気を取り直して原作ファンにも異世界オルガファンにも楽しんでもらえると幸いです。
1話 「輪廻」
「走れ坊主!!奴が動き出すぞ!!」
けたたましい咆哮を上げ前進を始めた巨大な怪物。前足が無造作に踏み込まれる度、地面はメキメキと音を立てながら揺れる。
少年はフラつく足を何とか引きずってその場を去ろうとするがすでに満身創痍だ。視界もぼやけ何度も転びそうになる。
グォォォォと怪物は再び唸り立った。全身を纏ったどす黒い闇の稲妻が発散するように伸びて地面を抉り取る。少年は間一髪で避けるものの、その衝撃は余すことなく伝わり軽々と吹き飛ばされてしまう。
「今だ!魔法詠唱!!」
これ以上待つと危険と判断したのか前方に待機していた男が叫び、続いて傍にいる魔法使いたちが一斉に詠唱を開始する。
色鮮やかな魔法の球が間髪入れずに次々と発射された。
__やっぱり、僕には無理だったんだ。
発射された無数の球は四方八方から覆うようにして怪物に着弾する。悲鳴かあるいは激昂か、着弾による爆発音と合わせて甲高い怪物の叫びが鼓膜に響く。
__異世界に召喚された主人公
__それはどうやら僕ではなかったらしい
爆発による衝撃で土煙がどっと舞い、周辺を飲み込むように広がる。
少年は再び体を起こして前に進んだ。
__この世界に来て味わった理不尽なあれこれと
__現在進行形で味わっている不幸までの経緯
「急げ!南雲!!」
「南雲くん!!」
前で自分の名を呼ぶ声が聞こえる。声を頼りにただ前へ、前へと。
__この世界は、ありふれた職業である僕にとって
足が絡まった。ついにはバランスを保てず崩れ落ちる。
限界だった。再び立ち上がる体力も気力も今の少年にはない。
「…少し、休もう」
__ファンタジーという夢と希望に詰まった言葉で表すには
「……メ、聞こえるか!」
走馬灯を見ているのか、それとも天国からの遣いが来たのだろうか。
もうどっちでもいい、そう少年は思う。
__いささか、
「…ハジメッ!!」
「オ…ルガ?」
驚きで意識が戻る。
眼を開けば、そこにいたのは…
「よぉ、待たせたな」
相棒だった。友人であり、兄とも呼べる男の姿だった。
手を伸ばす。すでに限界は超えてるはずなのに、それでも手を伸ばさずにはいられなかった。
「よくやった。後は俺たちに任せろ」
伸ばした手が繋がる。
__いささかハードすぎるけれど
__それでも
一話「輪廻」
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__我らが主より神託を授かった
__準備せよ
__「勇者」はまもなく現れる
外界からの光が一切排除された薄気味の悪い幽幽たる空間。どこか教会の中であろうか。壁に備えられた松明だけが祈りを捧げる聖職者たちの姿を照らしている。
彼らの先頭に立つのはより一層煌びやかで荘厳な雰囲気を匂わせる老輩の男。
詠唱と連動して正面の台座から蒼白い光が顕れる。その光はたちまち地面をなぞるように円環を描いた。
老輩の男は円環を一瞥し儀式が成功したのを確信して微かにその口を綻ばせる。
止まっていた物語の歯車が今この瞬間回り始める。
~~~~~
「いっけな~い!遅刻遅刻!」
授業開始のチャイムが鳴ってからしばらく経ち生徒たちも落ち着いた矢先、教室のドアを勢いよく開けて注意を引く二人の姿があった。
“オルガ・イツカ”と“南雲ハジメ”である。
「ちょっと、イツカくん!南雲くん!これで何回遅刻したと思っているんですか?」
毎度お馴染みの光景になりつつある二人の遅刻に半ば諦めつつも担任の“畑山愛子”は教卓の上から身を乗り出して説教を垂れる。
「待ってくれ。愛子ちゃん、頼む!ハジメならどうにでも殺してくれ。何度でも殺してくれ!首をはねてそこらに晒してくれてもいい。鉄華団団長である俺の命だけは・・・」
「なんでさ」
「だって、今日週間少年アグニカの発売曜日だぞ。オル滅の刃の最新話だぞ!」
「そんなの知らないよ」
必死に責任逃れをして騒ぎ出すオルガとそれを適当にあしらうハジメ。その光景に周りの生徒も呆れすぐに関心をなくす。
「・・・おい」
ただしクラスのリーダー“天之河光輝”だけはその姿を放っておかなかった。
「全く、お前らは毎日毎日反省もせず遅刻して何しに学校に来てるんだ」
「あ~はいはい、反省してます~。…えっと、天…あま…?」
「天之河だ!」
「おぉ、そうだったな、“天なんとか”」
「“天之河”だって言ってるだろ!馬鹿にしてるのか!!」
「ちょっとそこ!いいっ加減にっ、黙りなっさ~~い!」
今度は犬猿の仲と言うべき二人の口喧嘩まで始まり、さらに頭を悩ませる愛子先生だった。
「はぁ・・・何やってんだか」
「おはよう、南雲くん」
いつもどおりの友人の姿に呆れながらハジメは席の前まで移動したが、そこで前右斜めの席に座っていた少女に声をかけられる。
「・・・うん、おはよう、白崎さん」
名を“白崎香織”。クラスの聖母と言うべき存在だ。
お互いに軽く会釈してから席につく。周りから悪意のある視線が投げつけられるがいつものように気にしない素振りを見せる。
___いつもと変わらぬ日常
___これまでと同じ、そしてこれからも。
味気ない退屈な日々を覆い隠すようにハジメは教科書を机の上に開いた。
「「ん!?」」
異変にいち早く気付いた者はクラスの中で二人、はなはだ直感に鋭いであろう光輝とオルガだった。
教室の床に浮かび上がったのは純白の魔方陣。
他の生徒たちもやっと異常事態であることに気付いた。
「何なんだよ、これは?」
オルガの声を皮切りにあちこちで悲鳴が上がるものの時既に遅く、魔方陣から放たれた眩い光は教室全体をあっという間に飲み込んだ。
~~~~
ドサァッ!
無機質な床の上に何か落ちた音がした。それは人であった。
「ゔゔっっ!」
断末魔の悲鳴が漏れる。
「俺は止まんねぇからよ…」
そう呟く、己の死を悟ったように。
その時、希望の華が咲いた。
キボウノハナ―♪♪♪
「だからよ、止まるんじゃねぇぞ…」
掠れるような声をあげ届かぬ先へ懸命に伸ばされる右手。呼応するように指さす方向へ伸びる血。
それが最期の言葉となった。
「……はぁぁ」
ピクリとも動かなくなった“それ”に対し、傍で事の顛末を終始見ていたであろうハジメは焦るどころか慣れた様子で声をかけた。
「大丈夫、オルガ?」
決して友人の死をないがしろにしているのではない。ただ見慣れてしまっているからだ。
今起きていることも、そして次に起きることも。
「…んんッ」
口のあたりが微かに動いたかと思うや、ピクリとも動かなかった身体が徐々に動き始めた。冷め切っていた顔色もほんのりと色を取り戻していく。
信じられない光景である。
しばらくすれば床にこぼれていた血が消える。否、傷口へと戻っていく。その傷口すらもみるみるうちに消えてしまった。そこに存在していた死体はいつも通りの変わらぬ彼の姿へ戻ったのだ。
記憶を遡ろう。
オルガ・イツカはかつて鉄華団のリーダーとして闘い、そしてあの日夢半ばで命を落とした。
だが、その魂だけは朽ちることがなく、彼には輪廻転生という形で再び第二の人生が与えられた。前世のような少年兵としてではなく一般人としての人生が。
これはダインスレイブを神雷と間違えて下界に落としてしまった神様のせめてもの罪滅ぼしらしい。
それでも彼は無償で生き返れたわけではない。
「矢受けの加護」
ありとあらゆる死の因果を引き寄せ一身に引き受けてしまう力。
そして「止まるんじゃねぇぞ…」
仮に致命傷を負い死を避けられぬ状況に陥ったとしても、その詠唱に加え、生きることへの執着心さえ捨てなければ、何度でも蘇る身体となってしまった。
無限コンティニューといえば聞こえはいいが、逆に言えば中々死ぬのが難しいということでもある。勿論死ぬ際の痛みは尋常でないであろう。
それが彼に課せられた“呪い”でもあった。
「…よぉ、ミカ」
目を覚ましたオルガの瞳に映ったのは、かつての戦友”三日月。オーガス”の顔。
「何言ってんの」
どうも会話が噛み合わない。
「寝ぼけすぎだよ。ほら起きて」
目を改めてこすってみれば、其処に映るのは当然三日月ではなくハジメだった。
「お、おう」
ハジメの手を取り、立ち上がる。
周りを見渡せば他のクラスメイトもいる。どうやら自分が一番遅く目を覚ましたようだ。
「そりゃそうだよな」
また自分の勘違いのようだ。
__血と死体で塗り固められた戦場の匂い
__血より固く結ばれた仲間たちとの絆
__そして、自らの決断が鉄華団の命運をあらぬ破滅の道へと導いてしまったことへの後悔
前世の記憶を引き継いだ状態で生きるオルガにとって、これら前世の記憶は今でも彼の脳裏に脳裏にこびり付いて離れることはない。
人前でならクラスのお調子者という言葉が相応しい彼だが、これまで孤独に過去の自分と現在の自分との板挟み状態の中で葛藤しているのだ。
結果さっきのように今と前世を混同してしまうことも珍しくなかった。
「ようこそ『トータスへ』へ、勇者の諸君。お待ちしておりました。私はこの聖教教会教皇イシュタル・ランゴバルドでございます」
クラスメイト各々が声の聞こえる方向を振り向く。その先には数人の聖職者らしき者たちがいる。先ほどの声はどうやらその先頭にいる男が発したようだ。
男はこちら側の視線が集まったのを確認した後に話を続ける。
「用意は整っております。どうぞこちらへ」
~~~~
未だに事情を飲み込めず混乱しているであろうクラスメイトたちを大広間まで案内したイシュタルは、事の経緯を一つ一つ説明し始めた。
__僕たちは今日、この世界”トータス”の神”エヒト”によって異世界に召喚された。
トータスには大きく分けて3つの種族が存在するらしい。人間族と魔人族、そして亜人族。戦力の拮抗していた人間族と魔人族の戦争が何百年も続いていたが、魔人族が魔物を従えるようになってから戦力の均衡が崩れ始めた。
現在、人間族は滅亡の危機を迎えている。神エヒトは人類の滅亡を回避するため、上位世界である地球から僕たちを勇者として召喚した。そして魔人族との戦争に手を貸して欲しい。
要約すればざっとこんな感じだ。
身勝手な要望だ。それがハジメの率直な意見である。当然ハジメと同様に否定的意見を持つ者も多く次々にイシュタルたち聖職者へ非難の声が浴びせられる。
それでもイシュタル側は説得することを止めることはない。
話は膠着状態に入ってしまった。
そしてその状態を打破したのは、やはりクラスのリーダーたる天之河光輝の一声だ。
「話は伺いました。当然言いたいことも山々ありますが、何を言っても元の世界には帰れないんでしょう。
なら俺は戦います。この世界にも地球と同じようにたくさんの人が住んでいる。救えるなら救いたい、クラスのみんなもこの世界の人たちも!」
「待ちなさい、天之河くん!先生は絶対にそんなの許しません!」
自身の正義感から戦争への参加を聞き入れる光輝だったが、生徒を守る立場にある教師の”畑山愛子”にとって今の言葉は聞き捨てならないものであった。授業の時とはまるで別人のように切羽詰まった怒りを露わにする。
しかしどうやらカリスマ溢れる光輝のその発言は完全に場の流れを変えてしまうほど影響力のあるものだった。
「全くお前はほんと馬鹿みたいに真っ直ぐだな。・・・俺もやるぜ!お前だけじゃ不安だ」
「私もやるわ。今のところそれしか選択肢がないようだし」
「えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
光輝に続き同じくクラスの中心人物である坂上龍太郎、八重樫雫、白崎香織、そして他のクラスメイトまでもが同調し声を上げた。愛子先生は意固地になって反論し続けるものの一度火がついていしまったクラスメイトの誰も聞く耳をもっていない。
ここに話は決着した。
ように見えたが、もう一人納得していない者がいた。
「待て天之河。この話はそう易々と片付けられる代物じゃねえ。これは俺らの命も関わってるってことを重々承知してんのか?」
オルガだった。いつもと違いその表情は険しかった。
クラスの中で唯一戦場の地を歩いたことのある男だ。戦場で多くの亡骸を嫌になるほど目に焼き付けてきた。戦争の残酷さ、醜さを一番分かってるのはこの場で彼だけだ。
「ならイツカ、お前はどうするつもりだ。還ることも出来ないのにただ黙って見ておくのか?」
二人の男が目も逸らさず睨み合う。その姿は今すぐにでも爆発しそうな火薬のようでいて周りの誰も指1本すら触れることができないでいる。
(オルガ…)
ハジメですら殺気立った彼の姿を止められるはずがない。
「俺は戦争に参加するのは反対だ。お前だけ戦うってなら止めはしねぇ。だがここにいる人間全員を巻き込むんじゃねぇよ、死人だって出るかもしれないだろうが!それに第一ただの一般人の俺らが戦場で役に立てる訳がないだろ」
「そうか、なら逃げたい奴はここにでも隠れて匿ってもらえばいいじゃないか。どうせ帰れることができないのなら、俺は今の自分に出来ることをやるだけだ。それでよろしいでしょうか、イシュタルさん?」
「えぇ、それでも構いません」
互いに一歩も引かず言葉をぶつけ合う二人。それをを見かねてイシュタルは妥協案を認める。続けて重ねるように言葉を紡ぐ。
「それに皆様には魔人族と戦うための力がエヒト様によって授けられています。そのお力を合わせて頂ければ、魔人族など取るに足らないとこの私が保証しましょう」
「…本当だな」
「皆様が我々の言うことを聞いて下さるかどうか次第ですが」
「はぁ…」
ため息をついたのはオルガだ。
今のイシュタルの言葉に信憑性など欠片もない。だが、どちみち俺たちに還るすべがない。それにクラスは光輝の意見に靡いている状況だ。何を言ってもこちらの分が悪いのは目に見えている。観念してオルガは口を開いた。
「わかった。俺もその戦争に参加する、俺だけ逃げるのはお前らに申し訳ないからな。だけど俺たちの意志さえあればすぐにでも戦争から抜けさせてもらう、いいな?」
「えぇ、畏まりました」
それ以上何も言わずにオルガは席に戻った。その表情にはいつものような朗らかさはない。
「見苦しいところ見せて悪かったな」
「いいや、そんなことないよ」
見るからに塞ぎ込んでしまった様子のオルガへハジメはそう声をかけた。
これにて話は完全に決着した。
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「今日はなんか…空が一段と青いな」
どこか知らない場所。青い空を背景に陽光がギラギラと照りつける広大な耕地。そこで汗水垂らして鍬を入れている一人の少年がいる。
仕事が一段落終わると額の汗を手で雑に拭い空を眺めた。
「シア、そっちは終わった?」
背後から近づく気配を察知し振り向いて言葉を投げかける。
「はい!ちょうど終わったので今からお昼食べに行きたいんですけど、ミカさんも一緒にどうですか?」
「あぁ、俺も一段落落ち着いたからついて行くよ」
年齢に見合わず大人びた少年とは対照的に見るからに健康的で溌剌とした獣人の少女。彼女の後を追って少年も歩き出す。
それからふと何かを思い出したように虚空めがけて呟いた。
「…いつまでも待ってるよ、オルガ」
~~~~~~
「…同業者か?」
再びどこか知らない場所。そこは陽は昇ることなく静寂と闇が支配する空間だ。
「いかにも。次からお主と共に行動することになった、“ティオ・クラルス”だ。覚えておく事じゃ」
「そうか」
黒い和装に身を包んだ女の言葉に素っ気なく反応したのは鉄仮面を顔に纏った男だった。
「話はそれだけか」
「折角挨拶しに来てやったのにつれないのぉ~、主様直属の幹部の一人、将軍“アイン・ダルトン”殿」
女はそう言うや、異形の龍へと変化し後を去った。
残る男も影となって消えていく。足下の雑草は黒く枯れ果てていた。
~~~~~~
「そうか、これですべてのピースがそろったか」
ここもまた知らない場所。とある一室で一人微笑みを浮かべる男。
「核となる箱の存在、箱の道標を示す金色の獅子、そしてその担い手…」
腹を据えたかのように席を立つ。
「今度こそ、俺が、俺の手で、手に入れて見せよう!」
強く握られた男の拳の中には果ての見えない野心と陰謀が隠れていた。
去年の更新から半年以上立ってますがまぁそれはそれです。察してください。(設定を一部変更したり、シナリオを考えていたのもあります。)
勢いで書いているので誤字・脱字等あるかもしれませんが優しく教えてもらえると幸いです。
随時編集したりしますがご了承ください。