神の気まぐれ(ヒカルの碁逆行コメディ)     作:さびる

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16.僕の願いが叶う時

ヒカルの碁の腕は、逆行前の状態へと、急速に覚醒していきました。

 

逆行前の生活の記憶は、よみがえらないのですが、囲碁のスキルだけは、それとは別に、碁に触れる度に、目覚ましく回復していたのです。

 

 

楽しい。棋譜を並べるのも詰碁も何もかも楽しい。もちろん対局も。

それがヒカルのたった一つの気持でした。

もちろん消えたものは必ず探すさ。でも今はこれが楽しいんだ。

 

 

秋風が吹く頃には、既に平八とは置石なしで勝てるようになっていました。

 

「ヒカル。強くなったのね。」

あかりはそれを見て言いました。

 

「本当にヒカルは、すごいぞ。お前は今の教室にずっと通うのか?」

平八は聞きました。

 

ヒカルは首を横に振りました。

「辞めるつもりさ。だって、先生といつも打てるわけじゃないし、あそこですることはもうない気がするんだ。」

「私、その教室に行ってみようかな。ヒカルがそんなに強くなれたんなら、私もやってみたいもん。」

 

 

 

11月になった時に、ヒカルは教室をやめると白川に告げました。

うん。やっぱりか。進藤君には、もうこの教室のレベルはつまらないんだね。

進藤君は、阿古田さんとは最近対局はしていないけれど、もう阿古田さんも勝てないだろうね。

とすると、僕の楽しみは無くなって、阿古田さんだけが残るのか。

 

白川は、ため息をつきました。

 

ヒカルは実際のところ、阿古田に対する強力なストッパーでした。

阿古田はひどくあくどい手で、弱い者いじめをするのですが、ヒカルが強くなってくると、そうもしていられません。

それでもたまにいじめにあい落ち込んだ生徒の相手を、白川はヒカルに頼みました。

 

ヒカルは実にうまく、いじけている相手の気持ちをほぐしてやることができました。

 

「おじさんもすぐ打てるようになるよ。楽しいと思えたら、すぐなんだ。俺なんてさ、碁は打てない、向いてないって言われてたのにさ、この教室で教わったら、楽しくってさ、ずいぶん打てるようになったんだよ。あっ、そこよりこっちの方がいいよ。ほらね。」

そんな話をしながら…。

 

「進藤君は、今日でやめるんだってね。」

「寂しいわね。たまには顔を見せに来てちょうだいね。」

教室で親しくなった人たちが残念そうに言いました。

 

「うん。もちろん。」

「ふん。わしにしっぽを巻いて、逃げるとは残念だね。」

阿古田は、内心ほっとしながらも、早速、嫌味を一言。

 

ヒカルはまだ阿古田と対局していませんでした。ヒカルに、もうその気が失せていたからです。

ヒカルは阿古田の言葉を余裕でかわしました。

 

「俺の代わりに、次から俺の友達が来るって言ってるから、よろしく。」

「あら。進藤君のお友達が?それは楽しみね。先生。」

「そう言ってたね。同じ学校なんだって。」

「うん。同じクラスなんだ。俺が打っているのを見て、碁に興味が出たんだってさ。」

 

また若い子が来てくれるのは嬉しいけれど。

進藤君はいじめられるような子じゃなかったけれど、その子は大丈夫かな。

白川はちらりと阿古田の顔を見ました。

阿古田は手ぐすね引いて待っているといった風情でした。

阿古田のあくどい対局で、この教室を去った人の数を、白川はそっと数えてみました。

 

その日、指導が終わった後、ヒカルは白川に聞きました。

「先生。もう少し強い人のいる教室を教えてよ。あっ、教えて下さい。」

白川はうーんと腕を組みました。

「うーん。進藤君に向いているところね。ちょっと、考えてみるよ。しばらく待ってて、くれるかな。」

 

もちろん教室はいろいろ知っているけれど、彼に合う教室となると…。難しい。

というか、わずか8か月ほどの間に、ここまで打てるようになった子を手放すのは惜しい。

間違いなく進藤君は逸材だ。

そう思う白川でした。

 

ヒカルのことはさて置き、次の週の教室の日です。

その日は、白川にとって、記念すべき日になりました。

 

「藤崎あかりです。よろしくお願いします。」

「あら、進藤君のお友達って、女の子さんだったのね。」

 

あかりは、得意の全方位外交で並み居る大人たちをがっちりと捉えました。

元々の素質に、自然と覚えた明子のスキルも加わっているかもしれません。

特に、阿古田さんがあかりにメロメロになったのでした。

 

「阿古田さんてこの教室で一番強いんだって、ヒカルが言ってました。」

あかりは、そう阿古田に言いました。

 

あいつは意外にいい奴なんだな。

阿古田はヒカルのことをそう考えました。

「いやいや。ははは。何でも聞いていいからね。」

阿古田は鼻の下を伸ばして嬉しそうです。

阿古田の弱い者いじめは、この時からピタッとやみました。

 

 

あの阿古田さんが、何とかなった。

藤崎君にお礼を言わなくっちゃ。いや、進藤君にお礼を言うべきなのかな。

 

白川は、心も軽く生徒の対局を見て回りました。

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