フランの異世界召喚記   作:松雨

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前話から時間が2ヶ月経過しています。


フラン、危機を察知して隣国へ

「ヴァーミラ、居る?」

「フラン姉? そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえるから……」

「あ、ごめん」

「それと、昨日まで一緒に居たあのエアって人と彼が率いるパーティーの人たちが居ないけど?」

「なんかね、指名依頼が入っちゃったから行かないといけなくなったんだってさ。凄く悲しがってたよ」

「ふーん。なるほど」

 

 ヴァーミラやエアの率いるパーティーの人たちと一緒に、吸血鬼に対する悪い感情の払拭を始めてからおよそ1ヶ月、いつも通りに町中の困り事を解決して回る為に彼女の家を訪れていた。しかし今日からは、運の悪い事にエアたちに指名で依頼が来てしまったが為に私たち3人だけでしなくてはならなくなってしまった。

 

 最初は正直ただ単についてきているだけだと思ったら、私とヴァーミラの動きやすいようにサポートしてくれたり、食事の手配などもしてくれたりした。中でも1番嬉しかったのは、王都で貰った保存魔法のかかった瓶に血までわざわざ補充してくれたりしたことだった。今思い出したけど、エアたちにお礼をしていなかったなぁ……今度会ったらお礼しよう。

 

 そんな事を考えながら家を出ようとした時、この2ヶ月の間に助けた人たちが数人入ってきた。何事かと思ったので尋ねてみると、想定していなかった不味い事態に巻き込まれようとしている事が分かった。

 

「何で、討伐対象がヴァーミラなのさ! それに、レオネが逮捕されるかもって何かの冗談でしょ? 私とミアが何故か対象外なのは良かったけど、総合的にみれば最悪の結果じゃん!」

「儂らには解らぬ。ただ、この町の過激派連中が自傷してまでヴァーミラ嬢とレオネ殿の罪をでっち上げたのは事実。直に聖教会のヴァンパイアハンター部隊がここに押し寄せて来るだろう」

 

 まさかのヴァーミラが討伐対象と化す衝撃の展開である。しかもご丁寧に、聖教会の吸血鬼討伐専門の部隊まで呼び寄せると言うオマケを付けてきた。

 

「フラン姉、レオネが、レオネがぁ……」

「ヴァーミラ、取り敢えず落ち着いて! 凄い冷気が出てるから!」

 

 この2ヶ月の間にお互いに仲良くなって分かった事だけど、ヴァーミラは喜びや悲しみ・怒りと言った感情がかなり高ぶると、自分の意思に関係なく内に秘めたる冷気の力が解放されてしまう。

 

 あれは何時だったか、店で買い物している時に喜ぶあまり冷気が解放された時には冷や汗ものだった。幸いにも、エアのパーティーに居たエルフの魔導師による咄嗟の結界魔法によって、大した事にならずに済んだけど。

 

「え? あ、皆ごめん」

「大丈夫だよ。怪我とか誰もしてないから……それよりも、早く逃げないと」

「でも、レオネが……」

「ヴァーミラ嬢、彼なら大丈夫、もう既に我々の用意した偽装高速馬車にてノストライト皇国へ向かっていきました。直ぐには合流出来ないかもしれないですが……あ、忘れてました。これが地図です」

 

 助けた人のうちの1人の言葉を聞き、ヴァーミラは取り敢えずひと安心したようで、燻っていた冷気と魔力も鳴りを潜めた。そうして落ち着いた所で、お金とある程度の手に持てる量の荷物を持って外出、隣国『ノストライト皇国』へ向かう事になった。

 

「ヴァーミラ、ミアと手を繋いで。隠蔽魔法を使って逃げるから」

「分かった。ミア、よろしく」

「うん。じゃあ行くよー! 『ライトカモフラージュ』」

 

 ミアの魔法で風景と同化して完全に周りから見えなくなった後、ノストライト皇国側の国境の門に向けて移動を始めたが、地図を見てみると意外と国境の門まで距離があることが分かった。その為魔法の効果時間も相まって、そこまで飛んで逃げる事にした。

 

 そうしてカーテンド王国側の国境に到着した瞬間、ミアの隠蔽魔法が強制的に解除されてしまい、私たちの姿が丸見えになってしまったようで、門の兵士がこちらを見ている。

 

「嘘……解除された!?」

「みたいだね。流石にすんなり通してくれる程警備は甘くないか」

「フラン姉、ミア。取り敢えず下に降りよう。対空魔法で撃ち落とされるかもしれないから」

 

 ヴァーミラの進言もあり、一旦下に降りて門の兵士の元に向かった。

 

「お前たち、隠蔽魔法まで使って出国しようとするとは……一体何をする気だったんだ?」

「アハハ……ごめんなさい兵士さん。実は訳が……」

 

 国境の門の兵士はヴァーミラを見ても特に反応を示す事もなかったのを見ると、彼女の事がまだ伝わっていない可能性がある。しかし、隠蔽魔法を使っていたせいで怪しまれてしまった為結局事情を話す羽目になってしまった。

 

「あっ! そう言えば聖教会の奴らから一方的に通達があったな。『琥珀色の瞳をした吸血鬼を通すな』と」

「……」

 

 これはいよいよ強行突破を覚悟しなければならないかと思った時……

 

「ただ、我が国の王からも同時に『七色の魔法石を歪な羽に持つ吸血鬼フランドールとその連れは通せ』との()()()()()を受けている。権力があるとは言え、たかが一教会の通達とこの国を束ねる王からの命令、どっちを守るかなんて決まってるだろ? それにアイツら……まあ良い。とにかく、そう言う訳だから早く通れ」

「兵士さん、ありがとう!」

「お礼なんて要らねぇよ、仕事だからな。後ヴァーミラ、隣国でも元気でやってくれよな」

 

 こうして正規の手続きを経て上手いことカーテンド王国から出国し、冒険者登録していないヴァーミラの通行料を払って仮の身分証明書をもらい、ノストライト皇国へと入国することが出来た。

 




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