鎮守府点描   作:Ashlain

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山城:砲戦距離5千

 薄明が始まったばかりの海を進みながら、山城は今日何度目かのため息をついた。

 僚艦に聞こえないようにしているのがせめてもの気遣いだった。

 

 ――わかってはいるのよ。

 

 防御力も速力も新型艦にはかなわない。

 おまけにツキもないと来ている。

 勝負になるものと言えば主砲の火力くらい。

 

 姉である扶桑も山城も今や旧式艦で、艦隊の主力を張れる立場にはない。

 そしてそうであっても、維持費は戦艦のそれなのだ。

 

 そんな旧式艦を放り出すでもなく鎮守府に置き、大規模作戦の折にはこうして働く機会も作ってくれる。

 合理性を重んじる提督だが、そういった部分には提督なりの優しさが見えている。

 

 そのことは山城もよく知っていた。

 それでも、艦娘として奉職するからには、華々しい戦果のひとつも挙げてみたい、そう思うのが人情というもので、それこそがため息の理由でもある。

 

「攻撃始点まで5海里です」

 

 並航しながら山城に報告したのは三日月。山城と同じく旧型だが、それだけに航行の経験は豊富だ。

 無線や電探の使用を制限している状況にあっても、艦の位置の把握を誤ることはない。

 

 山城は頷いてありがとうと応じ、僚艦たちに指示を出す。

 

「私とウォースパイト、ガングートは現在の針路と速度を維持。三日月と長月は先行して攻撃始点付近の状況を確認。

 飛鷹、攻撃隊の発艦は問題ない?」

 

 後方に離れた位置で艦載機を飛ばし始めているだろう飛鷹にだけは、近距離の無線通信を飛ばした。

 

「Understood」

「да」

「三日月了解」

「長月、準備よし。増速する」

 

 四者四様の応答があった。

 2隻の駆逐艦が増速し、前方へ離れてゆく。

 

「こちら飛鷹、攻撃隊は順調に発艦しあり」

 

 わずかな間を置いて、飛鷹からの返電が届いた。

 

 ――順調じゃない。

 

 山城は小さく笑みを浮かべた。

 しかしそれもほんの一瞬のこと。

 山城は己の運のなさを疑っていない。

 いま状況が順調に進みつつあるということと、それが最後まで続くということはまったく違う。

 己の運のなさを疑わないということは、それを身に沁みて知っているということでもあった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ややあって、先行した三日月と長月が戻ってきた。

 波を踏む足が速い。表情が険しい。

 山城は確信した。

 きっと何かろくでもないことが起きたのだろう。そうに違いない。

 ウォースパイトとガングートにハンドサインを送り、やや船足を落とす。

 

「支援砲撃実施予定海域に敵艦隊」

 

 眼前で見事なターンを決めて並航の態勢に移った長月が短く報告した。

 

「計4隻、重巡3、軽巡1。予定航路付近に停泊しています。投錨はしていません」

 

 長月に続いて針路を変更した三日月が補足する。

 

「偶然かしら?」

 

 偶然とは毛ほども思っていない口調でウォースパイトが尋ねる。

 

「投錨していたのなら、」

 

 どこからか煙草を取りだしながらガングートがつまらなさそうに応じた。

 

「偶然と判断できたかもしれないな」

 

 煙草を口の端にくわえ、これもどこからか取りだしたライターを右手に、左手で風を遮って器用に火を点ける。

 一口吸いつけて煙を吐き出し、それで、という視線を山城に送る。

 

「偶然とは思えないわね、残念ながら」

 

 ため息とともに山城は言葉を吐き出した。

 

「我々の支援砲撃への対応を目的とした布陣、そう判断します。

 あの海域を使うのは3度目だったかしら?

 候補になる海域を全てカバーしているのか、山を張ったのか、あるいはこちらの通信が漏れたのか」

 

 まあ原因は今はどうでもいいわ、と付け加える。

 

「支援砲撃を行うためには敵艦隊をどうにかしなければならない。

 そして敵艦隊は我々が来ることを知っている。少なくとも予測している。

 それを前提に今後の行動を決める必要があります」

 

「支援砲撃を中止して引き返すという選択肢は?」

 

 事前の想定と状況が全く異なるのだし、と付け加えてウォースパイトが質問する。

 これも先程と同様、そうなるとは微塵も考えていない口調だった。

 

「本隊が最深部海域への突入を中止するなら」

 

 肩をすくめて山城が答える。

 そうなれば支援砲撃そのものの意味がなくなる。

 つまり、無理をして支援砲撃を行う理由もなくなるということだった。

 

 受信モードにしていた通信機がかすかな音を立てた。

 短い符号で構成された電文が、山城の個人用端末に表示される。

 

『第一・第二艦隊は敵前衛警戒網を突破。

 我が方の損害、第一艦隊、中破2、小破1。第二艦隊、中破1。

 最深部海域への突入は60分後』

 

 平文に直すとそのような意味になる。

 

「幸運なことに、」

 

 山城の口角が、笑みの形に上がる。

 自嘲の笑みだった。

 

 鎮守府にとっての幸運。本隊にとっての幸運。

 さてこの幸運は、私たちにとっても幸運なのかしら?

 私はこの幸運を喜ぶべきなのかしら?

 

「本隊は予定通り、敵の警戒網を突破しました。我々も予定通り行動せねばなりません。

 本隊は既に血を流している。不測の事態があったとて、我々だけが引き返すわけにはいきません」

 

 それに、と山城は心の中でだけ付け加えた。

 

 ――前衛支援の役割を果たした姉様に会わせる顔がないじゃない?

 

「それでこそ、ね、ヤマシロ」

 

 にこりと笑ってウォースパイトが頷く。

 

「具体的には?」

 

 紫煙を吐きながら訪ねたのはガングートだった。

 

「敵艦隊を排除してから支援砲撃を行いたいところですが、時間の猶予が足りません。

 本隊を待たせれば敵の航空隊に囲まれかねない。本隊の突入後に砲撃を実施すれば同士討ちの危険がある。

 よって、敵の陣形を崩して支援のための間を作るに留め、敵艦隊には砲撃終了後に対応します。

 直接照準射撃になるけれど」

 

 ほう、という表情で視線を向けたガングートに、山城はにやりと笑ってみせた。

 

「敵がじかに見えているのだもの、普段の砲戦よりはやりやすいでしょう?」

 

 ウォースパイトが、出来のいい冗談を聞いたかのようにくすくすと笑った。

 こんなときでも仕草の端々に滲む品の良さはお国柄、というところだろうか。

 

 ガングートはやれやれといった風情で携帯用の灰皿に短くなった煙草を落とす。

 

「無茶な話ではあるが」

 

 先ほどまでの、どこか気のないトーンではない。

 

「無茶は戦争の通り相場だ。どこの国でも似たようなものだな」

 

 砲戦用意だ、と艤装妖精たちに告げる口調が戦意に満ちている。

 

「君のところの無茶よりはだいぶましな方だろう?

 タシュケントが随分こき使われたと言っていたぞ」

 

 長月が遠慮のない軽口を飛ばす。

 ちょっと長月、とたしなめたのは、こんなときでも生真面目な常識人の三日月だった。

 

「――似たようなものさ。

 それで、どう動く?」

 

 もう一度同じ台詞を繰り返して、ガングートは山城に指示を促した。

 

「長月と三日月は当初の避退予定点から目標海域へ逆行。

 雷撃で敵を動かして。自爆までの航走距離は短めに調整するよう。

 あなたたちの魚雷で沈みたくはないから、よろしく頼むわね。

 私とウォースパイト、ガングートは予定通りの航路で目標海域に進入、主砲は予定通り支援砲撃。副砲は状況によって妨害の排除に用いること。

 予定の支援砲撃の完了後は主砲も含めて敵艦隊と交戦。撃沈までは期さなくていいわ、こちらを妨害・追撃する気が起きなくなる程度に叩けばそれで。

 飛鷹、聞こえてる?そういう状況だから、予備の第二波をすぐに上げて。長月三日月と一緒に、同じ方向から突入。

 目標の選定は――今ここで決めても意味ないわね。旗艦と見える奴がいたらそいつから、くらいかしら。あとは各自の判断に任せるわ。

 大破者が出たら対応は都度指示。私が指揮を取れない状況になったらウォースパイト、ガングート、長月、三日月の順に指揮権を委譲する。

 海域進入後、最大30分で離脱。後尾は私が締める。

 ああ、無線と電探の使用制限は突入開始時点で解除。

 質問は?」

 

「突入の前の話だが」

 

 ガングートが小さく手を挙げて言った。

 どうぞ、と促した山城に頷いて答える。

 

「こちらからも雷撃をしておいていいかな?

 巡洋艦級もいると誤認させたい」

 

 ああ勿論、航走距離は短く設定するよ、と付け加えた。

 

「そう言えばそうだったわね。お願いするわ」

 

 山城はくすりと笑った。

 

 運はない。

 状況はお世辞にもいいとは言えない。

 

 そうであっても、戦場慣れした、しかも士気の高い僚艦と舷側を並べて戦えることが嬉しかった。

 

「ガングートは目標海域進入に先立って雷撃。

 他は既定のとおり。いいわね?」

 

 5隻から5通りの表現で、了解の意が伝えられる。

 

 戦闘準備を整えながら二手に分かれた艦隊の上空を、切れ目のある雲に隠れるように、飛鷹が急遽発艦させた攻撃隊が追い越してゆく。

 三日月と長月が増速し、ちょうど先導するような格好になった攻撃隊を追って隊列を離れた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 本隊の突入開始まで30分弱。

 おそらく支援艦隊を待ち受けているであろう敵を撹乱し、砲撃を済ませるにはぎりぎりの時間しか残されていない。

 

 山城の通信機に、三日月と長月の突入開始を告げる電文が飛び込んできた。

 

「始めましょう」

 

 短く告げて速力を上げる。

 2隻の戦艦から返答はない。一際高くなった2隻の主機の咆哮がその代わりだった。

 

 山城は戦場をいま一度見渡す。

 島と島に挟まれた海域。攻撃始点と避退予定点はいずれもそう広くない海峡だが、幅も深さも戦艦の航行に不足はない。

 中間部の幅は最大で5千mほど、攻撃始点から避退予定点までは1万mほど。

 支援砲撃は攻撃始点から見て右側の島越しに、深海棲艦の当海域最深部部隊へ向けて行う。

 

「敵艦視認、計4隻。

 ツ級、リ級、リ級、ネ級」

「リ級は片方精鋭級、片方が旗艦級だな。

 指揮してるのがネ級と旗艦級のどっちかは不明」

 

 無線封止を解除した三日月と長月が報告を入れてくる。

 

「長月、三日月、深入りしすぎないよう注意」

 

 たとえ散発的な砲撃であっても、旧式の駆逐艦に当たれば大きなダメージになる。

 集中砲火を浴びれば、言うまでもない。

 

「攻撃始点を通過――左舷前方に敵艦隊」

 

 言いながら、山城は転舵した。

 

 艦体を寄せたガングートがハンドサインを送り、左前方へ離れてゆく。

 左舷から前を横切る、と伝えていた。

 

 その通り前を横切ったガングートの左舷から4本の細い航跡が伸びてゆく。

 予告通り、雷撃を行ったのだった。

 

 一旦前に出て右舷側に回ったガングートは減速し、山城の後ろに戻る。

 針路設定は任せる、という意思表示だった。

 

 さきに突入した駆逐艦との挟撃のかたちになった雷撃で、敵艦隊は混乱しているようだ。

 統制の取れた攻撃、その前提になる陣形を組めていない。

 ただ、山城の経験に即して言えば、それもそう長い間ではない筈だった。

 

「第二支援艦隊戦艦部隊、我に続け。

 わが艦隊は本隊の支援を行う。主砲塔群、右舷砲撃戦用意、距離2万。

 舷側副砲は左舷前方の敵艦隊へ向けて各個射撃を許可」

 

 言い終わるか終わらないかのうちに、ウォースパイトとガングートが副砲の射撃を始める。

 敵艦との距離は5千もない。戦艦の砲戦距離としては至近もいいところだった。

 敵艦の周囲に派手な水柱が上がり、命中したらしい爆炎が同時に上がる。

 砲撃ではなく、別働の艦爆隊が放った爆弾だった。

 

「飛鷹攻撃隊の爆撃は精鋭級リ級に直撃弾1、至近弾2。雷撃は命中ありません」

「戦艦隊副砲の砲撃、弾着、今――駄目だ、各個射撃じゃどれが誰の射弾かわからん」

 

 こっちからも撃ってるしな、と砲声混じりの報告を寄越したのは長月だ。

 

「牽制になれば上出来。

 当たったのならもっと上出来だわ。飛鷹、あなたのところの艦爆よ」

 

「支援攻撃隊、攻撃行程の始点に到達。敵の迎撃機なし、観測の用意よし。

 ――改装空母だって、甘くないでしょう?でも私、甘味は好物なの。期待してるわ、山城」

 

「お互い、無事帰ったらね――ウォースパイト、ガングート、始めるわ。

 全砲門開け、第1斉射開始」

 

 まばゆい砲炎が視界を一瞬白く塗りつぶし、轟音と衝撃が艤装を揺さぶる。

 衝撃波が押しのけた海水が波立ち、それが再び戦艦たちを揺らした。

 

 山城はちらりと前方の状況を確認する。

 敵艦隊は混乱から立ち直りつつあった。彼女たちはこちらの発砲を確認した筈だ。その目的も。

 

 駆逐艦2隻は捨て置いてよいと判断したのだろう、ぐるりと回頭し、こちらへ針路を変更している。

 

「左舷副砲群、反航戦用意。

 飛鷹、こちらの主砲射弾は?」

 

 距離を詰めつつある敵艦隊を横目で見ながら、山城は支援砲撃から意識を離さない。

 

「ガングートは近弾500、山城は近弾700、ウォースパイトは遠弾500。

 攻撃隊はこれより突入する。第2斉射の観測は無理ね、可能なら第3斉射で観測する」

 

「了解、ありがとう。

 諸元修正、第2斉射用意」

 

「あと20秒で第2斉射可能」

「ウォースパイト、同じく」

 

 再装填と砲撃諸元の修正を行いながら、ガングートとウォースパイトが応じる。

 きっかり20秒後、山城はふたたび主砲の射撃を命じた。

 

 ふたたび砲炎と轟音、衝撃。

 薄暗い夜明け前の空と海に慣れた目には、砲撃の強烈な光がひどくこたえる。

 

 ようやく戻った視界に、敵艦隊が再度転舵するのが見えた。

 

「ヤマシロ、左前方。

 こちらの頭を押さえに来ています」

 

 速力の利を生かし、駆逐艦と空母攻撃隊を無視し、敵はこちらの支援砲撃阻止を目標と定めたようだった。

 丁字戦――こちらの先頭を押さえ、集中砲撃を加えるつもりであるらしい。

 

 ――どこまでついてないの?それとも判断を誤ったの?どこでどう?

 

 弱音と愚痴と後悔の全てを、山城はひとつの舌打ちに込めた。

 

「ウォースパイト、ガングート、第3斉射用意。

 前方の敵は、」

 

 第1砲塔をぐるりと旋回し、左前方に指向しながら山城は宣言した。

 

「山城が叩きます」

 

 斉射命令を出すよりも早く、山城の第1砲塔は射撃の準備を完了している。

 

「邪魔だ、」

 

 直接照準で狙いを定め、咆えた。

 

「どけええええええええええッ!」

 

 主砲発射の衝撃に負けないよう、力いっぱい足を踏ん張る。

 轟音に負けないよう、大声で叫んだ。

 

「各艦、第3斉射開始!」

 

 みたびの斉射。

 第1砲塔の弾着が、当然ながら最も早かった。

 敵艦隊の先頭を航走していたリ級のシルエットが、海面から沸き立ったふたつの水柱の影に隠れる。

 

 たじろいだようにリ級が速度を落とした。

 

 ――そうだ迷え。このまま針路を維持すれば更に撃たれる。前部砲塔の主砲しかなくとも戦艦の主砲だ。

 

「第3斉射、弾着――山城が遠弾500、ウォースパイトが挟叉、ガングートは近弾300以下。

 雷撃隊は命中1、艦爆隊は命中弾2」

 

「飛鷹、ありがとう。無事で何よりだわ。

 あと1斉射分だけ観測を。こちらは第5斉射後に予定通り離脱する」

 

「約束が違うわ、ヤマシロ」

 

 笑みを含んだ声でウォースパイトが咎めた。

 

「私たちには主砲は支援用と言っておいて、ひとりだけ主砲で巡洋艦と遊ぶなんて」

 

「おかげで奴ら、行き足が止まった。丁字戦は諦めて反航でやりあう気だ」

 

 腰抜けが、とでも言いたげな口調でガングートが補う。

 

「ならばあと2斉射、メインディッシュをさっさとやっつけましょう。

 有視界射撃のデザートはその後よ――甘味は別腹、そうではなくて?」

 

 いつになく高揚した気分で、山城は僚艦たちに告げたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 本隊の戦闘結果が入電したのは、支援の完了と海域離脱を報告してから60分後だった。

 

『敵艦隊旗艦を撃破、随伴艦は撃沈9撃破2。

 本隊の損害は大破2、中破5、小破3』

 

 ほぼ期待通りの戦果を挙げ、損害も許容範囲内。

 無傷の艦が2隻だけとは満身創痍もいいところだが、随伴艦も全て撃沈ないし撃破しているのであれば、帰投に向けて問題はないと考えていいだろう。

 

 支援艦隊は既に帰還のための航路に乗っている。敵艦隊の追撃はない。

 夜はすっかり明けていた。

 

 支援艦隊は、支援艦隊とは到底思えない様相を呈している。

 新鋭艦を含む巡洋艦4隻と近距離で殴りあったのだから、当然と言えば当然の結果だった。

 中破2、小破1、弾薬は主砲も副砲も、魚雷まで含めてほぼ射耗している。

 余分な戦闘を行ったため、燃料すらぎりぎりという有様だった。

 砲戦に参加しておらず、被弾のない飛鷹でさえ、急遽参戦させた攻撃隊の回収と被害の集計に忙殺されていた。

 

「ツイてない。防御の薄い箇所を撃たれるなんて」

 

 ため息とともに山城がこぼす。

 

「あの乱戦では仕方がないわ。バイタルパートが無事ならどうとでもなるでしょう」

 

 帰投するまでの辛抱よ、とウォースパイトが応じた。

 彼女自身も魚雷を受けて浸水がひどく、速度が低下している。

 

「戦果も大したものだったじゃないか」

「撃沈2、撃破1。

 支援砲撃の結果は戻って本隊に確認しなければ、正確なところはわかりませんが」

 

 長月と三日月が口々に言う。

 

「支援砲撃は上空から見た限り、命中弾4は堅いわね。

 敵艦隊の損害まではわからないけれど」

 

 ようやく全機の着艦を終えた飛鷹が口を挟んだ。

 支援の仕事は果たしたと見てよい、そんな戦果ではある。

 

 それでも山城の心は晴れない。

 

「不運艦を旗艦になんて据えるものじゃないわね。

 たまの戦闘だと思ったらこれだもの。皆にも貧乏くじを引かせたわ」

 

 もう一度、山城は深いため息をついた。

 

「不運か?」

 

 戦艦の中では唯一小破で済んだガングートが、美味そうに吸い込んだ煙を吐き出しながら言う。

 

「同志山城、貴様は不運だったかもしれないがね。

 少なくとも私は不運だったなどと思ってはいないよ」

 

 栗色の瞳で正面から山城を見つめたガングートが、かすかに笑って断言した。

 

「勇敢な戦友と肩を並べて戦えることを不運と思う奴などいないさ。

 そうだろう?それに、」

 

 ガングートの笑みが大きくなる。

 

「あの咆えた山城、あれはなかなか恰好が良かった。

 いいものを見せてもらったよ、спасибо」

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