鳥籠の中   作:DEKKAマン

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新年初


答えを

 湊と別れ燐子さんの元へ。その足は重く一歩が小さく、そして遅い。別に重い荷物を背負っている等の訳ではないのだからその原因は精神的なもの。

 別に嫌な訳じゃない。何も悪いことはしていないし喧嘩をしたわけでもなく、行くのがめんどくさいとか帰ってやりたいことがあるわけでも。

 

「はぁ……」

 

 好きと言われてから会うのは二度目。この前はRoseliaの人が、その後のゲームでもあこちゃんがいたから一対一となるとこれが初めて。

 人がいたからか、それとも気を使われてかはわからないけどこの前は続きを、告白の答えを聞かれなかった。正直、気が重い原因もそれなのだと思う。

 

「……また赤かよ」

 

 湊と別れてから当たる信号全てが赤、時間まではまだまだ余裕はあるので問題ないがつい声で漏れてしまう。それはまるで俺に時間をくれるよう、それでいて惑わせるかのよう。

 俺は湊()好きだ、それは間違いなくて変わりようがない。じゃあ燐子さんは? 湊とどちらが好き? 

 

 この前名前で呼ばれてドキリとした。たったそれだけかと言われてもそれだけでしかないのだけど、それはその程度なんてものじゃなくどうにも衝撃的で。

 あの時の胸の鳴りは、熱さは、湊に勉強を教えていたときに感じたものと全く同じもの。

 あの時は不可解だと、全くわからなかったそれだが今となってははっきりとわかる。それを燐子さんにも抱いたとなれば答えは一つで……

 

 信号が青に変わったので進む。聞かれたらどう答えよう、それは当然今でも迷っている。でもそれ以上にもし、聞かれなかったらどうだろう。

 俺は自分から言えるのか、ごめんなさい、またはお願いしますと。それとも……聞かれないのならそれをよしとして先伸ばしにするのだろうか。

 そんなことよくないとわかっている。そうしないようにするべきで、であるならば答えなくてはいけなくて。グルグルと、渦潮のように頭の中で思考が回り続けている。

 

 あれだけのこのこと亀の如くまでとはいかずとも、それなりの遅さで歩き続け目的地に辿り着いたのは約束の30分前。

 もしかしたら既にいるのではないか、そんな不安を抱きながら周りを見渡せども燐子さんの姿は見当たらない。

 流石に早すぎたか、そうは思いつつもこの間ご飯に行ったときは燐子さんが待っていたのだしこの方がいいだろう。

 

 約束した場所はまたカフェ、先程もいたが珈琲一つしか頼んでないから胃に余裕はあり何も頼めない、なんてことにはならないと思う。

 燐子さんを外で待つか中で待つか。外には座れるような場所はなく、だから楽をするなら中だろう。でもこの前彼女は外で待っていたし天気も悪くない、であれば外で待つべきだと思う。

 

「ま、待たせちゃい……ましたか?」

「あ、俺もさっき来たばかりですので……」

 

 十分程待って聞こえてきたその声は燐子さんのもの、聞き間違える筈もなく振り返ると、息が止まった。

 その服は今までの彼女の服とは全くの別物。それこそ今年のトレンドと検索をかければ名の知れたコーディネーターがあげていそう、そんな服。

 とても派手とまでは言いきらないがそれでも目立ちそうな服。恥ずかしがりやな彼女とはかけ離れていて……普段とは違う彼女に見惚れていた。

 

「あの……似合って……ます……か?」

「……はい、似合ってますよ」

 

 顔を赤くしていきながら、声も小さくしていきながらそんな事を聞かれる。

 真っ直ぐには見ていられなくなって誤魔化すように道を歩く人を見れば、ちらりと燐子さんを見て何事もないかのように前を向き直し、再度ちらりと、そんな人すら見受けられる。

 燐子さんもそれに気づいたのか、小さく声を漏らしながらさらに顔を赤くする。そんなならば、とならないのは……俺が燐子さんに好かれている知っているから。この格好にも理由があってだとわかっているから。

 

「……えっと、このお店でいいんですよね?」

 

 もはや返事すら出来ないようで頷かれるだけ。店内なら見られないというわけではないが、不特定多数に見られ続けると感じる事はないだろうし幾許かはましになるだろう。

 それに……じろじろと彼女の事を見られているのも面白くない。

 

「まだ早いですけど入りませんか? 予約とかって……」

「し、してないです……けど、多分大丈夫だと……思います」

 

 カフェの中はすいているというわけでもなく混んでいるというわけでもなく中途半端、まぁ混みあっていて入れないというのが最悪なのでそれを回避できただけでも感謝するべきか。

 お好きな席にと言われたので出来る限り人がいないところに、とりあえず俺達は何か頼む事にした。

 

 

 

「…………」

 

 今日はいい天気ですね、この料理美味しいですね、珈琲お好きなんですか? 飛んできたのはそんな質問ばかり。

 無論迷惑していないしそれが悪いとも言わない。しかしながら卓上が珈琲とホットミルクのみとなってから15分、そうなってからは一切話を振られなかった。

 

 こちらから話しかければ何かしらの返答がある、長続きしないわけでもないがそれは世間話や自己紹介の延長線上のようなものばかり。

 もしかして、聞くつもりはないのだろうか。あれは全て気の迷いでした、なんていうことはありえないだろう。それは今日、服装が何よりも表している。

 無論、それが俺の勘違いだといわれればそれまでだが。

 

 聞かれないのならばならば俺から言う、単純明快なそれだが実行には移せない。

 正直なとこを言ってしまえば今日、正しくは燐子さんに会ってから、鼓動がずっと早い。

 熱を持ったように熱く、胸を突き破りそうな程激しく。それほどだというのに痛いどころか不快感すらない。その不思議なもの、これもまた湊に対して抱いたものと同じで……

 

「あ、蒼音……さん」

「……何ですか?」

 

 待つという意味合いを込めちびちびと飲んでいた珈琲も飲みきってしまった。それを見てか燐子さんは視線を俺からそらし、聞き逃してしまいそうな小さな声で言った。

 

「この前の……あの……その……」

 

 また顔が赤くなり始めるのが見えた。忙しい人だ、なんて思うはずもない。

 恥ずかしがりやなのに無理をして、そんななのに告白をして、そしてその時聞けなかった答えを聞こうとして。誰であろうと、俺もその立場なら顔を赤く染めるだろう。

 結局その後は何も続かなかったが……言いたいことがわからないほど馬鹿ではない。なので俺から出来ることはひとつだけで。

 

「燐子さんからの告白、凄く嬉しかったです」

「…………」

 

 今までされたことがないから、可愛い人からされたから、同じくピアノをしている人だから。そうじゃない、燐子さんだからそう思えている。

 湊からはわからないが他の人からされても、おそらくよくわからないまま断っていたと思う。

 

「……俺は湊の事が好きです」

「そう……ですか……」

 

 そう、これが俺の答え。俺は湊の事()好きだ。複雑怪奇、答えの存在しないこの問いに与えられた三つの選択肢。

 その中で俺は、最も最低の選択肢を選ぶことにした。

 

「でも、燐子さんの事も好きです」

 

 あなたが好きです、あいつが好きです、あなたとあいつのどっちも好きで選べません。

 どれを選ぶべきかは難解で、代わりにどれを選んじゃ駄目かは決定的。だけど俺はその中で選ぶべきではないとわかりきった選択肢を選んでいた。

 

 燐子さんの事が好き。それは今まで嘘だと思わされて、考えさせられて、しかしどう考えてもそうはならなくて。

 でも今日燐子さんに会って、話して、それで間違いないと思ってしまった。

 

 何故? 好きと言われて、そうあるべき行動をされた。それに触れて、もう自分では変わることが出来ないとこまで行ってしまった。

 

 俺は……燐子さんの事が好きだ。

 

「だから告白に答えることは……まだ、出来ないです」

 

 頭を下げる。俺はそれだけの事を言っているのだから。

 

「蒼音さん……」

 

 それは駄目、今選べと言われても仕方のないもので、しかしながらその答えは用意していない。何も発する事なく、しかし頭は下げたままで時間が過ぎる。

 今周りからどうこう思われようといい。ただその許しを、それだけを求めていた。

 

「……はい、わかりました」

 

 その言葉は信じられないもので思わず顔を上げてしまう。それ以上は何も喋らず、燐子さんがホットミルクを飲みきるのを待ってから会計に。あんなことを言ってしまったのだから俺に払わさせて貰った。

 

「……蒼音さん」

「……何ですか?」

 

 店を出て家まで送らせて貰って、いよいよ別れるというところで初めて話しかけられた。怒っているのか、悲しんでいるのか、表情からは読み取れない。

 

「待ってます……いつまでも」

 

 その時見せられた笑顔は優しくて眩しくて、ドキリと心臓が鳴り……ズキリと、胸の奥で何かが痛んだ。

 

 

 家に帰るも何もする気がおきない。鼓動は早く、熱は続いて、痛みもまた止まらない。

 ピアノをすれば誤魔化せるかもしれない、そう思って何分経っただろう。実行に移すことはできず、というよりかはしようとしなかったという方が正しいだろうか。それら全てを納めたくなくて。

 

 誰かを好きになって、そのくせ他の誰かを好きになる。それは本当に悪いことなのか。一生を誓ったわけでもないしまず付き合ってすらいないのだからそんなに、なんて考え出した自分が嫌になる。

 今になって欠片もわかりたくなかった母親の事が少しだけわかる気がした。それが何より嫌で、振り払うように頭を掻く。

 そんなことをしようと湊が好きで、燐子さんも好きという事実は変わらない。どちらも好きで、それだからどちらが好きかはわからない。

 

「俺から……」

 

 もういっそ俺から湊に告白をすればどうなるだろう。多分あいつは俺にそんな感情抱いていないだろうから望む答えは返ってこない。であれば諦められるかもしれない。

 でももし、望む(望まぬ)答えが返ってきたら、それを俺は受け止めることが出来るのか。

 湊に好きと返されたら燐子さんの事、何もなかったかのように忘れられるのか。

 

 期限はない、だけどそれは永遠ではなくて。先伸ばして忘れ去って、それが許されるものではないと俺はわかってる。

 俺が好きなのだから湊にするべきなのか、俺を好きで、俺からも好きだから燐子さんにするべきなのか。自分のことなのに、いや、自分のことだからこそ、何もかもがわからない。

 




フェスそこそこ回したのにりんりん出なくて泣き

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