東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm. 作:時間ネコ
剣崎一真の変身に際し、妖夢の半霊が持っていた木箱が静かに光を灯した。
内に秘められていた10枚のラウズカード、ただ空虚な鎖が描かれただけの
如何なるアンデッドも封印されていない状態の『プロパーブランク』と呼ばれるラウズカードはスペードのスートに対応する
しかし──すでにアンデッドを封印し固有の絵柄を有しているのは、今はまだ三枚のみ。他のすべては封印の器となるべき空白でしかない。
ならばかつてと同じように──永久なる封印から逃れた、彼ら不死身の怪物を。この剣をもって封印するだけ。
たとえ異なる地平、妖夢の語った幻想郷という場所。冥界と呼ばれた浄土であっても。そこにアンデッドの恐怖があるのなら、安寧を奪う者がいるのなら──この
「…………っ!」
ライダーシステム第2号、ブレイドのスーツを纏った剣崎一真。蒼く装うこの鎧は、アンデッドとしての内なる力よりも剣崎自身の魂に相応しく輝く。
ブレイバックルに装填したチェンジビートル──スペードのエースたるラウズカードの力を借りることで、封印されたビートルアンデッドと剣崎一真の肉体を
人間とアンデッドを一時的に融合させることで、さらなる力を引き出してアンデッドと戦わせる。そのために、アンデッドと融合を果たす高い適性――『融合係数』を備えた剣崎は、ライダーシステムを開発した組織に選ばれた。
ヒトが地球を制した背景には、進化論で説明できない理由が存在する。その謎を究明するべく設立された『人類基盤史研究所』――通称『
カードに封印されたアンデッドを研究することで、ヒトが星を制した歴史、すなわち『人類基盤史』について調べていたが──
とある一人の研究員の独断によって、封印されていたアンデッドが解放されてしまった。組織はそれを再封印するべく、アンデッドの力を利用したライダーシステムを開発。当時研究員だった一人の青年と、外部からスカウトした剣崎一真をアンデッド再封印の任に就かせたのだ。
「うぇいっ!!」
覚悟を乗せた剣崎──ブレイドの剣が閃く。醒剣ブレイラウザーの刃が重く深く、忙しなく翅を震わせるローカストアンデッドの身体を斬りつけ、緑色の血を走らせる。
アンデッド封印という大任の真相は、組織が犯した過ちの尻拭いに過ぎない。その事実を知ったのは、組織を裏切ったはずの仲間──ライダーシステム第1号の適合者として選ばれた、剣崎が最も信頼する男の口からだった。
たとえ組織に利用されているだけだったとしても。剣崎は歩みを止めず。それはきっと、裏切り者と糾弾される覚悟を持って組織を離れた彼も同じだろう。
如何なる理由であれ、アンデッドは罪のない人間を襲っている。そしてそれらと戦うための力がここにある。故に、剣崎は。愛する人類のため、剣を振るう理由をこの胸に宿して。
「妖夢ちゃん! 早くここを離れるんだ!」
「何を言ってるんですか! 剣崎さんこそ休んでいてください!」
剣崎は醒剣ブレイラウザーをもって。妖夢は名刀、楼観剣をもって。二つの刃をかざして向かう怪物から視線を外すことなく、互いの身を案じて声を上げる。
電撃を放つディアーアンデッドから距離を取るのは得策ではないと判断し、妖夢は雪の大地を蹴って接近した。楼観剣の間合いに踏み入ると同時に、ディアーアンデッドの電撃を誘発させない近距離で戦闘を続ける。
ローカストアンデッドは剣崎の反応を
「せめて戦う力を奪うだけでも!」
近くにブレイラウザーの剣戟を聞き届け、目の前の怪物と向き合う妖夢。
相手が不死身の存在であることは分かっている。だが、先ほどの戦闘を見る限り、不死身といえどダメージは受けているはずだ。ならば、再び立ち上がる気力が消えるまで、できる限りの攻撃を続けるしかない。
左手に霊力を込めた光のカードを構築──疑似的なスペルカードをその手に出現させる。このカードに込めた力をもって、アンデッドの戦意を少しでも削るために。
「
緑色に湧き上がる霊力を楼観剣の刃に纏わせ、長大な霊力の刃と成して振り下ろす。発動された妖夢のスペルカード【 断命剣「冥想斬」 】は激しい斬撃を奏で、ディアーアンデッドの金色の双角を一部、叩き斬ってみせた。
紫電を纏う金角が緑色の血と共に雪の大地へ落ちる。痛みに悶えている様子のアンデッドを見ると、やはり命までは奪えなくとも大きな損傷を与えればその身を消耗させられるようだ。
「やった……!」
妖夢は確かな手応えに小さく笑みを零す。しかし決して油断せず、ディアーアンデッドが両手に具現させた、七支刀めいた金色の双剣を見逃すことなく、それが振り抜かれる直前に雪の大地を強く蹴って軽やかに後退。
距離を取れば再び電撃が飛んできてしまうかとも思ったが──どうやら角の一部が折れてしまったせいで、体内に生じた電流を上手く調整できなくなっているらしい。
不死身の特性こそあれど、ダメージの治癒にはそれなりの時間がかかる様子。かといって、このまま攻撃を続けても、相手が不死である限り完全に撃破することはできないだろう。
「おお……! 結構やるな……!」
ローカストアンデッドと対峙する剣崎は妖夢の剣
ライダーシステムを強化する目的で開発されたその装備は、今のブレイドにはない。本来ならば変身と同時にこの左腕に現れるはずのそれは、どうやらこの場所で取り戻したブレイバックルには備わっていないようだ。
仮にそれがあったとしても、今はほとんどのラウズカードを失っている状態。システムの起動に必要なカードも、システムの真の力を発揮させるためのカードも、今の剣崎は有しておらず。だが、それでもこの魂を、人を守る意思を──鞘に納めてやるつもりはない。
この手にあるアンデッドの力は今は三枚。変身に使っているスペードのエース──チェンジビートルを除いた二枚の力を使うべく、剣崎はブレイラウザーを左手に持ち替えた。
白銀の刀身を下に向けて逆手で持つ構えを取る。続けて右手でブレイラウザーのナックルガード部分を掴み、透明のカードホルダー『オープントレイ』を開く。
扇状に展開されたオープントレイの中にはリザードアンデッドとボアアンデッドを封じ込めたそれぞれ二枚のスペードのカード。その他に、先ほど取り戻したばかりの10枚のプロパーブランクが収納されていた。
剣崎と向かい合う二体のアンデッド、ローカストアンデッドとディアーアンデッドに反応し、空白の鎖を描いた二枚のプロパーブランクが微かに光る。
スペードの5とスペードの6――プロパーブランクは封印するべきアンデッドの
しかし、今はまだ封印できる状態ではない。まずはアンデッドを無力化すべく、剣崎はオープントレイからトカゲの絵柄が刻まれた一枚のラウズカードを手に取った。
リザードアンデッドが封印されたスペードの2『スラッシュリザード』を右手で取り出し、左手に逆手持ったブレイラウザーの刀身、読み込み口となっている根本の溝へと滑らせる。
『スラッシュ』
ブレイラウザーが奏でる電子音声と共に、ラウザーの基部に設けられた電子版、そこに刻まれた赤い数字が瞬き始めた。
5000と表記されていた数字は軽やかな音声を鳴らしつつ4600へ低下。右手のラウズカードを正面に掲げると、それは青白い光の
ブレイドの身に追加で融合したリザードアンデッドの力が一時的に発揮され、ブレイラウザーの切れ味をより鋭く硬く強化していった。
剣崎はオープントレイを閉じ、白く力強い光に染め上げられたブレイラウザーを再び右の順手に持ち替えるが──直後、ローカストアンデッドは雪を蹴り上げて高く跳び上がる。
「……っ! うぇいっ!!」
迫るローカストアンデッドの急降下蹴りを刀身で防ぐ。衝撃に少し後ずさったが、決して退くことなくブレイラウザーを横薙ぎに一閃。剣崎は目の前の怪物に対し、スラッシュリザードの効果で強化された斬撃【 リザードスラッシュ 】を見舞った。
スペードのカテゴリー2、リザードアンデッドの力は切断能力の強化。その能力を封印せしめたラウズカードを使って増大した切れ味による斬撃は、空気さえ容易く切り裂き剣圧を届かせるほどの切断力を備える。
正面から斬りつけられたローカストアンデッドは両腕を構えたが、イナゴの甲殻ではトカゲの刃を受け止められず、緑色の血を撒き散らした。
されど本来ならば胴体まで届いていたはずの剣圧が、今はローカストアンデッドの腹にさえ届いていない様子。かつての戦いにおいてはこの一撃をもって腹部を直接貫いたことで、かの怪物を封印できるほどに弱らせたのだが──
此度の戦いにおいてはリザードスラッシュの剣圧を見舞ってもその腕を斬り落とすことさえ叶わず。剣戟が浅い──というよりは、かつてよりも怪物の装甲が強化されているような。それに、先ほど受けた跳躍からの急降下蹴りも想定していたより重い衝撃だった。
「(前に戦ったときよりも、強くなってるのか……?)」
初めてローカストアンデッドと剣を交えたのは、剣崎がブレイバックルを受け取り、ブレイドとして戦い始めてまだ二ヶ月程度の頃。今ほどの戦闘技術も経験もなく、カテゴリー5に分類される下級アンデッドといえど苦戦は必至だった。
しかし、今は同じ相手を前にしても十分に戦えるだけの戦闘経験を積んでいる。それに加えてこの身は『冷酷な戦闘マシン』とまで謳われた最凶のアンデッド、ジョーカーと同等の存在と化しているのだ。湧き上がる闘争心を抑制しているとはいえ、人間であった頃よりも戦闘能力が落ちているはずはないと思いたい。
それとも、ジョーカーとなった自分が自分の身体を上手く動かせていないのか──
逡巡は刹那の間に。剣崎は、腕から緑色の血を滴らせるローカストアンデッドに対して追撃を仕掛けるべく、今度はブレイラウザーを正面へと突き出す。
その一撃は放つ剣気から気づかれていたらしい。強化されたままの刀身で放った二度目のリザードスラッシュは再び跳躍したローカストアンデッドの身体に当たることはなく、虚しく冷たい空気を穿つ。
突きの隙を埋める間もなく空を見上げる剣崎。
迫るローカストアンデッドのキックを斬り上げで迎撃しようとするものの、剣を持ち上げる前に胸部装甲に空中回し蹴りを受け、その衝撃によって剣崎は後方へと蹴り飛ばされてしまう。
「ぐぅ……っ!」
またしても緑色の心臓がドクンと高鳴る。――まずい。あまり戦いを長引かせてしまっては、この耳元で囁く運命の声に、戦いを促す悪魔の如き声に身を委ねてしまいそうになる。すぐに立ち上がり、剣崎は雪の大地を踏みしめた。
「きゃあっ!」
そこへ妖夢も吹き飛ばされる。片方の角を折られて電撃を使えないディアーアンデッドを微かに甘く見ていた節があった。そのせいで、自覚なき油断の隙を突かれてしまった。
七支刀めいた双剣の十字斬りを楼観剣で凌いだのはいいが、直後に放たれた正面への蹴りまでは防ぎ切れなかったのだ。
されど妖夢の剣技と弾幕、スペルカードによる片角の損失もあり、すでに相手のほうも全身に誤魔化しようのないダメージを負っているのが見て取れる。
まだまだ──と顔を歪めつつ立ち上がる妖夢。ブレイラウザーを構え直した剣崎は妖夢に心配の声をかけた。
大した痛手は負っていないようで、すぐさま楼観剣を構え直した妖夢を見て安心する。
「グ……ルゥオ……ッ!」
不死ゆえの生命力で強引に片角を再生しようとしているのか、ディアーアンデッドの頭部右側が微かに盛り上がり始めた。それを示唆するように、雄々しく突き立つ左の角と呼応して走る紫電が失われた角を再び生やそうとしている。
ふらつきながらも双剣を構え、妖夢に近づき歩もうとしている怪物に気づき、剣崎は妖夢の身を守るべく、未だリザードスラッシュの効果が残ったブレイラウザーを振り下ろした。
「はぁぁぁっ……うぇあっ!!」
空気を鋭く斬り裂き、舞い上がった白雪が剣圧の形を浮き上がらせる。風を寸断して突き進んだリザードスラッシュの刃がディアーアンデッドの身を裂き、その周囲におびただしい緑色の鮮血を飛び散らせた。
そのダメージがディアーアンデッドの最後の気力を断ち切ったのかもしれない。怪物は力なく双剣を手離し、仰向けに倒れ込むと同時、腰に装うアンデッドバックルがパキンと開く。黒き双蛇の円環、不死の意匠が囲う内側には『♠6』の
すぐさま右手のブレイラウザーを左手に持ち直し、先ほどと同じようにオープントレイを展開。並んだラウズカードの中からスペードの6に対応するプロパーブランクを抜き取る。そのままディアーアンデッドに向けてカードを鋭く放った。
空気を切って進むプロパーブランク♠6がディアーアンデッドの腹部に突き刺さるのを見届けると、アンデッドは淡い緑色の光と化してカードに吸い込まれていく。
プロパーブランクは対応するアンデッドを封印した『プライムベスタ』へと変化。スペードの6たるこの一枚はディアーアンデッドを宿す『サンダーディアー』と呼ばれるラウズカードとなってヘラジカの絵柄を映し出した。
サンダーディアーは先ほどの工程を逆再生するかのように剣崎の──ブレイドの手元へと戻っていく。カードを右手で掴み取った剣崎は紫電纏うヘラジカの絵柄へと視線を落とした。
「剣崎さんっ!」
妖夢が声を張り上げる。彼女の身を守ることを優先したせいで、死角のローカストアンデッドの行動に対処が遅れてしまったらしい。
イナゴの能力を有した驚異的な脚力で遥か高度へと跳び、背中の翅を震わせることで冥界の空を滑空するアンデッド。
ブレイラウザーに宿ったリザードアンデッドの能力、リザードスラッシュはすでに効果が切れてしまった様子。だが、この手にはまだ封印したアンデッドのカードが残っている。
『サンダー』
右手に持ったままのプライムベスタ、サンダーディアーをブライラウザーの溝に滑らせ読み込ませる。これまで何度も行ってきたカードの
軽やかな電子音声を奏で、ラウザーの表示が4600からさらに3400に低下。されどそれだけのAP、ラウザーが持ち得るカード使用限界のエネルギーを消費して得られる能力は消費AP相応の威力を誇る。
バチバチと青白い電流を纏わせ始めたブレイラウザーの雷鳴、雪原を照らす稲光はまさしくディアーアンデッドが放っていた電撃とまったく同じ力の証明であった。
「うぇいやっ!!」
上空のローカストアンデッド目掛けてブレイラウザーの切っ先を突き上げる。当然、その刃が滑空するイナゴのアンデッドにまで届くことはない。
しかし、ブレイラウザーが纏う【 ディアーサンダー 】の輝きが、青白い電流を生み出して空気を切り裂いていく。激しい雷鳴を轟かせ、瞬く間に絶縁破壊を成し得るだけの電圧をもって右脚を軸に上空から蹴り迫るローカストアンデッドの身に、ヘラジカの紫電を走らせていく。
「ギギギィィアアッ!!」
落雷に打たれたような衝撃がローカストアンデッドを襲う。さっきまで隣に立って戦っていたディアーアンデッドの力が、自らの身を焼き払ったことを困惑しているのか。ダメージに耐えかね落下すれど、雪は優しく受け止める。
ブレイラウザーから放たれたディアーサンダーの電撃によってローカストアンデッドの翅は激しく焼け
もはやイナゴの翅は飛翔や滑空のために動くことはないだろう。ヘラジカの角のように不死の生命力をもって再生されれば元の飛翔能力を取り戻すはずだが、剣崎一真と魂魄妖夢、二人の剣士を前にして悠長に再生力を高めるなどという大きな隙が見逃されるはずもない。
「これでとどめだ!!」
『タックル』
再びオープントレイからカードを引き抜き、ラウズする。今度はジョーカーの姿でリザードアンデッドと共に封印したボアアンデッド、イノシシの能力を封じ込めた『タックルボア』の力をブレイラウザーに
スペードの4を示すプライムベスタは使用者にイノシシの如き突進力を与える力。剣崎はブレイドとしてビートルアンデッドと融合した身体の内から、それとは別にボアアンデッドが備える野生を感じた。
ブレイラウザーの刀身を下に向け、右肩を前にして雪の大地を猪突猛進に駆け抜ける。
「うぇぇぇぇええええ─―――うぇっ!?」
気合いを込めた雄叫びと共にローカストアンデッドに【 ボアタックル 】の一撃を見舞おうとしたが、剣崎の突進はアンデッドの身体に当たることはなかった。
ディアーサンダーを受けてダメージを負った身体でなお、その脚力をもって再び空中へと跳び上がったローカストアンデッド。
さすがに焼かれた翅では空中に留まることはできないようで、素直に雪へと着地。剣崎を飛び越え、遥か背後の位置に立たれたことで予期せず妖夢への接近を許してしまった。
「…………っ!」
ディアーアンデッドに蹴り飛ばされた痛みがまだ残っている様子の妖夢。ダメージはさほどでもないが、身体が軋むほどの衝撃ではあった。
楼観剣を構える腕が震える。まるで戦えないというほどではない。深手を負った怪物を戦闘不能にすることはできるはず。
イナゴを思わせる強靭な右脚が迫り来る。弾幕ごっこに慣れた妖夢はそれを視認することができたが、咄嗟に楼観剣を打ちつけて防ぐことしかできず。
妖怪の肉さえ容易く切り裂くこの楼観剣をもってしても、霊力を込めていなければローカストアンデッドの右脚の装甲を傷つけるのがやっとだが、それでも己が身を守ることはできる。
「お願い、半霊!」
妖夢の呼びかけに応え、冥界の空気の中を飛び進む彼女の半霊。質量を持つ霊的エネルギーの塊たるそれは渾身の力で自らに霊力を込め、ローカストアンデッドの装甲の少ない腹部に突っ込んでいった。
自身の分け身たる半霊を疑似的な使い魔と成して突撃させ、攻撃手段と成す。かつては永夜異変の解決に赴いた際に重宝した【 半幽霊 】の技が思わぬ形で役に立った。
「しまった……! 妖夢ちゃん、大丈夫か!?」
「ええ、この程度なら問題ないです!」
ボアタックルを避けられたことで体勢を崩した剣崎が声を上げる。妖夢から見ればブレイドの姿はローカストアンデッドの向こう側。しかし、それはかの怪物を挟み撃ちできる立ち位置になったとも見ることができる。
半霊の突進で妖夢と距離を開けられたローカストアンデッド。自らの腹を押し退かせる霊体に苛立ったのか、アンデッドは半霊の身に荒々しく爪を立てた。
己が半身を乱雑に掴まれ、妖夢は痛みに顔を歪める。
この痛みは半霊との繋がりの証明、もう一人の自分自身と共に在る証拠。精神と感覚を共有する霊体、それは魂という急所を常に表出させるに等しい最大の弱点とも言えるが──
「グッ……グォア!!」
同時にその存在は、半人半霊である妖夢しか持ち得ぬ最大の武器でもあった。
半霊から不意に放たれた霊力の剣閃、【
人間でありながら人間にあらず。半人半霊という存在は、人間と妖怪のどちらにも立つことができる曖昧な種族。それは人間の身でアンデッドと化した剣崎一真も同じなのかもしれない。
「剣崎さん、この一撃で決めます!」
妖夢は六道怪奇によって損傷した腹部を押さえ苦しむローカストアンデッドを警戒しつつ、怪物の背後にてブレイラウザーを構え直した剣崎へと告げる。
ローカストアンデッドの隙を見た半霊はふわりと漂い再び妖夢のもとへ。妖夢は自身の霊力からなる光の札を右手に具現。
疑似的なスペルカードとして構築したそれを掲げ、束ねる霊力をその発動に備えた。
「……分かった! 君の動きに合わせる!」
妖夢の手の中で光の札が弾ける。その光景をブレイドの複眼で捉えた剣崎は、ラウズカードとは異なるカードの輝きの意味を知らずとも答えた。
先ほども使用したスペードの2のプライムベスタ、スラッシュリザードをブレイラウザーのオープントレイから抜き、先ほどと同じ動作でブレイラウザーの刀身の溝にラウズする。
『スラッシュ』
変わらず無機質な電子音声を響かせる剣崎一真のブレイラウザー。表示された残存エネルギーはさらに低下し、それに対応するようにブレイラウザーにトカゲの力が満ちる。
「
研ぎ澄まされた霊力によって、楼観剣の刃に付着した緑色の血がするりと落ちた。妖夢の声には幽かな淀みもなく、ただ静かに力強く。
妖夢の楼観剣には湧き上がる霊力が勇気となって輝く。剣崎のブレイラウザーには再び発動されたスラッシュリザードの効果が運命を切り拓く誇りとなって光を放つ。
正面と背後を同時に警戒するローカストアンデッドは腹から伝う緑色の血で足元の雪を怨嗟と染め。狂いなく己が身を貫く闘志、二人の剣士の眼光に、果たすべき『不死なる戦い』の結末を夢幻の楔と垣間見た。
楼観剣の鞘を自らの左腰へと下ろし、刃を収めて構える妖夢。腰を低く落とした独特の構えは、幼き頃に祖父から学んだ魂魄家の流派を切り拓くもの。
一歩、雪を踏みしめ前へ。力強く踏み込み、妖夢は左手で持った鞘と右手で持った柄を滑らせる。鞘走る一刀、妖夢が翔ける閃光の如き居合と共に、楼観剣の刃が月の光を返した。
「やぁぁぁああっ!!」
「うぇあいっ!!」
刹那の一撃。二振りの刀が互いに駆け抜け、緑色の血を舞い上げる。ローカストアンデッドは妖夢の放った【 人符「現世斬」 】と剣崎の放ったリザードスラッシュをすれ違い様に斬り受け、二人の背中に己が鮮血の飛沫を見届けた。
どさり、と。雪の大地に、イナゴの能力を有したアンデッドが倒れ伏す。
ローカストアンデッドのアンデッドバックルが割れる音。振り返った妖夢はその事実をその目で確かめると同時、楼観剣を鞘に納め、冷たく冴える冬の夜空に
「剣崎さん……お願いします」
同じく振り返った剣崎と目が合う。妖夢の言葉に小さく頷いた剣崎は、ブレイラウザーのオープントレイから微かに輝く一枚のプロパーブランクを引き抜いた。
仰向けに倒れ伏したローカストアンデッドに投げるは、かの怪物が腰に開くアンデッドバックルの中の象徴、スペードの5と同じもの。回転しながら風を切って進むプロパーブランク♠5は、怪物の腹に突き刺さる。
淡い緑色の光となって、ローカストアンデッドはラウズカードに封印された。イナゴの絵柄を宿したプライムベスタ『キックローカスト』として、それは再び剣崎の手元へと飛来する。
「…………」
ブレイドの赤い複眼が、ラウズカードとなったローカストアンデッドの絵柄に視線を落とす。かつての出来事を脳裏に思い浮かべ、剣崎は再び仲間のいない状況でアンデッドと戦うことになってしまった運命を呪うことしかできなかった。
オープントレイにカードを戻してトレイを畳む。ブレイラウザーを左腰のホルスターに差し戻すと、剣崎はブレイバックルのターンアップハンドルを再び引き、スペードの意匠が施されたパネルを裏返す。
再び現れたカブトムシのカード。スペードのエースたるチェンジビートルの絵柄。バックルからカードを引き抜くと、剣崎の正面に投影された青い光の帳──オリハルコンエレメントが彼の身を通過。ブレイドのスーツは光と分解され、ブレイバックルへと戻った。
生身の姿に戻った剣崎の肌に突き刺さる風。不死の身体といえど、冥界に吹き込む冬の風は剣崎の体温を容赦なく奪っていく。
それ以上に、無関係の少女を彼らと戦わせた事実に──心がどこか凍てつくようだ。
「……ああ、そう……だよな。……説明、しなくちゃだよな」
渇いた笑いを零す。妖夢の迷える視線へ返す言葉に、剣崎らしい力強さはない。
腰から取り外したブレイバックルと、バックルから引き抜いたチェンジビートルをボロボロの衣服に、汚れたBOARD職員制服の懐へとしまって。
ローカストアンデッドが残した緑の血を隔てて向き合う剣崎と妖夢。二人は互いに、知らないという罪を、知りすぎるという罠を。運命を切り拓くために。互いの視線に答えを求めた。
白玉楼座敷、夜。二体のアンデッドとの戦いからさほども時間は経っていないが、月の光が雲に隠れたせいで先ほどよりも夜の闇が深い。されどそこに漂う白き幽霊たちがぼんやりと闇夜を照らしており、この世ならざる青白い光が白玉楼の庭園を儚げに染めている。
剣崎一真はボロボロだったBOARD職員制服から新しい自前の現代衣服へと着替えていた。彼らが知る由もないが、五代雄介や津上翔一、城戸真司や乾巧らの服と同様に、八雲紫が元の世界から調達したもの。
白玉楼の現当主――西行寺幽々子に振る舞う料理の腕前を有した妖夢の厚意にて、剣崎はすでに数ヶ月ぶりとも言える人間としての食事を終えている。
冥界のものを口にすることは古来より『
アンデッドとなって以来は食事も睡眠も生物としての命を繋ぐためのものではなかったが故に、自分でも気づかぬうちに軽視していたらしい。妖夢は人間の食事が不死の生物となった剣崎の口に合うか不安だったようだが、亡霊の舌を唸らせる腕前は不死者にも通じたようだ。
「…………」
座敷の座卓を挟んで向き合う剣崎と妖夢。剣崎の瞳は仲間との別れと友との別れ、運命に振るい続けた精神の摩耗で切れ味を落としている様子。
されど、真摯に向かう妖夢の視線は、青く鋭くどこまでも無垢に研ぎ澄まされている。剣崎はそこに、剣士としての誇りを見た。
かつては戦えないすべての人々と共に在るために、剣を持たぬ彼らに代わり、自らが彼らの剣となって愛する人々を守る、戦えないすべての人のために戦うと誓った。
だが、妖夢は『戦えないすべての人』には含まれないのだ。自ら剣を振るってアンデッドに立ち向かう覚悟を持ち、あまつさえ殺すことさえ不可能な不死の怪物たちにも臆さず無力化しようと諦めない。
剣崎が妖夢に見た眼差しは、まだブレイドとなったばかりの頃の自分を思わせる。
曇りなく真っ直ぐな、誇りに満ちた切っ先。すぐに砕けてしまいそうな、張り詰めた刃金。きっとそれは、かつての剣崎一真と同様に。無邪気に人類の平和のためと言えるような愚直な素直さを秘めているのだろう。
同時に、剣崎はその揺るぎない瞳の中に──運命そのものに立ち向かえる強さを見た。
「……アンデッド。もう知ってると思うけど、あいつらは不死身の怪物だ」
俯きがちに言葉を紡ぐ剣崎の言葉に、妖夢は息を飲む。その名の通り不死の身体を持つ彼らアンデッドを、生物として殺すことは決してできない。
彼らを真の意味で無力化するには、太古より続く儀式──ラウズカードへの封印が不可欠と言える。本来は太古の地層から発掘された52枚のラウズカード、彼らはそこから解放されているため、あるべき場所に再び封じるために。
太古の時代。人類がまだ地球の支配権を持たぬ遥かなる一万年前。地球が有するすべての生物種たちは、この地球の支配権を手に入れるための、大いなる戦いを繰り広げていた。
一万年周期で開催される『バトルファイト』と呼ばれる不死なる戦いの儀。各生物の代表として選ばれた53体のアンデッドによる、一体の勝ち残りを懸けた生存競争。最後の勝利者となった者には、自らが司る種族をこの星に繁栄させる権利と、あらゆる望みを一つだけ叶えるほどの万能の力が与えられる。
悠久の時を超えて現代まで受け継がれ続けてきた星の儀式、バトルファイト──それらは地球に存在する生物たちの『より優れた種に進化したい』という想いから生まれた、地球という星が持つ大いなるシステムによって仕組まれたもの。
そこに善意や悪意などという思惑はなく、ただすべての生物の共通理念により、太古から続く聖戦、種の繁栄と星の支配権を勝ち得るためのバトルファイトは続いていた。
「アンデッドに……ラウズカード……それに……バトルファイト……? ですか……??」
顔を上げた剣崎の視線が過去を想起し鋭く閃く。それに反比例するように、あまりに壮大な物語を聞かされて混乱気味な妖夢の青い瞳が、俯きがちに光を廻す。
妖夢の理解を示す呟きは力なく、不安そうな瞳にはどこか迷いの色を帯びていた。
アンデッドという存在は、不死身の怪物であると共に、地球に存在する生物の始祖となった怪物でもある。
一万年前の戦いにおいて勝ち残ったのは、全人類の祖先たる一体。ヒトの祖たる『ヒューマンアンデッド』という存在。バトルファイトに勝利し、彼は望みを叶えて封印された。彼の勝利により、この地球には彼が司る『人類』という種が繁栄したのだ。
もしカブトムシの祖たるビートルアンデッドが勝利していれば、地球はカブトムシが支配する星となり、トカゲの祖たるリザードアンデッドが勝利すれば、地球はトカゲによって支配された星となっていただろう。
しかし、53体のアンデッドのうち、如何なる生物の祖でもない存在──『ジョーカー』が勝ち残ってしまった場合は別である。
自らが司る生物を持たないジョーカーはバトルファイトを円滑に進めるための舞台装置に過ぎず、ジョーカーが勝ち残ったところで星の支配者は決まらない。それどころか本人の意思には関係なく、バトルファイトを管理する『統制者』と呼ばれるシステムによって、地球上に存在するあらゆる生物──既存の生態系はリセットされてしまう。
すべての生物にとって、ジョーカーは種を滅ぼす死神でしかない。それは人間にとっても同様である。だが、現代に蘇ったアンデッドたちによる現代のバトルファイト、西暦2004年から2005年までに起こった戦いにおいて、ジョーカーには変化が訪れていた。
現代の戦いで、ジョーカーは一万年前と同様に数々のアンデッドを手にかけ、不死の身をその能力でもって封印してきた。その過程で出会った一体、一万年前の勝利者であるヒューマンアンデッドを封印したとき、ジョーカーは封印したラウズカードからヒューマンアンデッドの──人の心を知った。
ヒトという生物は奇妙な心を持っている。ジョーカーはその干渉により、戦い続けるだけの己を虚しく思い始め、あらゆるアンデッドと融合してその姿と力を得るというジョーカーの特性をもってして、ヒューマンアンデッドの姿を──『人間』という姿を借り受けた。
人間の姿と心を得たジョーカーは再び元の姿に戻ることを厭い、度重なる本能の慟哭に苦しめられながらも、やがて人間として生き、剣崎一真というかけがえのない友と、多くの仲間を手に入れることができた。
そして彼らは共に戦い、剣崎と仲間たちは人の姿のジョーカーと共にアンデッドから人々を守り抜き。当初はジョーカーという存在がもたらす結末からライダーたちの輪に受け入れられることはなかったが、剣崎の導きにより、彼らは仲間として互いの信頼に至る。
剣崎の記憶における一年ほど前の出来事、彼が生きてきた『ブレイドの世界』において発生した、人類にとって二度目のバトルファイトは──全生物種の意思によって再開された、本来のバトルファイトではなかった。
西暦2001年に解放されたアンデッドと、BOARDの理事長だった男によって恣意的に捻じ曲げられてしまった──現代の戦い、偽りのバトルファイト。
男は自らが造り出した『人造アンデッド』となり、バトルファイトの参加権を得ることでこの星の支配権を手に入れようとしたが──とあるアンデッドの反逆により、その目論みは潰えることとなる。
そして剣崎の仲間が友を信じる剣崎を信じ、最後の一体となるそのアンデッドを封印。世界にはたった一体、如何なる生物の始祖でもないジョーカーが勝ち残ることとなった。
「もし本当にあいつを救う方法がないなら……俺の手で封印してやるつもりだったんだ」
ジョーカーの勝利。統制者の定義によってバトルファイトは決着し、ルールに従って生態系のリセット、世界の破滅は始まった。
かけがえのない友を封印してしまうことを拒めば、バトルファイトの決着、この星のシステムによって地球上のあらゆる生物が死滅する。だが世界を救うことを選べば、ようやく人の心を得たジョーカーは再び空虚な封印の鎖に自由を奪われ、二度と剣崎や仲間たちと出会うことはなくなるだろう。
友か世界か。選ぶことができるのは一つだけだった。本来ならば、どちらか一方しか救うことはできないはずだった。
剣崎は深く深く悩み抜き、破滅の使者たちを絶えず退け続け──やがて答えを出した。
「……ええっと……つまり……自分がアンデッドになってしまえばいい……と?」
先ほどの戦いで傷ついた剣崎の腕から、人ならざる緑色の血が垂れている。妖夢はその様子を見て小さく問う。剣崎は妖夢としっかり向き合い、悔いなき瞳で頷いた。
「…………」
ライダーシステムは人間とアンデッドを融合させるもの。それはアンデッドと融合する力を持つジョーカーの能力を疑似的に再現した技術だ。
そしてアンデッドとの高い融合係数を持つ剣崎は、戦いの中でさらに融合係数を高めていき、やがてはジョーカーのそれに匹敵するほどの数値へと近づいていく。
過剰に高まった融合係数で変身を続ければやがては54番目のアンデッド──『第二のジョーカー』となってしまうという危険性があったのだが──
剣崎はそれを逆手に取り、自らジョーカーと成り果てることでバトルファイトの参加権を獲得。残るアンデッドが二体という状況を作り出し、バトルファイトを強制的に再開させることで世界の滅びを回避した。
戦いの続行を強いる統制者に対し、剣崎は友との──ジョーカーとの戦いを拒絶。本能に逆らい続けるべく、友との永遠の別れによって、友と世界の両方を救うことができた。
「でも、それじゃあ……剣崎さんは……!」
「あいつと会えないのは寂しいけどさ。今でもどこかにいるってだけで、救われるんだ。封印しちゃったら、あいつがどこかで笑顔でいるって、考えることもできないもんな……」
アンデッドとしての本能、バトルファイトという地球のルール。統制者という星の法則が定めた運命と永遠に戦い続ける道を選んだ。
人間としての生き方を過去の彼方に迷いと捨て──不老不死の怪物と成り果ててまで。
「でも、俺は運命に負けたくない。きっと、いつかどこか、遠い場所で。あいつとまた会えるって信じてるんだ」
小さく笑って答える剣崎。後悔さえ残さず歩む道に、恐れるものは何もないはず。彼が抱いた誇りの中に、妖夢は永遠という名の心の強さを見ることができた気がした。
「それが……剣崎さんの覚悟……私には……」
目の前の男は──想像を絶するほどの覚悟を背負っている。妖夢の思考は迷いと共に。自分には人を守らなければいけないという想いで自己を捨てるほどの強さはない。剣士としても未熟なこの身、ただ一人で戦うことさえ不安で押し潰されそうになったほどだ。
妖夢は半分人間としての使命感で、これまで多くの異変を解決してきた。人間として妖怪を討つ覚悟、主たる幽々子を守り抜く心構えは十分にあるはず。それでも、見ず知らずの他人を守る理由を剣に求めてしまう。
だが、剣崎が自らの運命を友に捧げてまで剣と生きたのは、彼が誰よりも強い使命感と義務感を持っていたからではなく。ただ、多くの人々を愛していたからに過ぎなかった。
人類という種そのものを──彼は愛している。それが剣崎一真の剣を振るう理由。妖夢も頭ではその尊さを理解しているが、魂で受け止めることができない。生きていることと死んでいることの意味に、自分自身を捧げる覚悟ができない。
不死とは、生きても死んでもいないということだ。対して妖夢のような半人半霊は正しく『生きても死んでもいる』状態と言える。どっちつかずの自分自身、迷いに刃を濡らして曇るは必然であろうか。
妖夢は今一度、師の在り方を思い出す。剣崎一真の在り方は祖父に似ている。まるで己の重さを天秤から外してしまったかのような、どこか空虚で仙人じみた魂──
否、師である魂魄妖忌はそうであったかもしれない。されど剣崎の想いはきっと違う。彼は運命に負けたくないと言った。故に選んだのだ。たとえ永遠を賭しても、運命と戦う道を。
「剣崎さんの部屋はあちらに用意してありますので、しばらく
「でも……」
「私なら心配いりません。こう見えても、妖怪退治を務める程度の腕はあるので!」
剣崎の憂いを一刀のもと断ち切る。妖夢が背中に携える楼観剣の柄を指さすと同時に、彼女の傍に控えていた半霊がぴょんと軽やかに飛び跳ねた。
妖夢も剣崎と共に戦う覚悟を決めた様子。剣崎にとっては望ましくないが、彼女も自分と同じく、人を愛していると。肩を並べて剣を掲げた剣士の心は、どこか小さな繋がりを見出すのに十分な時間だった。
一瞬の迷いの後、剣崎は再び小さな笑顔を見せる。戦士として仮面を装った日の自分によく似た無垢な少女。妖夢の誇りを見ていると、大切なものを失わずに済む気がした。
自分のせいで誰かが傷つくなら。たとえ一人でも彼女が戦うなら。そうならないように傍に居て守り抜けばいい。
あのとき友に語った、自分の言葉を思い出す。彼女は友が守ろうとした小さな少女よりは強く、怪物たちとも戦えるかもしれないが──
それでも剣崎にとってはかけがえのない、全ての命であることに変わりはないのだから。
ボアタックルは外れるもの。ただし、トライアルEが擬態した偽物のブレイドは除く。