フランの異世界召喚記   作:松雨

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今まで投稿した小説の一部に登場するフランのスペルカード『禁忌 レーヴァテイン』の表現の変更を行いました。これによる物語の変更は一切ありません。


フラン、魔境と化した妖精の森へと足を踏み入れる

「貴方、大丈夫!? ミア、回復お願い!」

「分かった……『エクスヒール』! 状態異常は衰弱、ならこれも……『メディカルナス』!」

 

 見るからに危険そうな状態であったので、早急にミアに回復魔法を使ってもらい、倒れている男の人を助ける。様子を見る限り顔色も良くなり、魔力の減少も止まったようなので回復は間に合った事は明白だ。

 

「……うう」

「気付いた? いきなりで悪いんだけど、何があったか教えてくれる?」

「あんたらは一体……っ! 吸血鬼!」

 

 倒れていて起きたら、いきなり吸血鬼の私が至近距離に現れたと言うこの状況が悪かったのだろう。反射的に飛び退き、男の人はこちらをじっくり見据えて戦闘態勢を整える。

 

「あ~……何かごめんね。取って食べたりはしないから、安心してくれる?」

「……確かによく考えたら、もしあんたが俺を取って食うつもりだったら今頃死んでるしな。済まない」

 

 こうして上手く誤解を解く事が出来たので、改めて何があったかを聞いた。彼はどうやら、妖精の森(フェアリーフォレスト)に迷い込んだ子供を探しに行く捜索隊に参加していたらしい。で、その森の深部に存在する巨大な聖樹のある空間に到着した時に目的の子供は見つかったらしいのだが……

 

「妖精のお姫様もろとも悪質な冒険者集団に人質に取られて、何も出来ずに衰弱魔法『ウィークエンド』を掛けられて壊滅、散り散りに逃げ去っていったと」

「そうだ。その際に回復魔導師のヒリマさんともはぐれてしまい、衰弱を治癒出来ずに今に至ると言う訳だ」

 

 話を聞いて私は、とある疑問が頭に浮かんだ。お姫様が居るなら王様か女王様、それを守護する兵士妖精や類する存在が居るはずなのに、何故そんなにもあっさり突破されてしまったのかと。それに、聖樹と言うからには何らかの防御がありそうなものだけど、そう言うのも無かったのだろうかと思ったので聞いてみた。

 

 すると、彼は私のその問いに対して『そんな物は無かった』と答えた。それに王様や女王様も、兵士妖精も何もかも存在する気配すら無かったらしい。

 

「フランちゃん、ヴァーミラちゃん! 早く妖精の森に行こう! あの人の言ってたヒリマって人が、わたしの師匠なの! 自分と違って攻撃魔法も強かった師匠が居てこの被害、きっと不味いことでも起きたんだろうなぁ……」

「「そうなの?」」

 

 男の人が私たちに事情を説明している時、ミアが突然声をあげてそう言った。彼女曰く、と言う回復魔導師が師匠らしい。なるほど……それなら尚更放っておく訳にはいかないので、妖精の森深部に向かう事にした。ミアに回復魔法を教えて、自身はそれに加えて高い攻撃力の魔法を扱える師匠のヒリマが居てさえ、こんなにも大きな損害を与えられてしまった捜索隊。これは早く行かなければ不味いと思った。

 

「よし、任せて! 私たちがその子供と妖精のお姫様だっけ? その2人を助けに行って来るから!」

「本当か!? 助かる! 妖精の森の入り口には看板が立っているから、そこから入ってくれ!」

 

 こうして子供と妖精のお姫様救出を引き受けた私は、それと同時にミアの師匠も探すべく妖精の森へと向かっていった。男の人の指差した方向にひたすら歩くこと約20分、言われた通りに看板が立っている妖精の森の入り口に到達した。

 

 そして入り口を通過した瞬間、何かがおかしいと直感で私は感じた。見回してみると森の見た目だけは至って普通ではあるが、流れる魔力に『邪な気配』が混じっていたり、妖精の森であるにも関わらず1人たりとも彼ら彼女らが見当たらない等の異変が起きているのがハッキリと分かる。

 

「これがただの冒険者集団に起こせる現象には思えないんだよなぁ。絶対に何かヤバい存在が居るよね、これ」

「確かに私も姉様と同じで、そう思うよ。邪な気配を感じるし」

「師匠、大丈夫かな……」

 

 3人で会話をしながら先へ進んでいると、こちらを包囲する様にして茂みの中からかなり大きな狼が7匹出現、私たちの首を刈ろうと襲い掛かってきた。

 

「っ! ヴァーミラ!」

「分かった……『凍れ』」

 

 こちらに接近して襲ってきた奴は持っていた棒で力任せに叩きのめし、少し距離のある奴には通常弾幕を何発か叩き込む。ミアに近づいていった奴はヴァーミラの能力と氷属性魔法で氷漬けにしてもらい、5分程で全て討伐しきる事が出来た。

 

 討伐した魔物の素材集めをしておきたい所ではあるが、生憎そんな事をしている暇はないので仕方なく放置して先を進む。

 

 奥に進むにつれて魔物の襲撃頻度と強さが上がり、更に運悪くリトルグランドドラゴンまで現れた。探索隊の人たちがどれだけの強さか分からないけど、まだ深部に到達していないのにBランクの魔物が稀にとは言え現れるのだから、深部に居る冒険者たちは最低でもBランクレベルの強さはあるだろう。

 

 更に奥へ進むと、感じる邪な気配がだんだんと強くなってきているのを感じる。しかも、倒れて消滅寸前の妖精や精霊と言った存在を見かけるようになった。恐らく逃げ遅れたのだろう。

 

「ミア、回復魔法をお願い」

「任せて……『エクスヒール』! また衰弱ね。なら、『メディカルナス』」

 

 消滅寸前の妖精や精霊を見かけ次第ミアの回復魔法で助け、その隙を狙って襲ってくる魔物は私やヴァーミラが能力込みで討伐して守る。その際に周囲が血まみれの、見た人の大半が地獄と表現しそうな光景が広がるが、そう言う事を考えている場合ではない。早く行かなければ、妖精のお姫様や迷った子供がどうなるか分かったものではないからだ。

 

「ミア、魔力はまだ大丈夫?」

「まだまだ行けるよ~。ただ、奥に進むにつれて妖精たちに掛けられてる状態異常の術式が複雑化してるから、あまり続くと厳しいかな」

 

 なるほど。深部に到達する前にミアの魔力が尽きてしまえば、妖精のお姫様や子供に万が一の事態が発生していた時に回復魔法が使えなくなる。確かにそれは困るけど、最悪妖精たちを見捨てると言う選択肢を取らなくてはならなくなるのも何だか……

 

 とにかく私たちに今出来るのは、先に進んで妖精のお姫様や子供を救出し、この魔境と化した妖精の森から脱出する事だけ。出来れば悪質冒険者を半殺しにしてギルドに引き渡しにもしたいけど、人質が居るからそれは二の次だ。

 

 そんな事を考えつつ襲い来る魔物を駆逐しながらひたすら進む。そうしてどのくらい時間が過ぎたか分からないけど、ようやく深部の巨大な聖樹のある空間が見えてきた。

 

「やっとか……ああもう、邪魔!」

 

 もう何度目か分からない狼の襲撃を手持ちの棒で雑に殴って叩き飛ばし、やっと目的地へと到達した時に見たのは、冒険者集団10人と邪な気配を放つ怪しげな黒衣を纏った人物が1人、人質の妖精のお姫様と子供に何かを強要している光景であった。

 




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