女体化上杉君が天涯孤独になって中野家に預けられる話   作:悠魔

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気付いたら前回の投稿から一ヶ月経ってたんですね…。
二週間くらいだと思ってたよ……。


九話

 

カゼハの事が心配。

その気持ちは皆んな同じだろう。きつく当たっていた二乃でさえ、彼女への態度があり得ない程に軟化した。

家族を失った時の自分達と重ねているのかもしれない。

かくいう私も、カゼハの最近の憔悴ぶりを見てーー首を真絹で撫でられたような感覚に陥った。

少しずつーーではあるが、取り返しのつかない未来へと進んでいるような。

怖い。

カゼハが、ではない。カゼハが自ら破滅の道を選んで歩いているようで……それがただ恐ろしい。何度声をかけても、止まってくれやしない。

 

(本人は自覚していないだろうけどーー、あの日以降、カゼハは勉強そのものを嫌悪している節がある)

 

私達に教えてくれている時には、流石に顔には出さないけれど。少なくとも以前のように、暇を見つければ勉強……などといった病的なまでの勉強狂いではなくなった。

そもそも、彼女が自学をしている際、苦しげな顔を浮かべてペン先を震わせているのを見て異常だと思わないわけがない。

勉強そのものに対する拒否感……いや、忌避感すら感じるほどの拒絶。

極め付けは、始業式の朝だ。

洗面台の前から動かない彼女を見て、何の気なしに声をかけた。

 

「カゼハ?どうしたの、早くしないと学校始まっちゃうよ」

「ーーーうん。今行くよ、三玖」

 

思わず息を呑んだ。

そう言って振り向いた彼女の顔はーーとても青ざめていて、苦悶に満ちていたのだ。

顔色が悪い。

目が泳いでいる。

汗がひどい。

身体は小刻みに痙攣し、足取りはふらふらとして覚束ない。

医療の知識がない私でも、その様子が尋常ではない事が見て分かった。

 

「カ、カゼハ、大丈夫なの?」

「なにが?」

「なにが、ってーーー」

「さあ、学校行くよ」

「でもーーー、……え?」

 

洗面所を出た瞬間、様子が一変した。

先程までの悲痛な様子はなりを潜め、いつものーー小生意気なカゼハが戻ってきた。

見間違いだったのだろうか?

あまりにも……胸の痛くなる、残酷な見間違いもあったものだ。

すぐそばに単語帳が落ちていた。

まさかとは、思うが。

カゼハは勉強すること自体に、恐怖を感じてしまったのかもしれない。

 

(……だとすれば、今のカゼハを助けられるの私だけ。新しい家庭教師を雇う事になるだろうし、少し寂しいけれど)

 

カゼハには、一旦家庭教師をお休みしてもらおう。

だいじょうぶ。少し休んで、勉強に前向きないつものカゼハに戻ったら、また家庭教師をやってもらえればいいだけ。

その間は、私達がサポートしてあげればいいんだ。彼女の助けになるように。

 

(お父さんに相談しよう。カゼハがお休みできるように、って)

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「少し来てくれるかな」

 

中野丸男はいつもの無機質な声で言った。

胸の中に嫌な予感を抱えて行ったが、それは当たりだった。彼は無情に言い放った。

 

「君の家庭教師の任を解く」

「ーー…………」

「君には酷な話かもしれないがーー君の学力が落ちた以上、もう家庭教師を続けることは出来ないと、判断させてもらったよ」

「……そう、ですよね」

「だが、君の学力が上がりーーそして、君にその意思があれば、再び家庭教師として雇う事もやぶさかではない。だから、そうだなーー、少しの間休むと考えればいい」

(………結局は同じ事だ)

 

休むのも辞めるのも、本質的には変わらない。学力が戻ったところで、時すでに遅しだ。

この人が雇うのはプロの家庭教師だろう。

とすれば、私よりも教え方が数段上手なわけで、私があの子達に必要とされなくなる可能性もあるわけだ。

だが、親としては当然だ。

私がどんな事情を抱えていようとーーどんな境遇にあろうと、家庭教師としては使い物にならない、という事だ。

こんな事を言われるだろうと、ある程度の想定はしていた。だがーー実際に言われると、受け入れ難いものがあった。

ああ、あの時と同じだ。

担任から転校するべきではと持ちかけられた時、私はあの子達の事を考えた。私が転校すれば、あの子達と会える時間が減ってしまう。

今まで培ってきたものが、崩れてしまう。

それだけは嫌だ。新しい環境になっても、私はきっと適応できやしない。

だから変えない。

不変でなければならない。

この関係性を壊してはならない。

 

「ーー」

「まだ、やれます」

喉元から言葉が勝手に出ていた。

驚く丸男をよそに、言葉は紡がれていく。

 

「先日の試験に関しては、すみません。家庭教師としての職務を放棄して、結果、あの子達にも迷惑をかけてしまいました。ですがーー私の学力が落ちたのは、休みに入る前の時の事です。まだ、やれます。やらせてください」

「………………」

 

相も変わらず、よく回る舌だと思う。

二人の葬式でやたらと私を心配する遺族の相手をしてから、こういった建前を並べるのだけは上手くなった。

くだらない事ばかり、上手くなっていく。

だがーー今回はそれでいい。

彼は目を細めた。

一人の親として娘達にちゃんとした家庭教師をつけてあげたい。しかし、私の境遇を考えればーー中野丸男は、上杉風波を無碍にするわけにはいかないだろう。

彼の良心につけ込んだやり口。

だが、これが私にとっての最善手だった。

 

「………いいだろう。では、条件を二つ設けよう」

「二つ?」

「一つ、次の試験で五つ子全員が赤点を回避すること。そしてもう一つ、君が再び学年一位の座を勝ち取ること」

「………それは……」

「厳しいかい?だが、仕事に関しては僕は対等でいたいと思っている。……もっとも少しの間ゆっくり休んで、再び復帰するのが最善だと思うがね」

「いえ、できます。やらせてください」

「………ああは言ったが、無理はしなくていい。それで身体を壊しては元も子もないし、仮に君が条件を達成できなくても誰も責めやしないよ」

「お心遣い感謝します。……失礼します」

 

さてーーどうしたものか。

もしこの試験で私がしくじったら全てが終わってしまう。

あの子達のそばにいられなくなる。

もうこれ以上、私の生活を変えてはいけない。変わるという事は、失う事だから。

過去は忘れちゃいけない。

手放しちゃいけない。

苛立ちのままに頭を掻き毟った。何か手を考えなければならない。

目下の問題は二乃だ。

態度が軟化したとはいえーーあの子が素直に勉強会に参加するとは思えない。

何かーーー何か、ないか。

 

(…………あ)

 

ふと目に入る。

自分の黒い髪の毛。

ーー電流が走った。そうだ。

この手を使えばきっとーー。

でもこんな事をしたらーー。

 

いや、なんだろうと構わない。

 

 

 

 

 

「二乃」

「なによ?」

「前に言ってたよね。私の従姉妹とたまたま会った、って」

「ああ、カナハちゃんね。それがどうしたのよ?」

「……あの子がもう一度会いたいって」

 

 

 

 

 

ーー何だって、利用してやる。




マルオ(三玖に相談されたし、風波には少し休んでもらお)
風波「いえ、やれますできます」
マルオ「ほーん、じゃあこの条件達成したら続けてもいいよ。まあ無理やろうけど」
風波「やれますできます」
マルオ「……え?マジ?いや、無理せんでええで?」
風波「やれますできます」
マルオ「えぇ……」
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