女体化上杉君が天涯孤独になって中野家に預けられる話 作:悠魔
「ぐす……ひっく、う、うぅ、うぁああああぁん」
泣いた。
みっともなく泣いた。
涙は尽きない。涙が乾けばそれ以上に泣いた。
二人の距離が遠すぎることに、涙が止まらない。
身体はここにあるのに、もう二度と帰ってはこない。手の冷たさが、どうしようもないほどの、大きな隔たりが存在していた。
国語の読み取り問題で読んだ小説でも『死』を扱っていたけれども……あれは、物語を動かす舞台装置であったのだなと感じる。
死んだところで何を得る訳でもない。
ただ、ただ、悲しいだけ。
「お、父さん………らいは………!」
どれくらい泣いただろう。人は泣くと頭が痛くなるらしいけれども、それよりも心が痛い。……涙と鼻水で汚れた顔は、人前に晒せるような物ではなかったろう。
しかしそれが何だというのか?
死ぬよりはマシだ。
▽▽▽▽▽▽
二人の葬儀はとんとん拍子に進んだ。
実際には祖父母が裏で尽力してくれていたのだろうが、私にとってその時間はあっという間に過ぎていったように思えた。
人が死んでも時間は進む。二人と共に過ごした日々は、既に過去のものだと、世界に無理矢理認識させられたかのようだった。
この世に神がいるとしたら、きっとそいつは気まぐれなのだ。だからこんな酷い仕打ちも平然とできるし、運命に翻弄される人間を見て面白がっているに違いないーーそう確信できる。
「風波ーー頑張ったなあ、辛かったなあ」
「辛い時は、泣いていいんですからね」
お爺ちゃんとお婆ちゃんの言葉を、どこか遠くに感じていた。そうやって慰めてくれるのは嬉しいけれど、お父さんとらいはが死んだという事実から目を背けられなくなってしまうからだ。
何も聞いていたくない。
目を閉じていれば、ずっと思い出の中で二人に会えるというのに、周りの人々は私を「可哀想な女の子」として現実に引っ張り出してくる。それが善意だとしても。
今は人の声を煩わしく思う。
誰にも知覚されない、私だけの空間の隅で丸まっていたいーー今ほど、そう熱望したことはなかった。
だから、明後日の方向から来たその一言は、私の殻をいとも容易く破り去った。
「上杉君、君は私の家で預かることになった」
「………………ぇ?」
「私と君のお父さんとは古い仲でね。その縁あって、君を私の家にーー」
「ーーぁ、えーーー」
意味のある言葉を紡ぐ事ができない。
しかし理解はした。この男ーー顔を合わせるのは初めてだがーー中野家の父、中野丸男が、私を引き取るとのたまったのだ。
感謝するべき、なのか?それとも、自分の家族はあの二人だと怒るべき?氷のような無表情からは、何を察することもできなかった。
結局、口を突いて出たのは疑問だった。
「……なんで、あなたが、そこまで?」
「ーー君の祖父母は経済的にはともかく、体力的に君を預かるのは厳しいものがあると判断した。彼等は持病持ちだーーそして、君の様子を見るに、下手に環境を変えるべきではないと判断しーー」
「そうじゃ、なくて。どうしてあなたが、そこまでするんですーー?」
「ーー病院に運び込まれた段階で既に難しい状態であったものの、私達の力不足という面も否めないーーせめて、君にできるだけのことをしてあげたい」
「ーーーーーー」
途端に、目の前の男が憎らしく思えた。
力不足?そんな言葉で、彼等の死を片付けるつもりか。医療の限界などという言い訳で、彼等を救えなかった免罪符にでもするつもりか。
ふざけるなーー
そう言い放ってしまえれば、心はまだ軽くなったのだろう。
だが、この男の氷のような無表情が、ほんのかすかに溶けて、雫となっているのに気が付いてーーその言葉を引っ込めた。
その潤んだ瞳を、私は憎んでもーー憎みきることはできなかった。
心に相反する想いが入り混じったまま、その日はやってきた。
あるだけの荷物をボストンバッグと車に詰め込んで、私は中野家にやってきた。