鳥籠の中   作:DEKKAマン

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理由を知りたくて

 春になった頃にはあれほど望ましかった夏休みも鼻の先。今のところの予定はただ一つ、燐子さんとの夏祭り。まだそうではないというのに気分がいい、悪いはずもない。

 ああ早くその日になってしまえと、その日の準備は何もしていないのにそう思わされる。それは持ち物のことでもあり、心の準備のことでもある。

 

 昼休み、飯も食べ終えたしすることないなとスマホを開けば一件のメッセージが。なにかと思い確認をしてみれば学校が終わったら駅前で会いましょう、ただただそう簡潔に、たった一文で書かれていた。

 それだけであるならばどうということはない。問題はその送り主、そこには湊友希那と書かれていて。

 

 まっさらなメッセージ欄。例えるなら積もった新雪、それを踏み抜くかのようなもの。アイツは一体どんな気持ちでこれを送ったのだろう。

 もし今日俺にバイトが入っていたならば、何かしらで遊ぶなどで断られたらとか、そういったことを考えた上でこの文を送ったのか。

 幸い今日はフリーな為わかったと返そうとするもどうにも納得いかない。メッセージなのだし送れば取り返しのつかないものだからそれだけでいいのか、なんてことを考えてしまう。

 

 送られてきたものを返すだけなのに、ただそれだけをどうするかと頭がこんがらがりそうなくらい考えさせられる。

 ちょっと長くすればこっぱずかしいし、かといって短すぎるのもなんか嫌だ。少なくとも初めてのメッセージ、わかったとだけ返すのは許せないと勝手に思ってしまっている。

 ほんと、なんでこんなことで考えさせられなければならないんだ。わかったでも了解でも、長ったらしくそれっぽい事を書いても結局は一緒。そうわかっていて、なのにこうも迷ってしまう。

 

 湊は俺に送る時これでいいのかとか考えたのだろうか、少しは緊張したのだろうか。絶対に今わからないものであるくせに考えてしまい、どうせそんなことないんだろうなと思うとちょっとイラッとした。

 それは憶測であるけれどどんどん加速していく。それは俺がこんなにも悩んでるのにというものからなのだろうか、それとも少しも恥ずかしいとかそういうものを抱いてくれない(・・・・)アイツにイラつくのか。

 

 昼休みが終わるチャイムがなる。まだ教師はこないしさっさと返すか、そう思ったのだが次は移動教室なのでそうもいかない。

 そのまま授業を二時間、その間に考えていたのだけれど納得のいけるものがでなくて、結局は終わったから向かう、なんてその場凌ぎに返していた。

 

 

「……いねぇのかよ」

 

 顔を合わせたらまずなんと言おう、そんなことばかり考えていたのに約束の場所に湊は見当たらない。なぜだか普段より人が多い気はするが、その中に埋もれてというわけではない。

 明確な時間を指定されたわけではないし学校だって違うのだからそれは当然、それでもため息は零れた。まあぁどうせ待つにしてもそう長くは待つことにはならないだろう。

 早く来いよなんてことを考えてしまい、それを誤魔化すかのようにスマホを弄りながらも周りを見回し暫くするとようやく湊の姿が目に入った。

 

「待たせたかしら?」

「そうと言ったら?」

「ごめんなさいって言うしかないわね。でも、そんなには待ってないでしょう?」

 

 時間を確認してみたところ十分程度、まぁそうだなと返したところで一つの疑問を抱く。あれ、十分しか経ってないのか? というものを。

 体感ではもっと長かった、一時間とはいかないがその半分くらいは待っていた気分。だというのに時の流れは余りにもゆっくりで。

 

「それで、今日は何の用だ?」

 

 また音楽の感想でも聞きに来たのか、それとも遅めの感謝でもしようというのか。

 どうであれ湊が会いたいというからには何かしらの用件はある、そう思っていたのだが湊は首を横に振った。

 

「別に、何もないわ」

「……なら俺に会う理由はなんだよ」

「理由がないと駄目なのかしら?」

 

 首を傾げられ、本当に何もないかのように湊は俺に対して不思議そうな表情を向けてまでいる。理由もない、ならば俺に合う必要なんてなくて。

 それにコイツの事だ、必要がないのならば一人でも練習していそうなものなのだが。

 

 勿論理由がないからといって嫌なわけではない。これで誰かとの約束より優先したとなればまた変わっていたのだろうが、まぁ好きな相手なのだ、嫌である筈もなくて。

 

「あ、友希那さんに蒼音さん。こんにちは」

「こんにちは。久しぶりだね」

「湊さん、今日は練習じゃないんですか?」

「そうね、そういう美竹さんは?」

「実は近くに新しいカフェが出来たらしくて、ひまりに一緒に行ってみないかって」

 

 突然声をかけられ、誰かと思いそちらを見ればそこにはひまりちゃんと蘭ちゃんが。

 この二人は俺らと違ってきちんとした目的があるらしく、ひまりちゃんの方を見れば楽しみというのがあふれんばかりに感じ取れる。

 さて何をしようか、ただ突っ立ってるだけで過ごすのは馬鹿らしいしすることもなうえに疲れる。三人の話を右から左へと流しながら考えていたのだが、ひまりちゃんからある提案をされた。

 

「そうだ! 二人がよければですけど、一緒に行きませんか?」

 

 俺と湊は目を合わせる。自分は別にいいけれどそっちはどうだ? そう目で会話をする。

 そして互いになんの反応も起こさないでいるとひまりちゃんは、予定があるならそっちを優先してもらって大丈夫ですと言ってきた。

 

「いえ、することもなかったところだし……そうね、美竹さんがいいのならお邪魔させてもらおうかしら」

「アタシは別に大丈夫です」

「蒼音さんはどうですか?」

「……みんながいいなら俺もそうさせてもらうよ」

 

 することがなにもなかったから助かった、でもそれは俺にとって手放しに喜べるものではない。

 みんなというのは蘭ちゃんひまりちゃんは当然ではあるのだがもう一人、そちらの方に目をやればまるでなんでもないかのようにしていて。

 二人きり、そんなことを意識していたのは俺だけなのか。馬鹿みたいじゃないか、そんな風に思わされてイラつかされて。

 

「ひまり、なんであの二人誘ったの?」

「そ、それは……スイーツが美味しいって話だし少し分けて貰えたらいろんなの食べられるかなぁって……」

「……また体重増えたって嘆いても知らないよ」

「ちゃんと私の分も分けるから大丈夫だってば!」

 

 そんな楽しそうな会話を二人はしてる。同性だから同じバンドだから、そんなのはあれどきっと底の底まで仲がいいのだなというのは簡単にわからされて。

 

「……どうかしたのかしら?」

「……お前は良かったのか?」

「することがないまま過ごすよりはいいでしょう?」

 

 ああほんと、気にしてるのが馬鹿みたいだ。やっぱりコイツなんか、そう思って顔を見れば、そう思い切ることは出来なかった。

 

 

「ふ~、大満足だよ」

「ひまり食べ過ぎ、財布やばいんじゃなかったの?」

「うっ……そうだ、お二人は何で一緒にいたんですか?」

「湊が駅前で会おうって言ってきたからね」

 

 頼んだ物を食べ終わり今は飲み物を飲んで休憩中。こういったものは普段食べないが悪くはなかったが、また来たいというほどではない。

 蘭ちゃんにバレたくないのか今回は砂糖まみれの珈琲ではなく紅茶を飲んでいる湊はなんだか満足気、やはり女子というのは皆こういったものが好きなのだろうか。蘭ちゃんが頼んだチョコレートを勧められた時は少し嫌そうな顔をしていたが。

 

「え、それじゃあ何か予定があったんじゃないんですか?」

「予定は本当になかったから安心してちょうだい」

「それじゃあなんで新庄さんに会おうなんて言ったんですか?」

「理由はないわ」

 

 それは俺の知りたかったこと、でも今回のように理由なんてないと言われたこと。でも蘭ちゃんはそこで諦めずに湊を追及する、なにもないなんて事はないんじゃないですか、と。

 そう言われると湊は顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。その姿は何か理由となるものを探しているというよりかは何と言ったらいいかと迷っている風で。

 

「……会いたいから会う、何かあるとするならばそれね」

「だから、その会いたい理由を聞いてるんです」

「ちょっと蘭、友希那さん困っちゃってるじゃん」

 

 湊は遂に困り顔になり再度考えるようにして、そうねと呟いた後、なんでもないかのように言った。

 

「好きだから、それだけよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間俺は固まった。珈琲に伸ばしていた手は勿論、突拍子すぎて理解できないと思考すらも。

 もう一度頭の中で同じ言葉を流してみて、そこでやっと恥ずかしさが湧き上がってくる。

 

 一体どういうことだと、いや、既に好きと言われているのだがそれにしても突然すぎる。恥ずかしげもなく、事実何かおかしなことを言ってしまったのかとでも言いたげに首を傾げられる。

 

「おい、どういうことだよ」

「言葉のままよ」

「だとしてもだろ、それにその事を他の人の前で……」

「隠すものでもないでしょ?」

「隠すもんだよ、恥ずかしいとかそういうのはねぇのか」

 

 駄目だ、顔が赤くなってきていて思考もまともにできないでいる。知っていた、でも知っているのと言われるのでは全く違う。

 百聞は一見に如かずなんていうけれど、二度目でも一度目と同じかそれ以上のもので。

 

 意識しているのは俺だけ、そんな風に思ってさえいたのに蓋を開けてみればこれだ。恥ずかしい事を言ってきたのは向こうな癖に恥ずかしがってるのはむしろ俺で。

 

「恥ずかしがるものでもないでしょう、苦手なことだったり、知られたくないものでもないのだから」

「す、すいません! つまりお二人は……付き合ってらっしゃるんですか?」

「それは……」

「蒼音の返事待ちよ」

「え、じゃあここでまさかの……!?」

 

 全員の視線が俺の方に向いてくる。冷静になりきれない思考、この期待されているかのような視線、それでも俺は答えることが出来なくて。

 

「まぁ、今すぐでなくともいいわ」

「……お前はそれでいいのか?」

「決めるのはあなたよ、私がどうこう言えたものではないわ」

 

 その後はひまりちゃんからマシンガンのような質問攻めを受ける。それはもしかしたらスイーツ食べてる時より元気そうに思えるほど怒涛のもので。

 そんなひまりちゃんを蘭ちゃんが抑えて質問が止んだところで湊は俺の方を向いてくる。

 

「そういえば蒼音、あなたはどうして私だけ名字呼びなのかしら?」

「……お前は名字の印象が強かったからな、名前を知った時父親のって言ってただろ」

「なるほどね。それで、いつまでそれを続けるつもりなのかしら」

 

 言葉にはされてないが言いたいことはハッキリとわかる。今更変えようとなるとやはり恥ずかしくて、でも湊がこちらをジッと見ているせいで誤魔化すということは出来なくて。

 

「……わかった、これからは友希那って呼べばいいんだろ?」

「そうね……そうしてくれると嬉しいわ」

 

 ああ、ほんと調子が狂う。そうしてくれれば嬉しいなんて、なんでもないかの様に言うべきことでもない、コイツらしくない。

 ふと小さく、見落としてしまうくらい小さく湊は……友希那は笑った。それは今の俺にとってあまりに刺激的な物で。

 

「そういえばこの前あなたに話した曲の事なのだけど……」

 

 友希那はなんでもないかのように話をしてくる。顔を上げてみれば先程の表情が噓かのような真剣そうな表情を。

 いつも通り、見慣れたそれと先程の笑みとのギャップに、いつまでも顔が赤くなっていた。

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