フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、ワイトの父の店を守る

「大丈夫!?」

「ああ、銀髪の嬢ちゃんの回復魔法のお陰でな」

「良かった~。それでワイトのお父さん、あのおじいさんは誰なの?」

「アイツはな、俺の店をこんなにまで追い込んだフォウン会長だ。突然乗り込んで来たかと思えばいきなり上級毒魔法『ヴェノムインフェルノ』を放ってきて、この有り様だ……」

「そう言えば、ワイトは大丈夫なの!? 見かけないけど……」

「大丈夫だ。俺が結界を張って防いだからな。そもそもあいつの目的は俺だし」

 

 どうやら、あの白髪のおじいさんがフォウン会長のようだ。上級毒魔法と言っていたので、かなり上位の魔導師でもあることが分かる。

 ワイトは結界のお陰で毒を受けずにすんでいるらしかったので良かったと思った。

 そんな事を思っていると、フォウン会長がミアに向かって恐ろしい事を言い、魔法を唱えた。

 

「ちっ! フランとか言う奴も厄介だが、この魔法の毒すら簡単に消し去るあやつの方が厄介だな。先に消しておこうか」

「え……」

「『ディザストダークネス』」

 

 杖をミアに向けてそう言うと、足元に黒く輝く魔方陣が現れる。このままでは不味いと直感した私は、考えるよりも先にミアを突き飛ばし、代わりにその上に立っていた。その瞬間魔法が発動し、溢れ出る闇の魔力が私に襲いかかる。

 

「何ぃ!? しかし、回復魔導師を消せなかったのは残念だが、これでいくらなんでも……」

「私に、こんなものは効かない!!」

「……何故効かぬ!?」

 

 夜の王、闇を統べる者とも言われる吸血鬼である私にとって闇属性の魔法や物理攻撃は、『攻撃』ではなく『そよ風』に感じる。

 

 フォウン会長にとって相当自信のある魔法だったらしく、私が無傷で立っている事が相当堪えているようだった。

 

(うーん……)

 

 街中で強力な魔法を平気で放つような危ない輩と長時間戦闘していると、この王都が瓦礫だらけの場所となる可能性もあるから、早く決着をつけなければならないだろう。

 かといって早く決着をつけようとすれば、必然的に高威力の攻撃が必要となって結果的に瓦礫だらけの都に、下手すれば死人が出るかもしれない。

 さてどうしたものか。そう考えていると、ワイトのお父さんがこう言ってくれた。

 

「今フランとフォウンの戦闘空間に対魔法結界を張っておいた! 魔法の打ち合いなら耐えてくれるはずだから、思いっきり死なない程度にやってくれ!」

「ありがとう!!」

 

 最高のタイミングで最高のサポートをしてくれたワイトのお父さんに感謝しつつ、私のスペルカードの中で最高の切り札をここで出した。相手は相当な力を持っている人間だ。だからこれを使っても死にはしないだろう。

 

「フォウン、最後に聞くけど何でこんなことしたの?」

「この国でワシの物よりも魔道具の質が良い存在と、魔道具で金を稼ごうとする存在、魔道具でワシよりも民の信頼を得ようとする存在が許せぬからだ」

「……」

 

 一応聞いてみたが、ここまで根が腐ってる人間だと分かると、私の心はこの時点ではっきりと決まった。『切り札で決着をつける』と。

 

「『秘弾 そして誰もいなくなるか?』」

 

 そう宣言した瞬間、私の姿は霧のように消える。

 

「消えた!? どこに……ぐっ!」

 

 これは90秒間相手からのあらゆる攻撃やスキルが効かない無敵状態になり、こちら側からは弾幕や魔法攻撃し放題になると言うスペルカードだ。攻撃にも防御にも使えるがその分クールタイムがかなり長い上に他のスペルカードが使えず、魔法に使う魔力の量も上がる為使いどころを間違えれば状況がひっくり返る可能性もある。

 

 翼の霧化を解き、フォウン会長の周囲を飛行しながら弾幕をひたすら浴びせかける。時々私の居る場所に雷が飛んで来るが、攻撃が効かないので問題はない。

 

「ぬぅ……こっちの攻撃は全く効かず、更に相手からは攻撃し放題。なんて魔法だ……」

 

 度重なる弾幕攻撃を受け続け、疲労困憊なフォウン会長。飛んで来る雷も弱くなってきているので魔力が枯渇し始めて来たのだろう。

 これで終わりにする為、最後の弾幕攻撃に入ろうとした時にちょうどスペルカードの効果が切れる。もちろん、今まで隠してきた翼も丸出しである。

 

「タイミング悪すぎでしょ……」

「何とお主、人間ではなかったのか……道理で」

 

 案の定、そう言う反応であった。ミアは事前に人ではない事を伝えていた為、至って冷静だった。ワイトのお父さんも特に反応はなかった。

 

「フランちゃんの翼綺麗~」

「あはは……ありがとう」

 

 そのようなやり取りをしていると、再びフォウン会長が動き出し、杖の先に灼熱の火炎を収束させ始めた。

 

「人間ではないのなら、容赦はしなくても良い。『フェルノ――』

 

 魔法の名前を言いかけた時、フォウン会長に向かって猛烈な冷気を放つ光が襲う。その威力は凄まじく、彼が魔法を中断して展開した防壁を数秒で破壊し、本人を氷の牢獄に閉じ込めた。

 この魔法の主は一体誰なのだろうかと思い、辺りを見回す。すると、会長の背後に紫色のローブを着た水色の髪に金色の瞳の女の人が居て、部下らしき人を2人連れていた。

 

「フォウン会長、ガッカリです。こんな事をしていたなんて」

「お前……いや、貴女は……」

「私は王都守備隊の魔導師アイシェ! 王都の民から乱闘騒ぎの報を受け駆けつけて来てみれば、少女に対して暴行を働いていた、それだけではなく王都を瓦礫だらけの土地に変え、人命を脅かす魔法をためらいもなく放とうとするとは、地に落ちたものですね!」

 

 どうやら、王都の人からの報を受けて駆けつけて来たようだ。まあ、あれだけ派手に暴れれば誰かに通報されても不思議ではないだろう。

 

 私との戦闘に加え、あれだけの氷属性魔法を防壁で防御したとは言え、食らったフォウン会長はもう動く体力すらないほどになっていた。

 

「さて、貴方たち。この者を連れて行きなさい!」

「「了解しました!!」」

 

 そうしてフォウン会長は、アイシェの部下に腕輪をかけられて連れていかれた。

 

「襲われてましたが、大丈夫ですか?」

「私は大丈夫!」

「わたしも問題ないよ~」

「俺は大丈夫だが、家の中がフォウンのせいで毒まみれになっていてどうしたものかと……」

「そうですか。うーん……」

 

 家の中は毒水によって汚れているらしく、魔法の巻物以外の魔道具が毒等で使い物にならなくなっていると言う。一番手間とお金がかかっている物が無事なのは良かったが、それでも大変な損害である。

 

「毒の水がなくなればいいの? それならわたしに任せて!」

 

 そう言ったミアがお店の中に入っていったすぐ後、眩い光と共に蒸発するような音が数秒間聞こえた。そして、それが収まると中から出てきてこう言った。

 

「終わったよ~。毒は消え去ったからもう大丈夫!」

「もう大丈夫ってミア、毒は大丈夫なの? それに今なんの魔法使ったの?」

「わたしに状態異常は効かないから大丈夫! 今使ったのは広範囲浄化魔法のピュリファイって言う魔法だよ~。範囲内の状態異常にかかった人を治す効果もあるやつだから、回復魔法でもあるし」

「そうなんだ。凄いね!」

「私も驚きました。まさか、最上級の浄化魔法をこうも易々と使えるとは……あ、そうだ。一応事情聴取がありますので、皆さん私についてきてください。それと金髪紅瞳の貴女、翼はどうにか出来ますか?」

「あ、はい」

 

 そう言われて出しっぱなしだと言うことを思い出した私は急いで翼を霧化させた。

 

 こうして毒の浄化を終えた私たちはアイシェに誘導され、王都守備隊の人たちの居る建物へと行くことになった。




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