鳥籠の中   作:DEKKAマン

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半月以上ってマジ?


ありえないこと

 わからない、どれだけ悩まされてもわからない。

 好きとはなんなのか。そのような本は探してみたが家にはなく、ネットで調べようにもよくわからないものばかり。

 それならばそういった類いの本を買えばよいのだろうが、まだどこか自分の中で認めたくない部分があってなのか買いに行こうとはなれなかった。

 

「……燐子さんは持ってんのかな」

 

 延期となっていた食事の話、いつにしましょうかと話し合った結果が今日だ。昨日そういえばと思い出して慌ててしまっていた。

 

 女の人と会うなど……最近は不思議と多いな。だとしても慣れていない事はたしか。

 まぁ回数が多いとはいえ今回は今までとは全く違う。今までは偶々出会ってというものだが、今回は事前に決めておいて向かうというものだ。きっと、これは天と地ほどの差があって。

 時間はどれくらい早く着いていればなんてこともわからない。決めたのだからその通りに、なんてほど単純なものではないだろう。

 

 どうせならこういうのもリサに聞いておけばよかったなと思いつつも予定の10分前に到着、流石にこれなら問題ないはずだ。まぁ予定より早くついているのに問題があるとするならばそれはなんともおかしい話なのだが。

 まだ充分に早いし燐子さんは来てないだろう、そう思いつつも一応ということで辺りを見回す。待つにしても10分程度どうということもないと思っていたのだが、予想外にも店の近くに燐子さんは既にいた。

 

「どれくらい待ってたんですか?」

「い、今丁度来たところ……です」

 

 視線をそらしながらそう言われる。彼女が手に持っているペットボトルの水が残り少なくなっているのを見て、嘘だなとわかってしまう。

 いくら外が温かくなってきているとはいえ長時間待つのは辛いだろうに。そうは思いつつも時間よりそこまで待ってはいないだろうと区切りをつけ、店に入り席につく。飲み物なんて、飲みかけを持ち歩く人だっているだろう。

 

 しかし不思議だ、これもある程度考えてみたがわかりそうにない。どうして燐子さんは俺と飯などに来たのだろうか?

 

 勿論嫌というわけではない。単純にわからない、理由がないのだ。俺にも、彼女にも。

 前々からこの店が気になっていて複数品食べてみたいからというのなら納得はいくが、それなら別に俺ではなくあこちゃんと来ればいい。

 それならばあこちゃんが用事でもあるのかと思ったが、それならリサだっていいわけだし、わざわざ日を延期したのにということはそれもない。いったいなんなのだろう。

 まぁこんなにあれこれ考えていようと嫌ではないのだしどうでもいい。もしかしたら俺が男で胃袋がでかいから、なんて本当に下らないものなのかもしれないけれど。

 

「あの……新庄さんは……どれにしますか?」

「え、あー……じゃあおすすめって書いてあるのでこれにします」

 

 思考を遮られるかのようにそう聞かれる。席についてしばらくが経ち、メニューを眺めながら考えていたせいで既に決められたと思われてしまったのだろうか。

 とりあえずおすすめと書いてあった物を頼むと伝えたが燐子さんは一向に店員を呼ぶ気配がない。

 

 もしかしてまだ決まってないのかなと思ったものの、なんだか困ったように店員の方を眺めていた。どうしたのだろうと思ったがその原因はとても単純なもので。

 最近にしては珍しく店員を呼び出すボタンのようなものがない。彼女は自らのことを人見知りと言っていたしこういったものはやはり苦手なのだろう。すいませんと声をあげれば近くにいた店員が俺たちの席にきた。

 

「俺はこれで、燐子さんは?」

「あ……わ、私はこれで……お願いします」

 

 頼み終わってみたが会話がない。静かなままが悪いというわけではないが、折角の機会でなにも話さないというのもあれだ。

 燐子さんもその事について迷っているのか下を向きながらもチラチラとこちらの方を見てきている。さてどうしたものかと考えているうちに飲み物が運ばれてきた。

 

 どうして俺なんかと飯にきたのか、一番気になることはそれなのだが、やはりそれをいきなり聞いてしまうのは感じが悪いだろう。

 はてさて何を話したものか。珈琲を飲みながら思案してそういえばこれがあったなと思い出したので口にする。

 

「この前の本どうでしたか?」

「凄く……面白かったです。私のは……どうでしたか?」

「そっちも凄く面白かったです」

 

 こちらが貸したのはこの前貸したミステリー小説の続き、それもあってか燐子さんから渡されたのもミステリー小説。

 このジャンルで面白そうな物は読みつくしたと思ったのだがやはり本の数は星の数とでも言うべきか、とても面白い上に今まで読んだことがない物だった。

 

「今日も……別の本を持ってきました」

「あ、ごめんなさい。この前の借りたやつ持ってくるの忘れちゃって……」

「い、いえ……今度返して貰えれば……大丈夫です」

 

 そう言って燐子さんは鞄から本を取り出し俺に渡してくる。今回も同じくミステリー物、実は恋愛小説を借りたいんですがなんて申し訳なさあり、恥ずかしさもありで言える筈もなくその本を受け取った。

 この本に恋愛要素でもあればいいのだが。そう思いながら本を眺めていると少し不安げな声で話しかけられた。

 

「もしかして……もう読んだこと……ありましたか?」

「いえ、これも初めてです」

「そ、そう……ですか。よかったぁ……」

 

 ほっとしたかのような表情を浮かべられたところで料理が運ばれてくる。会話は一旦途切れ、俺達はそれを食べることにした。

 燐子さんの方に運ばれたものはかなり少なく見えるがそれで足りるのだろうか、そう思った理由は考えないでおこう。俺は意識的に視線を上げた。

 

 

 

「今日は……ありがとうございました」

「感謝されることじゃないですよ」

「い、いえ……わざわざ時間を作って貰ったので」

 

 強制されたわけではない、何かしら手助けしたわけでもない。であれば感謝なんてされることでもない。

 むしろ本を返し忘れてしまった上にこちらは貸して貰ったのだ、感謝するならこちらからの方が正しいだろう。

 

「あ、あの……」

 

 聞きづらいことを聞くかのように視線を落とし手を胸に当てながら声をかけられる。

 なんですかと聞き返すと発されたその言葉は、何だか期待が込められているかのような気がした。

 

「新庄さんは……ピアノってまだ……やってるんですか?」

 

 息が詰まる。どうしてそれをなんて思ったのは一瞬のこと。こちらが燐子さんの音に聞き覚えがあるのだ、その逆もあって然りだろう。

 

 しかし何故それを聞いてきたのか、それがわからない。

 声が枯れそうになりながらも絞るかのようにして聞き返した。

 

「……湊から……聞いてないんですか?」

 

 そう聞くと察したかのような表情を浮かべた後目を伏せられる。なぜ聞いてきたのか、単純に自分もピアノをやっているから聞いてみた、そうではないだろう。だとするならばこのような表情をされる理由にならない。

 であれば何故か。それが……あの時の約束というのに関係するものだからなのだろうか。

 

 燐子さんと目が合う。どこか寂しそうな表情を浮かべそれ以上何も聞いてこない。

 居心地が悪い。頭を何度か掻いた後それじゃあと言い残しその場を去ろうとすると、少し大きな声で呼び止められた。

 

「また誘って……いいですか?」

「……大丈夫ですよ」

 

 何故、どうして、何もかもがわからない。

 あの時の約束とは一体何なのだろう、何故燐子さんは俺を誘ったのか、誘うのか。

 少し離れてから振り返ると燐子さんもその場を離れ始めた。

 

 

 

 帰り道、イヤホンを付け様々な事を考えながら歩いていると唐突に肩を叩かれた。

 一体誰だと思い振り向けば、そこにはまるで自分は何もしていませんよと言わんばかりに両手を顔の位置まで上げ笑顔を向けてくるリサがいた。

 

「……なにか用か?」

「別に、偶々見つけたからさ」

「なら俺は帰る」

「いーじゃんちょっとくらい」

 

 歩みは止めないがリサは俺の隣を付いてくる。どうせ録でもない話、下らない話だ、それに長い話でもないだろう。

 

「で、どうなの?」

「……どうもこうもねぇよ」

 

 どうなのと聞かれてもエスパーではないしなんのことかわかる筈もない。なんてことはなく、ニヤニヤとしたその表情がそれが何に対してのものなのか全て教えてくる。

 

「まだ認めてないんだ」

「……そういう本は持ってねぇからわかんねぇんだよ」

「ふ~ん。なら今度アタシが貸して上げるよ」

 

 とびっきりのおすすめのやつをね、そう付け足され一瞬足が止まる。求めていた物、しかしこう易々と手に入るとなると戸惑ってしまう。

 でもなんだか断りたさが。そう思ったのはこの気持ちがなんなのかわかってしまいそうだから。理由は多分、それだけだと思う。

 

「……随分と協力的なんだな」

「蒼音にも色々手伝って貰ってるからね。ほら、貰いっぱなしってなんか嫌じゃない?」

「……どうせお前は誰にでもそうなんだろうけどな」

 

 湊関連だからなのか、それともこいつが誰にでもこうなのか。それが後者であるのだろうというのはなんとなしにわからされる。

 

「今度ご飯にでも誘っちゃいなよ」

 

 まるで確信しているかのような物言い。否定もせず、だが受け入れることも出来ない。

 しかしそこで一つ、あることが頭によぎるが直ぐ様それを否定する。そんなのありえない、俺が湊を好きだという可能性以上に。

 

「そういうもんなのか?」

「何のこと?」

「……いや、なんでもねぇ」

 

 ご飯にでも誘ってみろ。したことはない、でもされたことはある。

 ああ、それはありえない。そう、こんな風に誰かを好きなんじゃないかと迷わされているから、考えさせられているからこそこんな風に考えさせられるんだ。

 これは思い上がりだ。思春期らしい、馬鹿みたいな男の勘違いだ。

 

 燐子さんが俺の事を好きなんじゃないかなんて……

 

 リサと別れ家に向かうその間、家についたにも関わらずそんなことはないとわかっていようとも、頭の中はそれでいっぱいだった。

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