東方逢魔幻譚 ~ Never Cross Phantasm.   作:時間ネコ

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第74話 葛藤

 十年紀を迎えた時空。境界は闇の帳を落とし、揺らめく因果の彼方には第一の時空たるクウガの世界を映し出しては彼らにとって居心地の良い薄暗く不気味な場所を形作る。

 ディケイドの世界でもある、クウガの座標。その領域で、暴力と血を尊ぶ誇りを表し。禍々しく錆びた腕輪を備えるタトゥの人物たちが、薔薇に染むラ・バルバ・デの人間態と向き合った。

 

「今回のゲゲルは、妖怪の力を奪え。分かっているな。……リントはまだ殺すな」

 

 白く可憐な薔薇のタトゥを額に刻んだ女は、威厳のある声で告げる。黒衣に真紅の首飾り。漂う薔薇の香りは、同族さえも威圧するほどの圧倒的な力の示唆。

 目の前に立つ二人の人物はどちらも等しく濡れた肌に磯臭さを感じさせる水棲の遺伝子。一人は網目状の衣服と奇抜なピアスが目立つ短髪の男。二の腕に刻まれた黒のタトゥは、流れる川を血に染める淡水の虐殺者、人の肉でさえ食い千切るとされる魚、獰猛なるピラニアの意匠。

 もう一人は透き通るような白い衣服に白く異様な三角の帽子を被った男だ。顔に黒く触腕が垂れたようなフェイスペイントを施し、己がタトゥに誇るは深く暗き海より獲物を狙う白銀の殺戮者、イカの如き不気味なる冴え。

 

 未確認生命体第23号、ピラニア種怪人『メ・ビラン・ギ』の人間態は不気味に笑う。同じく未確認生命体第21号、イカ種怪人『メ・ギイガ・ギ』の人間態も薄暗き殺意を乗せた頭足類めいた目を動かし、どちらも同じくラ・バルバ・デの指輪から腹部へと力の供給を受けた。

 彼らが腹に宿す魔石ゲブロンを活性化させるというゲゲルリングからのエネルギー供給。それはグロンギたちにとってゲゲルの開始を意味する儀式でもあり、同時に、死へのカウントダウン。

 

 今回も 張り合いのある ゲゲルに なりそうだな

「ボン バギロ ザシガ ギンガス バシゴ グザバビ ゲゲル」

 

 どんな ゲゲルでも 構わないが クウガは 殺して いいのか?

「ゾンバ バラ パバギグ ゼロ ゲゲル ボソギデ ギギンバパ クウガ?」

 

 左手首に装う新たなグゼパを振り鳴らし、勾玉がぶつかる小気味良い音にゲゲルの昂りを見せるメ・ビラン・ギの人間態。ヒトの身でありながら殺意に吊り上がった口角から覗く歯牙は、どことなく肉食の淡水魚、その血に飢えた大顎の鋭さを思わせるほど。

 同様に己が左手首に視線を落とし、これより行われるメのゲゲル、妖怪の力を奪い、ある存在を復活させるためズから引き継いだ『聖なるゲゲル』に条件を問う人間態の男。

 

 彼もまたメ集団の中ではかなりの実力者と言える男だ。一度はクウガの攻撃を完封に等しい形で凌ぎ切り、勝利を収めていると言っていい。メ・ギイガ・ギの人間態は、冷たく暗い殺意を込めた表情でクウガの姿を思い浮かべる。

 彼の怪人態の姿、魔石ゲブロンの力で烏賊(イカ)のような異形の怪物となった彼の軟体の身体は衝撃に強く、硬く鋭い『剣』でもなければ切り裂けないという柔軟性を持っているのだが──

 不屈の軟体でさえもあの戦士は大地を切り裂く巨人の(つるぎ)で貫き穿ち、この身を殺したのだ。

 

 お前たちに できるのか? 殺せる ものなら 好きにしろ

「ゴラ ゲダヂビ ゼビ スンバ? ボソゲス ロボバサ グビビギソ」

 

 冷たく無情なる表情で二人を見やるはラ・バルバ・デの人間態たる女性。神秘的な薔薇の香りを漂わせ、ゲゲルリングの力で魔石ゲブロンを活性化させた二人がオーロラへ消えるのを見る。

 

 バルバ! 俺は いつ 奴らを狩れる!? いつまで 待てばいい!?

「バルバ! ゴセパ ギヅ ジャヅ サゾ バセス!? ギヅラゼ ラデダ ギギ!?」

 

 虚ろに歪む空間を掻き分けて現れたのは、屈強な体格に見合う厳つい顔つきを激しく怒りに歪めた男。鍛え抜かれた筋肉は鋼の如く張り詰めているが、ただ強靭な筋肉を纏う戦士というよりは、どこか本能のままに己を鍛え上げたような原始的で野性的な佇まい。

 逆立った黒髪に、顔に施した黒い色。剥き出しの上半身に装う鎖などの装飾品は、さながら彼の持つゲブロンの誇りを真っ直ぐに表すかのよう。

 

 未確認生命体第22号、サイ種怪人である『ズ・ザイン・ダ』の人間態は燻る苛立ちをラ・バルバ・デへの不満の言葉としてぶつけた。ゲゲルの資格を有する最下級、そのズ集団の中では最強と称される立ち位置の彼だが、グロンギという種族全体での地位はあまり高くない。

 すでにゲゲルの進行がメ集団を軸とする段階になってなお、未だ自分の番がやってこないことに痺れを切らし、やはりかつてと同じように自分のゲゲルの順番を催促するが、彼は薄々気づいているのだ。メ集団のゲゲルが進行しつつある今、もはやズ集団に属する己の順番が回ってくることはもうないのだと。

 

 ズ・ザイン・ダの人間態を見やるラ・バルバ・デの人間態の目は冷たい。同じズの男であるズ・ゴオマ・グを見やる目と同じ、侮蔑とも憐憫ともつかぬ無機質な目。彼はズ・グムン・バやズ・ゴオマ・グとは違い、勝手なゲゲルで計画を乱すことはしなかったのだが──

 それでも『ルールはルールだ』と。クウガや他の仮面の戦士によってズ集団のグロンギは半数が殺害され、すでにズのゲゲルはこれ以上の進展が見込めない。ゆえに、ラ・バルバ・デはゲゲルの監督役であるラ集団の権限でズのゲゲルを終了。メ集団のルールである規定の制限時間内に規定の人数を殺すゲゲルへと移行した。

 

 その決定もやはりかつてと同様である。ズ・ザイン・ダも理屈では分かっているが、暴力と血と破壊を求める本能が納得していない。ゲゲルもなく過ごす余生に意味はないのだ。

 怒りに震える男。その背後に再び時空を超えるオーロラが浮かび、また別の男が姿を見せる。

 

「今は俺たちメのゲゲルだ。ズにできることはなぁい」

 

 よく回る舌で達者な日本語を述べ立てたのは、遊ばせた金髪に額にかけたゴーグル、猫のヒゲめいたフェイスペイントと黒い唇。奇抜なデザインのタンクトップで己を飾る不気味ながらも軽薄な印象を与える青年だ。

 二の腕には魔石ゲブロンの性質を表すグロンギ特有のタトゥ。彼の場合は自分の姿を周囲に溶け込ませ違和感なく存在することができる不可視の暗殺者、カメレオンの意匠。

 

 未確認生命体第31号と称された彼の名前はカメレオン種怪人『ズ・ガルメ・レ』──否。すでに過去のゲゲルを達成し、ズを表す赤銅色のゲドルードからメを表す白銀色のゲドルードへ昇格することができた極めて数少ない成功者であり、今は『メ・ガルメ・レ』を名乗る存在であった。

 

「…………?」

 

 メ・ガルメ・レの人間態が放つ挑発的な雰囲気を感じ取りながらも、ズ・ザイン・ダの人間態はリントたちの言葉をろくに学んでこなかったため、彼の発した言葉の意味が分からない。

 かつては同じズでありながら、明確に自分たちを見下すメ・ガルメ・レへと眉をひそめる怒りの表情を見せつつも、日本語の分からぬズ・ザイン・ダは返答に詰まった。

 

 鼻を鳴らして笑うメ・ガルメ・レにはもはや過去の同族であるズ集団に対する哀れみも仲間意識もない。彼が見ているのは、ただメ集団としての己が往く栄光だけ。やがてメのゲゲルをも終え、白銀のゲドルードをも超えた次なるゲドルード──『ン』に次ぐ地位へと至るべき道だけだ。

 

 ズの出番は ないと言ったんだ いい加減 リントの言葉を覚えろ

「ズン ゼダンパ バギド ギダダンザ ギギ バゲン ゴド ゲソゾ ボドダン リント」

 

 カメレオンのように長く自在な舌でもって今度はグロンギ語で述べる。彼にとっては日本語もグロンギ語も等しく操れる当たり前の言語に過ぎない。自ら『舌から生まれた』と豪語するほどに、メ・ガルメ・レは狩るべき獲物の言語さえ流暢に話してみせたのだ。

 その目的もリントたちを弄びたいがためのもの。彼らに馴染み深い日本語であえて殺人の理由を語り、あえて次の殺人場所を明かすことで単調なゲゲルに刺激を加えたこともあった。

 

 そしてその性格は同族相手でも変わらない。ズ・ザイン・ダにとって理解できるグロンギ語でもあえて同様に挑発的な言葉を、彼を怒らせる目的でわざと告げる。彼に伝わらないと分かっていながら最初に日本語で話していた理由も同じ。徹底的に相手を見下したいがための優位性である。

 

 黙れ! まだ ゴオマと メビオが 死んでいない はずだ! あいつらは どうした!?

「ザラセ! ラザ ギンゼ ギバギ ザズザグ ゴオマ ド メビオ! ガギ ヅサパ ゾグギダ!?」

 

 煽るような言葉に憤りを見せるズ・ザイン・ダ。彼の言葉通り、まだズ集団は全滅したわけではないはずだ。愚直さと野心ゆえにラに付き従っているズ・ゴオマ・グと、殺されたズ・バヅー・バと同時にゲゲルを開始したズ・メビオ・ダ。あの二人はまだ生きているはず。

 本来ならば、グロンギのゲゲルは常に一人ずつ、プレイヤー(ムセギジャジャ)に選ばれた者が行い、援護や邪魔は許されない。古代においてもかつてにおいても、それは変わらず。グロンギの掟として二名以上が同時に行うことはなかった。

 

 ──だが、此度のゲゲルは意味が違う。従来通りラ集団が管轄するものの、これは単なる殺戮の果てに力を見るだけの遊戯ではない。ヌ集団の技術によって調整された新たなグゼパを使い、幻想郷に生きる神秘的な存在からエネルギーを奪い取り、()の復活を求める聖なる儀式だ。

 二名や三名、それ以上の人数で同時に狩りを行う場合もある。速度と効率を求め、より多くのエネルギーを回収しては、あの組織──双頭の大鷲へと捧げるために。

 

 ンの復活はグロンギにとって急務。最果ての存在たる族長が不在では、ゲゲルそのものに意味がなくなる。彼らにとってゲゲルとは自らの強さを証明する弱き者の虐殺という遊びだけではない。グロンギという種族の存在目的でもある、互いが互いを殺害し、究極の闇へと至るための選抜。

 

 お前が 知って どうする?

「ゴラゲグ ギデデ ゾググス?」

 

 やはり嘲るように顔を反らして見下すように目を剥く。メ・ガルメ・レは黒い唇を舐めるように舌を見せ、腹に宿した魔石ゲブロンの力の片鱗を滲ませると、自らの腰に怪人態の様相の一部たる白銀色のゲドルードを出現させてみせた。

 揺らめく時空より差し照らす月の光を返し、妖しく輝く白銀の腰帯。ズのゲゲルを達成した者の証であるそれを見ては、ズ・ザイン・ダは力強く拳を握りしめ、彼に向けて再び怒りをぶつける。

 

 そのベルトは お前に 相応しくない! それは この ズ・ザイン・ダ にこそ!!

「ゴン デスドパ ゴラゲビ ズガ パギブ バギ! ゴセパ ビボゴ ボン ズ・ザイン・ダ!!」

 

 その怒りが魔石ゲブロンの力を引き出すのだろう。殺意に疼くサイのタトゥを掻きむしるように押さえつけると、ただでさえ力強い二の腕の筋肉がさらに硬く膨れ上がる。

 人間態のままでも十分に人を殴り殺せそうな巨腕を震わせる傍ら、一人の女性が姿を見せた。

 

()えるな。……時代遅れのズめ」

 

 低く威圧感のある声でズ・ザイン・ダの見苦しい振る舞いを制したのは、短く整えた女性らしい茶髪を飾る者。未確認生命体B群6号と呼ばれた彼女は、その怪人態を未確認生命体第36号、カマキリ種怪人『メ・ガリマ・バ』と称されるグロンギの人間態である。

 これまでの奇異な姿をしていたメ集団の人間態とは異なり、肩を出した白い上衣、独特の模様を帯びた長い下衣に加え、首を飾る金色のネックレス、腰を飾る茶色いベルトに金色の装飾を見ても、それは現世を生きるリント──人間を模した服装として見ても目立った違和感はない。

 

 ……何だと……?

「……バンザド……?」

 

 ズ集団最強と呼ばれたズ・ザイン・ダは苛立ち混じりに振り返る。男の出で立ちは文明に乏しき原始的な装い。対する女の出で立ちはリントの文明を学んだ現世らしい文明的なもの。

 握った拳を掲げないのは相手が女だからではない。投げられた言葉の意味が理解できなかったからでもない。ズ・ザイン・ダは生粋の戦士であるがゆえに分かるのだ。己が前に立つ無骨ながらも鋭い闘志を秘めたこの女、メ・ガリマ・バが。ズである自分よりも格上たるメのグロンギの頂点に立つ者、メ集団最強の戦士と称されるに相応しき女傑であると。

 

 かつての戦いにおいても彼女は並外れた力でゲゲルを進めていったとされている。燻っていたズのゲゲルや、それまでのメのゲゲルが児戯にも思えるほど鮮やかに、彼女は自分の力に見合った、やがて来たる『次のゲゲル』を視野に入れた特別な条件を定め狩りを行っていた。

 それはメ集団の持つ白銀のゲドルードさえ超えた『漆黒のゲドルード』を持つ者のための特別なルール。古代においては黒き闇の儀式(ゲーム)──『ゲリザギバスゲゲル』と称された、真に選ばれし者のための上位のゲゲルだ。

 メ・ガリマ・バはヌ集団の技術で造られた鎌を携えてメ集団でありながらそのルールでゲゲルを進行していたが、クウガが現れたことにより彼女のゲゲルは停滞。時間切れが近づきながらも己のプライドを優先するあまり今は必要なき上位のルールにこだわりすぎた結果、彼女は敗北した。

 

「やがてメのゲゲルも終わる。そうなれば、今度は我々、ゴのゲゲルだ」

 

(はや)るなよ。お前だってまだメだ。どっちが先に、ゴのベルトを手に入れられるかな」

 

 細くしなやかながらも力強い腕を組んだメ・ガリマ・バの言葉に返す、メ・ガルメ・レ。二人の自信は必ずメより上位の存在、黒き腰帯(ベルト)を許された、王に次ぐ上位格のグロンギへと至れるという己が力への陶酔。それは決して過ぎた自信というわけではない。

 驕りと焦り。それらが己の敗因だと弁えている。その目を見たラ・バルバ・デは、すでに彼らがそのことに気づいていると確信し、今の彼らならばクウガにも勝ち得るだろうと見ていた。

 

 俺の ゲゲルは……!

「ゴセパン ゲゲル……!」

 

 本能を零すように己が闘争を求めるズ・ザイン・ダに対して、冷たい薔薇の視線は鋭く射抜く。同様にその哀れな振る舞いにズの限界を垣間見ては鼻で笑い、ラ・バルバ・デと同様にメ・ガリマ・バもオーロラの彼方へと溶けて消えていく。

 ズ・ゴオマ・グであれば愚直に強者に従い続けてゲゲルのチャンスを狙っただろう。だが屈辱に滾るのは同じなれど、ズ・ザイン・ダにはそんな悠長な臆病さはなく。

 

 このまま無為に耐え続けても自分のゲゲルが行われることは永遠にない。ならばかつてと同様に振る舞うまでだ。すでに怒りによって支配された彼の思考には、おとなしく己の役割を受け入れるという穏やかさは存在しない。ただ自分のしたいがままに自分のゲゲルを始めるだけであると。

 

「邪魔がしたいなら好きにすればいい。ズのお前じゃ、ラに殺されるだけだろうけどね」

 

 メ・ガルメ・レはまたしても舌を伸ばして挑発するように述べる。相変わらずズ・ザイン・ダにその言葉の意味は伝わらないが、明確な挑発の意図は伝わっていることだろう。

 オーロラの中へと消えていくその背中を見て、ズ・ザイン・ダは力強く天に怒号を叩きつけた。

 

◆     ◆     ◆

 

 在り得た可能性は、世界を定義する旅人の観測によって意味を成す。されど、観測されていない可能性だけが満ちる世界には既知の法則など成立しない。

 無辺の闇を飾るは古びた遺跡と棺の様相。渇いた岩と洞窟の中、忘れられた王は空を裂く。

 

 古の 闇より 目覚めし 者は……

「ギビ ギゲン ジャリ ジョシ レザレギ ロボパ……」

 

 深く漂う闇に悪意はなく。微かに差し照らす光に祈りなどはなく。ただ、己が埋没を。歴史への葬送を。役目を終えた影となりて眠り続けるだけの時を求めていただけなのに。

 ──かの者は燻る炎の如く鬣を靡かせた。赤く揺らめくその誇りには、もはや意味などない。

 

 正義か 悪か……

「ゲギギバ ガブバ……」

 

 かつて王だった赤き狼は与えられた役割に牙を軋らせる。光が照らすはその腰帯。すでに役割を失ったとはいえ、誇り高く輝く『黄金のゲドルード』には純粋な力が宿っている。魔石ゲブロンの根源たる『究極の闇』の真髄と呼べるものは、今なお此処に在りて。

 赤き狼は己を『世界の破壊者』だと名乗った若き青年──あるいは少女か。自分と同様に、己が存在さえも曖昧な揺蕩いの中に忘れ去った選定者に問われた通り、静かに歩を進める。

 

「…………」

 

 その翡翠の色の瞳を染める眩き光に、一瞬眉を(ひそ)める。すぐにその世界の闇の深さに気づいて、赤き狼はどこか、自嘲にも似た胸の高鳴りを覚えた。

 こうして見渡せばこれほどまでにグロンギらしく薄暗く、打ち捨てられた廃墟らしき場所であるというのにも関わらず。一瞬とはいえ『眩い』と感じてしまったほどに。今まで自分のいた世界が深き闇の中──虚無であったのだと。

 

 歴史の影に落ちた上で、光ある世界に一歩を踏み出したのはこれが初めてではない。再編されたというべきか。一度は終幕を迎えたクウガの物語の別の紡ぎ。十年紀を経たその先の未来にて紡がれた別の歴史においても一度だけ。求められた通りに世界に踏み込み、光に触れた。

 あのとき抱いた想いさえも今は朧気にしか思い出せない。この深く暗い闇の中に手を差し伸べてほしいなどと、願った覚えはないというのに。

 

 引き裂かれた闇の果てには光が灯る。ここはクウガの世界と呼ぶべき傷痕。ディケイドの世界に統合されては、ただ乱雑に並べられただけのバラバラのパズル、その欠片(ピース)の一つ。

 赤き狼は羊皮紙に刻まれた因果を目指した。その眼に、三体もの同族たるグロンギを見て。

 

 なんだ お前は……!

「バンザ ゴラゲパ……!」

 

 その 黄金の ベルト……! そんな はずは……!!

「ゴン ゴグゴン デスド……! ゴンバ ザズパ……!!」

 

 いずれもその腰に輝くのは最下級のズから勝ち上がり力を示した、メの証。白銀の腰帯。されど赤き狼が装う黄金の腰帯に気づいたのか、底知れぬ威圧感にただ身を竦ませる。

 一体は未確認生命体第17号、ハエ種怪人『メ・イバエ・バ』。昆虫らしき複眼に映る黄金を信じられず、狼狽えたように薄翅を震わせる姿はまさに虚弱な(ハエ)の如く。彼が抱く恐怖は、かつて緑の戦士に射抜かれた屈辱をも上回る。

 その傍らで多足を震う未確認生命体第19号、ムカデ種怪人『メ・ムガド・バ』は暗い闘志さえも腹の内に閉じ込め、微かながら毒を宿す牙を光らせるも、ただ零すは赤き狼への畏怖のみ。

 

 ダグバを 殺して ベルトを 奪ったのか?

「グダダ ダンバゾ デスド ボソギデゾ ダグバ?」

 

 ただ一体だけ、圧倒的な力の恐怖に震え竦みながらも冷静に思考するは、未確認生命体第20号。昆虫らしき茶色の薄翅を纏ったゴキブリ種怪人『メ・ゴリギ・バ』は疑問を抱いた。

 グロンギという文明において黄金のゲドルードを持つ存在は一人。グロンギを統べる最高位の王である『ン』の称号を持つもの。それは彼らが知る通り、彼らの生きた超古代においてはまさしく西暦2000年の世において最強を誇った未確認生命体第0号のみ。しかし目の前の異形は黄金の腰帯を宿しているが、あの純粋な白き闇──ン・ダグバ・ゼバとは似つかない。

 

 王を殺してベルトを奪った可能性を考えた。否、ありえない。かの王は未だ棺の中。その復活のために聖なるゲゲルを行い、エネルギーを掻き集めているのだから。

 それ以前に、あの王を殺せるような存在がそう簡単にいていいはずがないのだ。あの王はグロンギの中でも別格と言える。どれだけのゲゲルを経ようとも、あれほど規格外の力を宿せる者がそう現れるとは思えない。

 

 かつてのゲゲルが最終段階に進んだ際、不要となったズやベは王によって『整理(ゲギシ)』されたことがあったという。その一端をラから少しだけ聞き及んでいるのだ。王はグロンギを相手にさえほんの僅かな力だけで数百もの個体を殺し尽くしてみせたのだと。

 だからこそ分かる。あの赤き狼が宿す黄金のベルトは紛い物だ。そう信じられた。メ・ゴリギ・バは故に、己が秘めるゲブロンから力を引き出し、ゴキブリらしき素早さで赤き狼へと迫る。

 

 ゲゲルの 邪魔だ! 消え失せろ!

「ジャラ ザン ゲゲル! ビゲ グゲソ!」

 

 疾走するメ・ゴリギ・バの小さな刃はゴキブリの節足が如く。不潔さを滲ませる素早さの中に、決してただ弱者を屠るだけの腐肉処理者(スカベンジャー)などではないと誇る強き鋭さを秘めて。

 偽りの王を気取る赤き狼に、ゲゲルの意味を叩きつけようとしたが──その瞬間のこと。

 

「…………」

 

 ゴキブリのそれたる視界の中に漆黒の闇を見た。赤き狼の身より湧き上がっているのだろうか、と考える暇もなく、メ・ゴリギ・バはその燻る煙に包まれた。黒き闇に掻き消えていく己の姿は、後方に立つメ・イバエ・バとメ・ムガド・バから見れば一瞬のことであっただろう。

 闇へと消える。それは何ら比喩ではない。ゴキブリの怪物は消えたのだ。赤き狼が滲ませた深き闇──彼が『究極の闇』と呼ぶ根源的なゲブロンの洗礼、ゲブロンそのものたる黒煙によって。

 

 な、なんだ!?

「バ、バンザ!?」

 

 いったい どこに 消えた!?

「ギダダギ ゾボビ ビゲダ!?」

 

 薄らんでいく黒煙の中にメ・ゴリギ・バの姿はない。その光景を目にした二体は驚愕した。だがすぐにその驚愕は消えることとなる。彼らの肉体、その存在ごと。

 究極の闇は微かな広がりで怪物たちを魔石ゲブロンのエネルギーとして吸収したのだ。赤き狼は原初の王。かつてグロンギが遠き空の果てより邪悪なる魔石を得た際に、その根源たる原石を身に取り込んでは最強を示して頂点に君臨した者。

 

 それゆえに王は与える側の存在。ただ戦うだけだった生身の人間、ヒトであった頃のグロンギたちの文明に。ゲブロンと名づけた石を宿しては異形の力を。

 そしてゲゲルという文化により殺し合い、減り続けるグロンギたちを増やすために与える。グロンギの本能を閉じ込めた魔石。その黒き呪いごと──究極の闇に導かれし戦いの宿命を。

 

「人間は強さを求め、戦いを求める。……グロンギになるのも定めだ」

 

 薄く輝くは力に餓えた黄金色のゲドルード。赤き狼はその身を現世に滲み出してはいるものの、まだ完全には実体化しておらず、今もなお存在と非存在の狭間に揺れ動いている。

 赤き狼は己が復活に喜びなどは抱いていなかった。求めるのは己の否定。戦い続けるだけのグロンギへの、否。ありとあらゆる生き物への哀れみと虚しさ。グロンギの誇りである殺戮と死さえも与えぬ黒き煙には、彼自身も寂しさを覚えている。

 

 世界の破壊者は言っていた。お前は世界を繋ぎ留める因果の楔だと。忘れ去られた世界を現世に取り戻す意思はあるかと。

 赤き狼は否定した。されどこれしかなかった。自身もまた世界の破壊者と同じ。名もなく、姿もなく、何の物語も与えられなかった──大首領と呼ばれた男と同じ。

 

 与えられた役割を演じるだけの舞台装置。あるいは、かつてグロンギの王として究極の闇をもたらしていた過去でさえも、原典の歴史には存在しなかった偽りの物語なのかもしれない。

 観測者は答えず。すでに彼はクウガの歴史に存在せず。ディケイドの歴史に他ならないのだ。

 

◆     ◆     ◆

 

 幻想郷を覆う四季異変の影響により、今の魔法の森には冬の様相と冷え込む雪の彩りが湿った木々に静かな白を施している。すでに日は昇っており、不自然に歪んだ気温で微妙に溶けかかった雪が魔女らしい家の屋根よりどさりと落ちるが、未だに空気は冷たいまま。

 五代雄介はこの家、霧雨魔法店で一晩を過ごした。屋根裏という環境でありながら彼がさほどの寒さに苛まれずに眠ることができたのは、魔理沙の家に施された光熱の魔法、星の灯りを思わせる暖かさが機能していたからだろうか。

 

 すでに朝食を終えた二人は暖かそうな服装に身を包んで玄関を出る。肌寒い風が突き刺さるが、魔理沙自身と五代に与えられた服装は彼女の魔法で出現させた立派な防寒具として。

 この家に五代の服はない。ゆえに、魔理沙は自身の魔法で五代らしい服装を仕立てていた。

 

「ん、なんだ?」

 

 不意に聞こえてきた音に魔理沙は視線を動かした。音の源は五代が家の傍に停めたビートチェイサー2000。その機体から、ピーピーとけたたましい音が鳴り響いている。

 通信機能の代替品として定着した霊夢のお札は、霊的な繋がりでの交信を可能とするものだが、如何なる作用であるのかその着信音はビートチェイサーが本来備えるものと同じ音を再現する。

 

『あー、聞こえる? あんたたち、いくらなんでも遅すぎよ。少しは連絡くらいしなさい』

 

 ビートチェイサーの通信機から聞こえてくるのは紛れもなく霊夢の声。見えないお札を介した通信だが、奇しくもそれは五代にとっては慣れ親しんだ通信機越しのくぐもった声。

 五代と魔理沙はゆっくりとその音の発生源に近づき、雪に染まったコンソールを手で払う。

 

「ごめんね、いろいろあって」

 

「……こっちから連絡する方法が分からん。どうすりゃいいんだよ」

 

 気軽な振る舞いで謝る五代に対し、魔理沙は帽子越しに頭を掻きながら愚痴を零した。五代もその言葉に今更気づいたと言わんばかりに驚きを見せては確かにと納得する。

 一方的な通信ばかりを受けていたために失念していたが、ビートチェイサーに話しかけたところでそのまま霊夢に伝わるわけでもなかろう。この通信が成立するには、霊夢のほうからお札越しに通信を繋げてもらう必要がある。──それもそうね、と聞こえてきた声に魔理沙は苦笑した。

 

「玄武の沢に怪物が出てな。まぁ、とりあえず目的のものはちゃんと手に入ったぜ」

 

 緑の戦士(ペガサスフォーム)の活躍を直に目にした魔理沙は自分のことのような笑みを見せて通信機に語りかける。通信機越しでは霊夢の表情は確認できないが、きっと安堵した表情を見せているのだろう。それは拳銃が入手できたことではなく、二人が無事であったことに対して。

 

『二人とも、神社まで戻ってきてくれる? 新しく分かったことについて共有したいし』

 

 霊夢の声に頷く二人。元より拳銃を手に入れたら博麗神社に戻るつもりだった。すでに朝を迎えてから時間が経過している。魔理沙お手製のキノコ料理を振る舞ってもらい、五代の体力も万全の状態だ。キノコの能力を持つグロンギへのトラウマから箸を進めるのは勇気が必要だったが。

 

「すぐに戻れるぜ。箒の方も特に問題なさそうだし……ん?」

 

 手元に愛用の箒を現してその感触を確かめる魔理沙。一度は霊夢の大幣と同様に、クウガのモーフィングパワーによって青き棒──ドラゴンロッドとなっていたが、モーフィングパワーの効果が切れたことで元の古びた竹箒に戻っている。

 五代もビートチェイサー2000に跨り、ヘルメットを被ったところ、魔理沙は不意に自宅である霧雨魔法店の陰から物音を聞いた──ような気がして、そのまま背後の家に振り返った。

 

「どうしたの?」

 

「……ちょっと待て。何かいるぞ」

 

 魔理沙の様子を怪訝に思った五代がヘルメットを外す。その言葉に返す魔理沙は手元から竹箒を消失させ、霧雨魔法店の裏の物置、ただの裏口周りの敷地である、魔理沙が集めた蒐集品を置いておくその場所にゆっくりと歩いていくと、音の正体が明らかになっていく。

 

 古い鉄クズや用途不明の奇妙なマジックアイテム、様々な道具が乱雑に置かれているが、それらすべては収集癖のある魔理沙が集めた雑多な廃棄物(ジャンク)たちだ。

 かつてはその中に神話の時代より語り継がれた剣もあったが、訳あってその剣は魔理沙の意思で半妖の古道具屋、森近霖之助に譲渡され、その素材は今はミニ八卦炉の一部となっている。

 

 ──その頂点に、明らかに見慣れない異質で巨大な石像が一つ。クワガタムシを模したであろう石像は両目を深く閉じ眠っているような雰囲気で、ガラクタの山に鎮座していた。

 魔理沙を追ってこの場に来た五代も、見やる『よく見知った石像』の姿に目を見開いて驚く。

 

「な、なんだこりゃ……!?」

 

 魔理沙はその光景を見て思わず息を飲んだ。ガラクタの山と言っても霧雨魔法店の屋根の高さを超えない程度だが、こんな不安定な場所にこれほど巨大なものが自然と乗るはずがない。

 

「これは……」

 

 その鉄クズの山は玉石混淆。取るに足らないクズ同然の鉄の塊もあれば、神々に伝えられし剣が眠っていることもある。そんな神秘的とも俗物的ともつかぬ魔理沙の収集癖の具現、霧雨魔法店の裏の物置に鎮座する石像を見て、五代は元の世界の記憶を想起した。

 クウガの世界。自分が生きた故郷。この腹に宿る霊石アマダムを抱くアークルと同様に、五代が見やるクワガタムシの石像も。

 

 遥か古代を生きたリント文明が生み出した叡智の一つ、名を『ゴウラム』という。狩りも戦いもない文明を生きた彼らが、暴虐を尽くすグロンギに対抗するべく生み出した戦士クウガが駆る馬、そのための鎧として鍛えられた、聖なる虫を模した超古代の人工知能である。

 あるいは装甲機とも称されるその役割通り、それは馬の鎧となる(しもべ)。現世において五代雄介は馬を駆らない。代わりに現代文明の移動手段であるバイク、警視庁より託されたビートチェイサー2000の追加装甲──(バイク)の鎧として役立ってくれた。

 

 アークルと同じく太古の地層から発掘されたゴウラムは当初、いくつもの石片として散っていた。それらは現代の日本で目覚め、己が血肉となる金属をその身体に吸収。やがて本来の姿であるクワガタムシとなりて、ゴウラムは幾度となく五代雄介、現代のクウガの戦力となってくれた。

 

「うおっ……っと」

 

 積み上がった鉄クズの山が不意に崩れる。といっても激しく雪崩れるわけではない。ゴウラムが取り込んだ部分の金属が失われ、足場がさらに不安定になったことで、崩れていく山の頂点にいたゴウラムが滑り落ち、魔理沙の足元までずりずりと降りて来たのだ。

 危うく下敷きになりかけた魔理沙は慌てて飛び退く。未だ深く目を閉じているが、五代は知っている。自主的に金属を求める習性。ゴウラムは無機物だが、生きていると言える知性がある。

 

「大丈夫、敵じゃないよ」

 

 思わずミニ八卦炉を構えそうになった魔理沙を制し、五代はゴウラムに近づいた。かつてと同じように。主を待ちて眠る石の虫に。その背に宿りし緑色の宝玉を撫でるように手を触れる。

 ぼんやりと輝くは霊石アマダムに呼応する結晶。リントの祈りが込められた、ゴウラムの心だ。

 

「お、おお……? 生きてる……のか?」

 

 魔理沙は訝るように恐る恐るゴウラムに近づいていった。すると、五代が触れたことでクウガの存在を知覚したのか。石の色に染まっていた、ただの石像でしかなかったそれは、見る見るうちにその身を黒い金属質のボディに染め、金色の装甲と力強い大顎の牙を輝かせる。

 ──覚醒の時は、未だ来ず。姿こそ五代のよく知る色に戻ったのだが、目は閉じたまま。

 

「まだちょっと元気ないみたい……」

 

 ゴウラムの背から手を離して腕を組む五代は、その様子の変化の無さが気がかりだった。記憶に残る在りし日のゴウラムは、出土した時点でこそバラバラの石片だった。これらはやがて霊石の導きで一つになり、クワガタムシの形を取り戻しては、空を飛んで様々な金属を取り込み本来の姿と力を取り戻そうとしていた。

 やがて完全なる復活を遂げて戦士(クウガ)と共に戦線を超え。ゴウラムを研究していた者たちの協力で、馬の鎧となる度に崩れ落ちても何度も蘇っては五代の助けとなったのだ。

 

 合体の際にはビートチェイサー2000にも負荷がかかってしまう。その対策として、ビートチェイサーには疲弊した金属を入れ替えるための流体金属タンクが設けられている。理論上は数百回の合体にも問題なく耐えられるはずなのだが──

 纏うべき鎧たるゴウラムは、かつては五代が触れるだけで自身のエネルギーを回復させていた。されどこの場ではまだ金属の吸収が足りていないのか否か、再起動の兆しは見られない。

 

「…………」

 

 思い出せるのは脳と拳にこびりついた冷たい記憶。リントが禁忌とした『なってはならない戦士』──四本角の戦士へと至り、未確認生命体第0号との決戦に臨んだあの日。

 五代はそのとき、ゴウラムの姿を見ていないが、霊石アダマムが深層心理に伝えてきたのだろうか。聖なる泉を枯らすことなく、太陽を闇に葬ることなく、理性を保ったまま漆黒の戦士へと、凄まじき闇へと身を投じ、第0号と拳を交えた。

 

 ゴウラムには、(クウガ)が凄まじき戦士へと堕ちてしまった場合、自壊を遂げる安全装置がついていたという。

 五代が知る由もないが──如何に『伝説を塗り替えた』とはいえ、紛れもなく禁じられた闇へと至ってしまったことは事実。ゴウラムの自壊機能こそ働かず、形は保ったままであったが、むしろその処理こそが本来は異常であり、内部の機能に不具合を発生させてしまったのかもしれない。

 

「まぁ、害はなさそう、か? 動かせそうもないし、このままにしておくか……」

 

 帽子越しにぽりぽりと頭を掻く魔理沙。幸い、ここに集めておいた鉄クズはどれも質の悪いものばかり。香霖堂に持っていって、適当な処理と共に高価な返礼品が手に入るのなら御の字、という程度のものであり、取り込まれても大した損失はない。

 

 魔理沙は気づいていないのだが、その中にも煌く価値はあるのだ。霖之助は、魔理沙から受け取った鉄クズの中に神話の時代の剣を見つけ、返礼として彼女のミニ八卦炉を強化した。

 互いに利のある取引だ。魔理沙はガラクタを処理して返礼を受け取り、霖之助は魔理沙がただのガラクタだと思っている鉄クズの中から真に価値のある何かを見出すことができるのだから。

 

「とりあえず、今は博麗神社に戻ろっか。霊夢ちゃんも心配してると思うし」

 

 五代は微かに不安そうな魔理沙を安心させるように、暖かな笑顔でそう告げた。本音を言うと、自分の中にもまだ不安は残っている。

 かつて心肺停止に陥ったこの身に受けた電気ショックの衝撃を由来として、アマダムが自ら学習した力。超古代にはなかった、現代の自分だけの『(きん)の力』。それは電気ショックによって、眠っていた凄まじき力の片鱗が微かながら滲み出してしまったものなのだと考えられる。

 

 金の力を伴った馬の鎧は、その力に警告を示したのか、色がくすんだ。二度目の衝撃でもって、五代の金の力はさらなる凄まじさを帯び、()()()()黒へと至った。

 強くなっていく度に理想の自分からかけ離れていく。拳を振るう度に心に願った青空が遠ざかっていく。それでも戦うしかなかった。たとえ二度と青空を拝むことのできぬ身体に堕ちようとも。この拳を絶えず、血に染めることとなろうとも。

 

 ──最初で、最後の、究極の力。決してなってはならない戦士に至る決意はそう容易いものではなかった。傷ついたアマダムに(こいねが)い、心の青空を涙に染め。

 背中を預けてきた刑事に別れを告げた。もしも自分がただの怪物、世界を血に染め上げるだけの災禍。グロンギと同じ獣に成り果ててしまったときは、傷ついた霊石(ベルト)の核を撃ち抜いてほしいと。そうして、自分を葬ってくれと。

 

 漆黒の身に(ふた)つの赤は煌々と灯っていた──のだろうか。あのときは必死だった。自分の姿など顧みられるはずはない。ただ、傍目から見たらきっと無様だったのだろう。

 ただひたすら哀しみの中で泣きながら拳を振るい、雪と血と土に塗れ続けていたのだから。

 

「…………」

 

 魔法の森に降り積もる雪の中、ヘルメット越しに感じられる冷たさに否が応にもその光景を思い出してしまう。きっとアマダムが見せた幻は最後の警告だったのだ。もし今一度、あの究極の力を持つ姿へと至ってしまえば──今度こそどうなるか分からない。

 一度は憎悪に身を任せ、殺意の衝動のままに剣を振るったこともあった。言葉で言い表すことは難しいが、あのとき確かに感じた。心の中の何かが、少しずつ零れ落ちていく感覚を。

 

 願わくば、二度と凄まじき戦士になどならずに済むよう。ぎゅっと力強く握った右の拳を優しく広げ、五代の右手はビートチェイサーの右ハンドルへ。

 それでも考えてしまう。再び、第0号が現れるようなことがあるなら。選択肢は、一つだと。




ペガサスフォームで倒す用に先にバヂスを出したくて、イバエを後に回した結果。
赤き狼が吸収するのがハエとムカデとゴキブリというあんまりな面子になってしまったぜ。
びっくりするくらい害虫しかいない。

超クウガ展でバルバの怪人態が発表されるってマジですか!? すげー! 25年越しですやん!!

次回、EPISODE 75『写真』
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