神の気まぐれ(ヒカルの碁逆行コメディ)     作:さびる

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22.ネッ、トントン拍子

金曜日の放課後です。ヒカルはあかりと教えられたオフィスに向かいました。

ビルの二階にそのオフィスはありました。

 

「ああ、ヒカル君。待ってたんだよ。えっと、そちらが話していた君のお友達だね。」

高野は、あかりを見ました。

「はい。藤崎あかりといいます。」

「藤崎? もしかして、あの時に、一緒にいた…」

「はい。ご無沙汰しています。私も碁をやってるので、ネット碁に興味があって見学にきました。」

「そうかー。君たちはずっと仲良しなんだね。なあ、構わないだろ。」

最後のなあ~は、すぐそばにいた男に向けられたものでした。

 

 

高野の知人は、ラフな感じの人でした。

「もちろん。大歓迎だよ。私は泉。ここは第二オフィスというところかな。上に、秘密の仕事場があってね。」

 

そうおどけて言いながら、泉は、何台かパソコンがある仕切りへヒカルたちを案内しました。

泉は、パソコンの画面をさしながら、説明してくれました。

「パソコンについて話すよりは、まず、ネット碁を見てみたほうがいいね。とにかく慣れることが大切だから。」

ヒカルとあかりと高野が見ている中で、泉は説明を始めました。

「ネット碁はいくつかあるけれど。一番の大手はワールド囲碁ネット。ここがそう。ちょっとやってみようか。」

碁盤が画面に映し出されました。

「僕も少し碁が打てるから、ここにも登録しているんだ。ここで相手を選んで、ほらね、相手がOKすると、こうやって始まるんだよ。先手は相手だね。」

泉は、小学生が相手だからか、くだけた口調で話しました。

早速、打ち合いが始まりましたが、相手は初心者らしく、とんでもないところに打ってきました。その上、大石を取られたところで、ばちっと消したみたいです。

泉は苦笑すると言いました。

「ここは最大手なんだけど、気に入らないと消しちゃうマナーの無い奴もいるんだ。何度も見ていれば、打ちたい相手が分かるようになるかもしれないけれど、相手の強さが分からないんだよね。」

 

それから、傍の空いているパソコンをさしました。

「まずは、マウスとキーボードに慣れないといけないね。ここに座って。マウスを動かしてみようか。」

 

ヒカルとあかりは、並んでパソコンの前に座り、クリックしたり、簡単な単語を打ち込んだりしました。

「ひらがなモードもあるけれど、大丈夫そうだね。ローマ字で。」

二人ともマウスの扱いにはすぐ慣れました。

 

「うん、そんなところで。やっぱ若い子は覚えが早いよね。そんなところで、とりあえず、ワールド囲碁ネットで一局打ってみるかい。慣れが一番だから。

まずは登録だね。どうする?君は進藤ヒカル君だったね。じゃあ、ヒカルかい?」

ヒカルは、明子のメモを見せました。泉はそれを見て、言いました。

「へえ、twinkleか。いいねえ。名前のヒカルにかけてるんだね。そちらのお友達が考えたのかな。」

泉は、そう言いながら、画面を指して説明を続けました。

「まず、この画面で登録、打ちこんでみて。…うん、そうそう、そこでこうしてね…」

設定が終わると、泉は言いました。

 

「とりあえず、適当に相手を選んでごらん。君より、強いか弱いか分からないけれど、さっきみたいにならないようにきちんと終りまで打つことだけ約束してね。」

ヒカルはたまたま目についた相手を指名しました。

すぐに対局が始まりました。

 

わー。結構手ごたえのある奴にあたった気がする。いっちょ思いっきり打っちゃうか。

そんなことを考えていると泉が言いました。

「Zeldaか。中学生か高校生かもしれないな。」

「どうしてですか?」

傍で見ていたあかりが聞きました。

「うん、ゲームやアニメ関連の名前つけるのって、そういう年代が多いと思うんだ。もちろん大人かもしれないけれどね。」

 

ヒカルのネット碁デビュー戦はあっけなく終わりました。相手が投了してきたからです。

結構面白かったのに、やりすぎちゃったかな。

ん?『プロの方ですか。』って、俺ローマ字はあんまりなあ。

「あかり、打ってくれる?」

あかりはあっさり引き受けてくれました。

「なんて?」

「小学生だって。」

「うん、『小学生です。』だね。」

「あれっ?」

「『ふざけるな。』だって。」

「じゃあ、お前は中学生かとか打ってよ。」

「うん。『あなたは中学生ですか。』」

「『俺は院生だ。』だって。」

「へえ。じゃあ、もう一言。打つ手が楽しかったからまた打ちたいって書いてくれない。」

 

「もう、ヒカルったら、ちゃんとローマ字勉強してよね。これで最後だからねっ!」

ぶつぶつ言いながらあかりは書き込みました。

『あなたの打つ手は楽しかった。またお相手してください。』

「あれ、『お願いします』だって。」

ヒカルは泉に言いました。

「もう一局打ってもいいですか。」

物思いにふけっていた泉は、ぼんやり、ああと頷きました。

次の相手はと、ヒカルが探していると、ヒカルにオファーがありました。

「あっ、ヒカルに申し込んできた人がいるよ。」

 

また対局が始まりました。

ヒカルはすぐに相手が、並々ならない相手なのに気づきました。

白川先生ぐらい、もしかしたら先生より強いかも。

ヒカルは今度こそ、力の限り打ち込みました。

「進藤君はこういうところでツケてくるからね、厳しいよ。」

白川が良く言う言葉でした。

でも駄目だ。この人には、完全によまれてるよ。

「あー。負けた。」

ヒカルは、そう言って投了しました。

 

そう言いながら、ヒカルは、満足のため息をつきました。

 

俺、こんな碁が打ちたかったんだよ。今、俺、すっげー力ついた気がするよ。

 

あれ、『君は本当に小学生?』だって?

 

って、あかりはもう打ってくれないんだな。仕方ない。

『YES』

ヒカルは、キーボードを探りながら、やっと、そう打ち込みました。

YESだけは覚えてて、良かったよ。

 

ボーっとして見えた泉がヒカルに向かって言いました。

「ヒカル君。君、強すぎないか。」

「えっ?俺、今、負けたのに。」

この人は何を言っているのだろう。

そう思いながらヒカルは答えました。

「高野。彼は、碁を初めて一年って言ってなかったか?」

「ああ、そう聞いてるけど。」

「あっ、正確には四年生の終りからだから、一年と二ヶ月くらいかなあ。」

ヒカルは言いました。

泉はネット碁の話はそっちのけで、ヒカルに聞きました。

「どんなふうに、勉強してきたの?ヒカル君は。」

「碁のこと?初めは初心者囲碁教室に通って、打ち方分かったら、じいちゃんとも毎日何局も打って。それから今は、その教室の先生の弟子になってるんだけれど。」

「ヒカルのおじいさんて、アマチュアでもかなり強い人だって、先生言ってたよね。」

 

あかりが付け足しました。

 

「先生の名前、教えてくれないか?」

 

「白川八段です。駅前の保健センターで囲碁教室やっている。」

「ヒカル君は院生じゃないんだよね。」

「ああ、はい。」

「ヒカル君て、そんなに強いのか?」

高野が良く分かっていないようで聞いてきました。

「多分な。強いよ。さっきの対局を見ていて、俺、しびれたよ。

で、ヒカル君はプロになるのか。」

「中学生になってから考える。まだ家でもそういうことは話してないしね。そうだ。高野さん。お母さんたちには、内緒にしといて。プロのこと。」

「まずいの?」

「うーん。いろいろ考えたいことがあって。それで中学生になってからと思ってるんだ。」

ヒカルは、曖昧に答えました。

 

「とにかく。ヒカル君の腕が分かったから、別のサイトを紹介するよ。」

泉は、そう言ってマウスを動かしました。

「ここなんだけれど。すごくエキサイティングな碁が打てると思うよ。ヒカル君ならね。」


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