フランの異世界召喚記 作:松雨
「やっぱり見立て通り、2人相手でも余裕で倒しちゃった。流石だよフランちゃん」
「そう? ありがとう!」
あの戦いで勝利した後、改めて依頼を受けようとクエストボードの方に行こうとした時、私と男の人2人との戦いを提案した女の人に呼び止められたので、練習場の椅子に座って話していた。
「ねぇ。何で私が勝つって分かったの?」
「フランちゃんが冒険者登録をしに私の所に来た時に、能力である程度貴女のステータスを把握してたから。だって最初、こんな小さな子が冒険者なんてやって大丈夫かって思ってたし」
「なるほど。それで、どこまで私の事を把握してるの?」
「貴女の名前と種族、能力の一部。流石に全部は無理」
「結構分かってるね」
なるほど。目で見た人物のステータスをある程度把握する能力で私とあの2人を見て、余裕で勝てるくらいの力の差を読み取ったから戦ってみれば良いと言った訳か。
それにしても、自分の情報が一部とは言え筒抜けなのはあまり気分的に良いものではない。けど、知られたのがこの人で良かったと思った。
「もちろん、この能力で分かった事は誰にも言わないから。私が誰かに言ったせいで何か起こったら嫌だし。特に貴女の種族、吸血鬼はこのカーテンド王国だとあまり良いイメージないからね」
「あ、そうなんだ。なら、そうしてもらえると助かるな」
それを聞いて、なおさら自分の種族がこの人以外にバレないように気を付けようと思った。
すると突然、この人が懐から赤い液体の入った手のひらサイズの瓶を3つ、私に渡してきた。
「あと、これをあげる」
「この瓶に入ってる赤い液体って……まさか、血?」
「そう、私の血。もし、吸血衝動が辛くなったらこれ飲んで。特殊な保存魔法が掛けておいたから1ヵ月は持つはず。貴女が戦っている時に勝手にやったんだけど、お節介だった?」
「そんなことないよ、凄く嬉しい! けど、その傷早く治さないと……それにそんなに沢山血を採って大丈夫なの?」
戦っている間に自分の血を採取して瓶に入れ、保存魔法を掛けていたと彼女がそう言った。どうりで近づいて来た時に血の臭いがしたわけだ。
「大丈夫……『クイックヒール』!」
そう彼女が唱えると、腕の傷をまばゆい光が包み込んであっという間に傷を治してしまった。血を失った事による影響も見たところなさそうだった。
「凄い、回復魔法だよねそれ!」
「そう。あのくらいの傷だったらすぐに治せる中級回復魔法」
その後彼女は回復魔法についての話を、私は弾幕やスペルカードについて色々話した。30分位話し込み、さて採取依頼を受けに行こうとした時……
「そう言えば、まだフランちゃんに自己紹介してなかったから今する。 私の名前は『スーファ』。呼ぶときは呼び捨てで。よろしく」
「分かったよスーファ!」
スーファの自己紹介が終わった後改めてクエストボードに向かい、最低ランクで受けられる依頼の中から薬草採取の依頼の紙を取り、依頼受付の人にそれを渡す。
「カフィールの採取依頼ですね。王都から近くにある林に自生している回復薬製作に必要な薬草です。そこまでの地図と薬草の特徴が書かれた本をお渡ししますので、本日中に10本で1つの束を6束お願いします。弱いですが、魔物も出る可能性がありますのでもし危機を感じたら逃げてくださいね」
「分かりました!」
そうして地図と薬草の特徴が描かれた本、縛る為の
良く考えたら幻想郷で弾幕ごっことか宴会、買い物で外に出た事はたまにあっても、今日みたいな理由で外に出た事はなかったなぁ。こう言うのもたまには気分転換にいいかも。
王都の門から出て整備された道を、そんな事を考えながら歩いていると、少し離れたところに目的の林を発見したので急いで向かう。
「さてと、カフィール探そう」
到着してすぐに目的の薬草カフィールを探し始めた。本によれば白い花びらを持ち、60cm位の背丈の草で20~30本で群生していることが多いと書いてあるからすぐに見つかるかと思っていたけど……
「何でこういう時に限って全然ないの……」
たまたま運が悪いのか、もう既に他の冒険者が採取し尽くしたのかは分からないけど何故か1時間探してもほんの3本しか見つかっていない。このペースだと今日中に見つかるかどうか怪しくなってきた。
それでも根気よくウロウロしながら探していると遂に、カフィールの群生を発見した。
「ようやく見つけ――」
とその時、目の前を緑色でこん棒を持った私と同じくらいの背丈の魔物数体が駆け抜けていった。
「確かゴブリンって言ったよね。さて、カフィールを……あっ」
改めて採取をしようとした時に、無惨にもさっきのゴブリンに踏みつけられてバラバラになったカフィールが見えた。
せっかく見つけたのにアイツらのせいでまた探さなきゃいけなくなったし。
誰もいない草原で愚痴っていても意味ないので再び探し始めると、今度は30分で群生を発見することが出来た。
「今度こそは……」
辺りを見回してみてもゴブリンは居なさそうなので採取を始めた。
傷をつけないようにゆっくり丁寧に引っこ抜き、10本をまとめて1束にする。そうして3束目をカバンにしまい、4束目に取りかかろうとした時、今度は豚のような魔物が現れて武器を振り回しながら斬りかかってきた。その時にバラバラにされたカフィールが見えて……
「……いい加減にしてよ!!」
長時間探し回り、やっと見つけたカフィールを2度も目の前でバラバラにされて怒りの頂点に達した私は、豚の魔物に有らん限りの魔力と殺気を込めてぶつけた。すると、豚の魔物は斬りかかろうとした姿勢のまま硬直して後ろに倒れてしまった。
「ああもう!」
こうしてイライラを引きずりつつも、何とか夕方には目標の数を揃えることが出来たので、せっかく採ったカフィールを傷つけないようにしながら運び、ギルドに戻った。
受付の人にカフィールの束を渡そうと向かうと、そこに2人組の若い冒険者が居て、何かを慌てて話しているようだった。私はその話が気になったので後ろに立って待ちながら聞くことにした。
「聞いてくださいよ! 俺たちあの林で化け物を見たんです! とてもじゃないけどゴブリン討伐なんて危なくて……」
「はいはい落ち着いて下さい。で、その化け物とは?」
「とんでもない殺気と魔力を放ち、日傘を差しながら歩いていた金髪の女の子です! まるで悪魔に出会ったかのような……」
(それって私じゃん……)
心当たりがありすぎてなんだか気まずくなってきたので、まだ時間もあるしもう少し時間を置いてから来ようと、一旦外へ出ようとした時に受付の人が2人に対してこう言った。
「なるほど。今貴方の後ろに居る子ですか?」
「「え?」」
そう言って彼らが私の居る方を向いて目が合うと……
「「……あぁぁぁぁ!!」」
大きな叫び声をあげながらひっくり返って気絶してしまった。
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