ありふれオルガ   作:谷L

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 設定変わってるけど気にしてはいけない(2回目) 
 ちなみに作者は香織推しです、異論は認めません。





2話 「誓い」

____宿場町ホルアドにて

 

 日が沈み、時刻はすでに深夜を迎えようとしている。

 ハジメは手に持っていた書物を無造作に置き上体を思いっきり後ろに反らした。

 

「はぁ~~」

 

 眠気との戦いに疲弊してため息が漏れる。

 

__僕たちが異世界「トータス」へ召喚されてから二週間が経った。

 

 明日から初の実戦訓練として「オルクス大迷宮」への遠征に行く。今日はここホルアドで一夜を過ごし翌朝に出発するという訳だ。

 

「なぁハジメ、もう寝ないのか?」

 

「ええと、もうちょっと待ってよ」

 

 同室のオルガに声をかけられ、そう曖昧に返事した。オルガの方はすでにベッドに入っている。

 

「なんでさ」

 

 半ば諦めるように文句を垂れる。

 

__なぜ僕が異世界に来てまで勉強しているか、それを説明するには話を過去に遡らなければならない。

 

___________________________________________________

 

 

「勇者御一行、協力感謝する!」

 

クラスが戦争への参加を決めた翌日から魔人族と戦うための訓練が始まった。

 

挨拶をしたのはハイリヒ王国騎士団団長を務める“メルド・ロギンズ”。

 獅子を彷彿とさせる風格とオーラ、顔には長年の戦場での武勲を物語っているような古傷。まさに団長を名乗るのに相応しい漢であった。

 

 

「何だよ・・・俺も鉄華団の団長だぞ・・・」

 

「何言ってるのさ」

 

 団長という響きに懐かしさを感じ、過去に思いを馳せるオルガだったが、一方で端から聞いているハジメには何かブツブツ言っているようにしか見えない。

 

 

 それからすぐにクラスメイト各々に「ステータスプレート」なるものが渡された。

 

「これは文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。それとステータス以外に天職ってのが表示される。身分証明書にもなるからなくすなよ」

 

 メルドはそう言って、一緒に渡した針で血を一滴垂らすよう指示した。

 彼曰く、天職というのは所謂〝才能〟らしい。自身の技能と連動してその天職の領分においては無類の才能を発揮する。

 天職は戦闘系と非戦系に分類される。とりわけ戦闘系は稀少で千人に一人、ものによれば万人に一人の割合である。

 

 他の者たちに続きハジメも顔を顰めながら指先から滲み出る血をプレートに擦り付けた。表情には期待の色がうかがえる。

 

 

[南雲ハジメ レベル1 天職:錬成師 技能:錬成]

 

 ステータスプレートにはそう大きく書かれていた。

能力値に関しては筋力・体力・耐性…全て10、並の人間の平均値と大して差がない。

 

「ん、どうした?」

 

 声をかけたオルガだったが、反応はなかった。

 

「うーん」

 

 期待が全て外れ俯いてしまうハジメ。

 別に平凡なステータスに問題があるわけではない。そうではなくて“自分だけ”平凡なのが問題であった。他の者たちの天職はどうやら千人、いや一万人に一人といっても過言ではない強大な能力の戦闘系ばかり。戦闘系でなくともそれに見合うだけの稀有な能力がある。天之河光輝に関しては勇者なんていうご立派な天職だ。

 平凡でありふれていたのはどうやらハジメ一人だけだった。

 

 

「…まぁあれだ、伸びしろが一番あるってことだろ。あんま気にすんな」

 

「そんな簡単によく言うよ」

 

「いやハジメのことだ。どうせ実は“すっごい能力”とかが隠れてんじゃねぇの?」

 

「そうかな・・・」

 

 なんとか励まそうして言った冗談なのはわかりきっていたが、ハジメにとってはそう願わずにはいられない。

 

「ちなみにオルガはどうだった?」

 

 そう言って興味本位にすぐ横にいるオルガのステータスプレートをのぞき込む。

 

「あ、いや俺は・・・」

 

[オルガ・イツカ レベル1 天職:召喚師

技能:召喚スキル;モビルワーカー

固有スキル「矢受けの加護」・「止まるんじゃねぇぞ…」           ]

 

 

「は?」

 

「勝手に見るんじゃねぇぞ」

 

「いやだって、召喚ってなんですかそれ?それに固有スキル二つなんてチートじゃないか!チーターだよチーター」

 

 全くもって意味不明な情報しか記されておらずハジメは混乱しつつある。

 

「落ち着け…俺なんて耐久値ほぼ0だからよ…」

 

 どうやらオルガも一万人に一人、いや世界に一人だけの能力を持っているのが判明し、一層自分の凡庸さに頭を悩ませるハジメだった。

 

 

~~~~~~

 

 

 ということがあり力が無い分知識でカバーできないかと考えてみたのだが、中々うまくいかなかない。

 もっと漫画に出てくる錬金術士的な凄い能力を期待していたが、結局ろくな武器一つ作れず今日まで迎えてしまった。

 

『ほんとお前才能ないよな』

 

 そう言ったクラスメイト“檜山大介”の言葉が心に突き刺さる。

 

「…あんまり無理するんじゃねぇぞ」

 

「うん」

 

 心配するオルガに対して魂の抜けたような返事を返す。長い時間を一緒に過ごしてきた彼から見ても今のハジメが無理をしていることは明らかだった。

 

「しっかし、あのハジメさんが珍しくやる気出して勉強だとはな。明日世界が滅ぶんじゃねぇの?」

 

「馬鹿にしすぎだよ」

 

 

 オルガの冗談に思いがけず笑みをこぼすハジメ。その様子にオルガの方もつられて笑った。

 

「ま、頑張ってくれや」

 

 勢いよくベッドから起きたと思えば上着を羽織ってオルガはドアの方へ向かう。

 

「散歩行ってくるわ」

 

「こんな時間に?風邪引くよ」

 

「うっせぇ」

 

 軽く悪態をつきながらドアノブに手を差し出す。

 

「なぁハジメ」

 

「何?」

 

 オルガは振り返ることもせず話を続ける。

 

「確かにお前は才能もクソも何もねぇけどよ」

 

「はいはい」

 

 さっきの冗談の続きだろうか、飽きたようにハジメは適当な返事をする。

 

「自分にできなくて他の奴にできることがあるように、他の奴に出来なくてもハジメだから出来ることだってたくさんあるはずだ。少なくとも俺は今までそういうのを見てきたからよ」

 

「…あんま気負い過ぎんなよ」

 

「うん」

 

 それだけ言い残して去ってしまった。

 

「…急にどうしたんだろ」

 

 自分を励ましてくれたことは大変嬉しいが、元々彼のテンションの温度差に振り回されることの多かったハジメにはその真意までは読み取れず一抹の不安がよぎった。

 

___________________________________________________

 

 

 

ドアをノックする音がする。

 

 オルガが出て行ってから数分後のことなので何か忘れものでもしたのかと思いドアの方へ向かう。しかし、 

 

「えっと、南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっといいかな?」

 

「し、白崎さん!?」

 

 思いもよらない来訪者にハジメは困惑するばかりであった。

 

 

 白崎香織。クラスメイトの一人で、可愛らしい容姿と優しい性格から学内でも人気のある人だ。また内向的なハジメに親しくしてくれる数少ない人間でもある。

 そんな彼女は今晩、何か話したいことがあるらしく、ハジメの部屋を訪ねた。

 

「ええっと、話って何?」

 

「うん、それがね…」

 

 彼女の笑みにはいつものような元気がない。どこか重々しい様子で話すのを躊躇している。

 深呼吸を一度挟んでから、やっと彼女の口が開いた。

 

「明日の迷宮への遠征なんだけど…南雲くんにはこの町で待っていて欲しいの。どうか、お願い!」

 

「…」

 

 一瞬の静寂が二人の間に流れた。

 

「……あ、あぁ、やっぱり足手まといですよね」

 

「違うの!足手まといとかそういうのじゃなくて」

 

 しばらくして自身の実力不足のことだろうと気がついたハジメだが、どうやら誤解だったらしく慌てて弁明する。

 

 「なんだか凄く嫌な予感があるの。さっき夢を見て…夢の中で南雲くんが消えてしまうの…声をかけても走っても届かなくて」

 

 

「…うん」

 

 またもや沈黙が続く。

 

 所詮夢である。ハジメはそう思わずにいられなかったが、折角危険を伝えに来てくれた香織の気持ちを無下にすることはできない。彼女を心配させまいと優しく声をかける。

 

「夢は夢だよ、白崎さん。それにメルド団長や三日月副団長、あと天之河くんだっているんだからきっと大丈夫。僕なんて危なくなったら一目散に逃げるし…」

 

 そう言ってもまだ香織の方は不安を拭い切れていないようだ。

 三度目の静寂である。ハジメは己のコミュ力の無さを痛感するほかなかった。

 

 

「…ねぇ」

 

「ん?」

 

 二度目の沈黙は破ったのは今度は香織だった。

 

「話は変わるけど中学だけの時の頃覚えてる?南雲くん道の真ん中で土下座してたんだよ」

 

「!」

 

 思い出したくもない過去の記憶を掘り起こされた。なぜ彼女がそのことを知っているのかハジメが知る由もない。

 

 

~~~~~~

 

 

「土下座…そんなこともあったかな…」

 

 場面は変わり、ここはハジメの部屋。

 

__それは中学の時の帰り道だったと思う。ガラの悪そうな男たちの一人に子供がぶつかって服を汚しちゃって、子供のおばあさんが怯えながらクリーニング代を渡していたんだ。それでも男たちが二人に手を上げようするのを見て身体が勝手に動いた。

 といっても喧嘩も何も出来ない僕に出来るのはただ子供とおばあさんを背にして、男たちに土下座して謝ることだけだった。

 その間ずっと大声でキレられたり、足で蹴られたりでほんとに怖かった。泣きながらただごめんなさいって言ってたかな。結局買い物から帰ってきたオルガが駆けつけて来てくれて、これまで見たことのないぐらい怒って追い払ってくれたはずだ。

 

 どうやらその時の自分を見ていたようである。

 

「あの時はお見苦しいところを…」

 

「全然見苦しくなんてないよ。あの時の南雲くん凄くカッコよかった」

 

 黒歴史を笑われるとばかり思っていたが、返ってきたのは真逆の言葉。

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。でも弱くても強い相手に立ち向かえる人はそんなに多くないと思う。実際私や他の人はみんな見て見ぬふりだった」

 

「だからね、何と言われようとあの日から南雲くんは私の中で一番強い人なんだ」

 

 冗談にしては悪趣味すぎるだろう。彼女の声に嘘はなかった。

 

(まさか白崎さんがそんなふうに思っていただなんて…)

 

 香織が高校に入ってからずっと自分に優しくしてくれた理由がなんとなく分かった気がする。オルガ以外に自分のことを見ていてくれた人がいるとは思いもよらず、驚きと恥ずかしさで途端に顔を逸らした。

 

「僕は強くなんか無いよ。ただ面倒ごとを避けてるだけで自分が弱いのを嫌というほど知っているから、嫉妬とか劣等感とか嫌な気持ちでいつもいっぱいで…」

 

「この世界に来てからもそう。僕のステータスじゃみんなのお荷物に過ぎない。この世界に来て改めて気付かされた、自分がいかに取るに足らない存在かって。結局力がなければ何も守れない」

 

 ハジメの言葉を聞いても尚香織は首を横に振る。

 

「もしそうだったとしても私の中で南雲くんが一番強いのはやっぱり変わらないよ。だってその本…みんなの力になりたくて一生懸命勉強したんだよね」

 

 そう言って奥の机に置かれた本を指さす香織。隠しておけばよかったとバツの悪そうに視線を逸らすハジメ。

 

「私が憧れたのはそういうところなの。自分が弱いのを分かっていてそれでもいざという時に動き出す勇気!心に汚い部分を持ってるなんてみんな同じだよ。力がないならつければいいだけの話だよ。でも心の強さは簡単じゃないと思うから」

 

 ハジメにとって今の言葉に出来ないほど嬉しかった。

 

「だからこそ不安なの。明日また何か無茶なことをするんじゃないかって。だから…」

 

「それじゃあ!」

 

 香織の言葉を遮ってハジメが声をあげた。興奮で声も裏返っている。

 

 

「…守ってくれないかな」

 

____こんなにも僕を認めてくれた彼女の期待に応えられるよう

 

「白崎さんの天職は治癒師だよね。僕の能力は弱っちいからその力で守って欲しいんだ」

 

____僕は、強くなりたい。

 

「男としては恥ずかしいけど、僕も頑張って強くなるから」

 

「うん、分かった。私が守る!」

 

 

 ほんのりと輝く付きの下に少年と少女が二人。

 互いに見つめ合って、照れくさそうに笑い合う。

 

 

 月下にと交わされた二つの誓い

 

__彼女のために強くなる

 

__彼を何があっても守る

 

 

 月下の下で約束される、それぞれの決意。

 それを知るのは二人の他にいるはずもなく

 

_否

 

 もう一つの視線がドアの鍵穴の隙間から二人を覗いていた。

 

 

___________________________________________________

 

 

「異世界でも星普通に観れるんだな」

 

 宿舎の最上階。夜景観察には絶好の場所であるのだが深夜を回ったこともあり今は一人を除いて誰もいなかった。

オルガ・イツカは仰向きに地面へ横たわり夜風に身を当てていた。

 

__今みたいに星空をこう何も考えず眺められたのはいつだっただろうか。

 

 生前は孤児で常に戦場に身を置く立場だったこともあり星々の輝きに見とれている暇なんてなかったから、死後にベランダでハジメと二人で見た時ぐらいじゃないだろうか。そうオルガは思う。

 

__あれは確かハジメが小学生だったころだ。今よりさらに暗かったあいつを元気づけるために適当に星座を指さしては

『あれは俺の前髪に似てるから、“俺の前髪座”って名付けよう。ちなみにあれは三日月みたいだから“ミカァッッ座”だな』

みたいな感じで喋ってたな。ハジメの方は若干引いてたがまぁ楽しそうだったしいいだろ。

 

 思い出し笑いで口角が緩んだ。

 

「なんやかんやでハジメが成長してくれてよかったわ」

 

 古い思い出が蘇る。

 

__はじまりはそう、10年前かそこらだったな。神様に転生させてもらえるって聞いて、気がつけばベランダの物干し竿にかかってたんだ。そんでその家に住んでたハジメに拾ってもらったんだっけ。あん時のあいつまだガキだったから怖くて大泣きしてたな。

 

 何故かその時から自分の体が全く成長してないことに疑問がよぎったが深く考えないようにする。

 

 その頃のハジメは物心つく前に父を亡くし、母も転生とちょうど入れ替わりで亡くしている。他に身寄りもいなくて独りだったところに偶然オルガがやって来たという訳でだ。その後はハジメの保護者兼兄のような立ち位置で戸籍を手に入れ、第二の人生を歩むこととなった。

 当時は親を失った悲しみに耐えきれず廃人状態でほとんど笑うことのなかったハジメだったが、それから数年の年月が経って今はどうにか悲しみから立ち直れて普通に笑えるようになった。

 

「白崎とも仲良くなったみたいだしとうとう俺もいらなくなったかもな」

 

 あらゆるコネを使ってハジメと同じ高校に通うことが決まった時ほど彼が驚いたことはそれ以前も以後もなかったようにオルガは感じる。

 

「俺がいなくなっても…あいつならきっと大丈夫だ」

 

 確かにこれまでひっこみがちで受動的な奴だったけど、芯はやれる男だ。今回だって人知れず夜遅くまで勉強している姿を見てオルガはそう確信せずにはいられなかった。

 

「あいつも頑張ってるし俺も頑張らないと」

 

 とある団員が言った言葉とほぼ同じ台詞を口にする。

 

__弟が努力してるんだ、俺もいい加減、“過去”に向き合え

 

 平和な世界で安穏と暮らしてる中で記憶の淵に沈みそうになっていた生前の記憶。団員たちとの思い出とそして破滅へと導いたことへの後悔。

目を逸らし続けているだけじゃ駄目だ。

 

 たった一人前世の記憶を引き継いでここに生きるものとして、

 たった一人悲劇を知っている者として。

 

 一人誓いを立てる。

 

__今度こそ、大切な仲間を守ろう。

 

 その瞳には“決意”という名の炎が燃えさかる。

 

 




誰かはよ黒髪ハジメくんと香織の純愛同人誌作ってくれ!!(過激派)
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