神の気まぐれ(ヒカルの碁逆行コメディ)     作:さびる

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5.なんでこうなるのか

佐為のアタックの対象は、一転、明子に向けられ始めました。

 

幽霊の一念は恐ろしいものです。

佐為は千年の執念の塊ですから、なおさらのことです。

 

 

明子は悔みました。

あの時、さっさと碁盤を物置にでも突っ込んでおくべきだったわ。

憂鬱。できるだけ外出してようかしら。

落ち着いてテレビも見れやしないじゃない。お食事の支度だって、おちおち出来やしないわ。

 

不幸なことに、夫は対局と会合などで外出が多いし、アキラは学校へ行き、その後碁会所で過ごし、家に戻るのは夕飯ギリギリでした。

明子は一人で家にいることが、圧倒的に多いのです。

 

思い余って明子は、夫に告げてみました。

アキラが学校へ出かけて、夫と二人、いや隣の隣に、もう一人いる時にです。

ただし佐為は、この部屋までは来れません。

 

「ねえ、あなた。実は私、幽霊が見えるみたいなの。」

夫は悠然とお茶を飲み、答えました。

「そうか。」

「あの碁盤に取りついてるのじゃないかと思うのよ。いつもあの包みから出てあの包みに戻るの。」

「そうか。」

「どうしたらいいかしら。」

 

今度は“そうか”は、ありませんでした。夫も話を全く聞いていないわけではないようです。

ただし次の言葉はこれでした。

 

「アキラには言わないように。」

「そうね。」

そりゃ、あの子はまだ小学生ですし、怖がるかもしれませんものね。言わないわよ。もちろん。

だからあなたに言ってるんじゃありませんの。

 

それにしてもと、明子は思います。

結婚して15年余り、『そうか』という言葉を何百回。いえ、何千回聞いたことかしら。

いつものことだけれど、夫は家庭内のことに、解決能力はないのよね。

幽霊が家庭内のことなのかはものすごく疑問だけれど。

 

 

 

一方、佐為は、明子に話しかけましたが、一度も答えてもらったことはありません。

どうやら、姿は見えても、声は聞こえないらしいと分かり、いったんは落ち込んだ佐為でしたが、めげることなくすぐに、パントマイムで、碁を打つ真似を始めました。

くだんの碁盤は、風呂敷包みに覆われたままでしたから、別の碁盤で、碁を打つ真似をして見せたのです。

 

毎日毎日、それが続きました。

 

要するに幽霊さんは、碁が打ちたいってわけかしらん?

 

そこで、明子はまた夫に言いました。

「ねえ、あなた。例の幽霊なのですけどね。」

夫は意外そうに妻を見ました。

「まだ見えるのか。」

それだけです。

 

明子はその一言ですっぱり決心しました。

幽霊さんと碁を打ってやってなんて、言えないわよね。

夫は当てにできない。

これは碁盤を持ってきた人間に、まず問いただす必要があるわ。

 

それでも「アキラには言わないように」という夫のもっともな言葉があります。

 

とすると、持ち主の芦原君は口が軽いし、アキラさんとも仲良しだし、却下。

となれば、手段は一つ。

 

明子は電話を手にしました。

「もしもし、ああ、緒方さん。

ええ。実はね、折り入って、ご相談したいことがあるのよ。ご都合のいい時に駅前の“クラクラ”でお会いしたいの。」

 

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