フランの異世界召喚記 作:松雨
フラン、異世界に召喚される
「博麗神社での宴会楽しかったなぁ~」
紫が計画した、幻想郷のそうそうたる面々が一同に介する宴会に私を含む紅魔館に居る全員で参加してきた。
突然どうしたのかと聞いてみたら、外の世界に行った時に臨時収入があったらしく、せっかくだから楽しく賑やかな宴会を自費で開くかと言うことになったとのこと。
なんか後で無理なお願い事でもされそうな気がしなくもなかったけど、今気にすることではない。じっくり楽しもう。
その後は皆で用意された食事を平らげたり、魔理沙と軽めの弾幕ごっこをしたり、一発芸を披露したりして宴会をじっくり楽しんだ。
そうして疲れていつもの地下室に帰り、休憩していたときにそれは起こった。地面に巨大な魔方陣の出現だ。
直感でこの上に立っていたら不味いと思って離れようとするも……
「何で動けないの!?」
体が固定されてしまってまともに動くことが出来ない。そうこうしている内に魔方陣の輝きが強くなり、思わず目を瞑る。
少し時間をおいた後に目を開けるとそこは、私の見知った地下室ではなく、どこか分からない城の玉座の間だったので少なくともここが幻想郷ではないことは明白だった。
辺りを見回し、豪華そうな椅子に座っていた王様らしき人物と目があった瞬間、いきなり火の弾を大量に乱射してきた。
いきなりの事で驚いた私だったが、着弾するギリギリのタイミングで霧化して回避することが出来た。
ここは幻想郷ではないからスペルカードルールなど存在しない。
相手はこちらを殺すつもりで攻撃してくるのだ。何かしら反撃をしなければ殺される。
その現実が突き付けられた時、私は反撃を決意した。その際仮に殺してしまっても致し方ないと。
「召喚の準備が整いましたよ、王様」
「ずいぶん長かったが、ようやくこの時が来たのか」
「ええ。召喚でやって来た者に強力な加護効果を付ける為、何回も実験を繰り返しましたのでね。侵攻計画の障害が現れたときの為、万が一に備えて」
1ヶ月前、王様からとある計画の実行の為に強き者を異世界から召喚せよとの指示を受け、王都に居る優秀な魔導師や召喚術士等の中でも選りすぐりの者を集め、『加護召喚術』の開発を突貫で行っていた。
並大抵の辛さではなかったものの、何とか乗り切って実用まで漕ぎ着ける事が出来た。
「なるほど。ただ、そんな強力な加護を与えても大丈夫なのか? 反抗してきたりとかは……」
「大丈夫ですよ。召喚した最もな理由を考えておくので。仮にそうなったときの為に選りすぐりの者たちと魔力を封じる魔道具も用意してあります」
「そうか、分かった。では早速始めろ」
「「「了解です!!」」」
そうして魔導師6人に召喚術士5人、魔力が枯渇した時の予備要員10人が定位置に付き、加護召喚に入る。
『我らの魔力を贄として……出でよ、加護召喚!』
そう唱えると、地面に描いた魔方陣が輝き始める。同時に物凄い勢いで魔力が吸いとられ、体に力が入りずらくなってきた。
「皆さん耐えてください! もう少しで召喚が成功しますよ」
「「「ぬぅぅ!!」」」
踏ん張る事30秒、一瞬目が眩む程の閃光が発生して思わず目を瞑る。少し経った後、目を開けると召喚魔方陣の真ん中に金髪で赤い瞳、綺麗な魔法石のぶら下がった歪な形の羽を持つ少女が立っていた。
相対して居るだけで体力を削られていきそうな位の圧力と魔力を感じた事から、あの少女がかなりの大物だと言う事は間違いないので、召喚は成功したのだと判断した。
しかし、その少女を見た王は私が予想出来ない位の馬鹿なことをやらかした。
なんと、その少女に向かっていきなり攻撃魔法を叩き込んだのだ。更にそれに続き、待機していた魔導師たちもあらんかぎりの魔法を放ち、現場は火や氷の塊が飛び交う地獄と化してしまった。
「ちょっと王様、何してるのですか!?」
「……お前たちの召喚したあの者は人ではない。人ではないならこの国には必要ないから消えてもらおうとな」
「今はそんな事言ってる場合じゃ――」
王様を嗜めようとした時、魔法を放った魔導師1人の背後に赤い霧が集結して、そこからあの金髪少女が現れた。
「な……」
「勝手に呼んでおいて、人じゃないからっていきなり殺そうとしてきたんだから、これくらいは身を守るために仕方ないよね? おじさん」
少女はそう言うと、その魔導師に蹴りを入れて吹き飛ばした。私は彼に駆け寄ると、咄嗟に魔法で防御したお陰で死にはしなかったらしいが、骨が折れているのかもう動けなくなっている。
私は思った。王は竜を怒らせたと。
そこからは少女の独壇場で、次々に放たれる魔法や剣撃を避けつつ魔導師に接近し、一撃で気絶させる。剣士や槍使いと言った兵士には大小様々な光の弾を大量にお見舞いして制圧していた。僅か3分足らずであった。
そうして自身を攻撃してきた人だけを倒した後、椅子に座っていた王様の下に向かった少女。この後起こりそうなことを想像し、いつでも動けるように備えておく。
「ねぇ、あなた王様?」
「……そうだ」
「ふーん、運が良かったね。もし昔の私だったら……」
妙な形をした棒を持つ右手を上げ、『禁忌 レーヴァテイン』と少女が言うと、それに炎が纏わって自身の身長位の燃え盛る炎の剣が出現した。それを王様に当たるギリギリの位置に振り下ろし、側にあった装飾品ごと床を粉砕した後に……
「こんな風になってたかもね。ふふっ」
狂気を感じる笑みを浮かべながらそう言ったのを聞いた瞬間、あまりの恐怖に脚が鉄の塊になったかのように重く感じて動けなくなる。
周りを見回して見ると、王様を含む玉座の間に居る全ての人も私と同じように動けないようだ。
「あ、そうだ。王様、あなたに最後に1つだけ質問いい?」
「何だ? 答えられることなら良いが……」
「私を元居た所に返してもらえない?」
「お前を召喚したのはワシではないので無理だ。あそこに居る赤い髪で赤いフードを被った者に聞くといい」
(え、不味い! 召喚することばかり考えてて送り返す魔法なんて考えてない。ああ、殺されるかも……)
王様にそう言われた少女がこちらに歩いて近づいてくる。
言葉を慎重に選ばなければこの場で死んでしまうかもしれないと、今日ほど人生でここまで死を覚悟したことは今までなかった。
「で、そう言われたんだけどどうなの? 私を元居た所に返せる? お姉ちゃん」
「申し訳ありません! この召喚は一方通行で貴女を返すことが出来ないのです」
「はぁ。じゃあ帰るにはあのスキマ妖怪に見つけてもらわないと駄目なんだ……と言う事は普段絶対に見れない外の世界を楽しむチャンスでもあるんだよね。落ち込んでても仕方ないから楽しいことでも考えよう」
正直に言うと、少女は凄く落ち込む。そうかと思えば何か楽しいことを想像したらしく、笑顔になる。
それを見てひとまず、死の危険を脱した事に私は安堵した。
(てか、スキマ妖怪って何だろう? あの子の知り合いかな)
自分には関係ないことを考えていると、再び話し掛けられる。
「それとお願いがあるんだけど、いい?」
「あ、はい! 私に出来ることなら何でも!」
「ここから近い所に宝石を売れる店ってある?」
「ありますよ。この城を出てからすぐの所に」
そう言うと少女は自分の羽についている青い魔法石と同じ形の物を私に渡してきた。
「ならこの魔法石、いくらで売れそう?」
「っ! この魔力ならそうですね、予想ですが、金貨10枚位で売れると思います。あ、この世界の貨幣価値の説明をするとですね……」
貨幣価値の説明をした後は簡単にこの国についての説明をし、身分証明としてギルドに冒険者として登録した方が何かと便利なことも説明しておいた。
「ふーん。これを売れば高級宿暮らしをしても5日は持つ、帰るまででも冒険者登録をした方が何かと便利、目立つから羽は隠しておけと。分かった、ありがとう!」
そうして全てを説明し終えた後、私は攻撃されなかった魔導師に少女を城の出口まで案内させた。自分が行けば良かったかもと思ったが、少しでも早くこの圧力から解放されたかったので仕方ないと思うことにした。
ここまで読んで頂き感謝です。