鳥籠の中   作:DEKKAマン

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代償を払う

 夢を見た。何の面白みも、オチもないつまらないもの。ハッキリ全て思い出せるかと言われればそうではなく、薄らと思い出すので精一杯。

 外は明かりを取り戻してきているがまだ日は登っていない。意識はハッキリとしてきたが体を起こす気にはなれず、寝転がるようにしてスマホを手に取る。

 

「今日の練習は確か……」

 

 練習はお昼頃からでそれまでまだまだある、かといってやることもない。蒼音やリサに聞かれたら夏休みの課題をしろと言われそうだが、どうにもやる気はおきないでいる。

 期限通りにしさえすればなんでもよいし、今までもどうにかなってきたのだし、まだ焦り始めるものではないだろう。

 

「……期限といえば」

 

 決まったのだろうか、蒼音が選ぶその日のこと。燐子と話して、それとももう決まったと、私が知らぬ間に決まってしまったか。

 別にいつだろうと構わない、彼が燐子の事を選ぼうと……

 

 ぞわりと、何かが背中を駆け上ったかのような気がした。

 

 季節外れに冷たかったそれの正体はわからない。落ち着かない、落ち着けない、考えたくないけれど考えずにはいられない。

 

 私は彼の事が好きだ、いつ好きになったのかはわからない。

 私は彼の事が好きだ、どこが一番好きなのかはわからない。

 私は彼の事が好きだ、多分、燐子には負けてない。

 

 いや、いくら考えたところで選ぶのは私じゃない、彼だ。だからどんな結果だろうと私はそれを受け止めて……

 

 パン、と乾いた音が部屋に響く。寝転んでいた体は上半身だけ起き上がっていて両手が合わさるように重なっていた。

 

 目の前を小さく黒い何かが通り過ぎる。閉じていた手を開くと、そこには何もいなかった。

 

 

 

「うぅ、暑い~」

「そう思うから暑いんです。そもそもこの時期に長袖を着てくるのがいけないのでは?」

「だってだって、この服かっこよくないですか!?」

 

 練習の帰り道、あこは紗夜に対しそんなことを言い、今度は私に向けて友希那さんもそう思いますよね、なんて聞いてきた。

 彼女に乗って話すことが出来る燐子とリサは二人で会話中、紗夜の方に顔を向けてみるが彼女もなんと答えるべきかわからないようで困り顔をしている。

 あこが着ている服がダサいというわけではないが、服のかっこいいかどうかなんてよくわからない。ただこちらを見上げてくるあこの事を無視できる筈もなく、でも噓を言うわけにもいかないから。

 

「……そういうのは私より燐子に聞きなさい」

「りんりんはかっこいいって言ってくれました!」

「それなら私たちに聞く必要もないでしょう?」

「そうじゃなくて~」

 

 わからない、燐子から既に言われているならわざわざ私たちから求める意味が。

 燐子が優しさから噓を付いているかもしれない、という風に疑っているわけではないようだし。

 

「どうしたの?」

「あ、リサ姉! この服かっこいいよね!?」

「サイコーにかっこいいよ」

 

 話が聞こえてたのかリサがこちらにやってきてそんな事を言う。褒められて嬉しそうなあこは燐子の元に、それを見てリサは私たちに呆れたような顔をして声をかけてくる。

 

「二人共素直に褒めればいいのに」

「……私にはああいうものはよくわかりません」

「私もよ、それに燐子に褒められたのだからそれでいいでしょ」

「わかってないなぁ二人共」

 

 ため息をつかれ私と紗夜は顔を見合わせる。暑さを我慢してまであの服を着て、私なんかよりずっとセンスのある人に褒められたのに私にも求めてきて、私にその意図はわからない。

 褒められて嬉しいというのはあるだろうけど、私程度のセンスで褒められたところで得られるそれなど微々たるものの筈。

 

「わかってても言われたいって経験、二人もあるでしょ?」

 

 誰かからだから言われたいっていうのもさ、続けるように彼女は言う。

 わかってても言われたい? わかっているのに言われても何もない、誰かから、というのも関係ない。そう思ってはいるのだけれど何か引っかかる。

 ふと隣を見ると紗夜は納得したかのような表情を浮かべている。彼女はわかって私にはわからない、それに原因はあるのかどうか、この引っかかるものは何か、全部わからない。

 

 そんな事を考えていたら皆別れてしまいリサと二人きり、家までそう遠くないが話さずにいるには遠すぎる。先程のリサの言葉を頭の中で繰り返すと、やはり気になるものは晴れてなくて。

 気になるけれど別に不都合があるわけでもない、だからそれは置いておいてもう一つの気になること、燐子と何を話していたのかを聞こうとする。

 深い意味はない、ただなんとなく聞かなければいけない気がした。それは多分蒼音関連なのだろうと思わされて。

 

「明後日蒼音とデートしたいってことで、どうやって誘ったらいいかって話しててさ」

 

 ……面白くない、自分から聞いたことなのに、予想通りなのにそう思ってしまう。明日も休みなのに、なんてのはどうでもいい。理由なく、意味もなく、どこかイラつく。

 私がこんな事を思ってるなんてリサは欠片も思っていないのだろう。リサの言葉を聞き流させながら溜まり始めた黒い何かは、ヘドロのように粘ったい。

 

「課題はちゃんとするんだよ?」

「……ええ」

 

 気がつけば家についていてしまったらしい。今家の中には私一人、閉めたドアに寄りかかり付けた明かりを見上げてみるとため息が零れた。

 先程感じた黒い何かは今にも体を突き破りそうな程に強くなっている。頭が痛いし耳鳴りがする、でも体調は悪くないし思考も明瞭だ。

 

 恐らく私は燐子に嫉妬している、蒼音とデートをするというそれが許せない。

 自分勝手だ、そんなにしたいのなら明日しようと連絡すればいいだけなのにそれだけじゃ駄目だと思う自分がいる。

 ああ、リサの言葉が分かってきた。わかっていてもというのも、誰かからというのも。そういうことなのだろう。

 

 鞄からスマホを取り出す。私が今やろうとしていることはよくないことだ、本当にするべきかとスマホを眺めて深呼吸をして、電話をかけた。

 

「……もしもし」

 

 燐子は蒼音から好きだと言われているのだろうか。声に出して伝えられたことがあるのだろうか。

 

「明後日なんだけど、空いてるかしら?」

 

 私は……ない。彼から好きだと言われたことが一度たりともない。

 

「それならデートしましょう。場所は……駅で、遠くに行きたい気分なの」

 

 あなたは本当に私の事が好きなのか、優しさから何も言ってないだけなんじゃないのか。

 電話を切る。よかった、間に合った。大きく息を吐いて、ずっと立ちっぱなしだった玄関の明かりを消して自分の部屋に向かう。

 

 私は最低な事をした、その自覚はあるしそれによって何も思わないものがないわけでもない。

 

「…………」

 

 嫉妬という名の怪物は何処かに隠れ、そのお陰で心は軽くなったかのようだ。

 外を見ると雲が空を覆っている。雨が降りそうだ、多分それは、明日まで続くだろう。

 

 

 

 予想通り昨日は止むことなく雨が降り続いていた。一昨日から嫉妬が何処かに隠れた代わりに言い表せないようなものを感じる。もし今日の事を知られたら、なんて思われるだろうか。

 空を見上げる、天気予報では雨は降らないということだが一面黒い雲で覆いつくされている。

 

 今更取り消せないし取り消すつもりもない。でも取り消せないから、取り消さないから不安になる。

 虫のいい話だ、やったのは、しているのは自分だというのに知られたくないなんて思ってしまう。

 駅について逃げるように日陰に入る。壁に寄りかかってなんとなく上を向いて、でもすぐに視線が落ちてしまう。

 

 やっぱり嫌うだろうか、私の事を。燐子は、リサは、蒼音は、こんな私なんかと侮蔑して私を置いて行ってしまうだろうか。

 

「おい」

 

 突然声をかけられ思考を中断させられ、誰だろうかとそちらを向けば蒼音の姿。ドキリとしたのは何故なのか、彼を見たから、ではないだろう。

 こんにちはと言えばいいのだろうか、それともいい天気ねなんて言ってみればいいのか。黙りこくっているとため息が彼の方から聞こえ、その後すぐに話しかけられる。

 

「今日何処に行くか決めてんのか?」

「……いえ、特には」

 

 遠くに行きたいなんて言った癖して何処に行くかは全く決めてない。

 どこでもいい、どうでもいいというわけではなくどこでもいい。それには誰と、という条件がついてなら。

 

「行きたいところはないのか?」

「私は別に……あなたは?」

「俺もだな」

 

 こういう時燐子ならどうしているのだろう、そもそもこうならないように全て決めているのだろうか。無言のまま時間が過ぎて、日陰にいるせいで彼の顔もよく見えない。

 呆れられてしまうんじゃないか、そんなことすら考え始めた時、行くぞと声をかけられた。

 

「……何処にかしら?」

「さぁな、でも遠くに行くなら早くした方がいいだろ」

 

 それに、と彼は続ける。

 

「お前とどっか行くにして、決めてたことのが少ねぇだろ」

「……それもそうね」

 

 気にしすぎ……なのだろうか、ちょっとだけ力が抜けて大きく息を吐く。隣町か、そのまた隣か。もしかして終点まで行ってしまうか、何もかも決めてない。

 彼が背を向けて歩き出す、私はその後をついて行く。彼に手を引かれたら、そう思ったのは何故だろう。はぐれたくないからか、それともただそうしたいだけか。

 

 駅の中に入ろうとしてまた振り返って辺りを見回す。きっと手を引かれたいというのには、今日に限ればこれも理由の一つであるのだろう。

 

 

 

「お前、ここに来たことは?」

「……多分ないわね」

 

 なんとなくで降りたそこ、駅を出て辺りを見回すが見覚えのありそうなものなどそれこそコンビニくらい。

 もしかしたらライブをしに来たことがあるかもしれないが、覚えていないのだから関係のないことだ。

 そっちはどうなのかと聞いてみるが帰ってきた答えは一緒、つまりここはお互いにとって未知の場所であるということで少しばかり不安になる。

 

「とりあえずどっか寄るか」

「そうね、カフェにでも寄ってこれからどうするか決めましょう」

 

 彼は返事をしてスマホを弄り始めた。何をしているか覗き込めはしないから待っていると行くぞと言って歩き始めたので後を付ける。

 カフェの場所を調べていて、今だってその場所を確認しながら歩いているのだろう。

 優しいと思うべきなのだろう。実際そうだ、私は昨日スマホの充電をするのを忘れてしまって、それを言ってはいないが私がしないから調べてくれている。

 なのにスマホを覗き込んでいる彼の事を見るとなんだか気に食わない。

 

 だから私は、手を繋いだ。

 

 スマホから視線がこちらに移り歩みも止まる。時が止まってしまったかのように互いは動かない、喋らない。でもドキドキと、なんでか私の体の中で暴れているのはわかる。

 

「……歩くの、早いわ」

「……悪かったな」

 

 嘘、場所を確認しながらなのにそんな早いわけがない。でも彼は真に受けたのか歩くのが遅くなって、そのせいかスマホを見っぱなしではなくたまにこちらを向いてくれる。

 会話なんてものはないけれど心音は向こうに届いているかもしれない、掴む力が強いなんて思われているかもしれない。

 

 蒼音は一体どう思っているのか、私と同じように思っているのか。もしかして何とも思っていないのかもしれない、それは燐子と慣れてしまっているから、そして……

 

 ……なんて事を考えていたらカフェに着いたようで、手を繋いでいる理由もないので離して入店する。離れた手には寂しさが残り、しょうがないので自らの服の袖を掴む。

 

「この後どうする?」

「どうする、って言われても……」

 

 何をすればいいかわからないし何ができるのかもわからない。特にしたいこともないしそれは彼も同じようで。

 

「じゃあ適当に歩いてなんか見つけたらそこ行くか」

 

 そうしましょうと答えたはいいがここにはきたばかり、飲み物だってまだ届いていない。話すような事も思い浮かばずじっと彼のことを見る。

 私としてはなんだって構わない、ずっとここにいて時間が過ぎるのを待つのだって。でもそれじゃつまらないだろう、彼が。

 

「あなた、普段燐子とはどんなことをするの?」

「何か食べたり買い物したり……だな」

「それ以外には?」

「それ以外……たまにゲームしたりとか」

 

 飲み物が届いてそれを口にしながら話をする。これからどうすれば彼がつまらないと思わないのかと気になって聞いてみたが、どうにも燐子としていることは私としているそれとそんな変わらないらしくて。

 唯一違うとすればゲームしたりということだが……それは私では無理だろう。面白い話でも出来たらよかったのだが、生憎そう簡単には思いつかなくて。

 

 ふと窓の外に目を向けると、うっすらと何かが降って、水溜りに波紋を広げている事に気が付いた。

 今の季節に雪など降るはずもないし、猫や犬が降るわけもない。であればこれは何か、わからないはずもない、でもわかりたくない。

 

「…………」

 

 天気予報なんて当てにならないなんて思いつつも、これは蒼音とのデートの約束を横から奪った私への罰、なんて風にも思ってしまう。

 

「傘持ってるか?」

「ないわ、あなたは?」

「俺もだ」

 

 準備しとくんだったと蒼音はぼやくがそれは私だって一緒。これでは何処かに行くなんてできない、私は別に構わないけれど彼は……

 

「……止むと思うか?」

「……無理そうね」

「だよなぁ」

 

 あまりに強ければ弱まるのを待てばよかっただろう、しかしこの程度であれば待っていても弱まるよりも強くなっていくだろう。

 嫌になるほど強くはない、でも気にならないほど弱くもない。明日は練習があるし風邪を引くわけにもいかないし、多少濡れるのは我慢して駅に戻ってしまった方がいいだろうか。

 そんな風に考えていると彼は財布からお金を取り出し机に置き、頼んだ珈琲を飲み干して席を立つ。

 

「強くなる前に傘買ってくる」

「え……」

 

 お金は払っといてくれなんて言っていたが、彼が置いていったのは彼の分だけでなく私の分を払ってもまだ足りるくらい。

 これが一番、それはわかっている、私だって雨に濡れたいわけじゃない。

 

「はぁ……」

 

 肘をついて外を眺めているとため息が出てしまう。暇だ、スマホの充電はないし一人では何もできることもない。

 何故だろう、蒼音といてもそんな話をしていたというわけではなかった、なのに今更になってそれを感じている。

 

「……早く戻ってこないかしら」

 

 その呟きに意味はない。暇だから、一人じゃ寂しいから、なんて子どもみたいな理由じゃない。雨が強くなってしまうのを心配してだ。

 店の中の時計は見えないからどれほど待ったかわからない、でも少しは待ったはず、だけど雨のせいで遠くまで見えないせいか蒼音の姿は見えてこない。

 

 ……もしかしてだが私の事を置いて帰ってしまったのか。そんなこと彼はしないとわかっている、だからもしかしてだ。

 手を繋いで歩いてたから長く感じただけで、実際の距離はそう離れていないというので駅で待っているのかもしれない。そうであれば充電のないスマホに連絡がきているから気づけてないというだけなのか。

 でもここには彼に引かれるようにしてきたのだ、道なんて覚えていない。だから祈るようにここで待っているしかなくて。

 

 おかしい、私は何を感じているのだろう。嫉妬とはまた違う今の空のようにどんよりとしたそれ、不安で不安で仕方がない。

 こんな風に感じたのは子どものころ以来だろうか、落ち着かなくてどうしたらいいかわからない。またため息を一つ、紅茶を飲むがそれが晴れることはなくて。

 

 それを幾度か繰り返しているとこちらに向かって歩いている人影が見えた。誰かはまだわからない、が期待を込めそれを見つめそれが蒼音だとわかると殆ど飲んでなかった紅茶を飲み干し、代金を払って外に出る。

 

「遅かったわね」

「そんな時間経ってないだろ」

 

 体感であれば30分程は待ったと思うが、実際にどうかはわからないので噓だと断じることは出来ない。

 思わず代金も払ってしまったので店の中に入り直すのは気が引ける。だいぶ濡れてしまった様子の彼は屋根の下にきてビニール傘を一本渡してきた。

 

「……この後どうする?」

「……あなたはどうしたいのかしら」

「別に」

 

 彼のそれは答えてはいるが答えになっていない。

 答えになってない、だけど……答えていないわけじゃない。

 

「……どうしようかしら」

「さぁな」

 

 空を見上げ屋根の外に向けて右手を伸ばす。大雨だ、止みそうな気配すらない。

 互いに傘はあるけれど一歩も踏み出さない、どこに行こうと提案もしない。それでも互いに、帰ろうとは口にしない。

 

「…………」

 

 雨の音と水を跳ねる車の音、後は私の心音だけが聞こえてくる。暴れそうなほどじゃないのに、かき消されてもおかしくないそれは確かに聞こえてくる。

 彼の方を見る、聞こえてくる音が大きくなった。ここに来るときに繋いだ手を見て、自然と彼のものに向けて伸びてゆき……

 

 気づいたのか彼がこちらを見てきて思わず手を引っ込め顔を逸らす。どうして、というのは自分に問いてもわからない。

 こんなことは始めて。リサから借りた本にもこういう描写は乗っていたし恐らく、彼が好きだからこうなるのだろう。

 

 燐子も彼といるとこういう風になるのだろうか、ふとそんな事を考えたら、消えたはずの感情が一気に湧き上がってきた。

 不安、先程よりも遥かに強い。一体何に対してと考え、なんとなく彼の事を見て気づく。

 

 ああ、違う。何で抱いたのかじゃない、何で今まで抱かなかったのだろうか。知ってしまえばとどまるところを知らない、食い散らかすように不安が蝕んでくる。

 もしかしたら嫉妬というのも元を探ればこれが原因なのかもしれない。

 

 視線を彼の方に向けるとその不安は更に大きくなっていった。

 

 

 

 目的もなく歩き回って、何もせずに雨を凌いだり何処かに寄って、そんな事をしていたら時間はあっという間に過ぎ去っていた。

 電車から降りて駅から出る。雨は未だ降りやまず、外が暗くなり始めたのもあって視界を塗りつぶしているかのよう。

 

「ねぇ、蒼音」

 

 彼は傘を指して雨の中を歩き出そうとしている。なんだと聞き返してくる彼はなんと思っているのか、今日の事をつまらなかったなんて思ってはいないだろうか。

 屋根の下の私と空の下の彼、数メートル程度だけどあまりに遠く感じてしまう。

 

「あなたは音楽のこと、好きかしら?」

「なんだよ、急に」

 

 音楽は好きだ、それと猫も、それは彼も同じはず。彼を見上げる、何が聞きたいのかわからないという風にこちらを見ている。

 

「私は好きよ……あなたの事も」

 

 じゃあこれも一緒なのか、あなたは私の事が好きなのか。彼は顔を背けるが私は目をそらさない、何とも答えない彼を見ていると胸に穴が開いてしまったかのように落ち着かない。

 

「……あなたは燐子のこと、どう思ってるの?」

「……どうもなにも、お前と一緒だよ」

「それじゃあわからないわ」

 

 わからない、それじゃわからない。予想はついたところで実際に言われないとそれは真実になりきらないから、わかっていても言われたいから、あなたに言われたいから。

 

「……言わなくてもわかるだろ」

「わからないわ」

 

 わからない、わかるはずがない。だって……

 

「私はあなたに好きだって言われたこと、一度もないわ」

 

 彼はこちらを向いて、だけど何も発しない。気にならなかった雨の音が段々煩わしく思えてくる、待てば待つほどそれは強くなっていって。

 

「……好きだよ、友希那の事も……燐子さんも」

 

 多分そうなのだろうと予想はついていた、だけど実際に言われると安心か喜びか、色々混ぜこぜになったものを感じさせられる。

 

「私と燐子、どっちが好きかって決まってるのかしら?」

「……悪いけどまだ決まめれてねぇ」

 

 何も悪くない、決めれてないならそれでいい。あなたの口から好きだと聞けた、それだけで今日のこと、したことを後悔はしていない。

 

「……そろそろ帰りましょ」

「……そうだな」

 

 隣り合って歩き始める、そこに会話はない。私はあなたが好き、あなたは私を好き。改めて知ることができた、知ってしまった。

 あなたはいつか選ぶ、私か燐子のどちらかを。それは待つべきことで、迎えてほしくない。

 

 怖くて、怯えて、嫉妬して期待する。それらを知ってしまったのは良いことばかりではない、が悪いことでもなくて。

 

 あなたがいつか私の事を好きでなくなってしまうんじゃないかなんて、今まで考えたこともなかったしこれから考える必要もなかったのだろう。

 だけどもう考えずにはいられない。それはきっと代償だろう、誰によるものか、そんなもの、問うまでもなくわかりきっていた。

 

 




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