フランの異世界召喚記   作:松雨

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第5章 ノストライト皇国 ミロミス編
フラン、妖精の飛び交う村に着く


「それで、君達は一体何をしにミロミスの村へ行くんだい? そこ出身の僕が言うのもあれだが、はっきり言って娯楽は何も無いぞ? 強いて言うなら近辺にある『妖精の森(フェアリーフォレスト)』で採れる素材目当てに商人や冒険者が集まった事によって出来た宿泊施設が少しある位かな」

「ミアの師匠がミロミス出身らしくて、そこに行きたがっていたから一緒に来てるんだよね」

 

 ミロミスへと向かう道中、目的地が同じ冒険者や商人・村人の4人を、運転手の意向もあって私たち3人の借りた馬車に流れで乗せていく事になった。その中の1人、ミロミス出身の商人アルシエラに興味を持たれて話し掛けられたのを切っ掛けに会話していた。正確に言えば、彼が興味を持ったのは私の羽に付いている魔法石に対してだけど。

 

「1つだけでも貰えないか? もちろん、それと同等の価値を持つ秘宝は用意してある。君の物にする事を約束しよう」

「これと同等の? まあ、取ってもしばらく経てば復活するし、対価を用意してくれるなら良いけど。で、その秘宝って何?」

「申し訳ないが、ここじゃ関係ない人が居るから話せない。村に着いたらこっそりと君に説明して渡すつもりだ。その時に羽の『紅い』魔法石を渡して貰えれば良い」

 

 そんな事を荷馬車の荷台で話して楽しんでいると、車輪が石か何かに乗り上げたらしく、かなり上下に揺れた。立っていた上に踏ん張っていなかった私は、バランスを崩して顔から転んでしまった。

 

「痛った! 油断してた……あっ!?」

 

 打った所も痛かったけど、そんな事より私やヴァーミラにとっては死活問題となる事態が発生していた。何と、血の入った保存魔法が掛けられたガラス瓶が見るも無惨に砕け散っていたのだ。幸いにも、昨日の食事時に2人で飲んでいた為、あと3日~5日程度であれば吸血本能にも何とか耐えられる。けど、それ以上経てばどうなるか分かった物ではない。まあ最悪、私だけでもミアから直に吸血させてもらう事になりそうだけど……その際に手加減が上手くいかず、まかり間違って殺してしまったらと思うと怖い。

 

 しかもガラス瓶の血が全部服に染み付き、見た目はとんでもない怪我をした重傷者のような姿になってしまい、私が吸血鬼だと言う事を忘れた同乗者が過剰な心配をする羽目になる。

 

 それに、私やヴァーミラにとっては良い匂いだけども人間にとってはキツい血の臭いも拡散してしまい、気分の悪くなる人が少し出て来てしまう事態に陥る。臭いと汚れ自体は私が生活魔法のサウディオラを使えばどうとでもなるが、ミアの回復魔法に精神まで癒す物は無い為、それに関してはどうしようもない。

 

「魔導書に保存魔法の項目は……」

 

 持っている魔導書を隅から隅まで探すも、あの瓶に掛けられていた特殊な保存魔法に匹敵する物は無かった。

 

「う~ん……」

 

 これからどうしようかと、魔導書とにらめっこしながら考えているとミアに声を掛けられた。どうやら私が気付かない間に目的地のミロミスに到着していたようだった。

 

「フランちゃん、さっきからずっと声掛けてたのに魔導書とにらめっこしてて気づいてくれなかったんだよ」

「あ、そうなの? ごめんね」

 

 馬車から降り、周りの景色を見渡す。 前に採取依頼をした時に寄った村と似たような雰囲気で、そこよりも幻想郷の近い感じののどかな村だ。

 

 村にしてはかなり広くて町に匹敵する位だけど、パッと見建物の数も人の数も少ない。しかし、その分だけ自然豊かな上にたびたび妖精たちが、楽しそうな笑い声を発しながら周囲を飛び回っているのを見ると、さながら妖精達の住む森の一部に居るような感じだ。

 

 ただ、悲しい事に出会う彼ら彼女らの大半が私やヴァーミラを見るなり、速攻で逃げたり隠れる等の回避行動を取る。吸血鬼だからかな? 心当たりと言えばそれくらいだけど。

 

 一方でミアには妖精たちがこれでもかと言うほど集まってきている。当の本人は何故妖精たちがこれ程寄ってくるのか理解出来ていないみたいだけど、何だか楽しそうだ。

 

「フラン姉様、ミアって何であんなに妖精たちに寄ってこられるんだろう? 他の人間にはそんなに寄ってこないのに」

「生命神の加護を持っているらしいし、それがあるからじゃないの?」

 

 2人で話をしつつ考えながら、村の人に師匠が居るかどうか聞いて回っているミアの後をついていく。もちろん、ヴァーミラが父と慕うレオネの聞き込みも忘れずに行う。

 

 そんな感じで村中に聞いて回る事1時間半、ミアの師匠はこの村にたまたま帰ってきている事が分かったが、今は妖精の森で遭難してしまった子供の捜索隊に回復魔導師として参加している為、現在は村に居ないと言う事が分かった。さてどうしようかと思っていると、村の人の好意によって私たち3人はその村人の家に来るまで居させてもらい、滞在するなら泊めてもらうことも確約してくれた。

 

「本当に良いの? お金とか払わないと……」

「良いから良いから、早く入りなさい。久しぶりの客人だし、それに吸血鬼の嬢ちゃん2人と妖精に好かれている嬢ちゃんは冒険者だろう? だからそうだね……今まで見てきた、経験してきた事を話してもらえるかな? 私はね、そう言う話を聞いたりするのが好きなんだ」

「な~んだ。そんな事ならお安いご用だよ!」

 

 どうやら私たちを泊めてくれた村の人は、冒険者から話を聞くのが大好きな人らしい。宿泊費代わりに今までの冒険の話をしてくれと言うので、互いの自己紹介も兼ねて話せる事は全て話す。

 

 他の冒険者よりもトラブルに巻き込まれる回数が多かった為、ネタに困る事なく話を続ける事が今の所は出来ている。

 

「何故かトラブルに巻き込まれやすい体質のせいでまあ、色々楽しくも疲れる冒険になってるんだよね」

「成る程。ドラゴン討伐、隣国で吸血鬼と魔物の大軍とやり合い、エリュカルでは貴族に難癖つけられて兵士と戦闘……フランドールがトラブルに巻き込まれやすい体質と自称するだけの事はある。それにしても、そんな凄いパーティーに居て疲れないか?

 ミア」

「疲れはします。でも、わたしはそれでもこのパーティーに入れて良かったと思ってます!」

 

 私たちにとっては至って普通の冒険の話であるけど、村の人『カレット』にとってはこれで楽しんでもらえているらしいので良かった。

 

「済まない。欲張ってしまうようで悪いけど、話の途中で出て来た『弾幕』と『スペルカード』とやらが分からない。どんな魔法や技なのか、気になるから見せてくれないか?」

「見たいの? 良いけど、危ないからなぁ……」

「それなら心配しなくても、この村には皆が使えるかなり広い空き地がある。手加減程度であればそこで足りるはずだ」

 

 私が冒険の話をしている途中でカレットが、弾幕にスペルカードを見たいと言ってきた。それ自体は別に良いのだけど、場所がなくて危ないと言ったら広い空き地があるからそこで頼むとお願いされた。そう言う事なら大丈夫だろうと思って了承し、早速彼女の言う広場へと向かっていた時、道端に人が倒れているのを発見した。

 




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