フランの異世界召喚記 作:松雨
フラン、依頼の紙を盗られる
「王都とは違って、のどかな田舎町って感じが良い所だね~」
「うん。向こうみたいに賑やかなのも良いけど、ここみたいにのんびりした雰囲気の町も良いよね」
シャームに着いた私たちは、荷台部分につけられている窓を少し開けて、町の景色を見ながらひとまずギルドを探していた。捕まえた盗賊集団を引き渡す為の場所を聞くためだ。
そうしている内に商店街に荷馬車が差し掛かった時、店主や買い物をしているお客さんがこちらを見て驚いている。
そりゃそうだ。窓から見えるのは、荷台にこれでもかと人間が詰まっている場面なのだから、驚いたとしても不思議ではない。私だってそんな荷馬車見たら同じ反応すると思うし。
「う~ん。運転手さん、まだ見つからない?」
「ああ。田舎町だから見つかるかと思ったけど甘かったみたいだ。すまんなミアちゃん、フランちゃん」
「大丈夫だよ!」
「じゃあフランちゃん、わたし降りて町の人に聞いてくるね」
「ミア、お願い。気をつけてね」
よく考えたら最初からそうすれば良かったような気がしたけど、町の景色とか雰囲気を堪能出来たから良しとしよう。
邪魔にならない場所に荷馬車を止めてもらい、ミアを待っていると、すぐに誰か人を2人連れて戻ってきた。見た感じ、この町の衛兵だろう。
「で、ミアさんでしたか。ここに盗賊集団が?」
「うん。わたしと一緒のパーティーの人が捕まえた盗賊が居るの」
「分かりました。おい、縛られているらしいが気を付けろよ」
「了解です」
そう言葉が聞こえた後、荷台の後ろ側に付けられた扉が開くと、衛兵たちが驚いた。
「うわぁ……何これ。人間がすし詰め状態に……」
「これ全員盗賊なのか?」
「あ、衛兵さん。金髪で紅い瞳の人は違うよ。わたしと
一緒のパーティーの人だから。あと、わりと重装備の5人も盗賊じゃない」
「そうですか。と言うことは、この11人の盗賊を取っ捕まえたのが金髪で紅い瞳の子と言う訳ですね。にわかには信じられないですけど」
「うん。フランちゃんって言うんだけど、本当だよ。あっという間にオーガ7体を討伐して、盗賊たちも1人で制圧したし」
ミアが色々説明してくれたお陰でトントン拍子に話が進み、この盗賊集団はシャームの町管轄の警備組織が引き取ってくれることとなった。去り際、宿の場所を聞いたら商店街を抜けてすぐの所にあるらしいので、そこをこの町にいる間の滞在場所にすることに決めた。
そうして商店街を抜け、宿に着いた。今まで乗せてきてもらった荷馬車の運転手にお礼とお金を渡してから降り、中に入った。
「はーい。いらっしゃいませー!」
「2人泊まれる部屋ってどこか空いてない?」
「ちょっと待ってくださいね……空いてますよ。すぐそこの部屋なら」
「分かった。それで、一泊いくら?」
「銀貨6枚です。1日3食付きなら金貨1枚です」
考えた結果、ずっと宿に閉じ籠もる訳でもないし、依頼を受けてあちこち出歩く事が多いだろうと判断し、食事はなしで泊まることにした為、銀貨6枚を支払って部屋に入る。
「ミア、お休み」
「うん。フランちゃんお休み」
寝る前に洗浄魔法サウディオラを自分とミアにかけてからベッドに横になり、眠りについた。
そして次の日の朝……
「おはよう~。フランちゃん起きて~」
「……ふぁぁ。おはよー」
「で、今日は何する?」
「うーん。どうしようかな」
取り敢えず初めて来た町だし、まずはギルドを探してと思ったのでそれをミアに提案すると、了承してくれたのでそうすることになった。
宿を出て昨日通った商店街に行き、たまたま買い物をしていた冒険者の人にギルドの場所を聞くと、案内してくれるとのことなのでありがたく付いていく。
商店街の途中にある道の方に行き、少し歩いた後にあった王都のギルドと同程度の大きさの白色の建物の前で止まった。ここがシャームのギルドらしい。
「どうもありがとう!」
「おう! 冒険頑張れよ!」
そうしてギルドの中に入って行き、早速クエストボードに貼られている依頼をじっくり吟味する。
採取系の依頼はなく、討伐依頼だけがずらりと並べられていた。
「ゴブリンにスライム、リトルオークに……ん?」
貼られている紙の中に目立つ色で緊急につきランク不問、腕の立つ者募集と書かれた討伐依頼があったので見てみる。内容は『リトルグランドドラゴン』と言うBランクの魔物が通商路付近に居を構え、側を通る荷馬車や冒険者等を襲って物流が滞り始めているので討伐してくれと言うものだった。
「Bランク……でもドラゴンか。行ってみるかな」
「フランちゃん決まった?」
「あ、うん。これにしようかなって」
「リトルグランドドラゴンってBランクじゃん。まあ、油断しなければフランちゃんなら行けそうな気がするし、良いと思うよ~」
ミアの了承も得たのでその紙を取り、受付に向かおうとした時にいきなり誰かに突き飛ばされ、更に依頼の紙まで盗られてしまった。
顔を上げて見てみると、物凄い重装備の男の人が依頼の紙を持っているのを見た。
「ちょっと何すんのさ! それ私たちが受けようとして先に取ったんだけど」
「へっ! お前、身の程知らずだな。ただの小娘がグランドドラゴンに勝てるわけないだろ。こう言うのはBランクの俺様にこそ相応しいってもんだ!」
無理な主張を言うだけ言ってからその紙を受付に渡しに行こうとする。
「おいお前! 人の横取りするな。さっさと返しやがれ!」
「そうよ! 返しなさい!」
「あーあ、お前終わったな。喧嘩売った相手が悪すぎた」
「ああ?」
「王都で噂になってる冒険者だぞ。何でもCランクの魔物であるコクカクロウを一撃で消し炭に、ギルドに襲撃してきたフォウンの手先を1人で撃破、フォウン本人との戦いも余裕で無傷とか。少なくともその依頼を受けるだけの実力はあるはずだ」
王都でやったことがずいぶん噂になっているようだった。まあ、あれだけ派手に立ち回れば噂にもなるか。
「ハハハ! そんなわけないだろ、ただの噂だ。ほら俺様が依頼を受けるから早く手続きをしやがれ」
やんわり拒否する受付の人を脅かして無理やり依頼を通させ、さっさと立ち去っていった。
「何なのさアイツ!」
「フランちゃん、大丈夫?」
「ミア? うん、私は平気」
「フラン、すまんな。止められなくて」
「貴方たちが悪いわけじゃないから気にしないで。止めてくれようとしたし。あ、それよりも怪我大丈夫? ミア、治してあげて」
「分かった」
さっきの男を止めようとしたときに受けただろう傷を、ミアの魔法で治してあげたら凄い喜んでくれた。
それに受付の人が申し訳なさそうにこちらに来て、何か欲しいものお詫びに1つくれると言うので、魔導書が欲しいと言ってみたら、本当にもらえたので良かった。何でも、ここではメジャーな物だったらしい
そうして、こんなことがあったので一旦出直すことに決め、ギルドを後にする。
もらった魔導書を読みながら宿の部屋でのんびり過ごしたり、商店街で昼食を取ったりして過ごした後に改めてギルドに行くと、あの時の男の人が大怪我をして床に寝かされて治療されているのを見かけた。
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