フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、聖教会の一派と小競り合いをする

「ちっ! 気づかれたか……」

「レヤルさん! ターゲットはあの焼け焦げている吸血鬼だけですよ! あっちの少女吸血鬼の方は……あ! よく見たらカーテンド王が――」

「うるせぇイラトナ。吸血鬼なんざ少女や少年、爺や婆だろうが一緒だわボケ」

「いや、ですから話を……これだからもう!」

 

 私が下を見ると、白いローブを着た聖職者のレヤルとイラトナと言う男の人2人が言い争いをしているのが見えた。仮にもギラムスがほぼ死にかけの状態であるが、ここは戦場の真っ只中なのに呑気に言い争いなんかしてたら……

 

「雑魚が、俺の力の糧となって死に晒せぇ!!」

「ほら言わんこっちゃない……全く!」

 

 案の定、私の分身との戦闘から逃げてたらしい1人の吸血鬼が消費した力の補充の為に、言い争いをしている2人をターゲットにしたのが見えた。幸いギラムスよりも速度がかなり遅い為、余裕を持って分身たちを呼んでから回り込み、即興の連携技を繰り出した。

 

「「「「『四炎剣 クアトロレーヴァテイン』!」」」」

 

 3人の分身と連携し、寸分の狂いも無いタイミングで斬りつけて反撃の隙を与えない。そうしてある程度したところで止めの4人同時攻撃を敢行し、灰すら残らず消滅させて再生不可能とさせた。少し経った後に分身たちも消えたので、かなり時間はギリギリだったようだ。

 

「……だから言ったでしょうレヤルさん? 申し訳ないです、ありがとうございました」

「私の事で喧嘩するのは良いけど、戦いが終わってからにした方が良いよ? さっきみたいに襲われたら死んじゃうかもしれないし」

「面目ないです……」

 

 その後、この戦場に居る全員の奮戦によって攻め込んできた魔物の約3分の2が消滅して一家の1人がやられて消えた。その為死にかけのギラムスに代わり、娘吸血鬼の指令の元彼らは常闇の森深部へと撤退していった。

 

「さて、この後どうなる事やら……」

 

 これだけ派手に立ち回り、更にギラムスとの会話も皆に丸聞こえな声量でしていたからきっと、吸血鬼だと言う事は知られてしまっただろう。町に戻った所でそもそも入れてもらえるのかな?

 

 そんな事を考えながらまずはミアの姿を探し、見つけた所で砦へと戻った。

 

「いやぁ、ミアさん本当にありがとうございます。貴女のお陰で犠牲者をかなり抑える事が出来ました。回復魔導師共々お礼を申し上げます」

「わたしだけじゃなく、皆が協力して動いてくれたお陰です。貴重なポーションまで使っていただけたのも大きいですね。ただ、やはりもっと犠牲者の方を減らしていきたかった……」

 

 砦へと戻った瞬間、ミアは回復魔導師だと言う人に話しかけられた。会話を聞いていると、負傷者の回復に死力を尽くして大活躍していたようだけど、それでも犠牲者が出てしまった事に心を痛めていた。そんな彼女を見て私は励まそうかとも思ったが、余計に落ち込ませるだけのような気がしたのでそのまま見ているだけにしておいた。

 

「て言うか、紅魔の少女って吸血鬼だったの? 全然知らなかったわ」

「そりゃそうだ。この国……特にルービエの吸血鬼に対するイメージを知ってりゃあな」

「ああ、なるほどね。でも今回、人を助けてくれたのも吸血鬼。これで少しはイメージが良くなるといいけど……」

「申し訳ないがそんな事よりも、俺はなにかと過激な連中が多いホーレイン聖教会がでしゃばって、彼女にちょっかいをかけないか心配で仕方がないぞ。砦にも白いローブの奴が2人居たしな」

「いや、どうせ奴らの事。もう既にかけてると思うわ」

 

 ミアたちの会話を側で聞いていると、他の冒険者のそんな話し声が聞こえてきた。そこから、あの白いローブの聖職者2人は過激な聖教会に所属していると言う事が分かった。

 

 女性冒険者の言う通り、戦闘中にまとめて殺されそうになったのは事実。1人が諌めてくれなければちょっと面倒な事になっていただろうと考えていると……

 

「貴方、何のつもり? イラトナって人に言われたこともう忘れたの?」

「あんな腑抜けの言う事などもう忘れたわ」

 

 首筋に何かの紋章が描かれた剣が近づけられたので、咄嗟に蝙蝠変化で距離を取って後ろを見てみた。すると、そこにいたのはあの時のレヤルと言う男だった。

 

 周りの人もどうにか諌めようとしてくれてはいるが、収まる気配がないので、これはもう1人のイラトナと言う人が来ないとダメかもしれない。

 

「今度こそ、死ねぇ吸血鬼!」

「ちょっと!? 人が沢山居るのに……もう、仕方ないなぁ!」

 

 私が憎いあまり、砦の中で構わず襲ってくるレヤル。レーヴァテインで迎え撃つのは簡単だが、場所が場所なので仕方なく能力を使用して剣を破壊、そのままレヤルを抑え込む。

 

「良い? 私は何もされてないのに自分から人殺しはしない。けどね、仲間や自分の命を取ろうとしてくる相手には……」

 

 更に殺気を増大させ、更にレヤルに一言……

 

「守る為に殺すよ?」

「……」

 

『自分や仲間、依頼者等を守る為に反撃してその結果殺してしまったとしてもペナルティは無い』このギルドの方針があるが故の行動である。幸いにも、ここには沢山人が集まっているので証拠の面でも問題はない。

 

「申し訳ありませんが、その馬鹿を解放していただけませんか? こちらで制裁を加えておくのでどうか……」

 

 そんな事をしていると、後ろから声を掛けられた。振り向いてみると、レヤルを諌めていたイラトナと言う若い男の人だった。

 

「……うん、分かった。て言うかちゃんと見ておいてよね」

「本当にその通りです。ほら、行きますよレヤルさん!」

 

 そう言うとイラトナは彼の腕を掴んで引きずり、時折蹴りながらこの砦を後にして行った。

 




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