フランの異世界召喚記   作:松雨

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フラン、精霊の親子に出会う

「申し訳ないねぇ、吸血鬼の嬢ちゃんたち。この爺さんは全然わしの言う事を聞いてくれなくて、どうか殺さないで下さると嬉しいわ」

「あはは……しないよ、そんな事」

「私もお婆ちゃんが登場してあのお爺ちゃんを壁にめり込ませてたからか、怒る気も失せたし」

「あの、わたしは吸血鬼じゃなくて人間です……」

 

 あの後、お婆さんの威圧のこもった指示によって全ての料理が作り直され、改めて食事会が開かれていた。もちろん私たちの料理もさっきの食材を冒涜したようなものではなく、ちゃんとした物に変えられた。

 

「そう言えば、壁にめり込んだお爺さんは大丈夫なの? 人間なのに」

「あらあら、さっきまで無礼を働いていたあの人の心配なんて優しいのねぇ。心配しなくても、やたらと頑丈だから大丈夫よ。後、さっきの酷い料理は罰として無理矢理口に押し込んで食べさせたから、食材も無駄になってないわ」

 

 なるほど。あの料理を罰として無理矢理食べさせたと……まあ、それは自業自得なのでこの件に関しては同情はしない。と言うか、する気も起きない。

 

「くくっ……あははは! お婆ちゃんやるじゃない! 私の眠りを妨げた報いとしては最高の罰ね」

「まあそうなの? 申し訳ない事をしたわねぇ」

「謝らなくても良い。お婆ちゃんは悪くないから」

 

 私とお婆さんの会話の中に出てきたお爺さんに対する罰の内容を聞いたヴァーミラは、今日一番の笑顔を見せて大笑いしていた。余程愉快だったらしい。ちなみに、他の参加者たちは凄く気まずそうに食事を黙々と食べ続けていたが、お婆さんの取り成しによって気分が戻ったようで、何だかんだ賑やかな会となった。

 

 そうして食事会も終わって帰ろうとした時、お婆さんから呼び止められた。

 

「そう言えば自己紹介してなかったわねぇ。わしはラスワ・ルーケルク。さっきの爺さんの妻で、占い師をやってる者よ」

「へぇ~。じゃあ私も……名前はフランドール・スカーレット、吸血鬼だよ!」

「……私はヴァーミラ・スカーレット。フラン姉様とは姉妹関係ね」

「わたしはミア。フランちゃんたちと一緒に冒険的やってます」

 

 こうして、軽めの自己紹介を済ませた私たちは屋敷を後にした。ちなみに、ヴァーミラが何故か自己紹介の際に戸惑ったのが気になって聞いてみたら、私と同じ姓を名乗っても良いのか一瞬迷ったかららしい。姉妹なのだから、そんなの気にしなくても良いのに……

 

 そんな会話をしながら取り敢えず私たちはギルドへと向かっていた。あの職員さんに無事に戻れましたと報告をする為と、たまには気晴らしに採取依頼でも受けようと思ったからである。

 

 最終的には解決したものの、あのやり取りで疲れたので休憩もかねてのんびり買い物をしながら1時間歩いてギルドに着いた私たちは、あの時の職員さんに声を掛けた。貴族たちとは少し険悪なムードになったものの、何とか無事に戻れた事を報告した。

 

「本当に良かったです。それで、本日はどう言った用件で?」

「えっと……採取系の依頼を受けに来たんだけど、何かないかな?」

「採取系ですか。そうですね……」

 

 そう言うと、依頼書の束の中を探し始めた職員さん。1分程経った時、いくつかの依頼書を見つけて渡してくれた。

 

「これですね。どれも採取系の依頼ですけど、その割には難易度が高い奴が多いですけど、大丈夫ですか?」

「う~ん。じゃあこれでお願い。2人はどう?」

「良いんじゃない?」

「良いと思うよフランちゃん」

 

 そうして選んだ採取系の依頼は『光癒草(こうゆそう)』の採取依頼である。怪我の治療に使う中級回復ポーションを作る為に必要な主要素材の1つであるが、生えている場所がそこそこ危ない場所である為Eランク以上の冒険者にしか受ける事が出来ないらしい。

 

 まあ、危ないと言っても初心者基準との事なので、私たちなら油断しなければ問題ないレベルの採取系依頼だと思う。

 

「承りました。期限は1週間となっていますので、それほど急がずとも大丈夫な感じになっています。最低でも6本まとめた束が3束、それ以上取ってきた場合はある程度までなら報酬に上乗せされますので頑張って下さい」

 

 そうして光癒草の図鑑の写しを貰い、それが採取出来る山の途中にある小さな村まで馬車で移動する事になった。今まで緊急だなんだとか言って討伐系の依頼ばかりであったが、今回は随分久しぶりののんびり採取依頼だ。たまには休憩がてらこう言うのも良いと思う。

 

 そんな事を考えながら馬車に揺られる事数時間、目的地手前の小さな村に到着したらしく馬車が止まった。

 

「まるで幻想郷に帰って来たみたい……」

「幻想郷……何それ?」

「私の住んでいた場所の事だよ。外の世界とは結界で隔離されてるからね、帰りたくても迎えが来るまで帰れないんだよね」

 

 物凄く今更感が半端なかったが、この機会を逃すと永遠に話さない事になりそうだったので全部話す。

 

「何だか凄い所出身だったんだね。知らなかったよ、そんな場所があるなんて。それにここに居るのも偶然召喚って形で来ただけで、迎えが来るまでこの世界を見て回る為に冒険者に……」

「結界で隔離って……私たちが想像もつかない程の凄い魔境なのかな? でも姉様の故郷、行けるなら行ってみたいな」

「何か今まで話さなくてごめんね」

「いや、気にしてないよ。だってわたしたち一言もフランちゃんに聞いてなかったし」

「右に同じく。後、それなら早く迎えが来ると良いね、フラン姉様」

 

 そんなやり取りをしながら村長さんに軽く挨拶をした後、図鑑を片手に山へと入っていった。そこで思ったのは、周りを見渡す度に幻想郷に良く似ている自然豊かな山だなぁと言う事だ。見た事がない動物や虫、植物等が存在するもののそれを除けば幻想郷そのものだった。

 

「しかもこの山、妖精さんまで居るんだね。余程居心地が良いのかなぁ?」

「そうだと思うよ。ここに居るのはこの環境からして『自然の妖精』、自然が豊かかつ水が綺麗な場所でなければ居ないからね」

「なるほど」

 

 ミアとこの山について話しながら探していた時、ヴァーミラに声を掛けられる。

 

「ごめん姉様話の途中に割り込むけど、1束分の光癒草見つけて来た……」

「もうそんなに見つけたの? 凄いね!」

 

 どうやらいつの間にか1束分の光癒草を見つけてきてくれたらしい。私がそれをヴァーミラ受け取って魔法のバッグに入れようとした時、突然ミアが何かに吹き飛ばされて大木に叩き付けられた光景が見えた。

 

「あぐっ……」

 

 余りにも唐突な出来事に、私とヴァーミラは対応する事が出来なかった。それはミアも同様のようで、構えを取る暇もなく吹き飛ばされたせいで、決して軽くない怪我をしてしまった。しかし、そこは人間なのに吸血鬼もビックリの自然治癒能力を持つ彼女であった。みるみる傷が塞がっていき、10分も経つ頃には殆んど治りきっていた。

 

「お父さん! 大変なの、私のせいで人間が怪我を……」

「本当か!? 全くお前って奴は……それでその人間はどこに居るんだ?」

「ほら、あそこに……え!? 嘘、もう治ってる」

 

 ミアの怪我もほぼ完治し、本人も続けられるから行こうとの意思を示した為、再び草探しをしようとした時目の前に突然2人の人間ではない存在が現れた。

 

「貴方たちは一体誰?」

「えっと……私がネイツ、こっちが父のシュゼ。この山に住む精霊よ」

 

 どうやらこの2人は精霊らしい。詳しく話を聞いてみるとミアを怪我させたのはネイツの方らしく、不味いと思った彼女は治癒魔法の心得がある父シュゼを連れてきたとの事。

 

「なるほど、でもわたしで良かった。生命神の加護があるお陰ですぐに怪我が回復する体質があるから」

「……それでも、ごめんなさい」

「本当にうちの娘がすみませんでした。それで、貴女方はこの山に一体何の為に?」

 

 シュゼからそう聞かれた私は、ここに光癒草の採取に来た事を伝えた。すると、お詫びも兼ねて良く生えている場所に案内してくれると言うので、ありがたくついていくことにした。

 

 




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