女体化上杉君が天涯孤独になって中野家に預けられる話   作:悠魔

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四話

ノックの音がした。

面倒だったので無視していると、おそるおそると言った風にドアが開いた。

二人の来訪者は、遠慮がちに入室した。

ーー三玖と五月だ。

 

「し、失礼します」

「一週間ぶり、カゼハ」

「ーーー………」

 

ああ、またこの目だ。

葬式でうんざりするほど感じた、私を哀れむようなーー同情するかのような目。

その瞳には、いつだって『家族を喪くした可哀想な女の子』が写っているんだ。私をそんな風に写すくらいなら、いっそのこと視界に入れないでほしい。無視してほしい。見ないでほしい。

哀れみも同情もいらない。そんなものがあったところで、私の家族が戻ってくる訳じゃないんだから。

 

「何か、ーー用?」

 

拒絶の色を出さないよう注意して言ったつもりだったけど、どうやら私の声は予想以上に冷たかったらしい。二人は一瞬身体を震わせた。そんなつもりは毛頭なかったのだが……。

微妙な顔をする二人に、ぎこちない笑みを浮かべた。

 

「何か用事でも?」

「あー……ええと……用、というほどの事でもありませんが」

「カゼハ、何か欲しいものない?」

「欲しいーーいや、特にはーー」

「食べたいものとか、行きたいとことか。私達に言ってくれれば、できる範囲の事なら何でもするよ」

「ーー私も三玖も、貴方の力になりたいのです。私達だけじゃない、一花や四葉、二乃だって……きっとあなたを支えてくれますよ。私達は貴方の味方です」

「………そっか。でも、本当に今欲しいものはないよ」

 

半分本当で半分嘘だ。

欲しいものは一つだけある。しかしそれは二度と手に入れられる事のできないもの。

もしもここで、父親とらいはをここに持って来いと言われたら……二人はどういう反応をするのだろう?

困るだろうか?それとも面倒臭い女だと幻滅するかもしれない。

三玖と五月の顔を見た。

純粋な優しい目だ。力になりたいというのは本当だろう。二人の死に悲しんでくれているのだろう。

平時であれば、その優しさに癒されていたのだろうが……、今だけはその目を向けてほしくない。薬というより、毒だ。

 

(ーー最低だ、私。こんなに優しい人達に、話しかけないでほしいって思ってる)

 

三玖も五月も、中野家の五つ子は皆んな、死んでいった二人のために心を痛めてくれるような優しい人たち。一人取り残された私のことを案じてくれているような慈しみを持った人たち。

その人達の『眼』がーー自分の心を、少しずつ、少しずつではあるがーー蝕んでいく。その眼差しは、否応にも二人の死と対面せざるを得なくなるから。

 

「ーーーーありがとう、二人とも」

 

取り繕った笑顔しか浮かばなかった。

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

夕食で何を話したか良く覚えていない。

美味しい、とか、明日のメニューはどうするだとか。そんなくだらない話しかしていなかった気がする。

だというのに、たったそれだけの会話で、心が磨耗されていく。言葉の端々から気遣ってくれているのだと感じる。身体中の細胞という細胞から遅効性の毒がゆっくりゆっくりと回っていくかのような気味の悪さに、頭がズキズキと痛み出す。

はぁ、とため息をついた。

今日はさんざん寝た。

考えたくなくて、寝た。

だからかーー寝疲れた。ベッドで単語帳を広げてみても、内容に集中できない。

何故こんな目に遭わないといけないのか、とかそういう考えばかりが頭に浮かんで新しい情報を阻害していた。

 

(……………喉、乾いたな)

 

身体は喉の渇きを執拗に訴えていた。その要望に応えてやることにする。

ベッドの上から動くのすら倦怠を覚えたが、無理矢理立ち上がると、一階へと降りていく。

暗い中でも光る水槽が幻想的だ。

最上階ともなると、隣人の声に頭を悩ませる心配もないというわけだ。思わず、自分も静かにならなければ、と錯覚するほどの静寂があった。

この世にたった一人でいるような感覚……その中に紛れ込むほんの少しの寂しさ。その心地良さに浸っていたかった。

しかし、そこに一人……、乱入者が現れた。

 

「どうしたの、カゼハちゃん」

「……眠れなくて」

「そっか。じゃあ一花お姉さんとお話でもしない?」

 

彼女を見て、思わず笑顔を貼り付けた。

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