夕焼けが校舎の窓から差し込み、とても幻想的な美しい光景が広がっているとある日、千秋は中庭に来ていた。
特に理由はない。だが、何故かそこに足が動いていた。
そう言うしか無いほど、無意識で行動していたのだ。
すると、まるで待ち構えていたかの様にとある生徒が一人、千秋の前に立ちはだかっていた。
その生徒は、ドイツの代表候補生であるラウラ・ボーデヴィッヒである。
ラウラ「お前が千秋か。噂は予てより聞いている。嫁や大事な友を痛め付けてくれたようだな。」
表情は変わらない。だが、その声からは怒りが感じ取れた。
そしていきなり、千秋の胸ぐらを掴むと、そのまま鳩尾を一発殴り付けた。
いきなりの事で千秋は、その場に倒れこんでしまった。
ラウラ「どうした?痛むのか?そんな訳無いよな。お前が痛みなど感じて良い訳ないだろ!」
ラウラ「あれだけ他人を痛め付けたんだ!お前が苦しんで良い訳無いんだ!」
そう言ってラウラは、倒れている千秋を蹴りつけたり踏みつけたりした。
ラウラ「どうした!何か言ってみたらどうだ!!ったく、教官が話していた男がどれ程かと思えば、こんな程度か。こんなカスが教官を狂わせて!!」
ラウラは一切てを緩めず、千秋を痛め付けた。
それでも千秋は、何故かにっこりと笑いかけた。
それが気に触ったのか、ラウラは千秋を無理やり立たせ首を絞めた。
ラウラ「どうした!!気味の悪い笑い顔なんかして!悔しかったら、反撃してみろ!!ほら、殴ってみろ!」
首を絞められた時、千秋はふと昔の事が脳裏によぎった。
そして口を動かし、何かを話した。
だが当然、言葉をはっせない千秋の言ったこと等ラウラには届かず、それが余計にラウラの怒りに触れた。
そしてよりいっそう、首に力を加えた。
ラウラ「なぜ、こんなのが!この程度の男に教官の心が奪われるんだ!その身体はなんだ!私は怪我をしてますと同情でも買いたいのか!!」
千秋の意識が途切れそうになった時、ラウラは首から手を離した。
ラウラ「こんなもの、人ではない。生き物ですらない。人形じゃ無いか。何をされても何も感じない。言葉も話さない。動こうともしない。こんな人形風情が教官を惑わす事など、有ってはならん!お前は直ぐに廃棄されて当然のゴミなのだ!」
ラウラは暴言を吐くが、千秋は何を言わない。
ただ、ラウラの顔をじっと見つめて首を傾げるだけだった。
ラウラ「ふん、少しは何かを期待していたのだが、時間の無駄だったな。だが覚えておけ。お前はいずれ、私自らの手で殺す・・・。いや、人形に殺すは可笑しいな。私が廃棄処分してやる。」
そう言ってラウラは千秋に背を向けて、中庭から出ていった。
千秋には、ラウラの言葉がわからない。言葉は、束がくれた補聴器で聞こえている。
だが、その意味までは理解が出来ていなかった。
人形、ゴミ、廃棄処分、なぜがその言葉だけが耳に残っていた。
でもそれでも千秋の心には、何を響いて来ない。
ふと夕焼けを見上げた。
その後、今までの癖なのか地面についた自分の血を舐め始めた。
何故かこの瞬間だけ、千秋は安心していた。
何故かは千秋自身もわかってはいない。
だが、今まで他人に殴られ蹴られ、その時には感じない名も知らぬ感情だけが千秋に満ち溢れていた。
いよいよ明後日、あの臨海学校が始まる。
この臨海学校で全てが狂う。そんなこととは露知らず時間だけが無情に過ぎて行ってしまうのだ。