神の気まぐれ(ヒカルの碁逆行コメディ)     作:さびる

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17.ハッピーライフ

明子は、すぐに家でネット碁を始めたわけではありませんでした。

佐為の為にいろいろしてあげるということが、すっきりしないのでした。

 

見れば見るほど、癪に障る幽霊さんよね。

 

佐為は、平安の御世で、佐為の君などと呼ばれた頃の雅さなどありませんでした。明子に対しては。

もっとも明子はそういう雅に心惹かれるタイプではないかもしれません。

何しろ行洋に一目ぼれするような趣味の人間なのですから。

 

 

明子はネットカフェに行って、まず、自分でネット碁をやってみました。

実際にやったら、どんな具合なのか知りたかったのです。

 

登録名? うふふ。内緒。

 

 

明子は緒方に、登録している人の情報を少し貰っていました。

佐為が打つのに、あまりに初心者ではということで、緒方が吟味した棋力を持つ者の名簿です。

いつでもいるとは限らないとは、言われましたが。

明子自身が打つのは、強い人じゃない方がいいので、適当に相手を選びました。

幸い明子と大して違わない初心者のようでした。

 

碁って結構楽しいものなのね。

家に帰ってネット碁をするのは、あの幽霊さんを楽しませるためと思うと、何となく、腹立つけど。

でも今の家の状態を打開しなくてはならないわね。

うまくいかしら。

 

 

明子は、一週間ほどグズグズしていたのですが、とうとう決心して佐為に言いました。

「ネット碁を打たせてあげるわ。」

 

佐為は文机に置かれたノートパソコンを見つめました。

画面に盤面が映し出されていました。

 

「なるべく大きい画面のを頼んだのよ。指で打つところを指してくれればいいわ。」

液晶画面も、佐為が触れる場合は、傷みません。実際には触れないのですから。

「あなたの登録名は “sai”にしたわ。」

 

“sai”

 

それは佐為に、何かを思い起こさせる気がしました。でもただそれだけのことでした。

逆行した時に、佐為は、ヒカルのことだけをきれいに記憶の外に置き去りました。

忘れたというのではありません。自分の意志で捨てたというのが正しい言い方です。

 

そう言えば、私は、前にネット碁を打ちました。

その時、自分が強くなれたことを実感しました。

また打てるのですね。そのネット碁を。

あの時とは別の時間が流れているのですから、もしかして、もっと強くなれる?

 

とにもかくにも、佐為のネットライフが始まりました。

佐為は、満足してくれるのでしょうか。

 

良かったわ。緒方君の名簿にある人がいて。

これで、幽霊さんの恨みがましい目が消えてくれれば、ネット碁に付きあう甲斐もあるのだけれど。

明子は、佐為の指先にポイントを合わせながら、そう思っていました。

 

 

佐為がネット碁を始めた頃でした。

その日、.研究会の帰りに、白川は、師匠の森下に呼び止められました。

 

「白川君。昇段おめでとう。君はこの頃、やに調子がいいが、何かあったのか。」

白川君、最近、いやにニコニコして、楽しそうだな。

 

「はい。実はあの古山さんから受け継いだ囲碁教室なんですが。」

「あの、問題な受講生がいるという。」

もしかしてその受講生が辞めたのかな?

 

「ええ、あの人がすっかり改心しましてね。教室の雰囲気が良くなったのです。」

「ほう。それはまた。」

 

白川君は、古山君よりは人当たりがいいけれど、一体どうやったのかな。

「それはまた、良かったな。一体どうやったのかね。」

「いえ、私がどうかしたのではなくて。」

ん?小学生の女の子が入ってきて、その子が気に入った?

大丈夫か?危なくないのだろうな?

 

白川は森下の考えが分かりました。

 

先生は、しげこちゃんのことを考えて心配してるんじゃないかな。

「大丈夫ですよ。その子には友だちがいて、その子が囲碁教室をやめて、代わりに入って来たのです。彼がどういう人なのかは良くわかっている子ですから。」

 

何が大丈夫かよくわかりませんが、白川はそう言いました。

「なんだ。やめた子がいるのか。」

森下の思考はそちらへ流れました。

 

白川は急いで補足しました。

「やめたといっても。教室は初心者用なのでその子には、もうつまらなくなったからですが。」

 

その時閃きました。

そうだ。

「先生はもう弟子をとるおつもりはないのですか。」

「弟子?ない。今は和谷で手いっぱいだ。」

 

何を言い出すのだろうか。白川君は。急に。そのやめた子のことか?

 

「誰か、弟子志望がいるのか?」

「いえ、ただそのやめた子が、なかなか優秀でして、どこかでもう少し腕を磨けばと。」

「プロになりたいというのかい?」

「いえ。そういうことは、まだ考えていないようですが。」

「なら、君が教えたらいいじゃないか。七段になったのだし、弟子をとってもいいんじゃないか。」

「ぼ、ぼくが弟子をとる???のですか?」

「そうだ。悪い考えじゃないだろう。」

 

ヒカルの話はそこまででした。

 

 

帰り道、白川は思いました。

 

進藤君は碁には興味があるけれど、プロになるとかは考えていないだろうな。

プロになれるかは別として、彼はプロになる素質がある。それは確かだ。

彼がこのまま打ち続けたら、どこまで強くなるのだろう。

気が遠くなりそうだけれど、見てみたい気がする。

 

ともかく、僕が弟子をとるというのは…。

意外と悪くないかもしれない。

それが進藤君のような子ならなおさらだ。うん。

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