フランの異世界召喚記 作:松雨
「それで、私たちが朝早くにわざわざ起こされてまで連れていかれる理由って何?」
「あ、はい。実はですね、昨日貴女方が届けて下さったあの宝石、持ち主が皇国のとある貴族様でして。暗竜石が見つかった事に大層喜んでおられたようですが……性格に難がありましてですね、仕方なくお礼をしてやるから連れてこいと」
「……はぁ」
「そう言う事でしたか」
「……」
なるほど。この国の貴族って言う事は相当偉い人だから、そんな人に命令されれば逆らう事は出来ない。朝早くに起こしてまで連れていく理由にはなっているけども、正直言って迷惑な話である。随分偉そうな人たちっぽいし。
しかもヴァーミラに至っては、小声でそのまだ見ぬ貴族の人間に対して眠りを邪魔された上に、酷く偉そうなその態度に対して怒って文句を言い続けていた。端から見たら、まるで呪術士が呪術を発動させようとしている風にしか見えない。
「取り敢えず、出会った瞬間に能力とか人に対して使うのは止めてね。命が狙われた等の理由があるのならば、話は別だけど」
「……フラン姉様がそう言うなら、分かった」
段々感じる冷気が強くなってきた気がしたので、声をかけてヴァーミラを落ち着かせる。しかし、相変わらず機嫌が悪いようで、彼女の言葉には若干の怒気が含まれていた。まあ、寝ている時の幸せそうな所を見るとそうなるのも理解できる。
そんなやり取りをしていると、ギルドの前にやたらと豪華な馬車が止まっていたのを発見した。どうやらあれに乗って、貴族が居ると言う屋敷に行くらしい。
「随分上から目線の貴族の人みたいだけど、そういう意味ではカーテンド王国の貴族って良かったよね」
「まあね……」
「……」
明け方、ギルドの職員さんに皇国の貴族の所に行くと言われてから、面倒事に片足だけでなく全身を突っ込んだ気がして正直だるい。何せ、あの時私が吸血鬼の力を遺憾なく発揮して威圧した子供が貴族であったと言う事実、もしかすると今から行く貴族の子供かも知れない可能性がある為だ。
ここで断りたかった気もするが、そうした所で余計な面倒事が舞い込んで来そうだったのでその選択肢は潰えた。つまり、あの時私があんな行動をした時点で詰んでいたと言う事なのだろう。
(もうなるようになれ! 戦う事になっても仕方ない!)
心の中でやけくそになりながら完全に詰んだ時の為の最終手段として、カーテンド王国への逆戻りも考えながら用意された馬車に乗って館へと向かった。
人が歩くよりも少し速いくらいの速度でのんびり動くこと20~30分、馬車から外を見てみると目の前に紅魔館よりも一回り小さく、色も違うもののそれ以外は結構似ている館が現れた。どうやらここが目的の場所であるようだ。
そうして館に到着すると、メイドさんらしき格好をした女の人に、豪勢な食事が並ぶ部屋へと案内された。席と席の間が狭い為、万が一食事に触れてしまわないように出来れば羽をしまってくれないかと言われたので、私とヴァーミラは羽をしまいこんだ。
「なるほど。其奴らが例の……ほれ、このワシがわざわざ手間をかけてまで面倒なお礼をしてやると言うんだ。さっさと座れ」
案の定ギルドの職員さんの言った通り、性格に難がある貴族だった。自分から私たち3人を招いておきながら、面倒だと抜かす。だったら呼ばなければ良いのにと思いつつ席につくが、料理にもあの人間の性格が滲み出ていた。
私たち以外の出席者の料理は高級品を使ったであろう、豪華で美味しそうな料理であるのに対して、こちらはよく分からない食べ物を乱雑に盛り付けた何かであった。流石に食べれない物や腐っていたりした物は無いみたいだけど、見ただけで普通の店の料理よりも圧倒的に何もかも劣っているのが分かった。一体何の為に呼んだのか理解に苦しむが、もしかして嫌がらせだろうか?
「何だ? せっかく出してやったと言うのに、食べれんと言うのか?」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、何を思ったかヴァーミラが出された物を一口食べ、たった一言『不味い』と正直に大きな声で宣言する。
「姉様やミア、それに私の睡眠を邪魔してまで朝早い時に呼び出しておきながら散々侮辱してくれた挙げ句、食材を冒涜しているような不味い料理を出すとは、このふざけた真似を……!」
今まで頑張って理性で抑えていた怒りがその限界を突破し、それが態度と冷気に現れ始めていた。止めようかと思っていたが、当の私も気分がすこぶる悪い為、殺しにまで発展しない限りは止めない事に決めた。ミアも理解を示してくれている。
『皆凍ってしまえ』
そう言うと、高級茶葉で淹れられた紅茶がものの一瞬で全て凍りつき、全て無駄になってしまった。これには流石の貴族の面々も驚きを隠せないようだった。
「なっ……貴様、何をした!?」
「何って、ただ単に『水』に凍るように命じただけ。簡単な事」
「凍るように命じただと……魔法を使った気配などなかったはずなのに何故これ程の現象が起こせる?」
「ああ、それともう喋らないでくれる? もし、喋ったら次は君の中の『水』を凍らせてあげるから」
「っ!」
ヴァーミラから発せられる冷気がかなり強くなり、発言も遠回しに次は殺すと言っているようなものになり始めた。このまま放っておくとこの場が地獄絵図になりそうな感じだったので、流石の私も止めに入ろうと立ち上がったその時、この部屋にお婆さんが突然強烈な魔力を発しながら入ってきた。
「だから言ったでしょうがぁーー!!」
「ひ、ひぃ! 許してく――」
入るなりそう叫ぶと、貴族のお爺さんの方に遠慮なく何らかの波動を放って吹き飛ばし、壁にめり込ませた。余りの衝撃が大きい光景を目にしたヴァーミラは怒りが急に収まったようで、溢れる冷気も鳴りを潜める。食事会に出席していた一同も同様に驚いていた。
「お主らも何故止めぬ? わしが忠告しておいた筈だぞ。『2つのルビー・サファイア・琥珀を持つ者には喧嘩を売るな』と」
「「「……すみませんでした」」」
こうして、やたら強そうなお婆さんの登場により、この場にひとまずの平穏が訪れた。
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