フランの異世界召喚記   作:松雨

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アンケートの回答ありがとうございました。その結果から今後も今まで通り、無理ない範囲で吸血鬼要素を入れていく方針で行きたいと思います。


フラン、狂気を纏いし闇と化す

「誰ですかぁ、貴女は? もしかして妖精のお姫様とガキを取り返しに来たのでしょうかぁ?」

「人間ではないな……なっ! コイツら、吸血鬼か!」

 

 早く助けなければと思って正面から堂々と突撃したは良いものの、よく考えればこれは悪い手段だったような気がしてきた。しかし、もう既に行動に移してしまっていた為、今更止めると言う選択肢はないので素早く自身を霧にし、人質の2人の側で身体を再構成させた後に、縛っていた腕輪を能力で粉微塵にして解放した。

 

「しまった! くそぉーー!」

「名乗ってる暇はないの。さっさと2人を返してもらうよ」

 

 2人を解放した瞬間に襲い掛かってくる冒険者の攻撃を避け、無防備になった腕を持っていた棒で力任せに叩き、へし折った。人質の命が掛かっている為、最悪殺してしまう事も視野に入れている。

 

「ヴァーミラ、この2人を守りつつ逃げるよ!」

「分かった。でもフラン姉様、このまま逃げるだけじゃきっと追っかけて来るよ。だから逃げつつ、出来るだけ無力化していこう!」

 

 この場で戦い、コイツらを全員まとめて無力化するのも良いかと思ったけど、流石に誰かを守りつつの殲滅戦は厳しい物がある。なのでここは、襲ってきた奴だけを最低でも戦闘能力を喪失させる事を考え、村に後退していく事にしたけど……

 

「残念ですが、逃がしませんよ。それにしても何故吸血鬼が人間と妖精の味方をするのですかね? 私には理解しかねます

 が……」

 

 先手を打たれ、邪な気配を放つ存在に回り込まれてしまった。こんなことならさっさと助けた2人を連れて逃げ帰ってれば良かったと思ったけど、今更そんな事を考えた所で後の祭りである。

 

「別に、悪魔の貴方なんかに理解されなくたって良いし。そんな事より、ここを通してくれない?」

「それは無理な相談ですね、契約なので。どうしても通りたければこの私を無力化するか殺すかしてからにしなさい。あ、後ろの冒険者も居ましたね。貴女方では厳しいと思うので、降参をおすすめしますよ」

 

 案の定、通すわけ無いとキッパリ言われた。まあそうなるのは予想出来たので、特に驚きもなく戦闘態勢を整える。

 

「ほう……戦いを選びますか。そんな変な形をした棒切れで一体何が――」

「『禁忌 レーヴァテイン』!」

 

 悪魔が何か言っていて隙だらけだったのでそれを突き、遠慮なくレーヴァテインを叩き込む。しかし、流石に邪な気配を放つ悪魔なだけあり、今の攻撃を何とか致命傷となる箇所に当たらないように回避された。

 

 ただ、致命傷にはならずとも、悪魔の右肩から下がごっそり消えてなくなる程の強烈なダメージを与える事が出来た。

 

「あがっ……いきなり腕を切り落とされるとは、油断しました。ですが、もう貴女は終わりです」

「何を言って――」

「へっ! 俺達の事を忘れてもらっちゃあ困るぜぇ~!」

 

 その時背後から男の人の声がしたので振り向いてみると、うっかり距離を離してしまった妖精のお姫様に、襲い掛かっていた冒険者を見た。邪な気配を放つ目の前の悪魔に気をとられ、悪質冒険者にまで気を回せていなかった事が仇となった結果だ。慌てて魔導書を読み漁り、敵だけを傷つける都合の良い魔法がないか探すも、こういう時に限ってなかなか見当たらない。

 

(仕方ない、多少怪我をさせてしまってもスペルカードで一網打尽に……あ!)

 

 慌てていた時に、『禁忌 フォーオブアカインド』の存在を思い出した。

 そして、これを使って分身に守らせればかなり楽になると言う事も。

 

「何で忘れてたんだ、私! 『禁忌 フォーオブ……』」

 

 思い出したスペルカードを宣言しようとした時、今まさに妖精のお姫様に鎖を巻き付けようとした冒険者の背後から蒼く輝く剣が突き刺さり、そこからものの10秒程度で剣が胸に刺さった氷の彫刻へと変貌していったのを見た。

 

 この攻撃はヴァーミラによるものだろうと思って辺りを見回してみると、子供を抱えつつ、ミアを魔法による攻撃から守っていたのを見た。その際に氷の剣を飛ばす攻撃を繰り出していたので恐らく、流れ弾が偶然当たったのだろう。

 

 彼女により期せずして出来たこの隙に私はスペルカードを宣言して分身を作り、上手く妖精のお姫様を囲うようにして展開する事に成功した。これで守りは分身に任せて敵の殲滅に専念しようとした時、視界にミアが冒険者に蹴りを入れられそうになる光景が入る。不味いと思い、妖精を守らせていた距離が近い分身を向かわせたが間に合わず、思い切り腹部に蹴りを入れられて吹き飛ばされる。

 

 そうして大木に叩き付けられる寸前、私の分身がクッション代わりになった事によって何とか衝突による衝撃を激減させる事が出来た。ただ、あの蹴りによる身体への負担が大きかったのか、彼女の治癒能力をもってしても立ち上がる事が出来ずにいた。

 

「コイツに耐えるとは、回復魔導師のくせして防御力はあるようだ。しかし、これで終わりだ死ねぇ!」

 

 自身に回復魔法を使えないほど苦しみ、内臓を痛めたのか血を吐く重傷を負ったミアに対して、止めを刺す為に追い討ちを掛けようとする冒険者。それを見た私はある感情に支配され、至近距離に居る分身よりも早く動き、間に割り込む。

 

 そして蹴りを見舞おうとした冒険者の足を掴んで持ち上げた後、勢いを入れて地面に力任せに叩きつける。更にそのまま右手にレーヴァテインを発動させ、コイツを惨たらしく葬り去ろうとして……

 

「……っ!」

 

 すんでのところで半分支配権を取り戻し、掴んでいたコイツを放り投げる。狂気に一時的にでも完全に支配された事なんて、一体何年ぶりだろうか。正直、今でも()()()()()()()()()()仕方がない。

 

「ぐふっ……動け……ねぇっ! ちきしょう!」

「……」

 

 致命傷とまではいかなかったようだけど、少なくともどこか骨が折れた事だけは確実だ。そんなアイツの元に私は狂気に導かれながら歩いてゆっくり接近していった。

 

「ねぇ、もう終わり?」

「終わりだと……思ったか?」

 

 コイツがそう言うと、他の冒険者が邪魔者である私やミアを殺そうと群がってきた。しかし、いくら群がってきた所でやる事は変わらない。仲間でもあり、種族が違えど家族のような存在でもあるミアを守り、その彼女を害する奴らを消し去るだけだ。

 

 まずは、先に魔法で攻撃してきた奴に向けて同じ魔法を倍以上の威力にして放って打ち消し、更に火炎による追撃を加えて火だるまにする。

 

 次にその隙をついてミアに襲い掛かろうとした奴が居たので、霧化して背後を取ってから棒を思い切り振り下ろして殴りつけた後掴んで投げ飛ばし、弾幕を叩き込んで蜂の巣にした。

 

 怯えている冒険者も居たが、だからと言って見逃す気にはならなかったので、迫りくる魔法を避けつつ接近してからすぐに棒で薙ぎ払って吹き飛ばし、それ以上の速度で回り込んでから更に棒を振り下ろして叩きつけて制圧した。

 

「奴は化け物だ……俺たちじゃ、勝てない。頼みの綱の悪魔も奴の妹との凄絶な戦闘の末に氷の彫刻にされちまうし……」

「取り敢えず逃げるあぁぁぁーー!!」

「逃がさないよ?」

 

 あれだけ悪どい事をしておきながら形成が不利と見るや否や、仲間を無視して逃げ帰ろうとする奴らが居たので、ソイツの足を全力の『魔導の矢(マジカルアロー)』で射抜き、撤退を阻止した。

 

 その後はもう既に作業と言っても差し支えない感じで淡々とミアや妖精のお姫様、子供を狙う奴らを順に潰して行く。こうして30分程あった戦闘は、私が最後の冒険者を弾幕でボロボロにしたのを最後に、完全に終了した。

 




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