ただそこにある絶望   作:なめらかプリン丸

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第6話

一夏「千冬姉教えてくれよ。なんで千秋はこんな姿になっちまったんだよ。俺達が知らない間に、こんな。」

 

千冬「すまん一夏。私も詳しくはわからん。だが、安易に想像はつく。そしてそれを知っていて黙っていたあいつを許す訳にはいかん。」

 

一夏は持ってきた服を渡したが、服の着方すら忘れてしまった千秋は不思議そうにしていた。

それを見た一夏は、なんとか千秋に服を着せた。

 

一夏「ま、まぁ深い事は追々として先ずは飯にしようぜ。千秋も腹減ってると思うしな。」

 

一夏はそう言って晩ごはんを取りに行った。

残された千冬は、ブカブカの服を着ている千秋を見ていた。

 

そして食卓に夕飯が運ばれると、一夏と千冬は席についた。

 

一夏「おい千冬姉、千秋は座らせなくて良いのか?」

 

千冬「あぁ。あいつは恐らく座れん。後で私が持っていく。それよりも一夏、お前には言わなければいけない事がある。」

 

千冬「誘拐されたお前を助けた件で、私はドイツ軍に行かなければならない。時々は帰ってくるつもりだが、その間だけでも千秋をお前に任せたい。」

 

突然の申し出に一夏は驚いたが、元々は自分が誘拐されてしまった事で千冬に多大な迷惑をかけてしまっている。

その罪悪感と、後ろめたさで断る訳にはいかなかった。

 

そして時間は過ぎていき、一夏は皿洗いの前に風呂に入ることにした。

 

一夏「じゃあ千冬姉、千秋の事任せるよ。っても、風呂に入ってる時間だけだけどな。」

 

一夏が部屋から出ていくと、千冬は千秋の前に夕飯を持ってきた。

 

千冬「さぁ千秋、食べてくれ。好き嫌いは分からんが、一夏の作る飯は旨いぞ。」

 

目の前に食事が運ばれたが、千秋は食事に一切興味を見せなかった。

それよりも、まるで犬が遊んで貰う為かの様に腹を見せながら寝転んだ。

 

そんな姿を見て千冬は、またあの謎の快楽を味わいたいと思ってしまい、千秋を無理やり立たせると頬を叩きその場に叩き付けた。

 

そして無理やり食べさせようとし、千秋は少しでも食べようとする姿勢を見せなければ、千秋を蹴飛ばした。

 

千冬(これは、暴力じゃない。愛だ。これは千秋に必要な教育なんだ。千秋を元に戻すためには、多少の荒療治も必要な事なんだ。)

 

そう自分に言い聞かせ、千秋の口の中に無理やり夕飯を捩じ込んだ。

だが、今までろくに食事をしてこなかった千秋の胃袋は当然、その食事を受け入れず飲み込んでは吐き出すを繰り返していた。

 

千冬「この分からず屋が!!なぜ素直に私の行為を受け入れない!?」

 

とうとう千冬は馬乗りになって、千秋の首を閉め始めた。

苦しそうな顔を見ると、千冬はより力を入れていった。

 

千秋の意識が落ちた時点で我に帰り、千冬は自分の掌を見ていた。

汗はびっしょりとし、動悸が早くなっている。

 

だが、それは後悔や罪悪感からの物ではなく快感と愉悦からだった。

 

それを否定するために、食事を直ぐに下げ逃げるかの様に自室へと駆け込んでいった。

 

そして次の日、千冬はドイツへと旅立っていった。

 

それから一夏と二人暮らしになったが、学生であること、そして一夏自身が千秋に近寄りづらく感じていた事もあり、千秋を真剣に構う事は無かった。

 

そして時々千冬は帰ってきては、一夏に見えない所で教育と称して千秋に暴力をふるっていた。

 

そんな事が半年以上たったある日、織斑家に訪問客が現れた。

この日は千冬は休みではなく、一夏が出てみるとそこには束が立っていた。

 

束「やっほ~いっくん。あーくんいるでしょ?会いに来たよ?」

 

一夏「束さん?どうしてここに?」

 

一夏の回答を聞く前に、束は部屋に入っていき千秋を見つけると、直ぐに抱き締めた。

 

束「あーくん会いたかったよ。もう、こんなに誰かに会いたいと思ったのは、あーくんだけだよ?きょうは、あーくんにプレゼントがあります。」

 

そう言って束は、千秋の両耳に何かを入れた。

 

束「聞こえるでしょ?これはあーくん専用の補聴器だよ?久々の音で驚くかも知れないけどね。」

 

束が言ったように、いきなり音が戻ってきて千秋は驚いたのか、周りをキョロキョロし始めた。

だが、染み付いた習慣なのかすぐに元に戻り束の手や足を舐めた。

 

だが、この度に千冬に殴られていたからかすぐに止め怯えた表情をした。

そして束が近づいてくると、キュッと眼を瞑った。

 

だが、殴られる事は無く束は千秋に抱き付いた。

 

束「恐かったよね?ちーちゃんはあーくんのその行為を穢れの様な扱いをする。でも私は違うよ?私はあーくんの全てを愛してるんだよ。あーくんがどうあろうとそれを受け止める。私はあーくんの味方だよ。」

 

優しく背中をさすり、子供をあやす様な柔らかい口調で話した。

自分が生きてきた中で、初めて他人から受ける感情に千秋は戸惑い、狼狽えていた。

 

そしてそんな千秋の瞳からは、ひとつぶの涙が流れた。

その涙の意味を、千秋は理解できなかった。

 

束(とりあえず、第1ステップ完了かな。これで私の事を特別に想ってくれるだろうし、他人とは違うと理解する。フフッ、本当に愛おしいねあーくんは。こんなに事が弾むとは思わなかったよ・・・。)

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