束から渡された紙を見て、千冬はより絶句してしまった。
ここまで酷い状態になるまで気づけなかった自分、それを知っていて黙っていた親友。
千秋を一層束縛する心が、増してしまったのだった。
そして服を着せようとしたが、部屋中を探しても千秋の服らしい物は一枚も無かったので、取り敢えず近くにあったタオルを巻いた。
そして部屋から出ようと手を差し伸べたが、千秋は不思議そうに首を傾げた。
その手を見て千秋は、別の理由を理解したのか千冬の手を優しく、そして入念に舐め始めた。
その瞬間、咄嗟に千冬は千秋の頬を叩いてしまった。
呆気にとられていた千冬だったが、舐め方が悪かったと思った千秋は土下座をしたあとにさっきとは違う舐め方を始めた。
千冬「違う!!私はそんな事を望んではいない!!お前は人間なんだぞ!?そんな犬のような真似をする必要は無い!!」
千冬の悲痛の叫びは、耳の聞こえない千秋には全く届かず、一心不乱に手を舐めていた。
その姿は、捨てられる恐怖。これまでの常識。自分の存在価値。それを諭させるかの様に他者の眼には写って見えた。
千冬は埒が明かないと、千秋を立たせようとしたが千秋は全く立とうとはせず、座り込んだままだった。
無理やり立たせてみたが、筋力の低下、右膝の損傷から千秋はしっかりと立つことができずに、その場に倒れてしまった。
どうして良いか分からなかった千冬は、取り敢えずと千秋をおぶって見た。
その千秋のあまりの軽さに、千冬は驚き、そして恐怖した。
千冬「なんだこの軽さは・・・。千秋、お前!!ちゃんと食事をとってたのか!?」
耳が聞こえないとわかっていても、聞かずにはいられない千冬は涙していた。
千冬「やはり、千秋を守れるのは他の誰でもない。私だけが守ってやれるんだ。」
千冬は不気味に笑い、そして千秋を運び出した。
ボロボロの少年をおぶさる女性。
道行く通行人からは、後ろ指を差され嫌悪されていたが、そんな周りの事など一切気にも止めず、千冬は自宅へと千秋を拉致していった。
家につくと、既に一夏が帰ってきており千冬の出迎えに向かってきた。
一夏「千冬姉お帰り。もう晩ごはんできたて・・・。」
一夏は目の前の光景に、思考が止まった。
千冬が抱えている少年、その光景もそうだったが、その少年に懐かしい面影を感じていたからである。
一夏「ち、千冬姉・・・、まさかそいつって・・・千秋なのか。」
千冬「そうだ。詳しい話は後でする。まずは服を着せてやらんとな。」
千冬は機嫌が悪くなっていた。
一目見ただけで、一夏は千秋の事を理解したこと。それは、束に言われたその程度だと言う発言をある種肯定していると思っていたからである。
千冬(そんな訳はない!!こいつを想う気持ちは、誰にも負けていない!!)
リビングに到着した千冬は、おぶっていた千秋を降ろした。
辺りを見回した千秋は、その後自分が何時もの様に滅茶苦茶に犯されると理解し、千冬達の方に這いながら近づいてきた。
千冬「違う!!そうじゃ無い!!もうお前に暴力をふるう人間はいないんだ。」
千冬の言葉が聞こえず、千冬の足を舐めようとした瞬間に、千冬は千秋を繰り上げてしまった。
今までの客と同じ流になれたと、まるで正解を導き出せた子供の様に千秋は嬉しそうにしていた。
その表情を見て、千冬は千秋に馬乗りになって拳で千秋の顔面を殴ってしまった。
そこに服を取りに行っていた一夏が戻って来た。
一夏「おい千冬姉!?千秋に何してるんだよ!?」
千冬「はっ!!ち、違う・・・。わたしは何を・・・。」
千冬は、千秋に馬乗りになり殴った瞬間、快楽を得てしまって自分を必死に否定していた。
千冬「違う・・・、わたしは違う・・・。」
~~~とある場所~~~
束「やっぱり、ちーちゃんに任せて正解だったよ。口ではあぁ言ってたけど、ちーちゃんもそっち側なんだよね。」
織斑家を盗撮しているモニターを見て、束は計画通りに進んでいるこの瞬間を心から祝福していた。
束「これであーくんが人間らしい感情を取り戻して、自分が受けてきた仕打ちの酷さを理解。人を信用できなくなってきた時に、信じていたちーちゃんからも同じ仕打ちを食らう。
そうして本当に心がボロボロになったときに、私が手を差し伸べれば・・・。」
束「フフッ、それであーくんは心の底から私だけの存在になる//
また少しの間だけ会えないかも知れないけど、その事を思えば・・・。はぁ・・・、ホントにちーちゃんは扱いやすいよ。」
その時の千冬を見る束の顔は、唯一の親友を見る眼では無く、実験動物を見るかの様な顔だった。
束「早く、私のためにあーくんを育ててねちーちゃん。」