「あのボスほんとキツかったー! ごめんね、りんりん。あこが足引っ張っちゃったよね」
「ううん……あれ、本当に難しいクエストだから……次はパーティーメンバー増やして……やってみよっか」
「うんっ! 蒼音さんとか誘って、ぜーったいクリアしよ!」
あこちゃんとショッピングモールのカフェにやってきて、昨日のNFOで勝てなかったボスのことについて話し合う。
未だに彼とやるゲームには慣れる気がしない。彼の事が気になっていつも通りに出来ないから。
でも……嫌じゃない、むしろ逆、出来るのならば積極的にしたい。だから、そうだねと返事をして余っていたケーキを食べきった。
「次はアクセショップに……って、あれ……
ねぇ、りんりん見て! あそこのショップにいるの……リサ姉かな?」
あこちゃんが指さした方を見れば今井さんの姿が。何を見ているんだろうと思って目を凝らしてみると、それが水着だとわかった。
海にでも行くのかな、なんて思ってたら声かけてみよ! とお会計を済ませたあこちゃんは走って今井さんの元に向かっていった。
「リサ姉~!」
「わっ! び、びっくりした~」
「ごめんなさ~い。リサ姉水着買いにきたの?」
「うん、実は今週末にひまりと海に行く約束してさ~」
持ってるの中学時代のだから、と言う今井さんに対しあこちゃんが自分も行きたいと言うと、今井さんはそれに許可を出す。
そしてあこちゃんは喜びそのままに私の方を向いて言ってきた。
「ねっ、りんりんも行こうよ!」
「……えっ……む、ムリ……ムリです……」
私には関係ないこと、そう思っていたから驚いた。でも無理、海なんて、しかもこの時期に。人は沢山いるだろうし、なによりも水着なんて絶対に。
「え~、絶対楽しいよっ、りんりん!」
「あこちゃん……でもムリ、です……」
「そっか……まぁりんりんとは海じゃなくても遊べるもんね」
あこちゃんはちょっとだけ残念そうな表情を浮かべ、それがどうしようもないくらいに胸を痛めてくる。
「でもま、水着見るのは付き合ってくれてもいいよね?」
「行こっ、りんりん! 最強にかっこいいやつ、見つけよ!」
「わ、私も……? ま、待って……」
結局その日は水着探しに付き合って、アクセサリーショップには行かなかった。
あこちゃんは私に似合う水着を探してくれようとしたけど私はそれを断って、それであこちゃんはまた残念そうな顔をして、それでもいつか絶対海に行こうねと言ってくれた。
行けたら……いいな、それがいつになるのかはわからないけれど。
帰宅後、あこちゃんと一緒にNFOをする予定があったので起動すると、トップページにお知らせが一つ。イベントかなと思い見てみれば、そこにはコラボのお知らせと書いてあって。
性能は……まぁまぁだけど、見た目は可愛くて欲しい。いったいどこでやるんだろうと思って調べてみると……
「ここって……」
週末に今井さんが行くと言っていた海の近くにある海の家、開催場所は何度見てもそう書いてある。
海に行かないと貰えない、でも限定装備は欲しい。私の中で二つの気持ちがせめぎ合って……勝ったのは後者だった。
……いや、どうだろう。これは言い訳かもしれない。本当に限定装備が欲しいだけなのか、海に行きたいのか、あこちゃんのあの寂しそうな表情が嫌で嫌で仕方なかったのか。
自分でもどれかわからないけれど……それでいい、わからないならそのままで。この気持ちが変わらない事の方が大切で、だから早くあこちゃんに連絡しないと。
連絡をしたらやってしまったという気持ちが襲ってきたが、やれたという気持ちもあふれてくる。
蒼音さんに告白して手を繋いで、それに比べればこんな程度と思えている。彼と出会わなければ……こうやって言うことも出来ていなかったかもしれない。
人は慣れていく生き物。最初は苦手でも、回数を重ねれば段々と薄れていく、Roseliaのライブでも過度の緊張をしなくなってきたのがいい例で。
ならば蒼音さんとのもいつか慣れてしまうのだろうか。それは今のところ、頭すら見せてくれていない。
「燐子さんの水着選びのお手伝いができるなんて、嬉しいです」
「まかせといてね、アタシとひまりで超似合うやつ探すから」
「お、お願い……します」
海に行きたいとあこちゃんに言って、でも問題が一つあって、私は水着を持っていなかった。
なくはないのだけれど昔のものだし、着れる自信もなく不安だったので今井さんと上原さんに頼むことにした。
勿論着ない、という選択肢がないわけではなかった。普通の服で行けば少し……いや、だいぶ暑いだろうけれどそれでも済む。
なのに買いに来た理由は単純で、あこちゃんから水着持ってるの? って聞かれてしまったから。それともう一つ、周りが全員水着となれば悪目立ちしてしまう、それがなにより嫌だった。
露出が派手なものでなければなんでもいい。そう思っていたのだけれど二人はじっと、見定めるように私の体を見ていた。
「な……なん、ですか……?」
「……前から思ってたんだけど、燐子ってスタイルいいよね?」
「そんなことは……別にスタイル……よくないです」
「そんなことあります!」
「うぅ……」
喜ぶべきなんだろうけど恥ずかしくて何も返せず、顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。そんな私を置いて二人は段々と盛り上がっていき、まるで自分の事のようなはりきりを見せ水着屋さんに向かっていった。
二人の後をつけながら考える、蒼音さんは私の事をどう見ているんだろうと。二人のようにスタイルがいいと思っているのか、それとも何とも思っていないのか。
スタイルがいいと思っていると考えちゃうと何だか恥ずかしくなってくるが、彼が何とも思っていないのかと思うと、少し寂しい。
自分の体が優れていると思ったことはない。今までは勿論、二人から言われた今でもそう。
だからこの水着選びだって二人が選んでくれたものの中から、そう思っていたんだけれど……
「やっぱ燐子は黒だと思うんだよね~」
「燐子さんなら可愛いピンク系も着こなせると思うんですよね~」
「く、黒……? ピンク……?」
なんだってない、そういうものだと思っていたのに……
「じゃあデザインは? アタシはビキニタイプを押すね!」
「ここはむしろワンピースタイプじゃないですか?」
「び、ビキニ……? ワンピース……?」
何だか想像の遥か斜め上を行くくらいの二人に気圧されて……
「さぁ、どっちがいい!?」
二人のその言葉を頭が理解しきってくれず、沸騰してしまいそうになってしまっていた。
「ごめんね、燐子のペース考えずにガンガン言っちゃって」
「燐子さんの水着を選びに来たのに燐子さんの事置いてけぼりにしちゃってました……反省です……」
「いえ、そんな……」
何とか落ち着いた私に対し、二人は謝罪してきた。謝られることは何もされていない、寧ろ選んでもらっている立場なのにそうしないでいるのだから謝るのは私の方。
私のペースでと今井さんに言われ、店の中の水着を見て回る。あれもこれも見ているだけで恥ずかしくなってきてしまう、でもこんなにも協力して貰っているのだからどれがいいかと一生懸命に探して。
あれは可愛い、これは落ち着いてる。あそこの方にあるやつは……ちょっと露出が多すぎる。
二人と一緒に見て回って数十分、候補となりうるものは絞り終えた。何様だと言いたくもなるが恥ずかしいから、と二人にはお店の前で待ってもらうことにし、それらを持って試着室に入る。
「どっちが……いいのかな」
折角だから二人の意見を取り入れたい、でも片方に選んでもらったものをそのままというのは、何だかもう一人に悪い気がして。
ピンクのビキニと黒のワンピース、私はどっちを選んだ方がいいのだろう。考えて考えて、結局わからないまま時間が過ぎていく。
どっちがいいかなんて私には決められない。誰に見せるためのものではないのだから、そう思ったけれどふと、何故だか蒼音さんの事が浮かんできた。
……どっちが可愛いかなんて私には決められない、どちらがいいのかなんてわからない。そんなだから蒼音さんに見せるとするならどちらがいいのか、なんて考えてしまった。
「うぅ……」
また顔が赤くなった気がする、今度は爆発してしまったかのよう。ああでも、それなら選べそうだ。誰でもない、彼が好みそうな方を選べばいいのだから。
上原さんと今井さんに心の中で謝りながら二つの水着を見る。彼なら……多分こっちの方を好みそうだ。知らない事でも予想は出来る。
勝手だけど、理由なんてないけれどなんとなく、そう思った。
二人の事を随分と長く待たせてしまったし、お店を出たらまず謝ろう。そう思っていたけど、二人の間にいるその人を見て、一瞬頭が真っ白になってそうする事は出来なかった。
「あ、燐子さん! お疲れ様です!」
「お疲れ様。気に入ったの見つけられたみたいで安心したよ」
「……お疲れ様です」
どうして蒼音さんがここに、もしかして何を買っていたかも知ってしまっているのか。
彼と目が合うと、彼の事を考えて水着を買ったという事実が恥ずかしくて今日一番の熱を体が訴えてくる。そんな私の事を知ってか知らずか、今井さんが話しかけてくる。
「それで結局、どんなの買ったの?」
「そ、それは……」
二人には恥ずかしいからお会計終わるまで待ってくださいと言ってしまったが……ああ、見せてしまった方がよかったかもしれない。
でもチラリと彼の方を見ると伝わったのか、当日まで楽しみにしてるねと言ってくれた。
彼の事を考えて、彼が好みそうなのは、そう考えたけれどやっぱり見せるとなると話は別。勝手なものだからこそ彼には知られることもない、見られることも。
そう思っていたのだけれど……
「そうだ! 蒼音さんも今週末に海行きませんか?」
手にしていた袋を落としてしまうところだった。彼も海に来る、もしそんな事になったら彼が私なんかの水着姿を見てしまう。想像しただけで限界だ。
でも彼が予定があるからとそれを断ったのを見て安心し、だけど何処かで残念だと思う自分もいた。その理由はなんなのだろう。買い物に行くと言って歩き出した彼の背中を見ていると余計にわからなくなってくる。
あなたの事を考えて選びましたと言いたいのか、これでいいのかと聞きたいのか。感想を求めているのかそれとも……可愛いとか綺麗とか、そんな事を言われたいのだろうか。
「燐子さん、連絡先交換しませんか?」
「え、あ、はい……喜んで」
上原さんと連絡先を交換し、その後蒼音さんのいた方向を見るが彼の姿はもう見えない。それも当然、ため息をついてしまってそんな私を見てか、上原さんは一つ質問をしてきた。
「あの~……もしかして燐子さんって蒼音さんの事……好き、だったりするんですか?」
ああ、バレてしまった。これに関しては分かりやすすぎた自分が悪いのだけれどやっぱりこういうのを知られると恥ずかしい。そんなことないですと否定してもよかった、別に肯定しても何かが変わるわけでもない。
彼女は友希那さんも彼の事を好きだと知っている、そんな彼女がこの気持ちを知ったらどう思うのだろう。私には無理だと思うのか、面白がるのか無反応なのか。
色々考えてみて、この気持ちに噓は付きたくないと頷けば、応援しますねと彼女は言ってくれた。その後は二人と昼食を食べて解散することになった。
そこそこな時間だというのに外はまだまだ明るくて暑い。空には雲が流れていて至って普通、昨日や一昨日見たものとの違いなどわからない程度。
今週末のように大きな予定がない限りは毎日がこうなのだろう。勿論練習はあるしあこちゃんとも遊ぶ、そしてたまに蒼音さんに会う事があるのだろうけど、それらは特別と言えるものではない。
彼と過ごして、そうする事で距離を縮め仲良くなっていく。友希那さんに負けないために、彼にあなたが好きだと言って貰うために。
きっと彼女もそう考えているのだろうと、そんな日々が続くのだと考えると……何だか少し、怖くなった。