フランの異世界召喚記 作:松雨
「え? 1番厄介なあの場所の駆除がもう終了したのですか!?」
「うん。ヴァーミラの能力のお陰で楽に排除出来たからね。お陰で動けなくなるレベルで疲れさせちゃったけど」
ここでミアと私が持っていた袋の中身を見せると、受付の人は思わず『うへぇ……気持ち悪い……こんなに居たとは』と言いながら顔をひきつらせていた。見せたのは失敗だったかな?
取り敢えず証拠として持ってきたコレをどうすれば良いのが聞いてみたら、ひとまず渡してくれと言われたので渡した。
「ご苦労様でした。それにしても良く平気で居られますよね。羨ましいです」
「平気……ではないです。フランちゃんに生活系魔法で汚れを落として消臭して貰ってもなんか不快感がありますから」
「サウディオラの事ですよね。私も覚えようかな……あ、今後も暇な時は残りの場所をよろしくお願いします」
そう言って、受付の人は害虫等が入った袋を持ってこの場を後にしたのを見届けた私たちも宿に戻り、ヴァーミラが動けないこともあったのですぐに眠りについた。
翌日、ヴァーミラの魔力も回復したので再び地図に記されている場所に行ってネズミや各種害虫の排除へと向かった。
昨日のように彼女の能力頼りだとまた魔力切れで動けなくなるので、私も少し大変ではあるけど魔導書を見ながら、相手に麻痺の状態異常を与える『チェーンパラライズ』を唱えて排除した。効かない虫が居なかったのは良かった。
そうした事に加え、昨日のあの場所のような厄介かつ量の多い所ではなかった為、 記された5箇所の内4箇所を同じ位の時間で済ませる事に成功した。
「ふぅ~。ずっと麻痺魔法ばっかり唱えてたらなんか疲れた~」
「確かに。でも、後1箇所で全部終わるから頑張ろうね! フラン姉様」
互いに励まし合い、残りの1箇所のネズミや各種害虫の排除へと向かおうとした時、腰の辺りの服を引っ張られたのを感じた。何だろうと思って振り向いてみると、そこには目に涙を浮かべていた1人の男の子が居て、しかも怪我をしている。
もう何らかのトラブルに片足を突っ込んだ予感がしたものの、無視してさようならと言う訳にもいかないので、ミアの回復魔法で怪我を治してから話を聞いてみた。すると彼は一言『僕の友達を助けて』と、そう言ってきた。詳しく説明を求めたものの、泣いてしまっていて話が出来る状態ではなかった為、その場所まで案内してくれるように頼んだ。
そうして彼の案内の元、その場所に向かったら……
「あっ……これは不味い状況だけど、相手が相手だから魔法を使うわけにもいかないよね」
3人の男子と2人の身なりの良さそうな女子たちが、男の子の友達らしき1人の女の子を取り囲んで今にも殴る蹴ると言った暴力が起こりそうな場面を目撃した。女の子は防御魔法を唱え、来るべき暴力に備えていた。
「姉様、どうするの?」
「もちろん助けるよ。まあ、見てて……あと、この男の子をアイツらの目の見えない所にお願い」
そう言うと、ゆっくりその集団に向けて近づいていった。当然、彼ら彼女らは気付いて私に言葉を投げ掛けてくる。
「何あんた?」
「えっと……そんな事よりそこの女の子、解放するから退いて」
「は? あんたには関係ない――」
これは駄目だ。普通に話してたんじゃ退いてくれそうにない。なので仕方なく私は身体を霧にしてその場から消え、集団のリーダーらしき女子の背後に回り、吸血の態勢を取りながら耳元で一言
「もう一度言うよ? 今すぐあの女の子を解放して」
そんな感じで私は、威圧しながら命令をした。これでも駄目なら致し方ないので麻痺魔法を使うしかない。
「ひぃ! ああ……」
「何コイツ、今のプレッシャーで体が動かない……」
「き、吸血鬼だ……父さんが絶対に喧嘩を売るなっていってたあの吸血鬼だ……逃げなきゃ!」
そうして女の子を寄ってたかって集団で怒鳴ったり脅したりしていた彼ら彼女らは、そのまま女の子を置いて逃げ去っていった。
「ちょっと子供相手にやり過ぎたかなぁ……まあ良いや。貴女、大丈夫だった?」
「うん。それで、どうして助けてくれたの? あの人たち、ここら辺を治める貴族の子供達なんだよ?」
「……え、そうなの? 全然知らなかったなぁ」
それを聞いた私は、面倒な方向に持っていってしまった事実に頭を抱える。
この女の子を助けた事自体に後悔はない。しかし、相手が貴族の子供と知っていたのならば、ミアの魔法で隠れてから彼女を連れて安全な場所に送り届けると言った、多少目立つものの波風を立てない方法も取れた。
だけど、それを知らなかったが為に私は堂々と近づき、吸血鬼としての能力を遺憾なく発揮して威圧すると言う、これ以上無い位波風を立てる方法を取ってしまった。しかも、周りに人が沢山居る場所でやってしまったと言うオマケ付きだ。
(知らなかったとはいえ、面倒な方に自分から持ってく事になるとは……まあ、過ぎた事を考えても仕方ないね)
そう頭の中で考えたけど、過ぎた事をいくら考えても後の祭りなので気持ちを切り替え、女の子の方を向く。
「そう言えば、貴女の友達って人があっちの方に居るから行ってあげて」
「え!? つまり吸血鬼のお姉ちゃんは……」
「うん。その子に助けて欲しいって頼まれたから来たんだよ。居なかったら多分貴女には気づかなかったと思う」
「……」
私がそう言うと、その女の子はヴァーミラたちの隠れている方に走って向かっていった。
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