「…………」
ショッピングモールの丸椅子に座り考え込む。昨日のこと、デートしましょうと言われたあれ。
友希那はいつもいきなりすぎる。突然連絡をよこしてきたかと思えばあんなこと、一体何の意図があるのだろう。
……いや、意図なんてわかりきっている。好きだから、あいつはそう答えるだろう。
「……まだ早いか」
なんの用もなくショッピングモールに来たなんてことは当然ない。待ち合わせ、その相手は燐子さんで、それまではだいぶ時間がある。
デート、とはどのようなものなのだろう。意味はわかる、問題はどこからそうなるのか。
気にかけてる相手と一緒に出かけるのがそうだとするならそれは一度ではない。
なら、今日のはどうなるのだろう。デートと……言うしかない。そう考えてしまったせいかいつも以上に緊張してる、昨日もろくに寝れなかった。
「もしかして……俺だけか?」
友希那は昨日ああ言ってきたのだし、そんな風に意識はしていなかったかもしれない。でも、燐子さんは?
俺は……正直言ってよくわからない。意識をしていなかったわけでもないし、緊張なんてありえないくらいしていた。ああでも、共通の趣味があったせいか男女の関係だと思い切ることはできていなくて。
「また……待たせちゃい……ましたか?」
「いえ。さっき来たばかりです」
「…………」
なんだか疑っているようだが今回ばかりは本当の事なのでどうしようもない。まぁそう言っても信じてくれないだろうし、悪い事ではないのだし別にいいだろう。
「どこか行きたいとこって……あったりしますか?」
「い、いえ……私は別に……」
「それならアイスでも食べに行きませんか? 外暑かったでしょうし」
「そう……ですね」
今回のデートとも言うべきこれは俺が誘った、だからといって一から百まで決めてはいない。本人に行きたいとこでもあればそれでと思っていたがそう上手くいかないようで。
それならそれで考えてはいたがやはり不安だ。上手くいくのか、楽しんでもらえるか。
なんて考えていたけれど一瞬にして何かがそれを覆い隠す。その正体は右手に当たる何かによるもので。
「ひ……人が多くて……はぐれちゃい……そうなので」
それだけ言ってこちらを見上げるその姿にあれこれ全部吹き飛んで、まさかと返して歩き始める。
多分誰も俺らのことなんて見ていない、だとしても恥ずかしいと思うのは仕方のないことで。顔は赤いだろう、熱も出始めたかもしれない。
彼女はどうか、なんて確認しようとすれば目が合ってしまい互いに逸らす。話すことなく、顔を合わせることもない。でも、手を離すことはなかった。
「燐子さんはどれにする予定ですか?」
「そう……ですね……」
燐子さんは真剣そうにメニューを見る。流石に並んでいる間ともなれば人の多さもあり、通り過ぎていくわけでもないので恥ずかしくて手は離してしまった。
自分から誘っておいてなんだが俺的にはどれでもいい。無難におすすめとあるものを頼もうかと考えていたところ声をかけられて。
「蒼音さんは……何にするんですか?」
「そうですね……おすすめってありますしあれにしようかと」
「なら私も……」
なんて会話をしていたら順番が回ってきていた。燐子さんは……俺と同じでいいのだろうか? 取り敢えず俺の分は先に頼んで視線を向ける。
先程の言葉的にそうであろうし、二つ目を頼もうとしたところ彼女は指をさして、これでお願いしますと店員に言った。
「払うんで大丈夫ですよ」
「い、いえ……これくらい自分で……」
「これくらいですし、誘ったのも俺なので」
半ば強引に金を支払いアイスを受け取る。燐子さんは納得してなさそうな表情を浮かべているが、既に払ってしまったものなのでどうしようもない。
席につき食べ進め、この後どうしましょうかとかRoseliaのこととか会話をし続ける。そんなだからか互いに食べるのは遅く、大きいものではないのにまだ半分程度にしか食べれていない。
アイスという品である以上溶け始めてくるのは仕方ない。まだそうでないとはいえだんだんとスプーンの通りが良くなってきてしまっているしさっさと食べた方がいいだろう。
そう思っていたのだけれど燐子さんからある提案をされて。
「あの……良ければ、なんですけれど……交換、しませんか?」
「え?」
「あ、いえ……その……」
聞き間違いでなければ交換しませんかと、何を? そんなもの、これしかないだろう。
味が異なるのだし交換しよう、そう捉えるのが普通なのだろうが、顔を赤く、そらされながら言われてしまえば気になってしまうのも仕方がなくて。
「駄目……ですか?」
「……いえ、そうしましょうか。折角味も違いますし」
ああ、よく回る口だ。いざ交換したはいいものの食べ進める事は出来ないまま時間は進み溶け始めてきた。
これは所謂間接キスとやらになるのだろう、が交換してしまった以上このまま捨てるという事はありえなくて。
覚悟を決めて一口、味なんてわかるはずもなく、代わりにただただ恥ずかしさだけが広がっていく。
くらくらしてしまいそうそれ、将来酒を飲んだらこんな風なのだろうか。であれば……確かに、溺れてしまっても無理はない。
さて燐子さんはどうなのかと目の前を見てみれば、どうやら彼女も同じようで顔が熱でも出しているかのように赤くなっていた。
自分もああなのだろうか。確かめる術はなく、アイスに触れた冷たい手では顔に触れてみても冷たさしか感じ取れない。
「あの……戻しませんか?」
「あ……そう……ですね」
このままでは食べきれる自信はない。嫌いなものというわけではないし、やろうと思えばできなくはないのだろうが、その前に自分がどうにかなってしまいそうだ。
そういえば友希那から貰ったあの飲みかけらしき珈琲、誰のか、なんてのはわかりきっていることで。
まだ口はつけていない、そうであることが唯一の救いだ。もししていたならば俺は今更なる羞恥心に襲われていただろう。
しかし、口をつけた回数や量など関係するものではない。その証拠として、一口しか互いに相手の物を食べていないが、それでもこんなにも返ってきた物を口にするのを戸惑っている。
俺と燐子さんはなんとかアイスを食べきったが会話はない。
なんと切り出したものか、目も合わせられずに時間だけが過ぎて、その静寂を破ったのは彼女から。
「よかったらこの後……本屋……行きませんか?」
「はい、大丈夫です。何か買いたい本でも?」
「えっと……はい、新しい本……買おうかなって」
そうと決まればということで本屋に向かう事に。最初は繋げた手、でも今度はそうすることは出来なかった。
燐子さんが本を探している間、折角だし俺も何か探すかと思いながら彼女の後をついていく。しかしあちこち見回せど興味をそそる物は中々見つからず、あったとしても既に持っているものばかり。
そんな俺とは反対に本を見つけたのか、燐子さんは本棚を眺めていた俺に話しかけてくる。
「蒼音さんも何か……買うんですか?」
「そうしようかなって思ってたんですけど、中々良さそうなのが見つからなくて」
「あの、それなら……私が探してみても……いいでしょうか?」
それは一体どういうことなのか、取り敢えず頷いてみると彼女は何処かに行ってしまった。と言っても走ってるわけでもないので後を追えばそこは新発売の小説が並んでいる場所で。
頷いてしまった手前もし既に持っている本を渡されたらどうしようかと考えていたがその心配はなくなって少し安心した。
あれでもないこれでもないと、本を手に取り元の場所に戻している。その様子は真剣そのもの、それはまるで自分のものを探している時よりも真剣そうで……
「あ、蒼音さん、これとかどう……でしょうか?」
そう言われ見せられた本、あらすじとタイトル、それだけでしか判断出来ないけど、好みであると答えるしかないもので。
不安そうな表情を浮かべている、だからありがとうございますと笑って答えれば彼女はほっと息をついて顔を逸らす。
そうしたら燐子さんは何故か俺にその本を渡さずにレジに向かおうとしたので呼び止めた。
「さっきの……お返しがしたくて……」
「あれは俺が好きでやったことなんで気にしなくても……」
「これも……私が好きでやってる……ことです」
筋は通っている、がそれとこれは別だ。形に残るものであるのもそうだし、値段もそうだ。でも彼女も譲る気はないようでそう伝えても頷いてくれない。
どうしたものか。これを承諾するのはなんか嫌、でも何を言っても彼女は断るだろう。それに、彼女がしたいと言ってくれたのだ、強く断ることなど出来るわけがない。
そうして悩んで、一つの答えを出した。
「じゃあ燐子さんが買う予定の方、俺に買わせて貰えませんか?」
「えっ、でも……それじゃあ……」
「形に残る物ですし、貰いっぱなしになるっていうのは……」
彼女は悩み始める。それでは意味がない、そう思っているのだろう。それはその通りで、値段だってほんのちょっとしか変わらない。
「それなら今度……ピアノ聴かせてください」
そう付け足せば彼女は折れたのかこちらに本を渡してくる。レジに並んでそれらを買って、本屋を出て最初に会った椅子に座ってそれらを交換する。
傍から見ればおかしな行動だが一々見る人もいないだろう。交換し終えて次はどうしようかと考えていると、燐子さんが本の入った袋をじっと見つめている事に気づいた。
「どうかしましたか?」
「蒼音さんは、友希那さんにも……こういった風に何かを交換したこと、あるんですか?」
「ない……わけじゃないですけど……」
ないです、と即答しようとしたところで踏みとどまる。そういえばリサから貰ったクッキーを渡したことがある、ああでも、あれは今回のとはまた違うもので。
「自分で買った物はないですね……貰った事も」
「……そうですか」
そして数秒後、彼女は微笑んだ。嬉しかったのか、何かが面白かったのか、わからないけれどそれは眩しくてドキリとして、今度は俺が顔を逸らすことになった。