遊戯王 スプレッド・ストーリーズ   作:柏田 雪貴

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【幻獣機アウローラドン】一枚から【シューティング・スター・ドラゴン】まで行けると知って吃驚な作者です。

今回のパックって、テーマ強化というよりもソリティアしやすくなった印象が強いです。


紅蓮:六話

 途中で終わったデュエルに不完全燃焼のまま家に帰りムスッとした顔でリビングの扉を開けた紅蓮の目に入ったのはソファに寝転がりバリバリと『遊戯王チップス』を頬張りながらタブレットで動画を見る黒髪の美少女。その艷やかに流れ肩まである黒髪も、整った顔立ちも、凹凸こそ少ないながらも十分な魅力を持つその肢体も、全てがその態度で台無しになっている。彼女は話の中に『妹』とだけ出てきた紅蓮の妹、灰村花蓮(かれん)である。

 

「ん? ああ兄か。随分と早いな」

 

「特にやることもないんでな。暇なんだったらデュエルしてくれ、不完全燃焼なんだよ」

 

 デュエルジャンキーな紅蓮のセリフに、花蓮は面倒臭そうに画面から顔を上げて兄を見る。

 

「見ての通り私は忙しい。後にしてくれないか?」

 

 どこをどう見れば忙しくなるのか。そんな反論が浮かぶが、口に出すことはしなかった。花蓮がこうなのはいつものことだ。我儘に、自分の意見を曲げることが殆どない。それをよく知っている紅蓮は予定通り搦手(からめて)を使うことにした。

 

「そうか・・・・・・帰りに『マドルチェ・プリン』を買って来たんだが、いらなかったか」

 

 ピクリ、と花蓮のアホ毛が動いた。まるで犬の尻尾だなと思いつつ、紅蓮は続ける。

 

「まあ、仕方ないよな。妹はオレより動画を取るみたいだし。オレの買ってきたプリンなんて、いらないんだろうな」

 

 ニヤリ、と人の悪い笑みを浮かべながら、紅蓮は挑発する。

 『マドルチェ・プリン』は1000円ものダメージを財布の与える凶悪な食べ物(モンスター)。それに見合ったボリュームと味なのだが、十分高い。それでも、紅蓮は自分の欲望を満たすためには出費を厭わなかった。ちなみに、もっと高い『マドルチェ・プリン・ショコ・ア・ラ・モード』もあるのだが、流石の紅蓮もそちらには手を出せなかった。

 

「ふむ・・・・・・気が変わった。兄よ、新しいデッキの試運転がしたい。相手をしてくれ」

 

 そして、彼女は紅蓮の妹。露骨な誘いではあったが、自分の欲望を優先することは二人の数少ない共通点だ。

 

「ああ、いいぜ。テーブルデュエルでいいか?」

 

「いや、どうせやるなら派手に、だ」

 

 そう言って花蓮はタブレットを一度置くと遊戯王チップスを片付け立ち上がり、軽く服を(はた)いてからタブレットを腕のブレスレットに取り付ける。それが彼女のデュエルディスクだ。

 

 それからダイニングに移動し、キッチンの冷蔵庫の横にある扉を開き、デュエルスペースに入る。どの家にもある訳ではないが、ある程度裕福な家庭にはあるものだ。

 

「さて、では私の新デッキ、【斬機ローズ】の力をお見せしよう」

 

 自信満々に膨らみの少ない胸を張り、花蓮はディスクにデッキをセット。ディスクがそれを読み込み、モンスターゾーンが展開される。

 

「早速ネタバレかよ。・・・・・・【斬機】と【ローズ・ドラゴン】にシナジーなんてあったか?」

 

 花蓮のデッキは【ローズ・ドラゴン】を軸にした植物族デッキだったのだが、どうやら少しデュエルしない間に新しくしていたらしい。ただのフリーデュエルなので、どんなデッキなのか純粋に楽しみである。

 

「いくぜ、「デュエルッ!」」

 

灰村花蓮

LP8000

 

灰村紅蓮

LP8000

 

 先攻をとった花蓮は自分の手札を見ると満足そうな笑みを浮かべ、その内の一枚をディスクに置く。

 

「【バランサー・ロード】を通常召喚だ。効果により、1000ライフ払うことによって私はサイバースをもう一度召喚できる。いでよ、【ファイアウォール・ガーディアン】」

 

バランサー・ロード ☆4 攻撃力1700

 

ファイアウォール・ガーディアン ☆4 攻撃力100

 

灰村花蓮

LP8000→7000

 

 彼女の初動は【斬機】でよく見かける二体。ソリティアの香りを感じた紅蓮は【ローズ・ドラゴン】要素が出てくるまで長くなりそうだと見抜いた。

 

「二体でリンク召喚、【サイバース・ウィキッド】! 【ファイアウォール・ガーディアン】を自身の効果により特殊召喚し、【サイバース・ウィキッド】の効果発動。【バランサー・ロード】を除外することで【斬機ナブラ】を手札に加え、【バランサー・ロード】の効果によりそのまま特殊召喚する」

 

サイバース・ウィキッド link2 リンク 攻撃力1600

 

斬機ナブラ ☆4 チューナー 守備力1500

 

 元は二体だったモンスターが三体に増え、【斬機】の要素が強くなる。というか、ここまで【斬機】でよくある動きである。

 

「【ファイアウォール・ガーディアン】一体でリンク召喚、【リンク・ディヴォーティー】!」

 

リンク・ディヴォーティー link1 リンク 攻撃力500

 

 とある禁止カード(【ファイアウォール・ドラゴン】)によく似た守護竜がサーキットをくぐり、新たな電子生命体に生まれ変わる。決して【リンク・ディヴォーティー】の形状を表せなかったわけではない。決して。

 

「長いな・・・・・・」

 

「悪いがまだまだ続くぞ。【斬機ナブラ】の効果発動、【リンク・ディヴォーティー】をリリースし、デッキから【斬機シグマ】を特殊召喚する。更にリリースされた【リンク・ディヴォーティー】の効果でトークンを二体生成する」

 

斬機シグマ ☆4 チューナー 守備力1500

 

リンクトークン ☆1 守備力0

 

 今度は一体が三体に。爆アドである。著作権的なものに触れた気がしないでもない。

 

「トークンにナブラをチューニング、シンクロ召喚。いでよ、【星杯の神子イヴ】! 効果でデッキから【星遺物】カード、【星遺物を継ぐもの】を手札に加える」

 

星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100

 

「更にトークンにシグマをチューニング、シンクロ召喚。いでよ、【ガーデン・ローズ・メイデン】!」

 

ガーデン・ローズ・メイデン ☆5 守備力2400

 

 白い花嫁衣装のようなドレスを纏った女性型モンスターが現れる。ようやく【ローズ・ドラゴン】要素が出て来た。

 

「効果でデッキから【ブラック・ガーデン】を手札に加える。更にイヴとウィキッドでリンク召喚。【水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー】!」

 

水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー link2 リンク 攻撃力1500

 

 【星杯の神子イヴ】を素材にしたハリファイバー、俗に言う【イヴファイバー】という奴だ。マイナーな呼び方過ぎる。

 

「イヴとハリファイバーの効果をチェーンして発動するぞ。デッキから【レッドローズ・ドラゴン】と【星遺物-『星杯』】を特殊召喚」

 

レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800

 

星遺物-『星杯』 ☆5 守備力0

 

 ハリファイバーから【ローズ・ドラゴン】にアクセスするならどんなデッキでも出張させて【ローズ・ドラゴン】デッキと言えそうなものだが、それを言うと確実に妹の顰蹙を買うので紅蓮は閉口した。

 

「【レッドローズ・ドラゴン】で【星遺物-『星杯』】をチューニング! シンクロ召喚、いでよ【炎斬機マグマ】!」

 

炎斬機マグマ ☆8 シンクロ チューナー 攻撃力2500

 

 光の柱を切り裂いて現れたのはレベル8にしてチューナーという赤き竜(【アルティマヤ・ツィオルキン】)ホイホイなスペックのシンクロモンスター。急に【斬機】要素が強くなった。

 

「【レッドローズ・ドラゴン】の効果でデッキから【ホワイトローズ・ドラゴン】を特殊召喚する。【星遺物を継ぐもの】を発動し、墓地の【星杯の神子イヴ】をハリファイバーのリンク先に特殊召喚。そしてイヴでメイデンをチューニング! アクセルシンクロ、いでよ、【シューティング・スター・ドラゴン・TG(テックジーナス)EX(エクスパンション)】!」

 

シューティング・スター・ドラゴン・TG(テックジーナス)EX(エクスパンション) ☆10 シンクロ 攻撃力3000

 

 紅蓮にとっては本日二度目のシューティングスター。そのことに少し可笑しくなり軽く苦笑すると、それをどう受け取ったのか花蓮は肩を竦める。

 

「対兄ということなら【スターダスト・ウォリアー】の方がいいのだがな、生憎枠が足りない」

 

 花蓮はどちらかと言うとファンデッカー寄りのデュエリストだ。自分の好きなカードを使うためにデッキを組み、闘う。

 

「そうか。流石に妨害2つはキツいんでな、助かったぜ」

 

「なるほど、今度から入れることにしよう。これでターンエンド」

 

 

灰村花蓮

LP7000 手札4

 

□□□□□

シ□マ□ホ

 ハ □

□□□□□

□□□□□

 

灰村紅蓮

LP8000 手札5

 

ハ:水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー

シ:シューティング・スター・ドラゴン・TG(テックジーナス)EX(エクスパンション)

マ:炎斬機マグマ

ホ:ホワイトローズ・ドラゴン

 

 

「オレのターン、ドロー!」

 

 花蓮の場には【水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー】と【ホワイトローズ・ドラゴン】。恐らくこちらのターンに【ブラックローズ・ドラゴン】か【月華竜ブラック・ローズ】をシンクロ召喚するつもりなのだろう。最近登場した【クロスローズ・ドラゴン】を使わない辺り、まだ調整中といった所なのだろうか。

 

「【レッド・リゾネーター】を通常召喚、効果で手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚するぜ」

 

「ならばそれにチェーンしてハリファイバーの効果発動。自身を除外し、エクストラデッキからシンクロチューナーを特殊召喚する。いでよ、【シューティング・ライザー・ドラゴン】!」

 

シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7 シンクロ チューナー 守備力1700

 

 ハリファイバーが退散すると、代わりに白い龍が現れ、シューティングスター(親戚)に軽く挨拶。挨拶は大事だとかの有名なドン・サウザンドも言っていた。嘘である。

 

「特殊召喚するのは【シルバーヴァレット・ドラゴン】だ」

 

レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 攻撃力600

 

シルバーヴァレット・ドラゴン ☆4 攻撃力1900

 

 赤い悪魔に呼ばれたのは打点要因として採用していた【ヴァレット】の一体。リンクモンスターを使わない紅蓮にとって、【ヴァレット】はリクルーターとしてしか使われない。彼らは泣いていいと思う。

 

「ライザーの効果発動。デッキから【召喚僧サモン・プリースト】を墓地へ送り、レベルを4つ下げる」

 

シューティング・ライザー・ドラゴン ☆7→3

 

 ライザーがサモン・プリーストを墓地へ送ると、恨みを買ったらしくレベルを下げられる。僧侶なのに随分心が狭い。

 

「更に【クイック・リボルブ】を発動。デッキから【ヴァレット・トレーサー】を特殊召喚するぜ」

 

ヴァレット・トレーサー ☆4 チューナー 守備力

 

 虚空から現れた新たな弾丸竜に、花蓮は、む、と唸る。

 フリーチェーンで自身のカードを破壊することでデッキから【ヴァレット】を特殊召喚するこのカードによって、【月華竜ブラック・ローズ】を特殊召喚しても、対象を取るために逃げられてしまう。

 

「【レッド・リゾネーター】で【シルバーヴァレット・ドラゴン】をチューニング! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン ☆6 シンクロ 攻撃力2100

 

 光の柱を燃やしながら、火の粉と共に竜が舞い上がる。火事でも起きそうだが、リアルではないソリッドビジョンなので何事も起きない。

 

「効果で墓地から【レッド・リゾネーター】を特殊召喚するが、何かあるか?」

 

「・・・・・・チッ、使うしかないな。【シューティング・ライザー・ドラゴン】の効果発動、相手ターンにシンクロ召喚を行う。【ホワイトローズ・ドラゴン】をチューニング、シンクロ召喚。咲き誇るは若き月、いでよ【月華竜ブラック・ローズ】!」

 

月華竜ブラック・ローズ ☆7 シンクロ 攻撃力2400

 

 ライザーが光のリングにを変え、ホワイトローズを黒く染め上げる。成長したホワイトローズは月の輝きを纏った美しい竜となった。

 

「使ったか。強制効果のそっち(【月華竜ブラック・ローズ】)がチェーン1、【レッド・リゾネーター】がチェーン2だな。対象は、そうだな・・・・・・シューティング・スターだ」

 

「むう・・・・・・」

 

 【レッド・リゾネーター】のライフ回復効果は相手モンスターも対象にできる。そして、【シューティング・スター・ドラゴン・TG(テックジーナス)EX(エクスパンション)】には自分モンスターが対象に取られた場合、墓地のチューナーを除外して無効にし破壊する効果がある。それを使うかどうか、紅蓮は訊いているのだ。

 

「人の悪い兄のことだ、【エンシェント・リーフ】でも握っているのだろう? ここで手札を増やされるのも面倒なのでな、シューティング・スターの効果発動だ! 墓地の【斬機ナブラ】を除外し、それを無効にし破壊する!」

 

 安全策を取るならば、【レッド・ライジング・ドラゴン】を対象に取ればよかった。だが、紅蓮は『デュエル』がしたかった。相手との駆け引き、読み合いを楽しむデュエルを。

 

「ならチェーン4で【ヴァレット・トレーサー】の効果発動だ。【レッド・ライジング・ドラゴン】を破壊し、デッキから【マグナヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚する」

 

マグナヴァレット・ドラゴン ☆4 攻撃力1500

 

 トレーサーがライジングに突撃し、爆発四散。そこからマグナヴァレットが残骸として吹き飛び、トレーサーも何故か帰還する。

 

「そしてシューティング・スターの効果でリゾネーターを破壊、そしてブラック・ローズは対象不在、と。・・・・・・全く、見かけに寄らず面倒なことをするな、兄」

 

 彼は不良のような見た目からは考えられないほど繊細なデュエルをする。まさか2ターン目からこんな駆け引きをさせられるとは思っておらず、花蓮はかなり精神的に疲弊していた。

 

「そりゃどうも。【ヴァレット・トレーサー】で【マグナヴァレット・ドラゴン】をチューニング! 燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000

 

 妨害を乗り越え、ようやく登場した紅蓮の魂のカード。中々出れなかったためか、鬱憤を晴らすように2割増で炎を撒き散らす。

 

「ようやくだぜ、効果発動! 自身の攻撃力以下のモンスターを全て破壊し、その数だけダメージを与える!」

 

「チッ、止められなかったか」

 

 スカーライトがブラック・ローズを蹴り飛ばし、昼休みに倒し損ねたシューティング・スターを尻尾で回転しながら(はた)いて胸ぐらを掴み頭突きをぶつけ、影の薄いマグマに炎を纏った右ストレートを食らわせる。

 

灰村花蓮

LP7000→5500

 

「私のエースを蹴るとは無礼なっ! 【斬機マグマ】の効果発動、相手によって破壊されたことで、デッキから【斬機】魔法カードである【斬機方程式】を手札に加える!」

 

 マグマが最期の抵抗として花蓮にカードを託して散る。嗚呼無情、花蓮のフィールドは全滅してしまった。

 

「バトルだ。スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「チッ、受けよう!」

 

 スカーライトが花蓮にブレスを吐き、ライフを削る。

 

灰村花蓮

LP5500→2500

 

 かなりのダメージを受けた花蓮だが、その瞳から闘志は消えない。兄を、【レッド・デーモン】を相手にするならば、1ターンでこれくらいは普通である。むしろワンターンキルでないことを幸いと捉えるべきだ、と花蓮は前向きに思考する。

 

「これ以上は動けないな・・・・・・ターンエンドだ」

 

 

灰村花蓮

LP2500 手札5

 

□□□□□

□□□□□

 □ レ

□□□□□

□□□□□

 

灰村紅蓮

LP8000 手札3

 

レ:レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト

 

 

 花蓮の墓地には、既に二枚目のエースを出す準備が整っている。ならば、不用意にカードを伏せるのは危険だと紅蓮は判断した。

 

「では私のターン。・・・・・・そちらはモンスター一体だけか。まあ、やるしかないだろう」

 

 花蓮のデッキは大量展開するデッキとは相性がいいが、紅蓮のような一体で闘うデッキとは余り良くない。だが、ファンデッキ故にやれる展開が限られる以上、どうにかするしかない。

 

「墓地の【星遺物-『星杯』】の効果発動、自身を除外し、デッキから【星杯の守護竜】を手札に加える。そして発動、効果で墓地の【ホワイトローズ・ドラゴン】を手札に加え、そのまま通常召喚!」

 

ホワイトローズ・ドラゴン ☆4 攻撃力1200

 

 花蓮が繰り出したのは先のターンでも使った白薔薇の小竜。わざわざ通常召喚したのには意味がある。

 

「ホワイトローズの効果により、墓地から【レッドローズ・ドラゴン】を特殊召喚! そしてレッドローズでホワイトローズをチューニング!」

 

レッドローズ・ドラゴン ☆3 チューナー 守備力1800

 

 白薔薇に連なり、赤薔薇もフィールドに咲く。そして、すぐさま光輪となった。

 

「シンクロ召喚! 万雷の喝采を持って迎えるがいい! いでよ【ブラックローズ・ドラゴン】!」

 

ブラックローズ・ドラゴン ☆7 シンクロ 攻撃力2400

 

 白薔薇と赤薔薇が調律し、咲き誇るのは赤を含んだ漆黒の薔薇。こちらはブラックと名の付く割には赤要素が強めである。

 

「【ブラックローズ・ドラゴン】の効果発動! フィールドのカード全てを破壊する! それにチェーンし、レッドローズの効果発動。デッキより【ブルーローズ・ドラゴン】を特殊召喚する」

 

ブルーローズ・ドラゴン ☆4 守備力1200

 

 赤薔薇が青薔薇を呼ぶが、即座に黒薔薇の爆発に巻き込まれる。

 紅蓮魔竜も例外ではなく、黒薔薇の爆発により吹き飛ばされた。

 

「やってることは変わってないな! いつ見てもブルーローズが不憫でならねぇ」

 

「兄もトレーサーでライジングを破壊したのだ、同じようなものだろう? 【ブルーローズ・ドラゴン】の効果、破壊されたことにより、墓地より【ブラックローズ・ドラゴン】を特殊召喚する! 落陽にはまだ早いぞ!」

 

 爆発が晴れると、そこには何食わぬ顔で佇む黒薔薇がいた。一度墓地へ行って蘇生されたのだが、まるで自分だけ生き残っていたかのような雰囲気だ。

 

「勿体ないが、使ってしまうか。【死者蘇生】を発動! 墓地から特殊召喚するのは【星杯の神子イヴ】だ」

 

星杯の神子イヴ ☆5 シンクロ チューナー 守備力2100

 

 墓地より蘇る、【星杯】の神子。巫女からかなり偉くなったものだが、それまでの過程が壮絶過ぎるだめ喜ぶことはできない。何の話だ。

 

「バトルだ。ブラックローズでダイレクトアタック!」

 

「? ライフで受けるぜ」

 

灰村紅蓮

LP8000→5600

 

 てっきり次のシンクロ召喚をすると思っていた紅蓮だったが、花蓮はその予想を裏切り攻撃に移った。

 

「・・・・・・何かあるな」

 

 どんなことをするのかと口角を上げる紅蓮に、花蓮は余裕の笑みで拍手する。

 

「流石は兄。鋭いじゃないか。速攻魔法、【リミットオーバー・ドライブ】! ブラックローズとイヴをエクストラデッキに戻し、擬似アクセルシンクロを行う!」

 

「なっ、アクセルシンクロだと!?」

 

 アクセルシンクロ自体は何度も見てきた紅蓮だが、まさか花蓮がそれを使うとは思わなかったのか、驚愕の声を上げる。

 

「まあ、『擬似』だかな。魔法カードによる特殊召喚のため、蘇生制限がかかるが・・・・・・まあ、それを帳消しにするほどのモンスターを出せばいいことだ。アルター・アクセルシンクロ! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】!】」

 

コズミック・ブレイザー・ドラゴン ☆12 シンクロ 攻撃力4000

 

 イヴとブラックローズが消えると、数泊置いて空を突き破り白銀の竜が飛翔した。

 

「なるほど、『召喚条件を無視してシンクロ召喚扱いで特殊召喚する』から、ソイツも出せるのか」

 

「ああ。良いカードだろう?」

 

 彼女を彩るように周囲を旋回するコズミックに、花蓮は得意気だ。

 

「まだ今はバトルフェイズ、コズミック・ブレイザー、追撃だっ!」

 

「いいぜ、食らってやるッ!」

 

灰村紅蓮

LP5600→1600

 

 コズミック・ブレイザーのブレスを受け、初期ライフの半分を持っていかれる。重い召喚条件故の効果と攻撃力だが、こうも簡単に出されると少々納得がいかない。

 

「これでターンエンド。さて兄よ、これをどうやって超える?」

 

 

灰村花蓮

LP2500 手札5

 

□□□□□

□□□□□

 コ □

□□□□□

□□□□□

 

灰村紅蓮

LP1600 手札3

 

コ:コズミック・ブレイザー・ドラゴン

 

 自身をターン終了時まで除外することで、召喚、特殊召喚、反転召喚、魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にして破壊、そして攻撃を無効にしバトルフェイズを終了させるというトンデモ効果を持ったコズミックに、どう対処しようかと紅蓮は思考する。

 

「まあ、引いてから考えるか・・・・・・」

 

 ここで【超融合】でも引けばモンスターをセットし発動、という芸当ができるのだが、生憎【超融合】も出すモンスターもデッキに入っていない。シャイニングドロー(カードの創造)でも出来れば可能なのだろうが、それで勝っても素直に喜べないだろう。

 閑話休題(それはともかく)

 

 ドローしたのは【エンシェント・リーフ】。さてどうしたものかと紅蓮は微妙な顔をする。

 

「その顔を見るに私のコズミック・ブレイザーを超えられないようだな! ふっ、兄に勝つのは久しぶりだな・・・・・・」

 

「おいおい、そのセリフは負けフラグだぜ?」

 

 紅蓮は強気な花蓮をニヒルな笑みと共に軽く煽るが、正直これは強がりだ。突破できないこともないが、そうした発動かなりリソースを使う。が、突破出来ればこのターンで勝ちだ、やるしかない。

 

「【レッド・スプリンター】を通常召喚、効果発動! 墓地の【レッド・リゾネーター】を特殊召喚するぜ」

 

「うむ、構わん」

 

レッド・スプリンター ☆4 攻撃力1700

 

レッド・リゾネーター ☆2 チューナー 守備力200

 

 赤い馬的なサムシングによって赤い悪魔が呼び出される。

 

「【レッド・リゾネーター】の効果、対象はコズミック・ブレイザーだ」

 

「むぅ。通しかあるまい」

 

 赤い悪魔が光り輝く白銀の竜に難癖付けるように周囲を彷徨き、その輝きの一部をライフに還元する。

 

灰村紅蓮

LP1600→5600

 

 花蓮としては余り通したくないのだが、ライフ的に【エンシェント・リーフ】はまだ使えない。ならば出てくるであろう【レッド・デーモン】を止めることを優先した。

 

「リゾネーターでスプリンターをチューニング、シンクロ召喚! 飛べ【レッド・ワイバーン】!」

 

レッド・ワイバーン ☆6 シンクロ 守備力2000

 

 赤いモンスター達から調律された赤い飛竜。紅蓮のエクストラデッキは真っ白だが同時に真っ赤でもある。鮮血で染まったのかと疑っておこう。

 

「ワイバーンの効果発動だ、攻撃力の一番高いモンスター、コズミック・ブレイザーを破壊する!」

 

「チッ、使わざるを得まい! 【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】の効果発動、自身を除外することで、その効果を無効にし破壊するっ!」

 

 飛竜が身体を回転させ、真空刃をコズミック・ブレイザーに飛ばすが、白銀の竜は流星となって迎え撃った。

 

「残り2500か・・・・・・やるしかねぇな。【復活の福音】を発動ッ! 蘇れオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ☆8 シンクロ 攻撃力3000

 

 大地を割って炎が吹き出し、そこから紅蓮魔竜が復活する。攻撃力は3000、花蓮のライフを削り取るには十分だ。

 

「【バトル・フェーダー】とかがなけりゃオレの勝ちだ! バトル、スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「むううぅ・・・・・・私の負けだー!」

 

灰村花蓮

LP2500→0

 

 クリムゾンヘルタイドによって吹き飛んだライフ。花蓮のデッキは展開力に振っているため、防御札が少ないのだ。

 

「おい花蓮、なんで【コズミック・ブレイザー・ドラゴン】出したターン、【ガーデン・ローズ・メイデン】の効果を使わなかったんだ? 【月華竜ブラック・ローズ】を出されていたら、オレは負けていたぜ?」

 

「・・・・・・そうか、しまったな。失念していた。コズミック・ブレイザーを出して満足してしまっていたらしい。私としたことが、情けない」

 

 デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消えると、紅蓮は花蓮に疑問をぶつける。花蓮は恥じらうように顔を赤くし背けながら、悔しそうに言った。『もしかしたら兄に勝てていたかもしれない』という事実が、より一層彼女の後悔を加させているのだろう。

 

「しかし兄よ。貴様も何だ、そのデュエルは。リンクモンスターを使っていないではないか」

 

 もし【レッド・ライジング・ドラゴン】ではなく【水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー】などを出していれば、花蓮は【ヴァレルロード・ドラゴン】などを警戒し【月華竜ブラック・ローズ】の効果を使わざるを得なかった。

 

「あー、入ってないんだよ、リンクモンスター」

 

「何だと!? 少なくする、というならまだわかるが、入れていない!? 貴様は、相手を舐めているのか!?」

 

 少し歯切れ悪く言った紅蓮に、花蓮は激昂する。下に見られることは、彼女にとって何よりの苦痛だ。

 

「いや、違ぇよ。自分磨きのためだ。『デュエル甲子園』の、せめて予選まではシンクロモンスターだけで勝てるようにしたい。それぐらい出来なきゃ、優勝なんて夢のまた夢だ」

 

 彼女の怒りを、紅蓮は否定する。彼は自分を縛ることで、更に強くなろうとしているのだ。

 

「・・・・・・そうか。だが、それは愚行だ。それでは戦術の幅を狭め、いざリンクモンスターを使う時に使いこなせるかどうか、わからないだろう」

 

 怒りを少し納め、だがそれでも否定する花蓮。紅蓮も、そのことはよくわかっている。

 

「まあ、そうだな。後は学校で『シンクロモンスターしか使わないデュエリスト』って有名になりゃ、デュエルする機会も増えるかと思ったんだが・・・・・・」

 

 今思えば、それも悪手だろう。それで対戦してリンクモンスターを使えば、相手から文句を言われるかもしれない。

 

「けど、だ。オレは試したいんだよ。シンクロモンスターだけで、どこまで行けるのか」

 

 ルールが変わり、リンク召喚が導入されたことによって、幾つものデッキが機能しなくなった。彼が使っていた【レッド・デーモン】はそこまで被害は大きくなかったが、それでも思う所はあった。

 

「これはオレの我儘だ。『デュエル甲子園』に出たい気持ちも本物だし、今のまま出て勝てるとは思ってない」

 

 だから、それまでは。今のデッキのままで闘うと、彼は真剣な瞳で言った。

 

「・・・・・・そうか。兄のことだ、これ以上私から言っても聞かないだろう」

 

 それはそれとして、と彼女は言葉を区切る。紅蓮が疑問符を浮かべて首を傾げるのとほぼ同時に、花蓮は紅蓮を睨んだ。

 

「『デュエル甲子園に出るつもりだ』などと、私は聞いていないが? 兄妹の間で隠し事はしない、という約束、忘れたとは言わせんぞ」

 

 それは、二人が兄妹(きょうだい)になった日の約束。その指摘に、紅蓮は少ししどろもどろになりながら答える。

 

「あ、いや・・・・・・まだ出れるって決まったワケじゃないし、それで出れなかったら格好悪いし・・・・・・」

 

「そうと知っていれば、私も色々手伝いが、出来たと言うものを・・・・・・兄のことだ、去年の出場者や対戦についてなど、興味のある部分しか見ていないのだろう?」

 

 花蓮の言葉が図星だったのか、う゛と鈍い声を出す紅蓮。花蓮の眉間の皺が3割増で深くなる。

 

「全く、仕方のない兄だな、兄は。やる気や熱意はあっても、自分がどうでもいいと判断した部分ではものぐさになるのだから」

 

 耳が痛い、と紅蓮は返すと、話は終わりだと言わんばかりにデュエルスペースを出た。




簡単なキャラクター紹介⑧

灰村花蓮
クスィーゼ西中学 二年
紅蓮の『妹』。兄のことを『兄』と呼び、紅蓮もまた彼女を『妹』と呼ぶ。これは彼らのちょっとした事情によるものだが、本編にそこまで関係ないので公開するかどうかは微妙。
基本怠惰でやりたいことしかしない主義。上から目線な態度も相まって、初対面の相手は不快に感じることが多い・・・・・・のだが。
調子に乗りやすいので扱いやすく、そして失敗した時は悔しそうな顔をし、孤立すると涙目になったりと庇護欲を掻き立てられるためかクラスでは人気者である。これが格差か。
【ブラックローズ・ドラゴン】や【シューティング・スター・ドラゴン・TG(テックジーナス)EX(エクスパンション)】など、自分の好きなモンスターを使って勝つためにデッキを組んでいる。実はまだもう一枚切り札があったりするのだが、御披露目はいつになるんだろうか。
身長は153、体重は(ブラック・ローズ・フレア)。女性陣は凶悪である。肩まである黒髪に黒目、少ない胸と凹凸のない身体だが、それすら魅力にするほどの美少女。だが性格が問題ありすぎて『彼女にしたいけどしたくない女子ランキング』では一位だった。どんなランキングだ。



追伸 ストーリーの展開上邪魔になる設定ができてしまったので、これまでの話に一部修正を加えました。

デュエル甲子園の出場人数 三人一組→一人

ご了承ください。

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