フランの異世界召喚記 作:松雨
あの後、私たちは無事に助けた女の子と男の子を会わせてからそれぞれの家まで送り届け、それから最後のネズミや各種害虫排除へ向かっていた。
「姉様、流石だね。凄い吸血鬼らしさが出てたよ」
「そうかなぁ、あはは……」
「そう言えばフランちゃん、あの女の子を取り囲んでた子供たち貴族だったんだよね」
「うん。正直、あれは知らなかったとは言えやっちゃったなぁ……って思った」
「まあ、やった事自体は良い事だしそれに、もし何かあっても仕方ないんじゃない? だからあんまり気にしない方が良いよ、姉様」
私が威圧した子供たちが貴族だったと言う事実を2人に伝えると、多少驚きがあったもののそれ以外は特に何もなかった。ヴァーミラに至っては『敵』が来たら全員氷漬けにして迎え撃つ気満々だったので、それは止めてくれと嗜める。
そんな会話をしていると、最後の排除場所へと到着したので早速作業を始める。もう既に日が沈みかけている為、ミアの為にも出来れば早く事を済ませておきたい。
「さ~て。もう夕方だし、早く済ませちゃおう!」
「そうだね姉様……あ、早速居た」
こうして完全に日が沈んで月が出て来始めた時間帯に5箇所目が完了し、これで地図に記された箇所のネズミや各種害虫の排除が終わったのでギルドに戻ろうと歩いていたその時、足で何か硬い物を蹴飛ばした感触と、それが地面を転がって壁に当たる音が聞こえた。
気になったので音が聞こえた場所に向かうと、そこには淡い紫色の光を放つ謎の手の平サイズの宝石があったので、拾おうと私が触れた瞬間に光が一段と強くなった。
「ビックリした~。何なんだろう、これ?」
「分からない。けど私やフラン姉様が触れば光が強くなって、ミアが触っても何も変わらない所を見ると、吸血鬼の力に反応してるのかな? とにかく、特殊な宝石の落とし物だろうからギルドに持っていこう」
そうして依頼達成の報告と共に、謎の手の平サイズの宝石も渡す事に決めた私たちは改めてギルドへと戻っていった。
「あ、皆さんお疲れ様……ん? その宝石はどこで拾ったのですか?」
「今日の依頼の時に拾ったんだ。不思議な宝石だったし、誰かの落とし物だと思ったからついでに持ってきたの」
「なるほど……こんな重要な物を落としていくなんて、きっとその人は今頃血眼になって探し回っているでしょうね」
「そんなに貴重な宝石だったの? これ」
話を聞いていると、この淡く輝く宝石は『暗竜石』と言うらしい。闇属性を操るAランクの『ダークネスドラゴン』を討伐した際ごく稀に落ちている事があり、闇の力に反応するとそれを吸収・放出して紫色に輝く宝石との事。主に武具に強力な闇属性を付与するのに使用されるが、扱いがかなり難しいらしい。
「とにかく、拾ってくれて感謝です。もし犯罪者等に拾われて武具に使われたりしようものなら状況にもよりますが、かなり大変なことになっていたでしょう」
「で、その宝石落とし主が見つからなければどうなるの?」
「何ヵ月経っても見つからない場合はギルドが認めた商人に売却します」
なるほど。まあそれだけ貴重な宝石であるなら、何ヵ月も見つからないなんて事はないだろうね。
そんな事を思いつつ、もう1つの目的である5箇所のネズミや各種害虫排除の報酬を受け取り、ギルドを後にした。
ヴァーミラやミアと会話しながら、綺麗な夜空を見ながら歩いて宿に戻っている途中、物凄く焦っていそうな顔をした3人組がギルドの方に息を切らしながら走って向かって行くのが見えた。随分必死そうだったので何があるのか気にはなったけど、わざわざ見に行く程の事でもないだろうと判断した私はそのまま皆と宿へ向かい、手早く夕食を取った後すぐに眠りについた。
そして次の日の明け方、いつも通り寝ていたら急に大きな音が響き、ビックリして私たちは飛び起きた。辺りを見回して何事かと思っていると、この部屋にギルドの職員が来ていた事に気づいた。何故ここが分かったのだろう?
しかし、せっかくの心地よい睡眠の邪魔をされてすこぶる気分が悪い。どうやって文句を言ってやろうかと思った時、先にヴァーミラがその職員さんに対して怒っていた。こっちにまで冷気がひしひしと伝わってきている上に、黒い長髪が彼女を取り巻く冷風になびいているのを見ているので、相当怒っているのが良く分かる。
「私の眠りを邪魔するなんて君さぁ、一体何のつもり? ねぇ」
「すみません、間違えて目覚まし魔法の音量を最大にしてしまいました。実は、ギルドマスターから貴女方を呼ぶようにと仰せつかっておりまして……」
「もっと時間ずらせなかったの? 今まだ明け方なのに? と言うかそもそも……」
その後も普段のヴァーミラからは想像もつかない程怒りを露にしながら、さりとて怒鳴ったり叫んだりせず、ただひたすら静かに文句を言い続けている。このまま放っておくと延々と続きそうな気がする上、部屋の気温がどんどん下がり続けている為私が止めに入り、何とか落ち着かせる事に成功した。
そして、そのギルドの職員さんに私たちが呼ばれた理由を訪ねると、外を歩きながら説明してくれると言うので私たちもついていくことになった。
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