作者は書いては消して迷走中。
「はぁ、九尾の狐……、ですか?」
「あくまで可能性、でしかないのだがな」
現在事務所には、お客様が来ている。
俺は顔色を変えないように出来ているのか正直自信がない。
ただ、この話を聞かないという選択肢はないので、退室はしない。
美神さんの前には、スーツに帽子を被って顔が見え辛い男と、その横で細い目できな臭い笑顔をしている男の二名がソファに座っている。
美神さんは流石、九尾の狐という言葉を聞いても全く動揺していない。あれ?この人意外と図星をつかれると弱くて、勘九郎にミカレイの変装を見破られて滅茶苦茶動揺するような人じゃなかったっけ?まぁありがたいから良いか。
なんだかスーツの男はどこか偉そうな人だ。実際偉いんだろうけど。
「なるほどね、殺生石がなくなってたから実は復活してるんじゃないか、という懸念ですか。
……実はですね、ちょうど報告するための資料を作成していたところなのですが、既に九尾の狐は再封印済みなんですよ」
「は?そ、それはどういう」
一切表情を変えずに大ウソをぶっこく美神さんに対して帽子を被ったオッサンが戸惑うように聞き返す。隣で笑顔の男の目元がピクッと動いた。
【なるほど、そう来たか】
心眼?何か聞いてるのか?
【いや、聞いてはおらんが、この後の大体の展開は予想できる。まぁ黙って聞いておれ】
「いえね、ウチの助手がたまたま栃木で迷子になりまして、その時ちょうど目の前で九尾の狐が復活したんですよ。ホホホ、運の悪い助手でして」
「そ、それは無事だったのだろうか」
帽子の男がハンカチで顔をふく。
まさかの展開に頭がついてきていないようだ。
「えぇ、体力と逃げ足だけは自信のある助手なので。まぁその時は逃げ帰ってきたのですが、当然その後私に報告が来たので、慌てて対処に向かいまして」
「そのまま再封印した、と。いや、その場合何故国に報告を…!」
「万が一本当に九尾の狐が復活していた、なんてことになっていた場合、一刻の猶予もなかったので。まぁ、一応義務はありませんしね。ですが、大事なので事後報告ですがこうして資料を準備していたわけです」
「うぅむ……確かに……。では本当に封印したんだな?」
「えぇ、当然強力な結界が必要でしたので、費用がバカにならなかったんですよね。出来れば今回の依頼料も含めて、これくらい頂けるとウチとしては非常に助かるのですが」
「はぁ……。まぁそういうことであれば、かなりの手柄となるからな。上に掛け合えばある程度の金額は用意することが出来ると思うが……。むぅ、確かに、調査員の報告では強力な別の結界が出来ていたとあったな。すまないがもう少し細かい話を聞かせてもらって良いだろうか」
いけしゃあしゃあと金を要求する美神さん。
いや、マジか。というかいつの間に栃木まで行ったんだ。
改めて考えると、良かれと思って動いた結果まずいことになるところだったんだよな。
本来の俺が知っている流れなら、美神さんに来た依頼でタマモを退治したことになるはずが、急に殺生石がなくなったことに対して政府が動く結果になってしまったから、正直内心ヒヤヒヤもんだった……。
まさか、美神さんが先に動いていたとは、流石としか言いようがないな。
しかもシレっとお金せびってるし。バレたら捕まりますよ?
その間も細かく色々と話が進んでいく。
マジで書類やら結界の写真やら、大量に準備していた資料と言葉が出てくる出てくる。
完全犯罪じゃないかコレ。
ちなみにその間、もう一人の男は話に入らず、ずっと細い目で資料を眺めている。あの人目開いてるのか?
「なるほど!ここまで報告書が仕上がっているのであれば報告もしやすい。感謝する。いや、本当に事前に動いてもらって助かった。資料にある通り、あの辺りには誰も近づかないように手を打とうじゃないか」
本当に話を纏めてしまった。
【立派な詐欺師だな】
【いや心眼、美神さんはタマモのために動いてくれたんだからそういうこと言っちゃダメだって。心眼が美神さんに対して良い印象を持ってないのは知ってるけど】
【ふむ、最近はそこまでではないのだがな。とはいえ、恐らくその意図もあるだろうが、あれは結構な金になるとみて動いた可能性の方が高いぞ】
【ま、まぁそういう側面もあるだろうけどさ】
「……再封印ねぇ」
え?
【心眼、今何か言ったか?】
【いや、美神令子が政府からいくらせびるのか見ものだと思っていたくらいだが】
【そうか、ならもう一人の人が何か独り言言った感じかな】
結局、美神さんのごり押しでお客様は納得したようで、無事帰ることになった。
玄関でふと思い出したように美神さんが言った。
「ところで、そちらの方はかなり真剣に資料を見てましたが、専門家なのですか?」
「あぁ、こちらは今回の件を報告してくれた者でな、ここに依頼をするという話をしたところ、参加したいということだったので、妖怪に関する研究所から態々来てもらったのだ」
「自己紹介が遅れました。鍬南(すきな)と言います」
「はぁ、どうも」
鍬南と名乗った男は自己紹介だけすると、政府のお偉いさんと一緒に帰っていった。
【これで、とりあえず不安要素が一つ消えたな】
【本当にな。すっかり保護した時点で安心しちゃってたわ】
【私も考慮が不足していたからな。美神令子が動いてくれたことで結果的に助かったのは間違いない】
本当に美神さんには頭が上がらないわ。
「オカルトGメン?」
「そうよ!よりにもよってウチの事務所の隣に!」
おキヌちゃんの言葉を聞いて、商売敵がいきなり事務所の隣に出来たと喚き散らす美神さん。
横島はそれを横で見ながら苦笑している。
【お主の記憶が曖昧すぎて自信がないのだが、早くないか?】
そうなのだ。
心眼の言う通り、少なくとも横島がハンズオブグローリーを覚えてからだった気がするんだけど、想定より早くオカルトGメンが事務所の隣に出来てしまった。
まぁ、西条さんは横島が関わらなければ普通に良い人だし、実力としても相当強かったはずだから悪いことじゃないとは思うんだけど。
「一言くらい文句言ってやる!」
「あ、俺お留守番してま」
「あんたも行くのよ!実力行使になったらシュウ無双でなんとかするんだから!」
「俺を犯罪に巻き込まないでくださいよ!」
留守番しようと思ってたのに、哀れ俺は首根っこを掴まれ美神さんに引きずられて、結局メンバー全員でGメンに乗り込むことになってしまった。
「まさかお二人が知り合いだったとは」
「僕は以前令子ちゃんの母上の弟子だったんだ」
俺の言葉にコーヒーを淹れながら答えてくれるGメンの西条さん。
予想通り、乗り込んだ先に居たのは美神さんが幼い頃おにいちゃんと言って慕っていた西条さんだった。
当然、横島は暴走してしばかれている。
「それにしても、助手が三人も居るなんて、流石日本一のGSと言われているだけあるね」
「さ、西条さん、私のこと知ってたの?」
「あぁ、事務所の場所を決めた後ではあったけどね、六道さんのとこで色々話は聞いているよ」
美神さんの言葉にウインク一つ決めて答える西条さん。
いやぁ、キマってるなぁ。
「え?六道家、ですか?」
「あぁ、当然、君たちのことも……、ね」
俺の質問に意味ありげな視線で俺と横島、おキヌちゃんを見てから、こっちにもウインク一つ。
西条さんって、こういうこと平気でするけど、全然違和感感じないし、むしろ似合うくらいにマジで格好良いなぁ。
こら横島、舌打ちするんじゃない。
いやいや、とは言え横島が妬むのもわからないでもないくらいにイケメンだわ。
何この人、同じ人類?現実だとここまでイケメンなのか。美神さんの異常な美人さと相まって美男美女。
……って横島が何故か俺の頭を小突いてくる。
「お前、お似合いとか思ってただろ」
「バレたか」
「お前も俺の敵か!」
何を言う、俺は絶対にお前の味方のつもりだよ。
あ、でもルシオラとのことを応援するってのは、美神さんとのことを応援してないってことは、今の横島からしたら敵なのか?
「実は令子ちゃんには話があってね」
「何かしら西条さん」
「オカルトGメンに入ってくれ」
西条さんの言葉に全員が固まる。
「何を言うかと思えば、お金が大好きで大好きで仕方ない美神さんが、公務員なんかに……」
「西条さんがそうして欲しいなら」
――ブシッ――
横島の額やら耳やら鼻から血が吹き出す。
いや、前から思ってたけどそれどうやってんの?
キレすぎて血管が大爆発でもしたのか?
しかしこれは、どうなるかな。出来れば倒れる前に美神さんには戻ってきてほしいんだけど。
「で、マジでオカルトGメンに入るんですか?」
事務所で改めて美神さんに聞く。
「そうねぇ、ま、ちょっとだけ体験してから、かしらね。その間、三人で事務所まわしておいて。当然危険な任務は受けなくていいから」
「正気ですか?!あんな顔だけのいけ好かないイケメン野郎と一緒に働いて、俺達に事務所任すなんて、美神さんらしくないっすよ!」
ダンッと机に手をついて声を荒げる横島。
確かに美神さんらしくないと言えばらしくない。それに、確かに横島は異常に成長してサイキックソーサー1つで、結構美神さんのフォローをしながら依頼をこなしているけど、まだハンズオブグローリーを使えるようになってない。本当に事務所を任せるのだろうか。
「見てないから知らないんだとは思うけど、西条さんは昔から実力あったから、下手したら私レベルで強いわよ?あと、赤字を出したら命で償ってもらうからね」
あ、やっぱり美神さんだったわ。
赤字出したらって言った瞬間に背後に般若が見えた。
【しかし、美神令子、正直お主が公務員をやったら発狂すると思うのだが?】
「心眼、どういう意味かしら?」
「そ、そんなに殺気立たないでくださいよ。いや、だってどれだけ働いても悪霊シバいても給料固定ですよ?」
「え”?!」
心眼の代わりに俺が答えると、美神さんは石化したかのように固まる。
「公務員何だと思ってるんですか」
「ま、まぁとりあえず正式に入隊すると決まったわけじゃないし、様子を見てみるわ」
まだ表情は引きつってるが、自分でも続かないと自覚はしているのだろう。
「無理はしないで、辛くなったら戻ってきたほうが良いですよ」
「そ、そうね、まぁ、考えておくわ」
そう言って美神さんはGメンの事務所へ向かっていった。
これでせめて無理しないでくれたら良いんだけど。
「って、マジで行っちゃったじゃねぇか!!こ、こうなったら隣の事務所に嫌がらせを……!」
美神さんが事務所を出た瞬間にまた駄々をこね始める横島。
全くもうこいつは。
「やめんかい!美神さんに戻ってきて欲しいならオカルトGメンなんて目じゃないくらい黒字を出してやれよ」
「そうですよ、嫌がらせなんかしたらむしろ美神さん戻ってきてくれなくなっちゃいますよ?」
「そ、そうか!黒字を出せば、美神さんも俺の胸に飛び込んでくるというわけだな!!偉いぞシュウ!」
「いや、そこまで言ってないんだけど……」
まぁ良いや、とりあえずやる気にはなってくれたし。
実際、美神さんも多分すぐ戻ってくるだろうしな。
「で、横島所長代理?これから俺たちはどうすればいい?」
「え?俺がか?」
所長代理という言葉にキョトンと自分自身を指差す横島。
おいおい、まさか俺にやらせるつもりだったのか?
「当然だろ、俺は免許持ってないし霊力も使えないし、お前以外誰がやるんだよ」
「た、確かにそうなるのか……。そうだな……、ちょっと皆の手を借りてみるか」
横島はニヤリと指を立てて笑って俺を見た。
流石横島、お手並み拝見と行こうか。
基本的に大きな流れや事件は変わらず起きていますが、ドンドン時系列が狂ってきています。どんな影響があるのやら。。
ちょっと文字数減らしていきます。