった・・・・・・)
悔しさと共に腕を下げ俯く鈴。しかし、自分に近づく二つの足音に顔を上げる。
「お疲れ様、鈴♪ いいデュエルだったよ」
「ああ、すげー燃えたぜ」
朝は不完全燃焼で終わったからな、と続ける紅蓮と、その横で謝罪しながらも悪びれる声音ではない先生。そのやり取りに、鈴はクスリと小さく笑った。
「・・・・・・あるぇ? もう授業始まってる時間だ」
周りに人の気配がないことに気付いた男性教師が腕時計を見ると、そこには五限目開始からすでに十分経った時刻が示されていた。
「・・・・・・は?」
「・・・・・・ぇ」
困惑した二人の生徒へ一度向き直り、ニコリと笑顔になった男性教師は、
「急げー!」
回れ右して走り出した。
「な、またこのパターンかよ!」
「ぇ、私、走れな、」
慌てて着いて行く紅蓮と、戸惑う鈴。男性教師は彼女のことを思い出して一度引き返してから、教室へと向かった。
ここからは余談だが、デュエルに集中し過ぎた彼らは、授業開始と五分前のチャイムを聞き逃していたらしい。
各々教室へ戻ると、男性教師は鈴のクラスでの授業だったためその生徒達へ謝罪し、授業を始めた。紅蓮は完全に遅刻した生徒扱いされ、男性教師が休み時間に事情を話すまで担当だった教師に睨まれていたという。
簡単なキャラ紹介①
灰村紅蓮
デュエルスクール クスィーゼ校 一年
【レッド・デーモン】のカード達を『魂』と呼び、そのカード達を主軸にデュエルする。
【レッド・デーモン】達の一体で戦うデュエルを好んでおり、自らへの戒めの意味合いも込めてエクストラデッキは全てシンクロモンスター。
性格は一度決めたことを守り通す、筋を通すと硬派な面もある一方、それ以外では不良である。
少し笑うのが下手。
外見は赤みがかった黒髪に睨みつけるような目が特徴的で身長はほぼ平均。腕っぷしはそこそこあるが、それが発揮される日はいつになるのか。