鳥籠の中   作:DEKKAマン

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気になって

 最近、色んな事が気になってしょうがない。今までなら気づきもしない、気づいたとしてもだからどうしたと無視していたものが嫌なくらいに。

 そんなだからかよく疲れる。イラつきもして、小さく嬉しく思うこともある。

 

 何が気になっているかはわかる。だけれども何故そう思うのか、それがわからないものばかり。

 様々なものに意識が行きそれらについてどうこう思う。音楽をするものとして悪いことではないのだが……いかんせん熱が出たのかと思わされることがしばしばある。

 

「あなたのそれって……」

「ん? お前が勧めてきたやつだよ」

「そう。それで、どうなの?」

「ロックはわかんねぇ、でもだいぶいいもんだな」

 

 こうやって新庄君が私の勧めた音楽を聴いていること、そしてその音楽についての感想。私達の音楽ではなくそんなことまで本当に、どうして気になってしまうのだろうか。

 

 それだけではない。彼が他の人と一緒にいると視線が持っていかれる。私の知らない誰かでも、私が知ってる誰かでも、何故かわからないが意識してしまう。

 それはリサでも燐子でも、青葉さんだったりにも向けられる見境のないもので。

 

「んで、用事ってなんだよ」

「用事?」

「いや、お前が聞きたいことあるって言ったんだろ」

 

 そんなこと聞いていないなんて思ったが、ああ、確かに聞いた。一体なんだったか、こうやって覚えてないくらいに無意識で聞いたのだ、きっとそれなりのものがあったのだろう。

 しかしながらそれは思い出せなくて、そもそもそんなものがあったのかもわからない。だけれどなんでもないわ、なんて言うことは出来なくて何かないかと思案する。

 

「ピアノの調子はどうなのかしら?」

「多分中学生の頃のが上手いくらいには下手になってて落ち込んでるわ」

「……とても落ち込んでる風には見えないのだけど」

「なんだ、わかるのか」

 

 その顔はとても楽しそう。彼は実際に演奏をしているわけではなくただこうして話をしているだけだというのに。まるで始めたての子供のようだ。

 話を聞く限りは成長を実感できるのが楽しいらしい。上手だった自分を知っているからこそ、それを目指してやるのが本当にとのこと。

 

 彼は本当に楽しそうで、嬉しそうで何故か視線を離せない。小さく笑った彼を見ると胸の奥がチリチリと焼けるかのように熱くなってくる。

 ああ、これもおかしなことだ。彼と一緒にいる誰かだけではなく、彼自身にも視線がいってしまう。

 

 それにしてもあれで中学生の時の方が上手なくらいなんて中学生の彼はどんなだったのだろう。やめていなかったらどうだったのだろう。

 もしそれなら彼は私の誘いを、受けてくれたのだろうか? 

 

 ……いや、それは無しだ。燐子がRoseliaに入ってくれてとても感謝しているし、今新庄君が代わらせてくれと言ってきても私達は認めない。

 それは時間の問題ではない。ただそうあれと思うから。それにこの前の彼の演奏に合わせて歌った時何処か違和感を覚えてしまったのもある。

 その違和感は燐子の音に慣れたから、ではなく彼の演奏が遠くに聴こえたから。音の大きさの問題ではなく彼と私の演奏の筈なのに彼と私、別々でやってるように感じた。

 

 彼の音はソロ。圧倒的で魅力的、それをするだけの力がある。だけれども周りに合わせない、合わせられない。周りの実力が足りないのではなく一人で道を開いていく。

 それはピアニストとしては正解であったとしても、バンドマンとしては間違っている。バンドは一人では出来ないのだから。

 

「それで、リサはまだなのか?」

「……リサに何か用でもあるのかしら?」

「別にねぇよ。俺も予定があるけどリサが来るまで待とうとは思っただけ」

 

 リサの名前が出てきてそれすらも気になって。事実リサがやって来るのは本当でそれを待っている。そしてそれを彼に話したというのも私からなのに。

 カフェの中で偶々見かけ隣に座り、しかしなにもなかった。音楽の話、なんでもないことですら話す事はなくて。勿論することも出来たのだが……何故しなかったのだろうか。

 

 やはり最近はおかしい、無意識でどうこうしていることが多すぎる。買い物をしすぎる、食べ過ぎるというわけではないから問題はないが……流石にどうにかした方がいいだろう。

 

「予定って?」

「……燐子さんに呼ばれてな」

 

 彼がそう言った瞬間お店の中にリサが入ってくる。元は20分以上前にここで集合予定だったのだが、バイトが長引いてしまったらしくリサが遅れてきてしまった。

 わざとではない、これは練習ではない。それであれば咎めるつもりはない。リサが新庄君に話しかけるが、用事があるからと言って新庄君はお店の外に出ていった。

 

 軽く挨拶をして話もせず、本当にリサとあれこれするわけではないようで。ならば何故彼は私といたのか。

 私を一人にしないためだったのか? 子供じゃないのだから別によかったのに、そう思うとなんでか胸の底が温まった。

 それは子供扱いされたことにだろうか、でも苛ついているわけでもなくて。

 

「友希那、何話してたの?」

「別になにも」

「ん~、ほんとかな~?」

「嘘をつく理由はないでしょ」

 

 そう、なにもだ。意味を持ったものはただの一つもなかった。別にそれで不都合はないしたからといってどうということはないはずなのに、なんでか寂しさを覚えて。

 そんなことより新庄君が燐子に呼ばれた、それがなんなのか気になって仕方ない。やっとリサが来たというのに、彼は行ってしまったというのに考えるのはそればかり。

 

 そんなもの私が関与するものではないのだから欠片も気にする必要はないとはわかっている。そのはずなのになぜこんなにも考えさせられるのか。

 

「どうしたの、友希那?」

「なんでもないわ」

 

 なんでもない、熱はないし気分も悪くない。だからこれはなんなのだろう。言い表せないようなこの感じ、ざわざわと奥底が沸き立つような不思議なもの。

 本当にわからない、やはり最近何かおかしい。大和さんや紗夜に聞けばわかるだろうか、そんなことを彼が聴いていたロックを片耳に流しながら考えていた。

 

 

 

「申し訳ありません、ジブンにはわからないです」

「いえ、こちらこそ変なこと聞いてしまってごめんなさい」

 

 学校で大和さんにその事を話してみたが結果はこの通り、一体あれはなんなのだろう。迷えば迷うほど新庄君が頭に浮かんでくる。

 本当に訳がわからない。どうして新庄君なのか、リサでも燐子でも、紗夜でもないしあこでもない。それが偶々なのか、それとも理由があるのか。

 

「あ、でもジブンも機材に関してならそうなっちゃいますね」

「大和さんも?」

「はい、他の人が使ってる機材だったりとか見たことのないものだと気になってしまって」

「……そういうものなのかしら?」

「ジブンは機材の事好きだからそうなっちゃいますね。湊さんが何に対してそう思っているかはわからないですけども」

 

 好きだから? そういうものなのだろうか。でもそうであるならそれは猫だっていいはずなのにどうして彼だけになのだろう。

 嫌いではない、好きかと聞かれたら……まぁ、そうだろう。でもそれはリサ等にも抱いているはずのもので何も特別なことなどないものなのに。

 

 チャイムが鳴ったので席に戻る。気になるもののRoseliaの練習の時には気にならなくなれているのだからこのままで不都合はない。

 だけどそれは練習の時だけ、こうして暇な時間であれば考えてしまう。

 いや、授業の時間が暇というわけではないが古典ということもあり集中力が続くはずもない。周りを見れば始まったばかりというのに既にうつらうつらとしている人すらいる。

 

 古典というのは苦手だ、というのも勉強に気を向けていなかったのだからわからないというだけ。

 その中でも恋愛云々の物は特に苦手、その癖昔の人間はそういうものを書き記しがち。覚えればいいというわけではなく理解しなければならない。稀にリサから貸される本ですらわからないのだ、昔のものがわからないのだからそれで当然で。

 

 この時登場人物がどう思っていたかなんてわかるはずがない。好きだからなんて、そんな特別なことなのだろうか。

 いつもならうつらと眠気と格闘し始めてしまってもおかしくないのに今日に限ってはそんなことはなくて。

 好きだから気になってしまう。その言葉が不思議と頭の中に残っていた。

 




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